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第一話 始まりの一織り
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「兎でしたら、先日私が助けましたわ。もしかして、そんな優しさ溢れる私に一目惚れしてしまわれたのですか!?嗚呼…でも私とザード様は違う国の人間…結ばれぬ運命ですわ…!罪深い私…」
「お前じゃねぇ」
ザードは連れて来られたリンスロットの言葉を即切り捨てた。
「右顔に火傷のある奴だ。居ないとは言わせねぇ」
「右顔に火傷の…女」
『火傷』と口にした瞬間、領主は大量の脂汗を吹いた。
キルティー領は絹織物の生産が盛んである。故に火の取扱には特に気を遣っている。故に、火傷という火に起因する怪我の者は皆無に近い。
──…一人を除いて。
「……存じませぬ、な…我が領に限って火傷等という、火の忌み傷を負う者なんて……何かの間違いではありませんか…?」
──バレてはならぬ。
領主の罪の証である、塔の布姫を指している事は容易に分かった。周りの民衆に知られる事はもちろんとして、王子のザードにも知られたら、当然工の国コクマーの国王にも報告されてしまう。
そうなれば、投獄…領存続さえ危うい──
「顔に火傷のある女など、この領には居ませぬ!お引き取り下さい!」
領主の焦りとは裏腹に、ザードの表情は冷めていた。
「……あの女の姿は長時間歩くような格好じゃなかった。と、いうことは…森に一番近い町の女だと判断出来る。馬車も入れる場所じゃなかったからな。それに、十数年前ここでは大火事があったらしいじゃねぇか」
ザードはゆっくりと背中の剣を抜いた。
「てめぇはそれでも、あの女がいないと否定するっていうのか!?」
剣の切っ先は領主の頬を切り、
周りの民衆は悲鳴を上げた。
「お父様!」
「来るなリンスロット!……私は、大丈夫だ…だから」
──布姫の事だけはバラすな…
領主はそう、娘だけに分かるように目配せした。しかしリンスロットの動揺は隠し切れない。視線が泳ぎ、塔のある森をしきりに見てしまう。
「でも…でも…!」
「ザード王子…お引取り下さい。お願いします」
「いい度胸だ…いっぺん死んでみれば、その腐った口も開くってもんだな!」
鋭い視線で領主を射抜き、ザードはゆっくりと首に剣をあてた。
「もうやめてください!」
ザードの剣が領主の首を切り裂く直前、広場に澄んだ声が響いた。
広場の民衆は一斉に声のする方へ視線を移すと、そこには兵士に連れられた娘が立っていた。
濃い青の髪が右顔に流れ、風に揺られる度に下の火傷を見せる。琥珀色の瞳は憂いを帯ていた。
人々は息を飲んだ──
「やっと出てきたか」
火傷の娘…布姫は少し震えながらザードに近付いた。
「…わ…私に用なら…お父様達を巻き込まないで下さい!」
「お父様…ね」
その瞬間、ざわめきは最高潮に達した。
「火事で亡くなった領主の奥方の生き写しだ」
「奥方と娘はあの大火事で死んだはずだ…!」
「さっきから領主の様子がおかしかったが…火事を起こした噂は本当だったのか!?」
「もしや…あの噂も…」
「リンスロット様の布は…」
「ち…違う…違う違う!違う!」
領主は勢いよく立ち上がり、民衆の一人の肩を掴んだ。
「あの娘は頭がおかしいんだ!勝手な事を言っているだけで…わ、私はアイツのことなど知らん!知らんぞ!」
領主の叫びは更に大きさを増す人々のざわめきに掻き消された。
「塔の窓から町を見ていたら、様子がおかしくて…事情を聞いたら、見張りの方がここまで導いてくれました……あなたは…一体何が目的なんですか!?」
布姫の声は震えていたが、瞳は真っ直ぐにザードを見つめていた。
その視線と領主の取り乱した姿を交互に見比べ、ザードは口を開いた。
「…昔の大火事で、領主の子供の死体だけは見付からなかったらしいな…その子供ってのは、てめぇの事か?」
「………」
「生きてる事実を隠されて、領主の言うまま働かせられ…そして本当の事がバレればあんな風にとち狂った女だと決めつけられる。それでも、てめぇはあの最低な男を庇うのか?」
語尾に力が入ると同時にザードは布姫の顎に手を当て、上げた。視線が交わり、一瞬の沈黙が流れる。
「本当にそれでいいのか…!?」
「……私は」
黙っていた布姫は一息ついてからゆっくりと身を離し、声を出した。
