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第1章:第三迷宮【アネモイ】
【sideカナミ】ダンジョンで行方不明になった幼馴染を探して
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ワートがアネモイダンジョンの70階層へ落ちて数日。
ギルドでは行方不明になったワートの話題で持ちきりだった。
「ふぅむ…まさか元勇者パーティーの彼がダンジョンで行方知れずになるなんてね…」
ギルドマスターのネルソンは悩ましげに呟いた。
「それに…彼にはあの魔族もついていたはずだ…。あの低階層で彼らが死ぬなんてことは、ほぼ考えられない」
「ダンジョンで彼らと話したという【黄金の止まり木】の方々も、ワートさんの実力であの階層で不覚をとるのは考えづらいって言ってましたね」
受付嬢のエリナは、心優しい金髪の少年を思い起こす。そしてエリナの言葉に一人の少女が反応した。
「貴方たちの言う通りワートは生きているわ。だって———」
カナミはそこまで呟くと、右手につけたブレスレットに手を当てた。そのブレスレットは淡く青色の光を発し輝いている。
「カナミさん…それは?」
「これは私とワートの繋がりを教えてくれるもの。ここがワートの魔力光と同じ色に輝いているってことは、ワートは生きてるってこと」
このブレスレットは以前、カナミが手作りしワートにも同じものを渡した。これは対になったブレスレットの所有者の魔力を感知して、その光と同じように発光する特殊な宝石が使用されている。
ちなみに言うが、ワートはこのブレスレットの機能を知らない。
人からもらったものは捨てない性格であることを見越しての、カナミの一手と言える。
「そうですか…」
エリナはほっとしたようにため息をついた。
「本当にワートさんを信じているんですね…。私もお二人のように信じ合えるパートナーを見つけたいものです」
エリナの言葉に、いくつか事実と異なる点があるが、あえて指摘しないカナミ。
「大丈夫よエリナ。貴方ならきっと見つけられるわ」
「カナミさんのようにしっかりした彼女さんがいてワートさんも幸せでしょうね」
底抜けにいい子なエリナの言葉にうんうん、と何度も頷く。
ワートが聞いたらいつの間にか彼女ができていて、卒倒しそうな物であるが、現状このこの場にいないから仕方がない。
「おや?ワート君は彼女がいるなんて————」
「ネルソン、余計なことは言わない方がいいわ。明日も生きていたいのなら、ね?」
あまりもの凄みにギルドマスターであるネルソンですら、一歩たじろいてしまう。
「はは、た、確かにシアワセダロウナー」
———すまないワートくん…。不甲斐ない僕を許してくれ。
こうして外堀から埋まっていくワート。彼の受難は止まることを知らない。
「だけど、ワートがダンジョンのどこかにいる可能性がある以上、のんびりはしてられないわ」
杖を手に取る。
「どこ行く気だい?」
「決まっているでしょう、ダンジョンよ。もしかしたら新しい罠に掛かって高階層に飛ばされたかも知れないわ」
カナミの言葉にネルソンは顔をしかめた。
「それなら捜索のために大規模なパーティーを組む必要がある。2000年かけてようやく到達した51階層だ。40以降をソロで探索するなんて不可能だよ」
「近々52階層への攻略班が編成されますので、それに同乗するのはいかがでしょう?国内外から有力な冒険者たちが募りますので」
そこまで聞くと、カナミは嫌な予感がした。
「もしかして、勇者も来たりするかしら?」
「はいっ。今回の攻略は勇者様も同行してくださる予定です」
はぁ…とため息をつく。
以前、勇者であるグランが迷宮を攻略したいと言っていたのを思い出したのだ。
勇者の仕事は主に魔王を討伐すること。すなわち、ダンジョンを攻略することではない。ダンジョンは冒険者が、魔王は勇者が、と言う棲み分けは古代から行われてきた。
しかし、今代の勇者は我がまま、自分勝手、傍若無人。ダンジョン攻略に興味を持ってその職務を蔑ろにすることは、容易く想像できた。
「あのバカ…せっかく魔大陸まで送り届けたのに、ここまで戻ってくるつもりなの…?」
腹立たしい笑い声を上げる勇者が脳裏に浮かぶ。
「攻略開始はいつかしら?」
エリナは手元の書類を何枚かめくる。
「えっと…二週間後ですね。そのため明日からダンジョン環境を荒らさないために、45階層以降の冒険者の侵入は制限されるようです」
ちっ、と舌打ちをする。仮にソロでダンジョンに潜ったとしても45階層以降は探索ができない。仮にワートが45~51階層にいる場合は、カナミ個人の意思では捜査できない。
