愛は全てを解決しない

火野村志紀

文字の大きさ
10 / 17

10.十年前②(リディア視点)

しおりを挟む
 セザール様がいなくなり、すぐに爵位を返上することにした。
 爵位がなくなれば、私と娘は平民となる。元々私は、小さいながらも商家の出身。この国の低位貴族は、平民との婚姻が認められていた。

 爵位の返上など、貴族にとって何よりも避けたいことだが、我が家は別だった。むしろメリットが多い。
 金の問題で頭を抱える必要がなくなり、周囲からも後ろ指を指されずに済む。

 男爵家は、平民からも嘲笑の的となっていた。
 セザール様は「貧乏人のひがみだ」と鼻で笑っていたが、無謀な事業を失敗したことが原因だった。

 私やセザール様はともかく、まだ幼いセレナが悪意に晒されることは堪えられない。
 返上に関しては、使用人たちからも意見が上がっていた。年々給料が少なくなり、彼らも転職したがっているのが、ありありと見て取れた。
 それでも私とセレナを案じて、屋敷に残り続けてくれた。

 平民となることに反対していたのは、セザール様のみ。
 由緒のある高貴な血筋云々と捲し立てていたが、デセルバートは今から七年前に陞爵しょうしゃくされた歴史の浅い家だった。

 そのセザール様も、もういない。私たちはすぐさま行動に移った。
 予定通り爵位を返上し、屋敷も取り壊した。その間、私とセレナは実家に身を寄せていた。

「あの男。馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、まさかここまでとは……」

 父は、セザール様の所業に愕然としていた。

「こう言ってはなんだけれど、その浮気相手に感謝しなくちゃね」

 私は母と同意見だった。
 自尊心が高いくせに、同じくらい責任感がない。せめて片方だけだったら、まだ対処が出来ただろう。
 その両方を併せ持ったセザール様は、デセルバート男爵家にとって最大の脅威だった。



「セレナ。お父様はお仕事で遠いところに行ってしまったの。寂しいけど、お母様と待っていましょうね」

 当主として夫として問題のある人でも、一児の父だ。
 まだ幼いセレナを悲しませないように、私は優しい嘘をつくことにした。
 けれど、

「ううん。おとうさま、かえってこなくていいよ!」
「えっ」

 セザール様は、父親ですらなくなっていた。

 そして両親の仕事を手伝い始めた頃、ある人物をうちで雇うことになっていた。

「リディア様!? それにセレナも……何故こちらに!?」

 セザール様の実兄、ライネス様だった。
しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

(完結)婚約破棄から始まる真実の愛

青空一夏
恋愛
 私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。  女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?  美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)

愛してくれないのなら愛しません。

火野村志紀
恋愛
子爵令嬢オデットは、レーヌ伯爵家の当主カミーユと結婚した。 二人の初対面は最悪でオデットは容姿端麗のカミーユに酷く罵倒された。 案の定結婚生活は冷え切ったものだった。二人の会話は殆どなく、カミーユはオデットに冷たい態度を取るばかり。 そんなある日、ついに事件が起こる。 オデットと仲の良いメイドがカミーユの逆鱗に触れ、屋敷に追い出されそうになったのだ。 どうにか許してもらったオデットだが、ついに我慢の限界を迎え、カミーユとの離婚を決意。 一方、妻の計画など知らずにカミーユは……。

〖完結〗愛しているから、あなたを愛していないフリをします。

藍川みいな
恋愛
ずっと大好きだった幼なじみの侯爵令息、ウォルシュ様。そんなウォルシュ様から、結婚をして欲しいと言われました。 但し、条件付きで。 「子を産めれば誰でもよかったのだが、やっぱり俺の事を分かってくれている君に頼みたい。愛のない結婚をしてくれ。」 彼は、私の気持ちを知りません。もしも、私が彼を愛している事を知られてしまったら捨てられてしまう。 だから、私は全力であなたを愛していないフリをします。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全7話で完結になります。

さよなら私の愛しい人

ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。 ※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます! ※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

私は私を大切にしてくれる人と一緒にいたいのです。

火野村志紀
恋愛
花の女神の神官アンリエッタは嵐の神の神官であるセレスタンと結婚するが、三年経っても子宝に恵まれなかった。 そのせいで義母にいびられていたが、セレスタンへの愛を貫こうとしていた。だがセレスタンの不在中についに逃げ出す。 式典のために神殿に泊まり込んでいたセレスタンが全てを知ったのは、家に帰って来てから。 愛らしい笑顔で出迎えてくれるはずの妻がいないと落ち込むセレスタンに、彼の両親は雨の女神の神官を新たな嫁にと薦めるが……

【完結】貴方の望み通りに・・・

kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも どんなに貴方を見つめても どんなに貴方を思っても だから、 もう貴方を望まない もう貴方を見つめない もう貴方のことは忘れる さようなら

【完結】私が貴方の元を去ったわけ

なか
恋愛
「貴方を……愛しておりました」  国の英雄であるレイクス。  彼の妻––リディアは、そんな言葉を残して去っていく。  離婚届けと、別れを告げる書置きを残された中。  妻であった彼女が突然去っていった理由を……   レイクスは、大きな後悔と、恥ずべき自らの行為を知っていく事となる。      ◇◇◇  プロローグ、エピローグを入れて全13話  完結まで執筆済みです。    久しぶりのショートショート。  懺悔をテーマに書いた作品です。  もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

ある国の王の後悔

黒木メイ
恋愛
ある国の王は後悔していた。 私は彼女を最後まで信じきれなかった。私は彼女を守れなかった。 小説家になろうに過去(2018)投稿した短編。 カクヨムにも掲載中。

処理中です...