クズで愚かな王太子、都合のいい女は卒業です。

火野村志紀

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1巻

1-3

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「オフィーリア、君のおかげだよ。本当にありがとう」
「そんな……私はただ、ライ様のおっしゃる通りにしただけです」

 オフィーリアがほんのりと頬を染めながら、目を伏せる。
 なんて庇護欲ひごよくをそそられる姿だろう。ライオットはコバルトブルーの瞳を細め、小柄な体を優しく抱き締めた。

(しかし、ここまで上手くいくとは。やはり私は天才なのかもしれないな)

 王宮の男どもがオフィーリアを神聖視しているのは知っていた。
 オフィーリアに挨拶されると、皆鼻の下を伸ばして締まりのない笑みを見せる。
 よこしまな感情を抱いている者も多いだろう。
 そのような連中が、オフィーリアに「最近ライ様と一緒にいられなくて寂しい」と相談を受けたら?
 ライオットの目論見は見事に成功し、現在に至る。

「でも私、嬉しいです。皆さん、私たちのことを応援してくれているんですね」
「そうだね。結婚式は盛大なものにしよう」
「はい。あ、でも……」
「どうしたんだい?」
「サラサ様……どうしているんでしょうか」
「ああ……」

 近頃、サラサは自領の医療体制を整えているらしい。しかし女の分際でどこまでできるだろうか。

(元婚約者のよしみで、泣きつかれたら助けてやろう。ただし側妃の役目を放り出した罰として、それなりの対価はいただくがな)

 あの女には色々と分からせてやらねばならない。
 自分に弱々しくすがりつく姿を想像して、ライオットはほくそ笑んだ。

「でも……でも、サラサ様ならきっと戻ってきてくれますよね? だって、最後に会った時も私に優しくしてくれましたし」

 オフィーリアは涙ぐみ、胸元のブルーダイヤモンドにそっと触れた。
 ルビーの指輪。エメラルドのイヤリング。ブルーターコイズのブローチ。
 オフィーリアが身に着けているそれらは、かつてライオットがサラサに贈ったものだ。

(城から出て行く際にオフィーリアに譲り渡したそうだが、その点だけは評価してやろうじゃないか)

 装飾品は美しい者が着けてこそ、真の輝きを放つ。

「君は今でもサラサを慕っているんだね」
「はい! 私のお姉様になる人ですから!」

 あらゆる点において格下の令嬢にも、慈悲の心を向ける聖女。
 オフィーリアの評判は国中に広まり、国民は王太子と聖女の婚約をこぞって祝福した。
 その裏で、一部の人々はある事態に直面していた。
 オフィーリアの妃教育が始まったのである。


 当初、オフィーリアが元神官長であると聞いて、教育係たちは安堵あんどしていた。
 元庶民に妃教育をほどこすなど、動物に人語を教え込むようなもの。
 だが、かつて神官長を務めていた者なら、それなりの教養を身につけているだろうと、皆安心しきっていたのだ。
 それは甘い考えだった。

「オフィーリア様、何度申し上げたら分かるのですか」

 教育係が語気を強めて指摘すると、オフィーリアはスプーンを握り締めたまま首を傾げた。

「えっと……何がですか?」
「食事の最中は音を立ててはなりません。スープを飲む際はすするのではなく、食べるような感覚でスプーンを口に含んでください」
「でも、音を立てて飲んだ方が何だか美味しく感じますよ?」
「貴族社会ではマナー違反とされています。オフィーリア様は王妃として、すべての女性の手本となるのです。どうかご理解ください」
「分かりまひた……んっ、このパンとってもおいひいです!」

 美味しそうにパンを頬張るオフィーリアに、教育係の眉間にしわが増える。

「口に物を入れたまま話してはいけません」
「えっ!? そしたら食事の時は、いつおしゃべりをすればいいのですか!?」
「……」

 長年にわたって家庭教師を続けてきた教育係にとって、こんな突飛とっぴな発言をした令嬢は初めてだった。農民上がりの男爵令嬢でさえ、ここまでひどくはない。

(これが……王太子妃に……?)

