7 / 16
7.
しおりを挟む
言いたいことも言ったので、リュカは満足して職員室を出た。
途中、教師たちがいる前でうっかり側妃のことを漏らしてしまったが、かえっていい結果を生み出すかもしれない。
正妃のはずだった公爵家の女が側妃。ブリュエットが何かやらかしたに違いないと思い込むだろう。
そうなると立場が苦しくなるのは彼女だ。
リュカも両親にこの件がバレるリスクがあるので、一種の賭けのようなものだが。
職員室には生徒も数人居合わせていたようで、昼休みになるとブリュエットの件は学園中に広まっていた。
「殿下、ブリュエット嬢を側妃にするというのはまことですか?」
案の定リュカの下には詳しい話を聞こうと、ジョエルを始め数人の友人が集まった。
戸惑いの表情を浮かべる彼らを見て、この者たちだけには真実を打ち明けようとリュカは決めた。
「冗談に決まっているだろう、そんなことは」
「冗談? どういうことです?」
「ブリュエットは俺への態度があまりにも悪すぎる。なので他の女を正妃にして、お前を側妃にすると宣言したら、それを真に受けて勝手な行動を取り始めるようになっただけだ」
「なんですって!?」
ジョエルは大きく目を見開いた。
他の者も同じような反応を見せている。
面倒な婚約者を持つ苦労を分かってくれたか……と思っていると、ジョエルからまさかの言葉が返ってきた。
「今すぐ嘘だと撤回した方がよろしいかと思います。ブリュエット嬢を本当に愛していらっしゃるのであれば」
「そんな馬鹿なことできるか。婚約者に頭を下げる王子など聞いたことがない」
「このまま自らの非を認めないことの方がずっと愚かです。ブリュエット嬢が本当に側妃になってしまいますよ?」
「そうなった時に困るのはブリュエットだ」
ジョエルは誰に対しても優しい男だ。
だからブリュエットを気遣っているのだろう。
彼が将来、あの女に似た伴侶を持たないことを祈るばかりである。
リュカが密かに友人の行く末を案じていると、ジョエルは小さく溜め息をついてから問いを投げかけた。
「ちなみに……正妃はどなたにすると仰ったのです?」
「ロレント男爵の娘だ。お前もエーヴという名を知っているとは思うが」
リュカが答えると、ジョエルは側妃の件が虚言と知った時よりも驚愕の表情を見せた。
「よりにもよって彼女を?」
「ご、誤解だ。あれを正妃するつもりはさらさらない。エーヴが本来の側妃だ」
「たとえ側妃であっても、エーヴ嬢を王宮に入れるというのは……」
ジョエルの意見に賛同するように他の者も首を縦に振った。
その光景にリュカは次第に苛立ちを覚え始める。
「お前たち……この俺が誰なのか理解していないようだな。王太子に苦言を呈するとは不敬だぞ」
「……私はただ殿下のことを思い、無礼であると承知しつつ申したまでです」
「うるさい。俺の慈悲で成り立っていた関係も、本日で終わりだな。お前たちのことは二度と友と呼ばん。だがまあ、俺の目の前で跪いたら考えを改めてやろう」
最後にジョエルたちを睨みつけて、リュカはその場を離れた。
誰一人として追いかけて来ないのは、王太子を怒らせた恐怖で身動きが取れないからか。
このまま友情が破綻してしまうのも勿体ない。
広い心で、彼らが自分に頭を垂れる時を待つことにした。
その一週間後、強情なブリュエットは本当に講習を開いたのだが、さらにリュカを驚かせたのは思わぬ人物が受講していたことだった。
途中、教師たちがいる前でうっかり側妃のことを漏らしてしまったが、かえっていい結果を生み出すかもしれない。
正妃のはずだった公爵家の女が側妃。ブリュエットが何かやらかしたに違いないと思い込むだろう。
そうなると立場が苦しくなるのは彼女だ。
リュカも両親にこの件がバレるリスクがあるので、一種の賭けのようなものだが。
職員室には生徒も数人居合わせていたようで、昼休みになるとブリュエットの件は学園中に広まっていた。
「殿下、ブリュエット嬢を側妃にするというのはまことですか?」
案の定リュカの下には詳しい話を聞こうと、ジョエルを始め数人の友人が集まった。
戸惑いの表情を浮かべる彼らを見て、この者たちだけには真実を打ち明けようとリュカは決めた。
「冗談に決まっているだろう、そんなことは」
「冗談? どういうことです?」
「ブリュエットは俺への態度があまりにも悪すぎる。なので他の女を正妃にして、お前を側妃にすると宣言したら、それを真に受けて勝手な行動を取り始めるようになっただけだ」
「なんですって!?」
ジョエルは大きく目を見開いた。
他の者も同じような反応を見せている。
面倒な婚約者を持つ苦労を分かってくれたか……と思っていると、ジョエルからまさかの言葉が返ってきた。
