18 / 25
現実のエドウィン①
次に目を覚ましたのは、またもや事情を聞かれたあの相談室。
「え? なに? なんでここ?」
驚きをそのまま口にしてキョロキョロ見回すと……さっきと違い教師ではなく騎士服を纏った中年の男性が扉の横に立っていた。
ただ、パナピーアの取り乱した姿を見ても、彼の感情はまったく動かなかったらしい。
真面目な顔を崩す事なく、冷静な瞳で注視されたパナピーアはこれでほんの少し冷静になる。
「えーと、あたし何でここに?」
「…………」
返事は無い──ただの屍のようだ……って、そうじゃないわと自分でツッコんだ。
パナピーアの半分はゲーム、残りは妄想でできている。
めげない彼女は気を取り直しもう一度声をかけてみた。
「あなたが助けてくれたとか……では無いのよね?」
「…………」
騎士は何の反応も見せず、身動き一つしない。
しかし状況把握するためには何か喋ってくれないと困る。
彼女が再度何か言おうとしたその時。
ノックも無しにドアが開いた。
「エドウィン様!」
思わず駆け寄ろうとして手で制される。
「お前に私の名を口にする許しを与えたつもりは無いが?」
「え? あ……」
パナピーアは忘れていた。
自分がまだこの世界では誰の名前も教えられていない事実を……。
「あの、申し訳ありません……?」
パナピーアは萎らしく見えるように座った。
エドウィンは向かい側の椅子にドカリと座り足を組み、その隣からアンセムが冷たい眼差しで睨みを利かせている。
ガイウスはパナピーアの顔が見える位置の壁に寄りかかって腕を組んだ。
パナピーアはこの冷えびえとした空気の中、上目遣いに目だけ動かし様子を見た。
エドウィンはそれをマルっと無視。
感情の見えない冷たい眼差しでパナピーアを睨む。
「あの林で何をしていた?」
「え?」
「今日入学した新入生なのだろう? ほかの者は皆家族と面会をしている時間だぞ? それなのになぜお前だけあのような場所にいた?」
エドウィンの声音は低く視線は鋭い。
入学式の壇上で見せた微笑を知っているだけにギャップが激しく『別人では?』と疑うレベルだ。
そしてパナピーアはこれに答えられなかった。
もし特別寮を探して彷徨いていたと知られたら?
今はまだ誰の好感度も上がっていない──誰も味方してくれない状態では、さすがに疑われたら言い逃れができず罪に問われるだろう事は知っている。
「お前は私に会いに来たのではなかったのか?」
「へ?」
思いがけないことを言われ、パナピーアは目を瞬いた。
エドウィンはカマをかけるつもりで聞いたのだが、それは彼女に伝わっていない。
それどころか、この場にいる誰もが思いもよらない方向に閃いていた。
あ!
もしかしてエドウィン様はあたしのこと待ってたの?
そうだ、そうに違いない。
きっとエドウィン様も転生者で、ヒロインのあたしと結ばれるのが正解なんだって知ってるんじゃないかしら?
謎のポジティブ思考の結果、根拠のない自信を胸に彼女はニッコリ笑う。
「エドウィン様もあたしの事が好きなんですね?」
「「「はぁ⁉︎」」」
三人の貴公子の声が重なった。
綺麗な重奏である。
そしてそれぞれの顔に怒気が宿る。
「だって、待っててくれてたのに、来るのが遅かったから怒っているのでしょう?」
「はぁ? そんなワケあるか!」
「あらら……。顔真っ赤で震えちゃってたらバレバレですって!」
エドウィンは血管がブチ切れそうなほどの怒りを必死で耐えた。
口を開けば罵倒の言葉しか出そうにないが、ここで怒りのまま振る舞って醜態を晒したくない。
しかしパナピーアは、それらすべてを照れ隠しと受け取った。
のちにエドウィンは『人間なのに人の言葉が通じないのが、これほど不気味なものとは思わなかった……』と語っている。
「あ、もしかしてアンセム様も? 私がアンセム様ルートを選ばないで、エドウィン様一筋になって欲しかったんですか? ──アンセム様って真面目だし、逆ハーは許せないのかな? それとも王家至上主義だから⁉︎ あの設定本当だったんだ!」