 教育係の背中に冷たい汗が流れた。
 オフィーリアの無知ぶりは、勉強面でも露呈した。

「こうして地図で見ると、ロードラル王国って大きいんですね」
「いえ。我が国はこちらでございます」
「えっ、こんなに小さいんですか!?」
「ロードラル王国は決して小国ではありません。アスティニア大陸の中でも、三番目の国土面積を誇ります」
「でも、一番ではないんですね……」

 落胆らくたんの表情を見せる聖女に、教育係は溜め息をつきたくなった。
 そして、またある時も。

「あのぅ……この言葉はなんて読むんですか?」
「ご自分で訳さなければ、勉強になりませんよ」
「は、はい……でも外国に行く時は、通訳の人も一緒なんですよね? それなら、他の国の言葉なんて覚えなくたって……」
「完璧に習得しなくても、ある程度は話せるようにならなければなりません」
「そんなの絶対に無理です!」
「王太子妃になれば、他国に訪問することも多々ございます。とにかく勉強なさってください」
「ぐすっ……ひっく、うっ……ライ様助けて……!」

 教育係は「泣きたいのはこちらだ」とあきれたように肩をすくめた。
 オフィーリアの頭の悪さは教育係たちを愕然がくぜんとさせた。
 この調子では妃教育などまともに進むはずもなく、あっという間に一ケ月が経った。

「僕のオフィーリアをいじめたというのは本当かな?」

 怒りを宿したコバルトブルーの瞳が教育係たちをにらみつける。
 どうやら麗しの聖女は、愛する婚約者に助けを求めたらしい。
 突然ライオットに呼び出され、一同は内心うんざりしていた。
 いじめた覚えは一切ないこと。
 オフィーリアは歴代の妃の中でも覚えが少々悪いこと。
 そのため、多少厳しく接するのはやむを得ないこと。
 教育係たちは、この三点を慎重に言葉を選びながら説明した。
 しかし、ライオットを納得させることはできなかった。
 それどころか。

「君たちの教え方が悪いだけじゃないのか? それをオフィーリアのせいにするなんて……君たちは教育係失格だね」

 いくら説明しても、ライオットは「オフィーリアは悪くない」という考えを改めようとしない。
 こちらも、オフィーリアに負けず劣らずのバカである。
 教育係たちの心が一つになった瞬間だった。
 このままでは、一生妃教育は終わらない。
 危機感を覚えた教育係たちは、国王に窮状を訴えることにした。
 しかし、これも無駄に終わった。

「オフィーリアは貴族の生活にまだ慣れていないのだ。根気強く取り組んでくれ」

 国王から返ってきたのは、たった一言だけ。
 謁見室を後にした教育係たちは、長く息を吐いた。

「サラサ様が帰ってきてくだされば……」

 誰かがぼそりと呟くと、彼らの間に重苦しい沈黙が流れた。
 ロードラル王国始まって以来のバカ王妃が誕生するかもしれない。
 その話題はたちまち王宮内に広まった。

「オフィーリア様には驚かされたわ。食事のマナーも知らなかったとか有り得ないでしょ」
「紅茶は味がしなくて美味しくないからって、甘いだけの果実水ばっかり飲んでいるわ。あれじゃあ、茶会に出るなんて絶対に無理ね。他の出席者たちの顰蹙ひんしゅくを買うか、笑い者にされるだけよ」
「城に来たばかりの頃は、もっとひどかったわ。ノックもせずに部屋に入るのよ? どんなに口を酸っぱくして注意しても、泣きながら謝るだけで全然直らないんだもの」
「いちいち泣くから疲れるって、教育係たちが愚痴をこぼしていたわ」
「あれで神官長が務まるなんて、田舎の教会ってよほど人材不足なのね。創造神様も泣いていると思うわ」

