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第一話 始まりの一織り
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青々とした木々に澄んだ風──
ザードとアテナは黒馬に揺られて城から少し遠くの森までやって来た。
「(ここは、元いた塔の森と、生えている木も草も種類が全く違う…)」
国が隣同士だとしても、気候や環境が違うのかもしれないとアテナは漠然と考えた。
そう言われてみれば、なんとなく工の国より暖かい気がする。
塔にいた頃は大雪で難儀したものだが、もしかしたら武の国は雪もあまり降らない…のかもしれない。
そう考えると、ザードや城の兵士達が武人なのに薄い鎧なのも頷けた。
「…何見てんだよ」
「あ…い、いえっ!」
アテナはいつの間にかザードを見つめていることに気付いた。
意識して見ていたわけではない。無意識にやってしまっただけだ。
「(恥ずかしい…)」
アテナは顔を真っ赤にして俯いた。
胸の奥が熱くなって落ち着かない。馬が揺れる度に触れてしまうのが、どうしようもなくもどかしく感じてしまう。
多分、恐らく──自分でも気付かないうちにだんだんとザードに惹かれてしまっているのかもしれない。
アテナはチラリとザードの顔を再び見る。
彼は、やはり王子だけあって普通とは違う雰囲気を持っていた。
気品とか高貴とか…そういうものでは無く、気高さに近い……言葉に出来ない王の気質をザードから感じた。
──人は自分より上のものに憧れるという。
ザードは自分を塔から無理矢理だったとはいえ連れ出し、名前をくれた。まるで御伽噺の王子様お姫様のように。
困難から助けてくれた王子様にお姫様が惹かれてしまうように──
「(望んだところで叶うはずないよね…大丈夫…今までと一緒…)」
外の世界を小さい窓から夢見た日々──
叶うはずがないと諦めて、小さくても毎日幸せを感じて生きてきたではないか。
また、そうやって生きれば良い…
アテナはゆっくりと目を伏せた。
・
・
・
「ここだ」
しばらく歩いた後に、ザードは馬を止めた。
──視界全てに花。
赤や青、黄色やピンク…極彩色の世界に迷いこんだ錯覚を覚えるような花の嵐。蝶も鳥もその風景の一部と化していた。
「こんなに大きな花畑があるなんて…」
「ここが武の国で一番陽の当たる時間が長い場所だ。…ま、隣にはみ出てるからウチの国の物とも言えねぇがな」
ザードは馬からアテナを降ろしながら、遠くに見える大きな建物を指差した。
「あれが創の国の城。間違っても近付くんじゃねぇぞ」
「なんでですか?」
微かに見える、武の国とは違う真っ白の城壁を見つめて、アテナは首を傾げた。
ザードはその言葉に一回ジロリと睨むと溜め息を吐いた。
「……奴はとんでもねぇんだよ」
そう呟き、不機嫌そうに再び睨むと『早く行け』と手の動作をして、アテナに行動を急がせた。
アテナはその視線に慌てて走りながらも、言葉の意味に疑問が止まらなかった。
・
・
・
「ザード様、見てください!たくさん摘んでしまいました」
「……」
しばらく待っていたザードの元へ戻って来たアテナは、満面の笑みで腕いっぱい花を見せた。しかし、見せられた本人の顔は冷めている。
「……で?」
「はい?」
「木の実はどうした?」
「………あ」
本当の目的は布糸の染料アカイナの実を探すことである。花摘みをしに来たのではない。
アテナは思い出したかのように慌てて『今探してきます!』と走り始めたが
「すみません、この花持っていて下さい!」
「はっ…!?」
一旦踵を返し、ザードに花を渡して再び走り始めた。
反論をする間もなく、その素早さに呆気にとられたザードは腕に激しく似合わない花を抱えて動けなかった…
溜め息を吐いた後、ザードは渡された花を何気無く見た。
赤青黄色の花々は綺麗にゆらゆらと風になびいている。
その時──突然胸の引っ掛かりを感じた。
青い髪を揺らして、花を愛でる姿──
細くて弱々しい体の線──
違和感が頭の中を掻き回し、腹の底をムカムカさせた。
「…アイツは、花なんて…」