「私は、人が喜ぶ顔が好きです。綺麗な布を作ると、リンスロットは嬉しそうにそれを持って行きます。そして、後でどれだけ賛美を受けたか教えてくれるんです…たとえ、その賛美は私に対してではなくても、彼女がすごく嬉しそうにしている姿を見ているだけで私も嬉しくなってしまうんです。お父様も塔の私の元には来てくれませんが…窓から見える、幸せそうな笑顔のお父様を見てるだけで…それで私は満足なんです。町の皆が普通に生活しているだけで…満足なんです…だから、もう…皆を巻き込むのはやめてください…!」
「……」
布姫の瞳には大粒の涙が溢れていた。自分はただ、皆の日常を壊したくないだけ…そう胸の中で叫んだ。
ザードはその様子に無表情で目を細めた。
「……ヒルデ」
「──え」
ザードがポツリと漏らした言葉に疑問の声を出したが、次の瞬間に布姫の身体は宙に浮いていた。
「え…?ええっ…!?」
ザードの手は布姫の肩と膝関節に当てられ、持ち上げられている。
──いわゆる、お姫様だっこ状態である。
「は…離して下さい…!何をするつもりですか!?」
「連れて帰る」
「連れ…?!」
ザードはサラリと言ってのけ、布姫が抵抗する間も無く馬へと移され、領の外へと走り始めた。
その一連の行動は一瞬かつ素早く、誰も止める事が出来ず、残された群衆と領主は呆気にとられていた。
「アイツ、本当に自己中だよな」
ザードと黒い馬の後ろ姿を呆然と見つめていた民衆は、突然聞こえた声に思わず視線を向けた。
その瞬間、場がざわめき一同が平伏した。
そこに立っていたのは工の国コクマー王子──
「ひ…ヒサギ様…!!」
──いつから?
そんな考えが脳裏を支配する。
領主の体はすでに自分のモノではないかのような脱力感を感じていた。
「あの塔…機材を置くだけの建物だって聞いてたけど…まさか、あんな面白いのを隠してたなんておかしくて腹抱えそうだ!」
ヒサギはわざとらしく大きく手振りし笑う。声は優しげだが、口調は段々と棘が出てきた。
──ザードがキルティー領の大火事を知っていた事、布姫の存在を把握していた事……既にヒサギが領主の犯した罪を全て知っていると、考えずとも分かってしまった。
「自分の妻を殺して、娘を軟禁か。最低の人間だよ、あんた」
「お許し…下さい」
「土下座するのは俺に対してではなく民衆にするべきだね。それと、」
ヒサギは平伏した領主の髪を掴み、無理矢理上を向かせた。
「懺悔は城の拷問室でやりな」
優しい声色は悪魔のように鋭く、領主の顔を歪ませた──
「お前じゃねぇ」
ザードは連れて来られたリンスロットの言葉を即切り捨てた。
「右顔に火傷のある奴だ。居ないとは言わせねぇ」
「右顔に火傷の…女」
『火傷』と口にした瞬間、領主は大量の脂汗を吹いた。
キルティー領は絹織物の生産が盛んである。故に火の取扱には特に気を遣っている。故に、火傷という火に起因する怪我の者は皆無に近い。
──…一人を除いて。
「……存じませぬ、な…我が領に限って火傷等という、火の忌み傷を負う者なんて……何かの間違いではありませんか…?」
──バレてはならぬ。
領主の罪の証である、塔の布姫を指している事は容易に分かった。周りの民衆に知られる事はもちろんとして、王子のザードにも知られたら、当然工の国コクマーの国王にも報告されてしまう。
そうなれば、投獄…領存続さえ危うい──
「顔に火傷のある女など、この領には居ませぬ!お引き取り下さい!」
領主の焦りとは裏腹に、ザードの表情は冷めていた。
「……あの女の姿は長時間歩くような格好じゃなかった。と、いうことは…森に一番近い町の女だと判断出来る。馬車も入れる場所じゃなかったからな。それに、十数年前ここでは大火事があったらしいじゃねぇか」
ザードはゆっくりと背中の剣を抜いた。
「てめぇはそれでも、あの女がいないと否定するっていうのか!?」
剣の切っ先は領主の頬を切り、
周りの民衆は悲鳴を上げた。
「お父様!」
「来るなリンスロット!……私は、大丈夫だ…だから」
──布姫の事だけはバラすな…
領主はそう、娘だけに分かるように目配せした。しかしリンスロットの動揺は隠し切れない。視線が泳ぎ、塔のある森をしきりに見てしまう。
「でも…でも…!」
「ザード王子…お引取り下さい。お願いします」
「いい度胸だ…いっぺん死んでみれば、その腐った口も開くってもんだな!」
鋭い視線で領主を射抜き、ザードはゆっくりと首に剣をあてた。
「もうやめてください!」
