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34話
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リーネの離宮で暫く静養した後、ライラは王宮に移ることになった。
しかしこの決定に、猛反対する者が一名。
「お兄様ずるーい! ライラ様を独り占めするつもりなんでしょ!?」
リーネ王女殿下だ。餌を溜め込んだリスのように頬を膨らませながら、地団駄を踏んでいる。
幼いながらも、一通りの礼儀作法を身につけた彼女らしからぬ行動から、兄への不満がひしひしと伝わってくる。
このままでは、自分のせいで兄妹が不仲となってしまう。ライラは慌ててリーネに弁解をした。
「メ、メルヴィン殿下を怒らないであげてください。あの方は、ただ私の身を案じてくださっているだけなのです」
死亡届が提出された今、ライラはこの世にいないことになっている。つまり戸籍も存在しない。
そこで、新たな戸籍を取得するまで、ひとまずメルヴィンがライラの身柄を預かると宣言したらしいのだ。
「それに何か問題があった時、私が王宮にいたほうが話をスムーズに進めやすいと仰っていたそうです」
「ふ~~~ん」
ライラの説明に、リーネは呆れたような表情で相槌を打った。
「こういうのが、『しょっけんらんよー』って言うのかな」
「どういうことですか?」
「お兄様に聞いてみるといいよ。お兄様ってば、ライラ様にはカスタードクリームと同じくらい甘いから」
「わ、分かりました……」
ライラがコクリと頷くと、リーネは少し表情を曇らせた。
そして、ライラの腰にぎゅっと抱き着く。
「王宮に行っちゃった後も、時々でいいから会いに来てね。美味しいいっぱい作るから」
「……はい。楽しみにしておりますね」
ライラは優しく微笑みながら、リーネのキャラメルブロンドに触れた。
こんな自分に、リーネはとても懐いている。メイド曰く、絵本の登場人物とライラがよく似ているらしい。
幼い王女が作ってくれたお菓子は、どれも甘くて優しい味がする。どんなに心が暗い時でも、それらを食べていると、不思議と気持ちが安らいだ。
まるで、メルヴィンに抱き締められた時のように。
(そういえば、私あの時……)
安心しているうちに、いつの間にか眠ってしまっていたのだ。
気がつくとベッドの中にいて、メルヴィンは既に帰った後だった。
ああ。王太子の目の前で、なんて恥ずかしい。その時のことを思い返して、ライラは頬を赤く染めた。
そして数日後。
いよいよライラが、王宮へ旅立つ日がやって来た。
「うわぁぁぁん! ライラ様、行かないでよー!」
「落ち着いてください、リーネ殿下。ライラ様がお困りになっていますよ」
「ささ。厨房に行って、本日のおやつを作りましょうね」
出発寸前になって泣き出してしまったリーネを、メイドたちが何とか宥めようとする。
(ど、どうしようかしら……)
ライラがその光景をおろおろと眺めていると、後ろから誰かに肩を叩かれた。
振り返ると、メルヴィンが立っていた。わざわざ迎えに来てくれたようだ。
「リーネのことは、あまり気にしなくていい。時間が経てば、平静を取り戻す」
「………」
ライラはチラッとリーネへ視線を向けた。
「やだやだぁ! 私も王宮に行くの!」
「はいはい。今日はマフィンとクッキー、どちらをお作りになりますか?」
「クッキー作るぅぅぅ……!」
メルヴィンの言う通り、案外大丈夫かもしれない。
ライラは心の中でリーネに謝りながら、メルヴィンとともに馬車へ乗り込んだ。
しかしこの決定に、猛反対する者が一名。
「お兄様ずるーい! ライラ様を独り占めするつもりなんでしょ!?」
リーネ王女殿下だ。餌を溜め込んだリスのように頬を膨らませながら、地団駄を踏んでいる。
幼いながらも、一通りの礼儀作法を身につけた彼女らしからぬ行動から、兄への不満がひしひしと伝わってくる。
このままでは、自分のせいで兄妹が不仲となってしまう。ライラは慌ててリーネに弁解をした。
「メ、メルヴィン殿下を怒らないであげてください。あの方は、ただ私の身を案じてくださっているだけなのです」
死亡届が提出された今、ライラはこの世にいないことになっている。つまり戸籍も存在しない。
そこで、新たな戸籍を取得するまで、ひとまずメルヴィンがライラの身柄を預かると宣言したらしいのだ。
「それに何か問題があった時、私が王宮にいたほうが話をスムーズに進めやすいと仰っていたそうです」
「ふ~~~ん」
ライラの説明に、リーネは呆れたような表情で相槌を打った。
「こういうのが、『しょっけんらんよー』って言うのかな」
「どういうことですか?」
「お兄様に聞いてみるといいよ。お兄様ってば、ライラ様にはカスタードクリームと同じくらい甘いから」
「わ、分かりました……」
ライラがコクリと頷くと、リーネは少し表情を曇らせた。
そして、ライラの腰にぎゅっと抱き着く。
「王宮に行っちゃった後も、時々でいいから会いに来てね。美味しいいっぱい作るから」
「……はい。楽しみにしておりますね」
ライラは優しく微笑みながら、リーネのキャラメルブロンドに触れた。
こんな自分に、リーネはとても懐いている。メイド曰く、絵本の登場人物とライラがよく似ているらしい。
幼い王女が作ってくれたお菓子は、どれも甘くて優しい味がする。どんなに心が暗い時でも、それらを食べていると、不思議と気持ちが安らいだ。
まるで、メルヴィンに抱き締められた時のように。
(そういえば、私あの時……)
安心しているうちに、いつの間にか眠ってしまっていたのだ。
気がつくとベッドの中にいて、メルヴィンは既に帰った後だった。
ああ。王太子の目の前で、なんて恥ずかしい。その時のことを思い返して、ライラは頬を赤く染めた。
そして数日後。
いよいよライラが、王宮へ旅立つ日がやって来た。
「うわぁぁぁん! ライラ様、行かないでよー!」
「落ち着いてください、リーネ殿下。ライラ様がお困りになっていますよ」
「ささ。厨房に行って、本日のおやつを作りましょうね」
出発寸前になって泣き出してしまったリーネを、メイドたちが何とか宥めようとする。
(ど、どうしようかしら……)
ライラがその光景をおろおろと眺めていると、後ろから誰かに肩を叩かれた。
振り返ると、メルヴィンが立っていた。わざわざ迎えに来てくれたようだ。
「リーネのことは、あまり気にしなくていい。時間が経てば、平静を取り戻す」
「………」
ライラはチラッとリーネへ視線を向けた。
「やだやだぁ! 私も王宮に行くの!」
「はいはい。今日はマフィンとクッキー、どちらをお作りになりますか?」
「クッキー作るぅぅぅ……!」
メルヴィンの言う通り、案外大丈夫かもしれない。
ライラは心の中でリーネに謝りながら、メルヴィンとともに馬車へ乗り込んだ。
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