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6.マリエッタ殿下
「ラ、ラピス様? どうなさいました?」
腰に力が入らなくて立ち上がれずにいると、マリエッタ様が手を差し伸べてくださいます。畏れ多くて王女殿下の手など取ることなど出来ません。
「マ、マリエッタ殿下、お気遣い感謝いたしますが……」
「ぐははっ! マリエッタ殿下、うちの愚女にそのようなお気遣いは不要でございますぞ!」
私の声を遮ったのはお父様の豪快な笑い声でした。言い方はともかく私が言おうとしたことと同じだったのですが、その次の行動に私は驚愕しました。
「いやぁ、しかしまさかラピスとマリエッタ殿下が文通をしていたとは! うちの娘もどうしてそんな大事なことを黙っていたのか……知っていればお礼の文を認めておりましたのに!」
「お父様……!?」
お父様がマリエッタ様の両手を握ったのです。お母様もお父様の暴挙を諌めようとせず、笑みを深めるばかり。
娘である私と親密な仲なのだから、自分たちとも仲良くしてほしい。二人からはそんな下心が駄々漏れです。
実は室内や廊下には護衛兵が何人も待機している状態なのですが、彼らが気分を害しているのが雰囲気で分かります。
「いいえ、ラピス様は文通の相手がわたくしではなく、他国の貴族だと認識していたはずです」
天使のような笑みを絶やさないまま、マリエッタ様はお父様の手を振り解きました。私の気のせいでなければ、荒々しい仕草で。
マリエッタ様の言葉を聞いて、直ぐ様私に鋭い眼差しを突き付けたのはお母様です。
「ラピス! あんた何て酷い勘違いをしていたの!? 今すぐ頭を下げなさい!」
どうにか一人で立ち上がった私の頭を掴み、お母様が無理矢理頭を下げさせようとします。マリエッタ様が「お待ちください」と止めてくださいました。
「わたくしが意図的に正体を隠していただけで、ラピス様に非は一切ございません」
「で、ですが、マリエッタ殿下? いくら正体を隠されていたとは言え、それを見抜けないようでは……」
「それと……一年前からこの屋敷で働き始めた使用人がいますでしょう? その方は父上がツィトー男爵家に送り込んだ密偵です」
密偵? 一年前から? ですが、誰のことを差しているのか、すぐには見当がつきません。
たった今明らかになった事実にお母様は言葉を失っていますが、マリエッタ様は言の葉で出来た剣を振るい続けます。
「大分分かりやすかったと思うのですけれど……もしかしてお気付きではなかったのですか? それでよくもまあラピス様を悪く……あっ、申し訳ありませんっ。今の言葉は忘れてくださいまし?」
「…………っ!」
マリエッタ様がこてんと首を傾げてウインクをします。
先程ご自分が仰ったことがカウンターとなってお母様に返って来ました。相手が女王殿下と言えども、自分よりも若いマリエッタ様に侮られるのは癪に障るようで、お母様の顔が赤く染まります。プライドが高い人ですからね……。
「ん~、しかし我がツィトー家に密偵など? ラピスが良からぬ計画を立てていたのですか?」
愛想笑い全開でお父様がマリエッタ様に訊ねます。
「いいえ、わたくしの大切な友人が随分と苦労されていると知り、この家の内情を調べてもらっていました」
「苦労?」
お父様がきょとんとした顔をすると、マリエッタ様は私に視線を移しました。
「ラピス様はデビュタントはおろか、ここ二年ほどは茶会にすら出席されていないようですね?」
腰に力が入らなくて立ち上がれずにいると、マリエッタ様が手を差し伸べてくださいます。畏れ多くて王女殿下の手など取ることなど出来ません。
「マ、マリエッタ殿下、お気遣い感謝いたしますが……」
「ぐははっ! マリエッタ殿下、うちの愚女にそのようなお気遣いは不要でございますぞ!」
私の声を遮ったのはお父様の豪快な笑い声でした。言い方はともかく私が言おうとしたことと同じだったのですが、その次の行動に私は驚愕しました。
「いやぁ、しかしまさかラピスとマリエッタ殿下が文通をしていたとは! うちの娘もどうしてそんな大事なことを黙っていたのか……知っていればお礼の文を認めておりましたのに!」
「お父様……!?」
お父様がマリエッタ様の両手を握ったのです。お母様もお父様の暴挙を諌めようとせず、笑みを深めるばかり。
娘である私と親密な仲なのだから、自分たちとも仲良くしてほしい。二人からはそんな下心が駄々漏れです。
実は室内や廊下には護衛兵が何人も待機している状態なのですが、彼らが気分を害しているのが雰囲気で分かります。
「いいえ、ラピス様は文通の相手がわたくしではなく、他国の貴族だと認識していたはずです」
天使のような笑みを絶やさないまま、マリエッタ様はお父様の手を振り解きました。私の気のせいでなければ、荒々しい仕草で。
マリエッタ様の言葉を聞いて、直ぐ様私に鋭い眼差しを突き付けたのはお母様です。
「ラピス! あんた何て酷い勘違いをしていたの!? 今すぐ頭を下げなさい!」
どうにか一人で立ち上がった私の頭を掴み、お母様が無理矢理頭を下げさせようとします。マリエッタ様が「お待ちください」と止めてくださいました。
「わたくしが意図的に正体を隠していただけで、ラピス様に非は一切ございません」
「で、ですが、マリエッタ殿下? いくら正体を隠されていたとは言え、それを見抜けないようでは……」
「それと……一年前からこの屋敷で働き始めた使用人がいますでしょう? その方は父上がツィトー男爵家に送り込んだ密偵です」
密偵? 一年前から? ですが、誰のことを差しているのか、すぐには見当がつきません。
たった今明らかになった事実にお母様は言葉を失っていますが、マリエッタ様は言の葉で出来た剣を振るい続けます。
「大分分かりやすかったと思うのですけれど……もしかしてお気付きではなかったのですか? それでよくもまあラピス様を悪く……あっ、申し訳ありませんっ。今の言葉は忘れてくださいまし?」
「…………っ!」
マリエッタ様がこてんと首を傾げてウインクをします。
先程ご自分が仰ったことがカウンターとなってお母様に返って来ました。相手が女王殿下と言えども、自分よりも若いマリエッタ様に侮られるのは癪に障るようで、お母様の顔が赤く染まります。プライドが高い人ですからね……。
「ん~、しかし我がツィトー家に密偵など? ラピスが良からぬ計画を立てていたのですか?」
愛想笑い全開でお父様がマリエッタ様に訊ねます。
「いいえ、わたくしの大切な友人が随分と苦労されていると知り、この家の内情を調べてもらっていました」
「苦労?」
お父様がきょとんとした顔をすると、マリエッタ様は私に視線を移しました。
「ラピス様はデビュタントはおろか、ここ二年ほどは茶会にすら出席されていないようですね?」
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
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