他の令嬢に心変わりしたので婚約破棄だそうです。え?何で私が慰謝料を要求されているのですか?

火野村志紀

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17.面会

「そんなもの断ればいいでしょう。勉強の邪魔です」

 レアンドル様が不快そうに眉を顰めて仰いますが、そういうわけにもいきません。
 私は今日まで知らなかったのですが、ここ数日間マーロア家は何度も面会許可の申請を出していたようなのです。私が多忙という理由で王城側で断っていたものの、裁判に関わる重要な話があるとしつこく言われて時間制限付きで許可が出てしまったのでした。

「今からでも私の体調不良で断ることは出来るのですが、マーロア公爵家は私に会えるまで延々と申請を出し続けるでしょう。そうすれば城の方々の仕事が増えてしまいます。でしたら面倒事は早く済ませようと思いまして」
「ですが、あのような手紙を送って来た上に、現婚約者と共に登城なんて……あなた、狂人と会話が成立すると思っているのですか?」

 酷い物言いです。あの手紙は、レアンドル様のリネオ様に対する印象を最悪なものにしたようですね。
 ただ今回の面会の目的は前回と引き続き、裁判中止の同意を得るためでしょう。流石に身を弁えた発言をするでしょう。私を愛人にするなどと仰らない……はず。
 面会の時間まであと一時間。少し緊張していると、レアンドル様が私から視線を逸らしつつ仰いました。

「……あなたも大変ですね。今時の令嬢なんて、世間知らず苦労知らずのお花畑思考の持ち主かと思っていました」

 なるほど、初対面の時やけに刺々しい態度だった謎が解けました。

「友人の中に近々結婚する者がいましてね。そいつは『たった一人、本気で愛した女性を一生守り続けるのが自分の使命』だと口癖のように語っていましたが……奴とは正反対の人間も世の中にはいるようだ」
「あら、私もそんな方に愛されてみたいですね」

 私を真剣に愛してくださる素敵な男性といつかお会いしたいものです。




 応接の間に向かうと、見覚えのある男女が手を繋ぎ合ってソファーに座っていました。

「……お久しぶりですね、リネオ様。エヴァリア様」
「僕も会いたかったよ、ラピス~!」
「こ、こんにちはラピス様!」

 ……ああ、次にこの顔を見るのは裁判の時だと思っていたのですけれどね。
 しかもリネオ様が喜色満面なのは何故でしょう。私結構冷たい文章を書いたはずですよ。

「本日はどのようなご用件でしょう?」
「君に僕の愛を伝えたいと思ったんだ」
「は?」
「僕はラピスが本当に大好きだから愛人になってもらいたいよ。それって執政官をやりながらだとやっぱり大変だったりする?」
「……素直に裁判を止めて欲しいと仰ってはどうです?」

 魂胆は分かっています。回りくどい言い方をせずに、はっきり仰ればいいのです。その要求を飲むつもりは現時点でありませんが。
 ですが、リネオ様は首を横に振ります。

「裁判を止めて欲しいし、僕の愛人にもなって欲しいと思ってるよ」
「……私はそんなものになるつもりはないと、はっきりお伝えしたはずですが?」
「それって執政官になって忙しくなると思ったからでしょ? 大丈夫、僕たちがラピスのサポートをするよ!」
「必要ありません。私は裁判が終わったら金輪際あなた方と関わるつもりはないので」

 大体私に仕事をやらせていた人にサポートなんて出来るわけないでしょう。足手纏いになるのが目に見えています。
 そう言いそうになったのですが、どうにか抑えました。今、論点になっているのは裁判と愛人の件です。これ以上話を広げて長丁場になるのは避けたいですからね。

「……何だよそれぇ」

 するとリネオ様は低い声を出してから唇を尖らせました。不機嫌になった時、彼が見せる仕草です。

「ラピス、ちょっと調子に乗りすぎ! いくらマリエッタ王女のお気に入りだからって、僕を困らせていい身分じゃないだろ。そういう上から目線なところ変わんないな~」
「調子に乗っているわけではありません。私は……」
「あ、あの、ラピス様!」

 エヴァリア様が真剣な顔で私を見据えています。嫌な予感しかしません。

「リネオ様がこんなに頼んでるのに、どうして断るんですか?」
「そんなの当たりま……」
「リネオ様が可哀想だと思います!」

 面会に応じたことを盛大に後悔しています。言語の分からない方を相手にしているのではなく、言葉が通じる相手なのにこの有り様です。

 早く面会時間終わらないでしょうか。そう思っていると、数回のノックの後にドアが開きました。

「失礼します。これはあまりに酷過ぎますよ、ご令息」

 レアンドル様でした。
 
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