 女性専用の談話室は、オフィーリアの話題で持ち切りとなった。
 この事実を知ったライオットは怒りに震えた。

(オフィーリアをねたむ者は多いだろうと思っていたが……)

 庶民なのだから、貴族としての教養が身についていないのは当然だ。
 教会務めをしていたから勉学に励む余裕などあるわけがない。
 少し考えれば分かることなのに、何故理解しようとしないのか。
 いや、理解した上でオフィーリアをさげすんでいるのだ。

「うぅ、ぐすっ……ごめんなさい、ライ様……私、全然ダメで……」
「オフィーリアはダメじゃないさ。こんなに頑張ってるじゃないか」

 大きな瞳からポロポロと涙をこぼすオフィーリア。
 その痛ましい姿に、ライオットは奥歯を噛み締める。
 この日も教育係に激しい叱責を受けて、ライオットの部屋に逃げ込んできたのだ。

(元神官長であり、聖女のオフィーリアをさげすめば天罰が下ることも分からないとは……教養がないのは彼女たちの方じゃないか)

 ライオットは一粒の種子を握り締め、魔力を集中させる。
 握った手をゆっくり開くと、そこには一輪の青い花が咲き誇っていた。
 ライオットが保有しているのは木魔法。
 ロードラル初代国王も持っていたとされる稀少性の高い魔法だ。
 生命を司るという点では治癒魔法と似ている。
 きっと、自分たちが巡り合ったのは運命なのだろう。

「安心してくれ、オフィーリア。君は僕が必ず守ってみせるよ」

 ライオットは甘い微笑ほほえみとともに花を差し出した。

「ライ様……」

 涙で頬を濡らしながら安堵あんどの笑みを浮かべるオフィーリア。
 その姿はどんな大輪の花よりも美しい。

(この笑顔を守り、二人で幸せになってみせる。それが僕の使命だ。そのためにも、まずはあの女たちを懲らしめなくては)

 ライオットはただちに男の臣下を招集し、この現状を説明した。

「僕は彼女の幸福のためなら何でもする。君たちもそうだろう?」

 首を横に振る者はいなかった。
 敬愛する聖女のために。
 或いは、自身の出世のために。
 臣下たちはオフィーリアの悪評を口にする者の排除に動き出した。

「エミール、君も頼むぞ」
「はっ。殿下のおおせのままに」

 茶髪の青年がライオットにうやうやしく頭を垂れる。
 マリオン伯爵家の嫡男であり、ライオットの侍従を務めるエミールだ。

「女は自分より格の高い人間を忌み嫌う性質があります。厄介で醜悪な生き物だ。……妹がいい例ですよ」

 忌々いまいましそうに吐き捨てるエミール。
 彼は以前からサラサを「出来損ないの妹」とあざ笑っていた。
 そんな妹が伯爵家を牛耳るようになり、内心穏やかではないのだろう。本来であれば、マリオン伯爵家の家督はエミールが継ぐはずだったのだから。

(君が当主になれるよう、僕も協力は惜しまないよ)

 エミールによる家督の奪取。それはサラサの失脚を意味している。
 ライオットにとっても理想の展開だった。


 王太子の命によって、オフィーリアをけなした侍女や女官は解雇となった。

(僕に泣いて許しを請う者もいたが、当然断ってやった。僕の大事なオフィーリアを傷つけたんだ。許してなるものか)

『害虫』の駆除を終え、ライオットは優雅な笑みを浮かべる。
 教育係も自らの愚かさを悔いたのか、オフィーリアに優しく接するようになった。
 そのおかげもあって、妃教育は少しずつ進み始めている。
 食事のマナーに関しても、ゆっくり矯正していく方針に決まった。

(近頃オフィーリアは、食事をするのが辛いと言っていたからな。自分にとって美味しいと感じるものを食べて欲しい)

