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88.修道院の危機
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「GO!!」
私が掛け声を上げながらアクセルを捻ると、相棒は勢いよく走り出した。
本当はかっ飛ばしていきたいところだけれど、街のど真ん中なのでここは安全運転……と思っていると、車体がだんだんと浮き上がって行く。
十メートル進んだ頃には、完全に空を飛んでいた。時計塔よりも高度があるのだが?
ただこれなら全速力が出せる。
バイク王に私はなるし、竹で作ったひみつ道具がなくても空を自由に飛べる!
……それにしても、これめっちゃ怖い。何かの拍子で地上に落ちたら、そのままGO TO HELLじゃないか。ガス欠になって空中で停止する可能性もある。
いや、青玉の馬にガス欠なんて概念があるのか分からないが。……そもそもこいつ、何を燃料にして動いてんの? 環境に優しいソーラーエネルギーか?
いまだ多くの謎に包まれている相棒で空を駆けると、ナヴィア修道院が見えてきた。
酷い状態だった。オレンジ色の炎が気品のある白い建物を丸呑みにしていて、黒煙が絶えず青空へ上っていく。
みんな、避難できているだろうか。しっかり者が多いから大丈夫だと信じたい。
「あそこに向かって下りて行くよ」
ブオンッと返事をするようなエンジン音を鳴らし、相棒はゆっくりと降下を始めた。
そして大炎上中の修道院から少し離れたところに着地すると、隅で身を寄せ合っている修道女たちを見つけた。
ひい、ふう、みい……よし、全員いる! 大きな怪我もしていないみたい。
ちゃんと避難できてよかった。そう安堵しつ相棒から降りる。
すると、私に気づいたメロディが、こちらへ駆け寄ってきた。
「リグレット様! よかった、無事だったのですね」
「私も皆様が無事でほっとしました。ですけれど、いったい何があったのですか?」
「祈りの時間を終えて各自部屋に戻ろうとした時、キューギスト侯爵家の令嬢が突然祈りの間に入って来たのです」
やっぱりお前かよ、ブランシェ!
「そしてわけの分からないことを叫びながら、魔法で火を点け始めて……」
放火は罪が重いぞ、ブランシェ!!
というより、わけの分からないことって何だ。
「ブランシェ嬢は何と言っていたのですか?」
「それが『どうせリセットするんだったら、あんたも道連れにしてやる』と」
貴族令嬢にあるまじき物騒な発言である。
それにブランシェの言う『あんた』って十中八九私だと思うけれど、あの場に私がいなかったことに気づかなかったのか。怒りで頭に血が上って、大事なものを見失ってやがる。
それにリセット……?
「ただ……こんなに激しく燃えているのに、よく皆さん避難できましたね」
「祈りの間にはいざという時のための避難室があるでしょう? あそこを通って脱出したのです」
アデーレと秘密の部屋でお馴染みの、あの避難室のことか。まさか本来の目的で活躍する時が来ようとは。
「それでもそこから逃げ出せたのは、私を含め、避難室の入口の近くにいた修道女たちだけでした」
「それじゃあ、どうして……」
「レイス様が来てくださって、取り残されていた修道女を一人一人転移魔法を使って逃がしてくれたのです。最初は炎そのものを闇属性魔法で消し去ろうとしたようですが、魔法で作り出した炎には効かないらしいので……」
ナイス、レイス!
……で、そのレイスは? それに院長の姿も見当たらない。
私が掛け声を上げながらアクセルを捻ると、相棒は勢いよく走り出した。
本当はかっ飛ばしていきたいところだけれど、街のど真ん中なのでここは安全運転……と思っていると、車体がだんだんと浮き上がって行く。
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ただこれなら全速力が出せる。
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……それにしても、これめっちゃ怖い。何かの拍子で地上に落ちたら、そのままGO TO HELLじゃないか。ガス欠になって空中で停止する可能性もある。
いや、青玉の馬にガス欠なんて概念があるのか分からないが。……そもそもこいつ、何を燃料にして動いてんの? 環境に優しいソーラーエネルギーか?
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酷い状態だった。オレンジ色の炎が気品のある白い建物を丸呑みにしていて、黒煙が絶えず青空へ上っていく。
みんな、避難できているだろうか。しっかり者が多いから大丈夫だと信じたい。
「あそこに向かって下りて行くよ」
ブオンッと返事をするようなエンジン音を鳴らし、相棒はゆっくりと降下を始めた。
そして大炎上中の修道院から少し離れたところに着地すると、隅で身を寄せ合っている修道女たちを見つけた。
ひい、ふう、みい……よし、全員いる! 大きな怪我もしていないみたい。
ちゃんと避難できてよかった。そう安堵しつ相棒から降りる。
すると、私に気づいたメロディが、こちらへ駆け寄ってきた。
「リグレット様! よかった、無事だったのですね」
「私も皆様が無事でほっとしました。ですけれど、いったい何があったのですか?」
「祈りの時間を終えて各自部屋に戻ろうとした時、キューギスト侯爵家の令嬢が突然祈りの間に入って来たのです」
やっぱりお前かよ、ブランシェ!
「そしてわけの分からないことを叫びながら、魔法で火を点け始めて……」
放火は罪が重いぞ、ブランシェ!!
というより、わけの分からないことって何だ。
「ブランシェ嬢は何と言っていたのですか?」
「それが『どうせリセットするんだったら、あんたも道連れにしてやる』と」
貴族令嬢にあるまじき物騒な発言である。
それにブランシェの言う『あんた』って十中八九私だと思うけれど、あの場に私がいなかったことに気づかなかったのか。怒りで頭に血が上って、大事なものを見失ってやがる。
それにリセット……?
「ただ……こんなに激しく燃えているのに、よく皆さん避難できましたね」
「祈りの間にはいざという時のための避難室があるでしょう? あそこを通って脱出したのです」
アデーレと秘密の部屋でお馴染みの、あの避難室のことか。まさか本来の目的で活躍する時が来ようとは。
「それでもそこから逃げ出せたのは、私を含め、避難室の入口の近くにいた修道女たちだけでした」
「それじゃあ、どうして……」
「レイス様が来てくださって、取り残されていた修道女を一人一人転移魔法を使って逃がしてくれたのです。最初は炎そのものを闇属性魔法で消し去ろうとしたようですが、魔法で作り出した炎には効かないらしいので……」
ナイス、レイス!
……で、そのレイスは? それに院長の姿も見当たらない。
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