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冬 三歌
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【年明けの年賀に混ざる メッセージ】
年が明けて、俺は緊張の一大イベント「彼女のご両親に挨拶に行く」を実行に移した。
高子が前もって話しておいてくれたため、問題もなく進んだが……。
俺は長い人生のうちのどれだけのパワーをここで消費したのか……計るすべを知らなかった。
「ああ、素敵な彼氏だったよ。わたしの自慢の彼氏だ!」
以前、俺が言った言葉をほぼ一字一句変えずに高子が言う。こいつ、いじめてやろうかと思ったが、幸せそうな高子の笑顔を目の前にすると、俺は何も言えなかった。
高子を実家に残し、久しぶりに自分のアパートに戻ると、郵便受けには多量の郵送物が押し込んであった。
ほとんどがどうでも良いモノなので、テーブルの上に無造作に投げる。
「あ、年賀状もあったけ?」
そこで、俺は友人からの年賀状に混ざっていた一枚の絵はがきを見つける。
高子の部屋で見た、あのオーロラの写真のクリスマスカードだった。
「なんだ、忍。俺の方にも送ってくれたんだ……」
裏を見ると、メリークリスマスの文字ではなく。違う言葉がつづられている。
「これは?」
俺は意味が分からず、ただただ、困惑するしかなかった。
分からないので、俺はすぐに高子にラインで絵はがきの文章を写して送るが、なかなか既読にならない。電話は繋がったが答えは素っ気ないものだった。
「何だろうね? 見てみるね」
それだけだった。
不安になった俺は、思い切って古典文学の立花准教授の研究室に足を運んだ。まだ、今年の講義は始まっていないのだが……立花先生はその部屋の奥に資料に埋もれるようにして座っていた。
「おや、これは珍しい人が来たね。高子くんは一緒じゃないのかい?」
資料を読みあさっていたいた、立花先生は山となった資料を器用にどかして俺の顔をのぞき見る。
「良い話と悪い話どっちだい? 僕もヒマではないんで、良い話だけ聞くよ!」
楽しそうなその笑顔におれは困惑した。
立花先生は俺の渡した絵はがきのオーロラの写真を珍しそうに見てから、裏の文章を凝視した。
「これを、忍くんが君に送ったんだね。そして、高子くんとはメッセージが違う……」
大きくため息をついてから、立花先生は言った。
「これは、辞世の句だね」
「ひどく下手くそだけど……」
これは聞かなかったことにしてあげよう。
【願わくば 切りとりおきし この思ひ 忍ぶこころの さねかずら】
俺に送られてきた絵はがきには、短歌が一首、書かれていた。たぶん忍の作なのだろう。
立花先生は続けてこう解説してくれた。
「この句は、西行の辞世の句、願わくば……の本歌取りのつもりなんだろうね、全く本歌取りになってないけどね。それは置いといて……『さねかずら』が不思議だね。どうして、最後が『さねかずら』なんだろう?」
立花先生は難しい顔でしばらく考えてから、俺の顔を見直し手を叩いた。
「そうか、定家くん君だ! 君なんだ」
そう言って急に立ち上がり、真面目な顔で俺に告げる。
「この句の意味を聞きたいかい?」
立花先生のその言葉にしばらく俺は答えを出せなかった。
☆ ☆ ☆
彼からの連絡を受けた高子は迷っていた。彼に送られた絵はがきのメッセージ、たぶん、それは……。
高子はラインを見れないでいた。
分かっていた、高校時代からの親友なんだから。
気付いていた、定家くんを好きなのも。
そして、知っていた、終わりが近いことも。
とうとう、その日が来たんだね……忍。
【年明けの年賀に混ざる メッセージ 君の送りし偽ざる歌】
年が明けて、俺は緊張の一大イベント「彼女のご両親に挨拶に行く」を実行に移した。
高子が前もって話しておいてくれたため、問題もなく進んだが……。
俺は長い人生のうちのどれだけのパワーをここで消費したのか……計るすべを知らなかった。
「ああ、素敵な彼氏だったよ。わたしの自慢の彼氏だ!」
以前、俺が言った言葉をほぼ一字一句変えずに高子が言う。こいつ、いじめてやろうかと思ったが、幸せそうな高子の笑顔を目の前にすると、俺は何も言えなかった。
高子を実家に残し、久しぶりに自分のアパートに戻ると、郵便受けには多量の郵送物が押し込んであった。
ほとんどがどうでも良いモノなので、テーブルの上に無造作に投げる。
「あ、年賀状もあったけ?」
そこで、俺は友人からの年賀状に混ざっていた一枚の絵はがきを見つける。
高子の部屋で見た、あのオーロラの写真のクリスマスカードだった。
「なんだ、忍。俺の方にも送ってくれたんだ……」
裏を見ると、メリークリスマスの文字ではなく。違う言葉がつづられている。
「これは?」
俺は意味が分からず、ただただ、困惑するしかなかった。
分からないので、俺はすぐに高子にラインで絵はがきの文章を写して送るが、なかなか既読にならない。電話は繋がったが答えは素っ気ないものだった。
「何だろうね? 見てみるね」
それだけだった。
不安になった俺は、思い切って古典文学の立花准教授の研究室に足を運んだ。まだ、今年の講義は始まっていないのだが……立花先生はその部屋の奥に資料に埋もれるようにして座っていた。
「おや、これは珍しい人が来たね。高子くんは一緒じゃないのかい?」
資料を読みあさっていたいた、立花先生は山となった資料を器用にどかして俺の顔をのぞき見る。
「良い話と悪い話どっちだい? 僕もヒマではないんで、良い話だけ聞くよ!」
楽しそうなその笑顔におれは困惑した。
立花先生は俺の渡した絵はがきのオーロラの写真を珍しそうに見てから、裏の文章を凝視した。
「これを、忍くんが君に送ったんだね。そして、高子くんとはメッセージが違う……」
大きくため息をついてから、立花先生は言った。
「これは、辞世の句だね」
「ひどく下手くそだけど……」
これは聞かなかったことにしてあげよう。
【願わくば 切りとりおきし この思ひ 忍ぶこころの さねかずら】
俺に送られてきた絵はがきには、短歌が一首、書かれていた。たぶん忍の作なのだろう。
立花先生は続けてこう解説してくれた。
「この句は、西行の辞世の句、願わくば……の本歌取りのつもりなんだろうね、全く本歌取りになってないけどね。それは置いといて……『さねかずら』が不思議だね。どうして、最後が『さねかずら』なんだろう?」
立花先生は難しい顔でしばらく考えてから、俺の顔を見直し手を叩いた。
「そうか、定家くん君だ! 君なんだ」
そう言って急に立ち上がり、真面目な顔で俺に告げる。
「この句の意味を聞きたいかい?」
立花先生のその言葉にしばらく俺は答えを出せなかった。
☆ ☆ ☆
彼からの連絡を受けた高子は迷っていた。彼に送られた絵はがきのメッセージ、たぶん、それは……。
高子はラインを見れないでいた。
分かっていた、高校時代からの親友なんだから。
気付いていた、定家くんを好きなのも。
そして、知っていた、終わりが近いことも。
とうとう、その日が来たんだね……忍。
【年明けの年賀に混ざる メッセージ 君の送りし偽ざる歌】
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