欺瞞の剣

刻夜 煌

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時の剣舞

取り戻せるなら

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「……」
 そこに転がるのは無数の屍。
 緋と黯のコントラストが目に鮮やかである。
 「この程度か。」
 全ての剣を切り裂いた後にでも、余裕が見て取れる。
 独り、雨降る荒野に呟いた。
 「つまらない。」 と

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「疲れたー」
 澪は剣道着のままそこに倒れた。
 「道着のまま寝るんじゃない。」
 コウの父親の怒声が響く。
 「もはやなんか気持ち悪いまである。基礎体力無さ過ぎて……」
 「お疲れ、澪ちゃん。」
 コウがポカリを二本持ってきた。
 「せんきゅ」
 と言って受け取るとすぐに飲み干した。
 「生き返るー」
 つーか何で、コウは汗の一つもかいてないんだよ。
 そんな気持ちを受け取ったのかコウは、
 「学校の基礎練より甘いから。」
 と返した。
 「これで学校の基礎練以下となると学校の基礎練がますます頭いかれてるな。」
 「人によってメニューが違うからなんとも言えないけど。」
 成程、剣道部のエース様は練習メニューが頭おかしいな。
 そんなことを思っていると唐突にコウは
 「そういえば澪ちゃんは、あの後剣を顕現させられた?」
と言った。
 あの日以来概念破戒ディストラクトを出現させることが出来ないのだ。
 勿論のこと、コウも。
 「何かあるのかなぁ、発動原理的な。そもそも、無から有を生み出すことなんて殆ど不可能に近いんだよな。
 となると発現条件は必ずあると考えてもおかしく無い。例えば敵意を持った相手が自分の近くに接近した時とか。」
 成程、理にかなっている。
 でもこの考え方は真面目すぎる。
 コウは生真面目すぎる所がある。もう少し砕けて考えないと、常識で測れないものを常識で見ようとしても生まれるのは誤解だけである。
 「もう少しだけ巫山戯て考えてもいいと思うぞ。例えば感情がトリガーでした!何てよくあることだ。」
 その時、時の流れが停止した。
 いや、妨げられたと言ってもいい。
 「……」
 ん?
 「……神格騎士ケルディムナイト6番
過時かとき 翔。目標を確認。殲滅する。」
 「脳は動いているが、躯は動かないか。」
 いわば時間止め系統の剣だろう。
 ここまで来ると何でもありだな。
 というか時間止めとかチートだろ。でも、次のクールタイムに決めてやる。
  だいたいこういう異能にはクールタイムみたいな物があるものだ。
 時間制限とか、使用制限とか。
 「動いた。」
 その時、僕は剣を顕現させることはおろか、立つことすらままならなかった。
 隣に座っていたはずのコウが、
   
       緋色と黯色の塊になってい た。

 「うあああああああああああ」
 
 
 僕は慟哭した、と思った。
 が、時は止まった。
 無情にも慟哭する時間すらも存在しなかった。
 絶望し、慟哭し、発狂する。そんな間も与えられず、死ぬ。

 そう思っていた。

 「虚無歪曲ディストーション!」

 という、声が響くまで。
 その意味を理解するまで。
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