花々の匂いは甘ったるく、気分を悪くする…ザードは言いようのない不快感を感じた。
数日しか命のないにも関わらず、何故こんなにも主張するのか…
何故、こんなにも
心に残るのか──
「くそっ…!」
ザードはたまらず、持っていた花を地面に叩き付けた。
赤い花、黄色い花、青い花──全ては音も抵抗感もなく地面に横たわる。花弁が風に弄ばれ、散り飛び去って行く。
「…なん…で」
絞り出すように呟くと、胸と喉の奥がムカムカしてきた。
この甘い匂いのせいか、それとも──
「死んだんだ…ヒルデ」
萎れていく花があの子と重なった。
「……大丈夫、ですか?」
その時、ザードは背後から突然に声をかけられて思わず剣に手をやってしまった。しかし、すぐに声の主に勘付くと平然を装い振り返る。そこには、ザードを心配そうに見つめるアテナが立っていた。
「……」
「ザード様…あの…大丈…」
「黙れ!」
花畑の静寂はその瞬間から殺気に変わった。ザードは鋭い凶器のような瞳でアテナを睨みつける。
「アイツとそっくりな声で話しかけるな…!」
「…アイツ?」
「そうだ、アイツは…!」
胸に溜った言葉と感情が溢れ、ザードは落ちた花を踏みしめた。
「アイツは…お前みたいに弱くないし…こんな花なんて好きじゃなかった…!」
風が吹き、揺れるアテナの深い海のような青い髪が『彼女』と重なる。
──そう、アイツの髪も、
散った花弁が二人の間を舞う。
風は冷たくなり、暖かった陽射しは段々と雲に隠され影を作った。
「ザード様、私は………私です。キルティー領の布姫…他の誰でもありません」
俯いていたアテナは、強い瞳をザードに向けた。そこには少しの寂しさの色も混ざっていたが、アテナは意を決して言葉を続ける。
「教えて下さい…ザード様は私を誰と重ねているのですか?それと私を連れてきた理由には…関係はあるのですか…?」
強く言いながらも、アテナの瞳には涙が滲み、体も震えていた。
「………」
ザードはアテナの泣きそうな顔に罪悪感を感じてか、視線そらし、空を見上げた。
「…あの日も…」
──同じような曇り空だった。
ザードはゆっくりと重い口を開いた。
ザードとアテナは黒馬に揺られて城から少し遠くの森までやって来た。
「(ここは、元いた塔の森と、生えている木も草も種類が全く違う…)」
国が隣同士だとしても、気候や環境が違うのかもしれないとアテナは漠然と考えた。
そう言われてみれば、なんとなく工の国より暖かい気がする。
塔にいた頃は大雪で難儀したものだが、もしかしたら武の国は雪もあまり降らない…のかもしれない。
そう考えると、ザードや城の兵士達が武人なのに薄い鎧なのも頷けた。
「…何見てんだよ」
「あ…い、いえっ!」
アテナはいつの間にかザードを見つめていることに気付いた。
意識して見ていたわけではない。無意識にやってしまっただけだ。
「(恥ずかしい…)」
アテナは顔を真っ赤にして俯いた。
胸の奥が熱くなって落ち着かない。馬が揺れる度に触れてしまうのが、どうしようもなくもどかしく感じてしまう。
多分、恐らく──自分でも気付かないうちにだんだんとザードに惹かれてしまっているのかもしれない。
アテナはチラリとザードの顔を再び見る。
彼は、やはり王子だけあって普通とは違う雰囲気を持っていた。
気品とか高貴とか…そういうものでは無く、気高さに近い……言葉に出来ない王の気質をザードから感じた。
──人は自分より上のものに憧れるという。
ザードは自分を塔から無理矢理だったとはいえ連れ出し、名前をくれた。まるで御伽噺の王子様お姫様のように。
困難から助けてくれた王子様にお姫様が惹かれてしまうように──
「(望んだところで叶うはずないよね…大丈夫…今までと一緒…)」
外の世界を小さい窓から夢見た日々──
叶うはずがないと諦めて、小さくても毎日幸せを感じて生きてきたではないか。
また、そうやって生きれば良い…
アテナはゆっくりと目を伏せた。
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「ここだ」
しばらく歩いた後に、ザードは馬を止めた。
──視界全てに花。