途中からは独り言に近かったので全部は聞こえなかったが、それでも彼女の不気味さは伝わった。
アンセムは言葉の嵐に驚きつつ、魔物を警戒するかのような慎重さで口を開く。
「キミは何を言ってる? あの廊下でも猪のように突進して来て……。やはり頭がおかしかったのか……」
「え? 何? どういう事?」
本気で訳が分からなそうなパナピーアに三人は戦慄する。
もうこのまま騎士団に引き渡してしまいたい。
しかしいくら気が進まない事でも、このまま問題を放り出すなどできない。
エドウィンは今一度気を引き締め尋問を再開した。
「もう一度聞く。あの林で何をしていた?」
エドウィンの鋭い声音もゲーム内で慣れていたパナピーアは動揺しない。
むしろレアボイスを生で聴けるとはご褒美だ。
うっとりするパナピーアに、エドウィンたちはドン引きしている。
「え? だから迷子になっちゃって……テヘ」
彼女はお約束通り舌を出してウインクを決め、エドウィンは明からさまに目を逸らす。
露骨に嫌がられているのだが、まだ照れ隠しと思っているようで『ヤダ、かわいい~!』と呟かれ、エドウィンの腕に鳥肌が立った。
「え? なに? なんでここ?」
驚きをそのまま口にしてキョロキョロ見回すと……さっきと違い教師ではなく騎士服を纏った中年の男性が扉の横に立っていた。
ただ、パナピーアの取り乱した姿を見ても、彼の感情はまったく動かなかったらしい。
真面目な顔を崩す事なく、冷静な瞳で注視されたパナピーアはこれでほんの少し冷静になる。
「えーと、あたし何でここに?」
「…………」
返事は無い──ただの屍のようだ……って、そうじゃないわと自分でツッコんだ。
パナピーアの半分はゲーム、残りは妄想でできている。
めげない彼女は気を取り直しもう一度声をかけてみた。
「あなたが助けてくれたとか……では無いのよね?」
「…………」
騎士は何の反応も見せず、身動き一つしない。
しかし状況把握するためには何か喋ってくれないと困る。
彼女が再度何か言おうとしたその時。
ノックも無しにドアが開いた。
「エドウィン様!」
思わず駆け寄ろうとして手で制される。
「お前に私の名を口にする許しを与えたつもりは無いが?」
「え? あ……」
パナピーアは忘れていた。
自分がまだこの世界では誰の名前も教えられていない事実を……。
「あの、申し訳ありません……?」
パナピーアは萎らしく見えるように座った。
エドウィンは向かい側の椅子にドカリと座り足を組み、その隣からアンセムが冷たい眼差しで睨みを利かせている。
ガイウスはパナピーアの顔が見える位置の壁に寄りかかって腕を組んだ。
パナピーアはこの冷えびえとした空気の中、上目遣いに目だけ動かし様子を見た。
エドウィンはそれをマルっと無視。
感情の見えない冷たい眼差しでパナピーアを睨む。
「あの林で何をしていた?」
「え?」
「今日入学した新入生なのだろう? ほかの者は皆家族と面会をしている時間だぞ? それなのになぜお前だけあのような場所にいた?」
エドウィンの声音は低く視線は鋭い。
入学式の壇上で見せた微笑を知っているだけにギャップが激しく『別人では?』と疑うレベルだ。
そしてパナピーアはこれに答えられなかった。
もし特別寮を探して彷徨いていたと知られたら?
今はまだ誰の好感度も上がっていない──誰も味方してくれない状態では、さすがに疑われたら言い逃れができず罪に問われるだろう事は知っている。
「お前は私に会いに来たのではなかったのか?」
「へ?」
思いがけないことを言われ、パナピーアは目を瞬いた。
エドウィンはカマをかけるつもりで聞いたのだが、それは彼女に伝わっていない。
それどころか、この場にいる誰もが思いもよらない方向に閃いていた。
あ!
もしかしてエドウィン様はあたしのこと待ってたの?
そうだ、そうに違いない。
きっとエドウィン様も転生者で、ヒロインのあたしと結ばれるのが正解なんだって知ってるんじゃないかしら?
