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第四話 ねむり姫
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松崎美里の中のもう一つの人格であるグリムは、美里の主人格が眠りについたのを確認してゆっくりと起き上がった。もう窮屈な拘束具は付けられていない。
辺りをゆっくりと見回す、この特別室の壁は白いクッションの様な素材で出来ている。暴れても大丈夫なようにだ。たぶん防火素材ででも出来ているのだろう。気密性も良く、音も漏れにくい作りだ。
鉄格子の窓越しに廊下をのぞくと、そこからでは外の景色も見えなかった。美里がこの先安心して生きられるのなら、もうグリムの出る幕はないだろう。消えてなくなる日も近いのかと、ふと、そんな事を思ってしまう。
思えば長かったのか、短かったのか。七年とちょっと、わたしグリムと言う人格が生まれて、そしてもうすぐ消える……美里の主人格がやっと独り立ちするのかと思うと、グリムは育ての親のような気持になった。
強化ガラスの窓がおのれの顔を映す。ひどく歪んで見えた。
「!」
背後にべっとりとこびりつくような視線を感じ振り向くと、そこには赤いランプのついた監視カメラがあった。
悪意以上のモノを感じ、グリムは無言でベッドに戻った。
「誰が、どうして?」その事を考え続けながら、グリムは意識を手放した。夜の闇が全てを包むように黒く染めていった。
☆ ☆ ☆
(ある日の警視庁交通総務課の休憩室)
「お~い、瞳。そろそろ戻って来てよ~」
心配気に同期の一人、細川佳子が肩を揺らした。「休憩そろそろ終わりだよ。さあ、笑顔、笑顔」
もう一人の同期の中山小雪も気を使ってくれている。
そんな仲間の気持ちを痛いほど分かってはいるのだが、どうにも気合が入らない山内瞳であった。
「受付の二人も言ってたよ。陣内とその子、凄く親密そうだったって。でもさあ、確定ではないんだから……わたし、直接聞いてみようか?」真面目な小雪が心配して言う。
「止めて。絶対ダメ!」本当に聞きそうなので焦って瞳は止めた。
「出血多量で死ぬから」
「瞳、血の気が多いから、少し抜いたほうが良いかもね」今度は佳子がふざけて言う。
「こら、佳子。今度の護身術、手を抜かないわよ!」
「わあ、助けてよ~。いじめよ、いじめ」
むっくと起きた瞳は休憩室の中で佳子を追い回した。
辺りをゆっくりと見回す、この特別室の壁は白いクッションの様な素材で出来ている。暴れても大丈夫なようにだ。たぶん防火素材ででも出来ているのだろう。気密性も良く、音も漏れにくい作りだ。
鉄格子の窓越しに廊下をのぞくと、そこからでは外の景色も見えなかった。美里がこの先安心して生きられるのなら、もうグリムの出る幕はないだろう。消えてなくなる日も近いのかと、ふと、そんな事を思ってしまう。
思えば長かったのか、短かったのか。七年とちょっと、わたしグリムと言う人格が生まれて、そしてもうすぐ消える……美里の主人格がやっと独り立ちするのかと思うと、グリムは育ての親のような気持になった。
強化ガラスの窓がおのれの顔を映す。ひどく歪んで見えた。
「!」
背後にべっとりとこびりつくような視線を感じ振り向くと、そこには赤いランプのついた監視カメラがあった。
悪意以上のモノを感じ、グリムは無言でベッドに戻った。
「誰が、どうして?」その事を考え続けながら、グリムは意識を手放した。夜の闇が全てを包むように黒く染めていった。
☆ ☆ ☆
(ある日の警視庁交通総務課の休憩室)
「お~い、瞳。そろそろ戻って来てよ~」
心配気に同期の一人、細川佳子が肩を揺らした。「休憩そろそろ終わりだよ。さあ、笑顔、笑顔」
もう一人の同期の中山小雪も気を使ってくれている。
そんな仲間の気持ちを痛いほど分かってはいるのだが、どうにも気合が入らない山内瞳であった。
「受付の二人も言ってたよ。陣内とその子、凄く親密そうだったって。でもさあ、確定ではないんだから……わたし、直接聞いてみようか?」真面目な小雪が心配して言う。
「止めて。絶対ダメ!」本当に聞きそうなので焦って瞳は止めた。
「出血多量で死ぬから」
「瞳、血の気が多いから、少し抜いたほうが良いかもね」今度は佳子がふざけて言う。
「こら、佳子。今度の護身術、手を抜かないわよ!」
「わあ、助けてよ~。いじめよ、いじめ」
むっくと起きた瞳は休憩室の中で佳子を追い回した。
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