「今すぐ嘘だと撤回した方がよろしいかと思います。ブリュエット嬢を本当に愛していらっしゃるのであれば」
「そんな馬鹿なことできるか。婚約者に頭を下げる王子など聞いたことがない」
「このまま自らの非を認めないことの方がずっと愚かです。ブリュエット嬢が本当に側妃になってしまいますよ?」
「そうなった時に困るのはブリュエットだ」
ジョエルは誰に対しても優しい男だ。
だからブリュエットを気遣っているのだろう。
彼が将来、あの女に似た伴侶を持たないことを祈るばかりである。
リュカが密かに友人の行く末を案じていると、ジョエルは小さく溜め息をついてから問いを投げかけた。
「ちなみに……正妃はどなたにすると仰ったのです?」
「ロレント男爵の娘だ。お前もエーヴという名を知っているとは思うが」
リュカが答えると、ジョエルは側妃の件が虚言と知った時よりも驚愕の表情を見せた。
「よりにもよって彼女を?」
「ご、誤解だ。あれを正妃するつもりはさらさらない。エーヴが本来の側妃だ」
「たとえ側妃であっても、エーヴ嬢を王宮に入れるというのは……」
ジョエルの意見に賛同するように他の者も首を縦に振った。
その光景にリュカは次第に苛立ちを覚え始める。
「お前たち……この俺が誰なのか理解していないようだな。王太子に苦言を呈するとは不敬だぞ」
「……私はただ殿下のことを思い、無礼であると承知しつつ申したまでです」
「うるさい。俺の慈悲で成り立っていた関係も、本日で終わりだな。お前たちのことは二度と友と呼ばん。だがまあ、俺の目の前で跪いたら考えを改めてやろう」
最後にジョエルたちを睨みつけて、リュカはその場を離れた。
誰一人として追いかけて来ないのは、王太子を怒らせた恐怖で身動きが取れないからか。
このまま友情が破綻してしまうのも勿体ない。
広い心で、彼らが自分に頭を垂れる時を待つことにした。
その一週間後、強情なブリュエットは本当に講習を開いたのだが、さらにリュカを驚かせたのは思わぬ人物が受講していたことだった。
1,770
あなたにおすすめの小説
【完結】「めでたし めでたし」から始まる物語
つくも茄子
恋愛
身分違の恋に落ちた王子様は「真実の愛」を貫き幸せになりました。
物語では「幸せになりました」と終わりましたが、現実はそうはいかないもの。果たして王子様と本当に幸せだったのでしょうか?
王子様には婚約者の公爵令嬢がいました。彼女は本当に王子様の恋を応援したのでしょうか?
これは、めでたしめでたしのその後のお話です。
番外編がスタートしました。
意外な人物が出てきます!
私を見ないあなたに大嫌いを告げるまで
木蓮
恋愛
ミリアベルの婚約者カシアスは初恋の令嬢を想い続けている。
彼女を愛しながらも自分も言うことを聞く都合の良い相手として扱うカシアスに心折れたミリアベルは自分を見ない彼に別れを告げた。
「今さらあなたが私をどう思っているかなんて知りたくもない」
婚約者を信じられなかった令嬢と大切な人を失ってやっと現実が見えた令息のお話。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
あなたが捨てた花冠と后の愛
小鳥遊 れいら
恋愛
幼き頃から皇后になるために育てられた公爵令嬢のリリィは婚約者であるレオナルド皇太子と相思相愛であった。
順調に愛を育み合った2人は結婚したが、なかなか子宝に恵まれなかった。。。
そんなある日、隣国から王女であるルチア様が側妃として嫁いでくることを相談なしに伝えられる。
リリィは強引に話をしてくるレオナルドに嫌悪感を抱くようになる。追い打ちをかけるような出来事が起き、愛ではなく未来の皇后として国を守っていくことに自分の人生をかけることをしていく。
そのためにリリィが取った行動とは何なのか。
リリィの心が離れてしまったレオナルドはどうしていくのか。
2人の未来はいかに···
元婚約者は戻らない
基本二度寝
恋愛
侯爵家の子息カルバンは実行した。
人前で伯爵令嬢ナユリーナに、婚約破棄を告げてやった。
カルバンから破棄した婚約は、ナユリーナに瑕疵がつく。
そうなれば、彼女はもうまともな縁談は望めない。
見目は良いが気の強いナユリーナ。
彼女を愛人として拾ってやれば、カルバンに感謝して大人しい女になるはずだと考えた。
二話完結+余談
いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた
奏千歌
恋愛
[ディエム家の双子姉妹]
どうして、こんな事になってしまったのか。
妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる