他の令嬢に心変わりしたので婚約破棄だそうです。え?何で私が慰謝料を要求されているのですか?

火野村志紀

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7.来た理由

 マリエッタ様の問いかけに、私は躊躇いながらも首を縦に振りました。

 茶会に行く暇がなくなってしまった、舞踏会にもまだ一度も出たことはないと、文通で悩みを打ち明けたことが確かにありました。
 この頃は既にリネオ様の婚約者になっていましたから、早急に社交界デビューを果たす必要もありませんでした。

 ですが、茶会に出られなくなったのは辛いと感じていました。そのせいで友人の令嬢たちと疎遠となってしまったのです。
 心配してくださった数人からは手紙をいただきましたが、「娘は忙しい。気遣いは不要」とお父様が勝手に返信を出してしまい、それきりです。

 私がマリエッタ様との文通を隠していたのもそのためです。私と仲のよい使用人がこっそり協力してくださったおかげで、今まで気付かれずにいました。

「令嬢にとってデビュタントは重要なものとなります。それが出来ずにいるなんて、何か事情があるに違いない。そう思い、父上に相談しましたら密偵を用意してくださいました」
「な、なるほど……ですが、無意味なことだったのでは? ラピスはただ自分の意思で茶会に出向いていないだけで……」
「ええ、ツィトー卿の言う通りでした」
「そうでしょう!」
「ラピス様はリネオご令息の仕事だけではなく、あなたの仕事もお手伝いされていたようですから。茶会にご出席なさる時間がなくて当然ですね」

 にっこり。依然としてマリエッタ様は天使の笑みを絶やさずにいらっしゃいますが、気のせいでしょうか。声のトーンが低くなったように聞こえます。
 これには流石のお父様も顔を強張らせました。何せ、マリエッタ様は遠回しに「こうなったのは二人のせいですよ」と仰っているのですから。

「デビュタントがまだなのは、マーロア公爵家側の方針だそうですが……それに反対しなかったことにも問題があると思います」
「んっ、い、いやぁ~……公爵様に意見するというのがどれだけ勇気のいることか、マリエッタ殿下にはご理解いただけないようですな」
「ええ、理解出来ずにいます。何せ、ここまで娘のことをお考えにならないご両親にお会いする機会も滅多にありませんので。ですからわたくしは今、珍しい体験をしているのですね!」

 マリエッタ様の目は宝石のように輝いています。お父様だけではなくお母様も静かになってしまったので、代わりに私が口を開きます。

「マリエッタ殿下、本日は他にもご用件があるのですよね?」
「はい! やっぱりラピス様は察しのよい方です。ラピス様を取り巻く環境が酷いものと知っても、父上は『貴族間の問題に、王家が首を突っ込むべきではない』と仰っておりました。……ですが」

 マリエッタ様はそこで初めて顔から笑みを消しました。
 
「理不尽な理由でリネオご令息から婚約破棄を言い渡され、更に舌の根の乾かぬうちに愛人になるようにと強要されたと知り、父上もお考えを改めました。マーロア公爵家に対しても、ツィトー男爵家に対してもお怒りのようです」
「まっ、またまたそんなマリエッタ殿下の文通相手だからって大げさな。文通相手ならいくらでも──」
「『あまりにも愚か。このような者どもが貴族とは、この国も随分と腐ったものだ』と申しておりました」
「…………」

 お父様が再び沈黙してしまいました。

「ここから本題です。実は最近、父上が優秀な執政官になりそうな人材を探していらっしゃるので、わたくしはラピス様をお勧めしました。……そうしたら何と、父上も『それはいい』と頷いてくださったのです」
「わ、私をですか!?」
「というわけで、本日はラピス様をお迎えに上がりました!」

 再び笑顔になったマリエッタ様に両手を握られ、私は立ち眩みを起こしました。
 本気ですか、マリエッタ様……!
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