愛は全てを解決しない

火野村志紀

文字の大きさ
4 / 17

4.帰国

しおりを挟む
 帰国すると、すぐさま会長に呼び出された。
 私がリディアたちを探していたことがバレたのか?
 未練があると勘違いされては困る。言い訳を考えながら、彼の部屋へ向かう。
 しかし私の不安は杞憂に終わった。

「君にはとある宝石商との商談を任せたい」
「私にですか?」
「うむ。アデラ・スィールという女性だ。君の祖国を中心に活動している」

 名前だけなら聞いたことがある。
 いくつもの商会と契約を結んでいる敏腕商人だ。
 彼女が取り扱う宝石は、貴族や王族のみならず平民からの人気も高いという。

「うちでも宝石類は販売しているが、顧客の多くは貴族などの富裕層だ。しかし私は、客層を広げたいと考えているのだよ。……頼んだぞ、セザール」
「はい。私にお任せください!」

 アデラとの契約を獲得出来れば、大きな利益となるだろう。
 そう考えると、俄然やる気が出てくる。
 私は鼻歌を歌いながら自室に戻った。

「あら、セザール様。随分とご機嫌ね」

 昼間からワインを飲んでいたミシェルが、私を出迎えた。

「会長からある商談を任されたんだ」
「ほんと? 頑張ってね、応援してるわ」
「ありがとう」

 差し出されたグラスを受け取ると、赤紫のワインがとくとくと注がれていく。香りを楽しんでから口に含むと、濃厚な風味が舌の上に広がった。

「エルマはまた彼の元かい?」
「ええ。今日はあちらに泊まるそうよ」

 現在十歳となる娘には、既に婚約者がいる。
 相手は、とある伯爵家の次男だ。将来は婿養子になることが決まっており、当人たちの仲も良好である。

「……ねえ。久しぶりに今夜、どう?」

 ミシェルが目を細めながら、豊かな胸部を私に押し付けてくる。
 出会ってから十年以上経つが、未だに妻の美しさは衰える気配がない。
 私はごくり……と唾を飲み込み、ミシェルをソファーに押し倒した。

「んもう。今夜って言ってるじゃない」
「待てないんだ。……ダメかい?」
「ふふ。仕方ないわねぇ」

 豊満な肉体を思う存分貪る。ああ、私は幸せ者だ。



 そしてアデラとの商談当日。私はルシマール家の応接室で、彼女の到着を待ちわびていた。
 噂によると、かなりの美人と聞く。早く顔が見たくて心を弾ませていると、ドアをノックする音が聞こえた。

「セザール様。アデラ様がお見えになりました」
「ああ。通してくれ」

 そう指示すると、「失礼します」とメイドがドアを開けた。
 そして一人の女性が静かに入ってくる。

「…………え?」

 呆けた声を出しながら、自分の目を擦る。
 幻覚を見ているかと思ったのだ。

 どうして君がここに……

「初めまして、セザール様。アデラ・スィールと申します」

 かつての妻は柔和な笑みを浮かべ、恭しく腰を折った。
しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

(完結)婚約破棄から始まる真実の愛

青空一夏
恋愛
 私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。  女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?  美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください

里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。 そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。 婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

〖完結〗愛しているから、あなたを愛していないフリをします。

藍川みいな
恋愛
ずっと大好きだった幼なじみの侯爵令息、ウォルシュ様。そんなウォルシュ様から、結婚をして欲しいと言われました。 但し、条件付きで。 「子を産めれば誰でもよかったのだが、やっぱり俺の事を分かってくれている君に頼みたい。愛のない結婚をしてくれ。」 彼は、私の気持ちを知りません。もしも、私が彼を愛している事を知られてしまったら捨てられてしまう。 だから、私は全力であなたを愛していないフリをします。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全7話で完結になります。

【完結】貴方の望み通りに・・・

kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも どんなに貴方を見つめても どんなに貴方を思っても だから、 もう貴方を望まない もう貴方を見つめない もう貴方のことは忘れる さようなら

〖完結〗その愛、お断りします。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚して一年、幸せな毎日を送っていた。それが、一瞬で消え去った…… 彼は突然愛人と子供を連れて来て、離れに住まわせると言った。愛する人に裏切られていたことを知り、胸が苦しくなる。 邪魔なのは、私だ。 そう思った私は離婚を決意し、邸を出て行こうとしたところを彼に見つかり部屋に閉じ込められてしまう。 「君を愛してる」と、何度も口にする彼。愛していれば、何をしても許されると思っているのだろうか。 冗談じゃない。私は、彼の思い通りになどならない! *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

【完結】私が貴方の元を去ったわけ

なか
恋愛
「貴方を……愛しておりました」  国の英雄であるレイクス。  彼の妻––リディアは、そんな言葉を残して去っていく。  離婚届けと、別れを告げる書置きを残された中。  妻であった彼女が突然去っていった理由を……   レイクスは、大きな後悔と、恥ずべき自らの行為を知っていく事となる。      ◇◇◇  プロローグ、エピローグを入れて全13話  完結まで執筆済みです。    久しぶりのショートショート。  懺悔をテーマに書いた作品です。  もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

愛してしまって、ごめんなさい

oro
恋愛
「貴様とは白い結婚を貫く。必要が無い限り、私の前に姿を現すな。」 初夜に言われたその言葉を、私は忠実に守っていました。 けれど私は赦されない人間です。 最期に貴方の視界に写ってしまうなんて。 ※全9話。 毎朝7時に更新致します。

〖完結〗もうあなたを愛する事はありません。

藍川みいな
恋愛
愛していた旦那様が、妹と口付けをしていました…。 「……旦那様、何をしているのですか?」 その光景を見ている事が出来ず、部屋の中へと入り問いかけていた。 そして妹は、 「あら、お姉様は何か勘違いをなさってますよ? 私とは口づけしかしていません。お義兄様は他の方とはもっと凄いことをなさっています。」と… 旦那様には愛人がいて、その愛人には子供が出来たようです。しかも、旦那様は愛人の子を私達2人の子として育てようとおっしゃいました。 信じていた旦那様に裏切られ、もう旦那様を信じる事が出来なくなった私は、離縁を決意し、実家に帰ります。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全8話で完結になります。

処理中です...