謎のポジティブ思考の結果、根拠のない自信を胸に彼女はニッコリ笑う。
「エドウィン様もあたしの事が好きなんですね?」
「「「はぁ⁉︎」」」
三人の貴公子の声が重なった。
綺麗な重奏である。
そしてそれぞれの顔に怒気が宿る。
「だって、待っててくれてたのに、来るのが遅かったから怒っているのでしょう?」
「はぁ? そんなワケあるか!」
「あらら……。顔真っ赤で震えちゃってたらバレバレですって!」
エドウィンは血管がブチ切れそうなほどの怒りを必死で耐えた。
口を開けば罵倒の言葉しか出そうにないが、ここで怒りのまま振る舞って醜態を晒したくない。
しかしパナピーアは、それらすべてを照れ隠しと受け取った。
のちにエドウィンは『人間なのに人の言葉が通じないのが、これほど不気味なものとは思わなかった……』と語っている。
「あ、もしかしてアンセム様も? 私がアンセム様ルートを選ばないで、エドウィン様一筋になって欲しかったんですか? ──アンセム様って真面目だし、逆ハーは許せないのかな? それとも王家至上主義だから⁉︎ あの設定本当だったんだ!」
途中からは独り言に近かったので全部は聞こえなかったが、それでも彼女の不気味さは伝わった。
アンセムは言葉の嵐に驚きつつ、魔物を警戒するかのような慎重さで口を開く。
「キミは何を言ってる? あの廊下でも猪のように突進して来て……。やはり頭がおかしかったのか……」
「え? 何? どういう事?」
本気で訳が分からなそうなパナピーアに三人は戦慄する。
もうこのまま騎士団に引き渡してしまいたい。
しかしいくら気が進まない事でも、このまま問題を放り出すなどできない。
エドウィンは今一度気を引き締め尋問を再開した。
「もう一度聞く。あの林で何をしていた?」
エドウィンの鋭い声音もゲーム内で慣れていたパナピーアは動揺しない。
むしろレアボイスを生で聴けるとはご褒美だ。
うっとりするパナピーアに、エドウィンたちはドン引きしている。
「え? だから迷子になっちゃって……テヘ」
彼女はお約束通り舌を出してウインクを決め、エドウィンは明からさまに目を逸らす。
露骨に嫌がられているのだが、まだ照れ隠しと思っているようで『ヤダ、かわいい~!』と呟かれ、エドウィンの腕に鳥肌が立った。
あなたにおすすめの小説
現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。
和泉鷹央
恋愛
聖女は十年しか生きられない。
この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。
それは期間満了後に始まる約束だったけど――
一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。
二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。
ライラはこの契約を承諾する。
十年後。
あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。
そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。
こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。
そう思い、ライラは聖女をやめることにした。
他の投稿サイトでも掲載しています。
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
完【恋愛】婚約破棄をされた瞬間聖女として顕現した令嬢は竜の伴侶となりました。
梅花
恋愛
侯爵令嬢であるフェンリエッタはこの国の第2王子であるフェルディナンドの婚約者であった。
16歳の春、王立学院を卒業後に正式に結婚をして王室に入る事となっていたが、それをぶち壊したのは誰でもないフェルディナンド彼の人だった。
卒業前の舞踏会で、惨事は起こった。
破り捨てられた婚約証書。
破られたことで切れてしまった絆。
それと同時に手の甲に浮かび上がった痣は、聖痕と呼ばれるもの。
痣が浮き出る直前に告白をしてきたのは隣国からの留学生であるベルナルド。
フェンリエッタの行方は…
王道ざまぁ予定です
誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。
木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。
それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。
誰にも信じてもらえず、罵倒される。
そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。
実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。
彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。
故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。
彼はミレイナを快く受け入れてくれた。
こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。
そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。
しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。
むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。
婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~
白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」
枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。
土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。
「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」
あなた誰!?
やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!
虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。
捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています
h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。
自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。
しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━?
「おかえりなさいませ、皇太子殿下」
「は? 皇太子? 誰が?」
「俺と婚約してほしいんだが」
「はい?」
なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。
裏切り者として死んで転生したら、私を憎んでいるはずの王太子殿下がなぜか優しくしてくるので、勘違いしないよう気を付けます
みゅー
恋愛
ジェイドは幼いころ会った王太子殿下であるカーレルのことを忘れたことはなかった。だが魔法学校で再会したカーレルはジェイドのことを覚えていなかった。
それでもジェイドはカーレルを想っていた。
学校の卒業式の日、貴族令嬢と親しくしているカーレルを見て元々身分差もあり儚い恋だと潔く身を引いたジェイド。
赴任先でモンスターの襲撃に会い、療養で故郷にもどった先で驚きの事実を知る。自分はこの宇宙を作るための機械『ジェイド』のシステムの一つだった。
それからは『ジェイド』に従い動くことになるが、それは国を裏切ることにもなりジェイドは最終的に殺されてしまう。
ところがその後ジェイドの記憶を持ったまま翡翠として他の世界に転生し元の世界に召喚され……
ジェイドは王太子殿下のカーレルを愛していた。
だが、自分が裏切り者と思われてもやらなければならないことができ、それを果たした。
そして、死んで翡翠として他の世界で生まれ変わったが、ものと世界に呼び戻される。
そして、戻った世界ではカーレルは聖女と呼ばれる令嬢と恋人になっていた。
だが、裏切り者のジェイドの生まれ変わりと知っていて、恋人がいるはずのカーレルはなぜか翡翠に優しくしてきて……
はずれの聖女
おこめ
恋愛
この国に二人いる聖女。
一人は見目麗しく誰にでも優しいとされるリーア、もう一人は地味な容姿のせいで影で『はずれ』と呼ばれているシルク。
シルクは一部の人達から蔑まれており、軽く扱われている。
『はずれ』のシルクにも優しく接してくれる騎士団長のアーノルドにシルクは心を奪われており、日常で共に過ごせる時間を満喫していた。
だがある日、アーノルドに想い人がいると知り……
しかもその相手がもう一人の聖女であるリーアだと知りショックを受ける最中、更に心を傷付ける事態に見舞われる。
なんやかんやでさらっとハッピーエンドです。