 様々な悩みが解決して、ライオットは清々しい気分に浸っていた。
 そして、久しぶりに兄の顔を見に行こうとふと思いつく。

「オフィーリア、僕の兄上に会いに行かないかい?」
「ふえ? ライ様ってお兄様がいらっしゃったんですか?」

 オフィーリアが小動物のようにこてんと首を傾げる。
 兄が公の場に姿を見せるのは、建国記念の式典の時のみ。それも毎回ではない。
 その名は新聞にも滅多に載らないため、オフィーリアが知らないのも無理はなかった。

「第一王子ヴィンセント。僕より二つ歳上で、現在はとある領地で自由気ままに暮らしている」
「あれ? お兄様がいるのに、ライ様が将来王様になるんですか?」
「……兄上は、生まれつき魔力を持たない非保持者でね」

 ライオットは長い睫毛まつげを伏せて悲しげな表情を作る。
 しかし内心では実兄をこき下ろしていた。

(非保持者の王子など王家の恥そのものだというのに、よくも自国にいられるものだ。厚顔無恥とは、まさに奴のためにある言葉だな)

 まったく忌々いまいましいことである。

(王位継承を狙っているかもしれないからな。そのためにも僕の活躍を聞かせて、功績を語ることで、奴の自尊心をいでおかなくては!)

 今回はオフィーリアや侍従たちも同行させる。
 そうすることで、ライオットの権威を見せつけるのだ。

「可哀想な人なんですね……私もヴィンセントお兄様に会ってみたいです!」
「ありがとう。兄上もきっと喜ぶと思うよ」

 弟が聖女と結婚する。
 その事実を知ったら、あの飄々ひょうひょうとしている愚兄も平静ではいられまい。
 ライオットの脳裏には、恥辱にまみれた兄の顔が浮かんでいた。


 数日後。ライオットは一年半ぶりに兄が暮らしている離宮を訪れた。
 まずは紅茶の一杯でもいただこうと思っていたが。

「久しぶりに来てくれたのに申し訳ないが、今日のところは帰ってくれないかな。もうすぐ客人が来るんだ」
「兄さん、何時間もかけて会いに来た弟に、それはないんじゃないか?」
「こっちの都合も聞かずに、突然押しかけられても」

 ヴィンセントは軽く肩をすくめて笑った。
 陰気臭い黒髪と暗い濃紺の瞳。
 いつ見ても華やかさのない地味な男だと、ライオットは鼻を鳴らす。

(こんな男に客人? どうせ、僕たちを体よく追い返すための作り話だろう)

 突き刺すような視線を感じて振り向けば、兄の執事や侍女がこちらをにらみつけていた。まったく礼儀のなっていない使用人たちである。

「こ、この人がヴィンセント……お兄様……」
「オフィーリア?」

 ライオットは婚約者の異変を感じ取っていた。
 先ほどから熱に浮かされたように顔を赤らめているのだ。

(もしかしたら風邪を引いたのかもしれないな。ヴィンセントに従うのはしゃくだが、今日は一旦帰って――)

 コンコン、と扉を叩く音が聞こえた途端、使用人たちの表情が明るくなった。
 客人が来るというのは本当だったらしい。
 簡素な造りの執務室の扉がゆっくりと開いて――

「「え?」」

 客人とライオットは、ほぼ同時に声を上げた。

「な、何故君がここに……」

 驚きのあまり、声が震える。
 侍従たち、特にエミールも目を大きく見開いている。
 そこにいたのは、かつての婚約者だった。

「ヴィンセント様より、婚約の打診をいただいたのです。本日はそのお返事に伺いました」

 静まり返る室内で、サラサは優雅なカーテシーを披露した。


    ◆ ◆ ◆


 マリオン伯爵家の当主となったサラサの頭を悩ませているもの。
 それは、連日のように舞い込んでくる縁談だった。

「サラサ様、グローラ男爵家から書状が届きました」
「ええ、ありがとうございます」

 近衛兵から分厚い手紙を受け取り、サラサは乾いた笑みを浮かべた。
 グローラ男爵家からは、先日も次男との婚約の打診があったばかり。
 女性関係の派手な人物で、婚約者のいる令嬢にも言い寄って相手の家を怒らせたと聞いている。
 サラサにとっては一番の地雷物件だ。当然、丁重に断らせてもらったが。

