3 / 16
3.
聡明。怜悧。そんな言葉が似合う婚約者が、自分に恋い焦がれて情けなく縋りつく姿が見たい。
リュカはいつものように優雅に本を読むブリュエットの横顔を見て、そんな願望を抱いた。
ブリュエット。レヴァイ公爵家の令嬢で幼い頃に、親が勝手に決めた婚約者だったが、リュカは満足していた。
柔らかな印象を与えるミルクティーベージュの髪に、知性を窺わせる翡翠色の瞳。顔立ちも整っており、成長すれば大輪の薔薇さえも霞むほどの美女になると、誰もが思っていた。
それが自分だけのものとなるのだ。リュカは天に昇る心地だった。
年月が過ぎて、予想通り美しい姿となった婚約者と共にいる時間も増えた。かつてのリュカであれば、喜んだろう。
だが次第に、苛立ちを覚えるようになっていった。
「また勉強か? 私はお前と茶を飲んで過ごしたいのだが」
「それは私も同じ気持ちです。お茶は終わった後にしましょうね」
ブリュエットが家庭教師気取りで、リュカに勉強を教えるようになった。
「何故魔法の鍛練などする必要がある! 俺が未熟だと言いたいのか?」
「日頃から魔法を使い慣れておかなくては、いざという時に困りますよ」
リュカが嫌がっているのにも拘わらず、魔法の鍛練も強要する。
「おい、ブリュエット! 何だその動きは! 俺の足手まといになるな!」
「お言葉ですが、殿下。あなたが私の動きに遅れているだけです」
そのくせ、自分のミスを人のせいにする。
一緒にいればいるほど、ブリュエットは嫌な部分ばかりを見せるようになった。
リュカが娼館に出向き、気に入った娼婦たちと酒場で宴会を開いたことを知って、不貞行為だと顔を赤くして激怒した時もある。
抱いていない、単に酒を飲んだだけだと釈明してもリュカを責め立てる。
(まさか、この女は俺を自分の所有物だと思い違いをしているのか?)
それなら今までの行動にも説明がつく。
ブリュエットはリュカを『理想の夫』に作り替えようとしているのだ。
吐き気と怒りを覚えた。
リュカはブリュエットの物ではない。ブリュエットがリュカの物なのだ。
それ以来、ブリュエットのあらゆる言葉を無視して、彼女を叱責するようにした。そうすれば心を入れ替えて、誠心誠意を以てリュカに尽くすと考えて。
だがブリュエットの態度は何も変わらなかった。いや、むしろ前よりも他人行儀になったか。あちらも意地になっているようだった。
(だったら最後の手段だ)
エーヴを正妃にして、ブリュエットを側妃に追いやると宣言する。
エーヴは見た目と愛想だけはいいが、中身は空っぽの女だ。しかも社交界を騒然とさせたスキャンダルを起こした夫人の娘。これを正妃にすれば、王族は批難の的になると分かり切っている。
なので側妃として傍に置くつもりだった。
しかし自分ではなくエーヴを正妃にすると言い出せば、ブリュエットも動揺して今までのことを謝罪するに違いない。
名案だとリュカは自画自賛し、早速行動に移してみた。
リュカもブリュエットのことは嫌いではないのだ。美しさはエーヴに劣るものの、それ以外は彼女が全て勝っている。
後は彼女が従順な女性になってくれるだけでよかった。
なのに……。
(ブリュエット……お前はそれでいいのか? 側妃なんだぞ!?)
リュカの思惑を裏切り、彼女は何もかもを受け入れてしまった。
ここで愛を試すための嘘だったと白状すれば、まだ後戻りはできた。
しかしつまらない意地と自尊心で、リュカは自らの手で退路を断ってしまったのである。
リュカはいつものように優雅に本を読むブリュエットの横顔を見て、そんな願望を抱いた。
ブリュエット。レヴァイ公爵家の令嬢で幼い頃に、親が勝手に決めた婚約者だったが、リュカは満足していた。
柔らかな印象を与えるミルクティーベージュの髪に、知性を窺わせる翡翠色の瞳。顔立ちも整っており、成長すれば大輪の薔薇さえも霞むほどの美女になると、誰もが思っていた。
それが自分だけのものとなるのだ。リュカは天に昇る心地だった。
年月が過ぎて、予想通り美しい姿となった婚約者と共にいる時間も増えた。かつてのリュカであれば、喜んだろう。
だが次第に、苛立ちを覚えるようになっていった。
「また勉強か? 私はお前と茶を飲んで過ごしたいのだが」
「それは私も同じ気持ちです。お茶は終わった後にしましょうね」
ブリュエットが家庭教師気取りで、リュカに勉強を教えるようになった。
「何故魔法の鍛練などする必要がある! 俺が未熟だと言いたいのか?」
「日頃から魔法を使い慣れておかなくては、いざという時に困りますよ」
リュカが嫌がっているのにも拘わらず、魔法の鍛練も強要する。
「おい、ブリュエット! 何だその動きは! 俺の足手まといになるな!」
「お言葉ですが、殿下。あなたが私の動きに遅れているだけです」
そのくせ、自分のミスを人のせいにする。
一緒にいればいるほど、ブリュエットは嫌な部分ばかりを見せるようになった。
リュカが娼館に出向き、気に入った娼婦たちと酒場で宴会を開いたことを知って、不貞行為だと顔を赤くして激怒した時もある。
抱いていない、単に酒を飲んだだけだと釈明してもリュカを責め立てる。
(まさか、この女は俺を自分の所有物だと思い違いをしているのか?)
それなら今までの行動にも説明がつく。
ブリュエットはリュカを『理想の夫』に作り替えようとしているのだ。
吐き気と怒りを覚えた。
リュカはブリュエットの物ではない。ブリュエットがリュカの物なのだ。
それ以来、ブリュエットのあらゆる言葉を無視して、彼女を叱責するようにした。そうすれば心を入れ替えて、誠心誠意を以てリュカに尽くすと考えて。
だがブリュエットの態度は何も変わらなかった。いや、むしろ前よりも他人行儀になったか。あちらも意地になっているようだった。
(だったら最後の手段だ)
エーヴを正妃にして、ブリュエットを側妃に追いやると宣言する。
エーヴは見た目と愛想だけはいいが、中身は空っぽの女だ。しかも社交界を騒然とさせたスキャンダルを起こした夫人の娘。これを正妃にすれば、王族は批難の的になると分かり切っている。
なので側妃として傍に置くつもりだった。
しかし自分ではなくエーヴを正妃にすると言い出せば、ブリュエットも動揺して今までのことを謝罪するに違いない。
名案だとリュカは自画自賛し、早速行動に移してみた。
リュカもブリュエットのことは嫌いではないのだ。美しさはエーヴに劣るものの、それ以外は彼女が全て勝っている。
後は彼女が従順な女性になってくれるだけでよかった。
なのに……。
(ブリュエット……お前はそれでいいのか? 側妃なんだぞ!?)
リュカの思惑を裏切り、彼女は何もかもを受け入れてしまった。
ここで愛を試すための嘘だったと白状すれば、まだ後戻りはできた。
しかしつまらない意地と自尊心で、リュカは自らの手で退路を断ってしまったのである。
あなたにおすすめの小説
【完結】「めでたし めでたし」から始まる物語
つくも茄子
恋愛
身分違の恋に落ちた王子様は「真実の愛」を貫き幸せになりました。
物語では「幸せになりました」と終わりましたが、現実はそうはいかないもの。果たして王子様と本当に幸せだったのでしょうか?
王子様には婚約者の公爵令嬢がいました。彼女は本当に王子様の恋を応援したのでしょうか?
これは、めでたしめでたしのその後のお話です。
番外編がスタートしました。
意外な人物が出てきます!
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
私を見ないあなたに大嫌いを告げるまで
木蓮
恋愛
ミリアベルの婚約者カシアスは初恋の令嬢を想い続けている。
彼女を愛しながらも自分も言うことを聞く都合の良い相手として扱うカシアスに心折れたミリアベルは自分を見ない彼に別れを告げた。
「今さらあなたが私をどう思っているかなんて知りたくもない」
婚約者を信じられなかった令嬢と大切な人を失ってやっと現実が見えた令息のお話。
いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた
奏千歌
恋愛
[ディエム家の双子姉妹]
どうして、こんな事になってしまったのか。
妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
不実なあなたに感謝を
黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。
※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。
※曖昧設定。
※一旦完結。
※性描写は匂わせ程度。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。