ザードの剣が領主の首を切り裂く直前、広場に澄んだ声が響いた。
広場の民衆は一斉に声のする方へ視線を移すと、そこには兵士に連れられた娘が立っていた。
濃い青の髪が右顔に流れ、風に揺られる度に下の火傷を見せる。琥珀色の瞳は憂いを帯ていた。
人々は息を飲んだ──
「やっと出てきたか」
火傷の娘…布姫は少し震えながらザードに近付いた。
「…わ…私に用なら…お父様達を巻き込まないで下さい!」
「お父様…ね」
その瞬間、ざわめきは最高潮に達した。
「火事で亡くなった領主の奥方の生き写しだ」
「奥方と娘はあの大火事で死んだはずだ…!」
「さっきから領主の様子がおかしかったが…火事を起こした噂は本当だったのか!?」
「もしや…あの噂も…」
「リンスロット様の布は…」
「ち…違う…違う違う!違う!」
領主は勢いよく立ち上がり、民衆の一人の肩を掴んだ。
「あの娘は頭がおかしいんだ!勝手な事を言っているだけで…わ、私はアイツのことなど知らん!知らんぞ!」
領主の叫びは更に大きさを増す人々のざわめきに掻き消された。
「塔の窓から町を見ていたら、様子がおかしくて…事情を聞いたら、見張りの方がここまで導いてくれました……あなたは…一体何が目的なんですか!?」
布姫の声は震えていたが、瞳は真っ直ぐにザードを見つめていた。
その視線と領主の取り乱した姿を交互に見比べ、ザードは口を開いた。
「…昔の大火事で、領主の子供の死体だけは見付からなかったらしいな…その子供ってのは、てめぇの事か?」
「………」
「生きてる事実を隠されて、領主の言うまま働かせられ…そして本当の事がバレればあんな風にとち狂った女だと決めつけられる。それでも、てめぇはあの最低な男を庇うのか?」
語尾に力が入ると同時にザードは布姫の顎に手を当て、上げた。視線が交わり、一瞬の沈黙が流れる。
「本当にそれでいいのか…!?」
「……私は」
黙っていた布姫は一息ついてからゆっくりと身を離し、声を出した。
「私は、人が喜ぶ顔が好きです。綺麗な布を作ると、リンスロットは嬉しそうにそれを持って行きます。そして、後でどれだけ賛美を受けたか教えてくれるんです…たとえ、その賛美は私に対してではなくても、彼女がすごく嬉しそうにしている姿を見ているだけで私も嬉しくなってしまうんです。お父様も塔の私の元には来てくれませんが…窓から見える、幸せそうな笑顔のお父様を見てるだけで…それで私は満足なんです。町の皆が普通に生活しているだけで…満足なんです…だから、もう…皆を巻き込むのはやめてください…!」
「……」
布姫の瞳には大粒の涙が溢れていた。自分はただ、皆の日常を壊したくないだけ…そう胸の中で叫んだ。
ザードはその様子に無表情で目を細めた。
「……ヒルデ」
「──え」
ザードがポツリと漏らした言葉に疑問の声を出したが、次の瞬間に布姫の身体は宙に浮いていた。
「え…?ええっ…!?」
ザードの手は布姫の肩と膝関節に当てられ、持ち上げられている。
──いわゆる、お姫様だっこ状態である。
「は…離して下さい…!何をするつもりですか!?」
「連れて帰る」
「連れ…?!」
ザードはサラリと言ってのけ、布姫が抵抗する間も無く馬へと移され、領の外へと走り始めた。
その一連の行動は一瞬かつ素早く、誰も止める事が出来ず、残された群衆と領主は呆気にとられていた。
「アイツ、本当に自己中だよな」
ザードと黒い馬の後ろ姿を呆然と見つめていた民衆は、突然聞こえた声に思わず視線を向けた。
その瞬間、場がざわめき一同が平伏した。
そこに立っていたのは工の国コクマー王子──
「ひ…ヒサギ様…!!」
──いつから?
そんな考えが脳裏を支配する。
領主の体はすでに自分のモノではないかのような脱力感を感じていた。
「あの塔…機材を置くだけの建物だって聞いてたけど…まさか、あんな面白いのを隠してたなんておかしくて腹抱えそうだ!」
ヒサギはわざとらしく大きく手振りし笑う。声は優しげだが、口調は段々と棘が出てきた。
──ザードがキルティー領の大火事を知っていた事、布姫の存在を把握していた事……既にヒサギが領主の犯した罪を全て知っていると、考えずとも分かってしまった。
「自分の妻を殺して、娘を軟禁か。最低の人間だよ、あんた」
「お許し…下さい」
「土下座するのは俺に対してではなく民衆にするべきだね。それと、」
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