(今度は三男……)

 三男ならいけると思ったのだろうか。
 長々と綴られた文章から必死さが伝わってくる。
 こちらも金遣いが荒く、賭け事にのめり込んで男爵家の資金に手をつけたという噂だ。
 次男ともども、これでよく勘当されないものである。

(バカな子ほど可愛いとは言うけれど、子煩悩も外から見ればただの迷惑でしかないわ)

 グローラ男爵家以外からも、縁談の書状は何通も届いていた。
 いずれもマリオン伯爵家への婿入りを希望している。
 サラサに取って代わり、伯爵家の実権を握ろうという考えが透けて見える。
 王太子から捨てられた令嬢でありながら、伯爵家の当主。
 今のサラサは利用価値が高い。
 それに目を付けた貴族たちから、相次いで書状が送られてくるのだ。

(結婚なんてするつもりはないけれど、そうも言っていられないわね)

 だが、サラサに求婚してくるのは何らかの問題を抱える者ばかり。いざとなったら、叔祖父おおおじに相談するしかない。
 そう考えていた矢先に、意外な人物から婚約の申し込みがあった。
 ヴィンセント・キース・ロードラル第一王子。
 非保持者であるが故に継承権を剥奪はくだつされて、王宮から追放された青年。
 サラサも建国記念の式典の時に何度か見かけた程度で、会話を交わしたことはなかった。

(でも、優しそうな人だった)

 侍従たちに囲まれて談笑する姿を見て、好感を抱いたことを覚えている。
 そんな第一王子からの求婚。
 マリオン伯爵家を手中に収めたところで、彼に大きな利点はないと思うのだがこれはどういうことだろう。

(とりあえずお会いしてみましょうか)

 彼とは一度、話をしてみたいと思っていたのだ。
 そして今日、ヴィンセントの離宮を訪れたわけだが。

(どうしてライオット殿下がいらっしゃるのかしら。しかもオフィーリア様や、エミールお兄様まで……)

 ライオットたちもサラサが来ることを知らなかったようで、驚いた顔をしている。
 オフィーリアだけは、何やらヴィンセントに熱視線を送っているが。

「ど、どういうことだ。君の再婚など、僕は許していないぞ!」

 戸惑いと怒りがぜになった表情で、ライオットがサラサに詰め寄る。

「お言葉ですが、ライオット殿下。私が結婚するのに、あなたの許可は必要ございません」

 サラサは臆することなく、にこやかに言い返した。

「あるに決まっているだろう!」
「はい?」
「だって君は僕の元婚約者だからだ!」

 なんて傲慢な物言いだろう。
 相変わらず顔だけの男だと、サラサは冷静に判断した。

「殿下のおっしゃる通りだ。お前には、殿下に逐一ちくいち報告する義務があることを忘れたのか?」

 すかさずエミールも会話に加わり、上から目線でサラサを非難する。

(忘れたも何も、そんなの初めて聞いたわよ)

 兄が自分を見下みくだしていることは昔から知っている。
「サラサが壺を割った」「庭園を荒らしたのはサラサだ」と嘘をつき、大人たちが妹を叱りつけるように仕向ける兄だった。
 サラサがいくら潔白を訴えても、「エミールが嘘をつくはずがない」と、誰も信じてくれなかった。

(ストレスの発散に、私を使っていたのでしょうね)

 跡取りのエミールは、周囲からの期待という名の重圧を背負ってきた。
 その鬱憤を晴らすために、実の妹を利用していたのだ。
 ずる賢くて軟弱な男である。

「エミールの言う通りだ。たとえ婚約を解消したからといって、僕と君の繋がりが切れたわけではない」

 侍従の言葉で余裕を取り戻したのか、ライオットの口元に笑みが浮かぶ。

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