赤や青、黄色やピンク…極彩色の世界に迷いこんだ錯覚を覚えるような花の嵐。蝶も鳥もその風景の一部と化していた。
「こんなに大きな花畑があるなんて…」
「ここが武の国で一番陽の当たる時間が長い場所だ。…ま、隣にはみ出てるからウチの国の物とも言えねぇがな」
ザードは馬からアテナを降ろしながら、遠くに見える大きな建物を指差した。
「あれが創の国の城。間違っても近付くんじゃねぇぞ」
「なんでですか?」
微かに見える、武の国とは違う真っ白の城壁を見つめて、アテナは首を傾げた。
ザードはその言葉に一回ジロリと睨むと溜め息を吐いた。
「……奴はとんでもねぇんだよ」
そう呟き、不機嫌そうに再び睨むと『早く行け』と手の動作をして、アテナに行動を急がせた。
アテナはその視線に慌てて走りながらも、言葉の意味に疑問が止まらなかった。
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「ザード様、見てください!たくさん摘んでしまいました」
「……」
しばらく待っていたザードの元へ戻って来たアテナは、満面の笑みで腕いっぱい花を見せた。しかし、見せられた本人の顔は冷めている。
「……で?」
「はい?」
「木の実はどうした?」
「………あ」
本当の目的は布糸の染料アカイナの実を探すことである。花摘みをしに来たのではない。
アテナは思い出したかのように慌てて『今探してきます!』と走り始めたが
「すみません、この花持っていて下さい!」
「はっ…!?」
一旦踵を返し、ザードに花を渡して再び走り始めた。
反論をする間もなく、その素早さに呆気にとられたザードは腕に激しく似合わない花を抱えて動けなかった…
溜め息を吐いた後、ザードは渡された花を何気無く見た。
赤青黄色の花々は綺麗にゆらゆらと風になびいている。
その時──突然胸の引っ掛かりを感じた。
青い髪を揺らして、花を愛でる姿──
細くて弱々しい体の線──
違和感が頭の中を掻き回し、腹の底をムカムカさせた。
「…アイツは、花なんて…」
花々の匂いは甘ったるく、気分を悪くする…ザードは言いようのない不快感を感じた。
数日しか命のないにも関わらず、何故こんなにも主張するのか…
何故、こんなにも
心に残るのか──
「くそっ…!」
ザードはたまらず、持っていた花を地面に叩き付けた。
赤い花、黄色い花、青い花──全ては音も抵抗感もなく地面に横たわる。花弁が風に弄ばれ、散り飛び去って行く。
「…なん…で」
絞り出すように呟くと、胸と喉の奥がムカムカしてきた。
この甘い匂いのせいか、それとも──
「死んだんだ…ヒルデ」
萎れていく花があの子と重なった。
「……大丈夫、ですか?」
その時、ザードは背後から突然に声をかけられて思わず剣に手をやってしまった。しかし、すぐに声の主に勘付くと平然を装い振り返る。そこには、ザードを心配そうに見つめるアテナが立っていた。
「……」
「ザード様…あの…大丈…」
「黙れ!」
花畑の静寂はその瞬間から殺気に変わった。ザードは鋭い凶器のような瞳でアテナを睨みつける。
「アイツとそっくりな声で話しかけるな…!」
「…アイツ?」
「そうだ、アイツは…!」
胸に溜った言葉と感情が溢れ、ザードは落ちた花を踏みしめた。
「アイツは…お前みたいに弱くないし…こんな花なんて好きじゃなかった…!」
風が吹き、揺れるアテナの深い海のような青い髪が『彼女』と重なる。
──そう、アイツの髪も、
散った花弁が二人の間を舞う。
風は冷たくなり、暖かった陽射しは段々と雲に隠され影を作った。
「ザード様、私は………私です。キルティー領の布姫…他の誰でもありません」
俯いていたアテナは、強い瞳をザードに向けた。そこには少しの寂しさの色も混ざっていたが、アテナは意を決して言葉を続ける。
「教えて下さい…ザード様は私を誰と重ねているのですか?それと私を連れてきた理由には…関係はあるのですか…?」
強く言いながらも、アテナの瞳には涙が滲み、体も震えていた。
「………」
ザードはアテナの泣きそうな顔に罪悪感を感じてか、視線そらし、空を見上げた。
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