【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜

早奈恵

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本編

35.専属治癒士③

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「治癒士が居なかったら、ケガした時大変だわ」



 いくら専属の治癒士を付けるのが不快でも、彼の命には代えられない。

 専属では無い辺境騎士団所属の治癒士は居ても、万が一の時に間に合わないなんて事になったら……。

 やっぱりブラッドが断っても、これは了承できない問題だった。



 私の嫉妬心を悟られませんように……。



「あ~。言うの忘れてたんだけど。俺、治癒魔法……使えるんだ」

「え? えぇっ!」



 私は大きな声を出してしまった。

 するとブラッドがクスクス笑う。



「治癒士って女性が多いけど、意外と男で治癒魔法も使えるヤツも居るんだぞ?」

「でも、男性はそれほど強い治癒魔法は使えなくて、大怪我は治せないって聞いた事あるけど?」

「この国では、あんまり強い治癒魔法使える男は居ないけど、外国には居るもんなんだよ」

「そうなの?」

「あぁ。治癒士って言わないで『賢者』って呼ばれてる」



 それなら聞いたことがある。

 力のある賢者様は、王族と同等以上に敬われているとか何とか……。



「俺の母親の実家、時々賢者が出る家系だったんだ」

「はい?」

「だから。俺、国が違ったら、賢者に成れたかもしれないんだよ」

「えぇぇぇぇ!」



 驚き過ぎてほかに言葉が出ない。

 私を驚かせたのが面白かったのか、ブラッドは吹き出した。



「それ、おじい様は?」

「知ってるよ。それがステファニーの婚約者に選ばれる要因の一つになったんだろうし」

「えぇっ! ブラッドが良いって言ったからじゃないの?」



 あ。

 思わず口が滑った。

 恥ずかしいから黙ってようと思ってたのに……。



「ステフィーが……? 俺のこと選んだの!?」

「あ……その、うん」

「本当に?」

「うん……」



 ブラッドは驚きに目を見開いて、そして思いっきり私を抱きしめた。



「嬉しい……ステフィー、すごく嬉しいよ」

「ちょっと、苦し……」

「ごめん」



 ブラッドは身を離し、改めて私を見詰める。

 その愛おしい者に注ぐ眼差しが、私のささくれ立っていた心を癒していく。



「ステフィー。好きだ……愛してる」



 ブラッドが私の欲しい言葉をくれる。

 そして優しくキスを落とした。

 何度もついばまれ、やがて深く……。

 私はブラッドに翻弄ほんろうされ、息が上手くできなくなって頭がボーッとしてきて……。



「えっ! ステフィー?」

「ブラッド……」

「ゴメン、やり過ぎた。大丈夫?」

「……うん」



 慌てふためくブラッドはレアだなぁと、私は呑気に思っていた。
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