「ネルソン、私だけ許可を出しなさい」
「無理だね」
即答。やっぱりか、とため息をつく。
「僕としては出してあげたいけど、ダンジョン攻略は国の事業でもある。僕だけの判断で許可は出せないよ」
許可をもらった頃には、攻略は開始されることは容易に想像できる。
「カナミの実力なら、攻略班に入ることが一番速いし確実だと思うよ」
そうね…と呟くしかなかった。
今すぐにワートを助けに行きたい。
それはワートのタメでもあるし、カナミ自身の願いでもある。
いち早くワートに会いたい。会って抱きしめたい。
同じパーティーにいるときは、恥かしくて遠慮していたけど、離れ離れになって確信した。
———あぁ、私は彼がいないとダメなんだ。
ワートのいない生活なんて考えられない。彼がいない世界なんて生きている意味がなかった。
「わかったわ。攻略班に入る」
「カナミさんが参加されるなんて、大ニュースですよっ!勇者様も参加して頂けますし、すぐに手配しますね!」
エリナは嬉しそうに仕事へと戻って行った。
「珍しく折れたね」
「無理やり捜索してもいいけど、それじゃワートが悲しむわ。今はワートを信じて待つことにしたの」
それがいいさ、とネルソンは答えを返す。
「それにしても51層が攻略されたのは先月よね…もう、次の階層を攻略するつもり?いくらなんでも早すぎるわよ」
カナミの提言も最もだ。2000年かけて51層しか攻略できていないのだ。それをわずか1ヶ月で二層攻略しようと言うのだ。
「僕もギルドマスター会議でそう言ったんだけどね…どうも王都の偉いさん達が急いでるみたいだよ」
「王都の、ね……」
以前、彼女は勇者パーティーに加わる際に国王に謁見した。
「王様はいい人だったけど、その周りの奴らはイケ好かない奴ばっかり」
自分に言い寄ってくる貴族などを思い出して辟易する。
「そうだねぇ。特に軍務大臣様が自分の代でアネモイダンジョンを攻略すると言い張っていてね。今回の攻略では自身も来るらしいよ」
へぇーと生返事を返す。
現状、ワート以外あまり興味がないカナミであった。
一通り話を済ませると、席を立ち上げる。
「とにかく今日から二週間は動ける範囲でワートを探すわ。確率で言えば低層で迷っている率の方が高いもの」
「そうだね。きっと彼のことだ。しっかり生きているよ」
———ワート、待っててね!すぐに助けに行くんだから!
決心を新たにギルドを後にした。
ギルドでは行方不明になったワートの話題で持ちきりだった。
「ふぅむ…まさか元勇者パーティーの彼がダンジョンで行方知れずになるなんてね…」
ギルドマスターのネルソンは悩ましげに呟いた。
「それに…彼にはあの魔族もついていたはずだ…。あの低階層で彼らが死ぬなんてことは、ほぼ考えられない」
「ダンジョンで彼らと話したという【黄金の止まり木】の方々も、ワートさんの実力であの階層で不覚をとるのは考えづらいって言ってましたね」
受付嬢のエリナは、心優しい金髪の少年を思い起こす。そしてエリナの言葉に一人の少女が反応した。
「貴方たちの言う通りワートは生きているわ。だって———」
カナミはそこまで呟くと、右手につけたブレスレットに手を当てた。そのブレスレットは淡く青色の光を発し輝いている。
「カナミさん…それは?」
「これは私とワートの繋がりを教えてくれるもの。ここがワートの魔力光と同じ色に輝いているってことは、ワートは生きてるってこと」
このブレスレットは以前、カナミが手作りしワートにも同じものを渡した。これは対になったブレスレットの所有者の魔力を感知して、その光と同じように発光する特殊な宝石が使用されている。
ちなみに言うが、ワートはこのブレスレットの機能を知らない。
人からもらったものは捨てない性格であることを見越しての、カナミの一手と言える。
「そうですか…」
エリナはほっとしたようにため息をついた。
「本当にワートさんを信じているんですね…。私もお二人のように信じ合えるパートナーを見つけたいものです」
エリナの言葉に、いくつか事実と異なる点があるが、あえて指摘しないカナミ。
「大丈夫よエリナ。貴方ならきっと見つけられるわ」
「カナミさんのようにしっかりした彼女さんがいてワートさんも幸せでしょうね」
底抜けにいい子なエリナの言葉にうんうん、と何度も頷く。
ワートが聞いたらいつの間にか彼女ができていて、卒倒しそうな物であるが、現状このこの場にいないから仕方がない。
「おや?ワート君は彼女がいるなんて————」
「ネルソン、余計なことは言わない方がいいわ。明日も生きていたいのなら、ね?」
あまりもの凄みにギルドマスターであるネルソンですら、一歩たじろいてしまう。
「はは、た、確かにシアワセダロウナー」
———すまないワートくん…。不甲斐ない僕を許してくれ。
こうして外堀から埋まっていくワート。彼の受難は止まることを知らない。
「だけど、ワートがダンジョンのどこかにいる可能性がある以上、のんびりはしてられないわ」
杖を手に取る。
「どこ行く気だい?」
「決まっているでしょう、ダンジョンよ。もしかしたら新しい罠に掛かって高階層に飛ばされたかも知れないわ」
カナミの言葉にネルソンは顔をしかめた。
「それなら捜索のために大規模なパーティーを組む必要がある。2000年かけてようやく到達した51階層だ。40以降をソロで探索するなんて不可能だよ」
「近々52階層への攻略班が編成されますので、それに同乗するのはいかがでしょう?国内外から有力な冒険者たちが募りますので」
そこまで聞くと、カナミは嫌な予感がした。
「もしかして、勇者も来たりするかしら?」
「はいっ。今回の攻略は勇者様も同行してくださる予定です」
はぁ…とため息をつく。
以前、勇者であるグランが迷宮を攻略したいと言っていたのを思い出したのだ。
勇者の仕事は主に魔王を討伐すること。すなわち、ダンジョンを攻略することではない。ダンジョンは冒険者が、魔王は勇者が、と言う棲み分けは古代から行われてきた。
しかし、今代の勇者は我がまま、自分勝手、傍若無人。ダンジョン攻略に興味を持ってその職務を蔑ろにすることは、容易く想像できた。
「あのバカ…せっかく魔大陸まで送り届けたのに、ここまで戻ってくるつもりなの…?」
腹立たしい笑い声を上げる勇者が脳裏に浮かぶ。
「攻略開始はいつかしら?」
エリナは手元の書類を何枚かめくる。
「えっと…二週間後ですね。そのため明日からダンジョン環境を荒らさないために、45階層以降の冒険者の侵入は制限されるようです」
ちっ、と舌打ちをする。仮にソロでダンジョンに潜ったとしても45階層以降は探索ができない。仮にワートが45~51階層にいる場合は、カナミ個人の意思では捜査できない。
「ネルソン、私だけ許可を出しなさい」
「無理だね」
即答。やっぱりか、とため息をつく。
「僕としては出してあげたいけど、ダンジョン攻略は国の事業でもある。僕だけの判断で許可は出せないよ」
許可をもらった頃には、攻略は開始されることは容易に想像できる。
「カナミの実力なら、攻略班に入ることが一番速いし確実だと思うよ」
そうね…と呟くしかなかった。
今すぐにワートを助けに行きたい。
それはワートのタメでもあるし、カナミ自身の願いでもある。
いち早くワートに会いたい。会って抱きしめたい。
同じパーティーにいるときは、恥かしくて遠慮していたけど、離れ離れになって確信した。
———あぁ、私は彼がいないとダメなんだ。
ワートのいない生活なんて考えられない。彼がいない世界なんて生きている意味がなかった。
「わかったわ。攻略班に入る」
「カナミさんが参加されるなんて、大ニュースですよっ!勇者様も参加して頂けますし、すぐに手配しますね!」
エリナは嬉しそうに仕事へと戻って行った。
「珍しく折れたね」
「無理やり捜索してもいいけど、それじゃワートが悲しむわ。今はワートを信じて待つことにしたの」
それがいいさ、とネルソンは答えを返す。
「それにしても51層が攻略されたのは先月よね…もう、次の階層を攻略するつもり?いくらなんでも早すぎるわよ」
カナミの提言も最もだ。2000年かけて51層しか攻略できていないのだ。それをわずか1ヶ月で二層攻略しようと言うのだ。
「僕もギルドマスター会議でそう言ったんだけどね…どうも王都の偉いさん達が急いでるみたいだよ」
「王都の、ね……」
以前、彼女は勇者パーティーに加わる際に国王に謁見した。
「王様はいい人だったけど、その周りの奴らはイケ好かない奴ばっかり」
自分に言い寄ってくる貴族などを思い出して辟易する。
「そうだねぇ。特に軍務大臣様が自分の代でアネモイダンジョンを攻略すると言い張っていてね。今回の攻略では自身も来るらしいよ」
へぇーと生返事を返す。
現状、ワート以外あまり興味がないカナミであった。
一通り話を済ませると、席を立ち上げる。
「とにかく今日から二週間は動ける範囲でワートを探すわ。確率で言えば低層で迷っている率の方が高いもの」
「そうだね。きっと彼のことだ。しっかり生きているよ」
———ワート、待っててね!すぐに助けに行くんだから!
決心を新たにギルドを後にした。
応援ありがとうございます!
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