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第四話 ねむり姫
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六階の特別病棟のガラス張りの処置室から時おり笑い声が聞こえて来る。穏やかな冬の午後、見ているこちらまで微笑んでしまいそうな光景がそこにはあった。
「現在、ほぼ主人格の松崎美里で生活しています。別人格のグリムは現れませんね」
「うん、良好だね。このまま人格の統合が出来れば、薬物療法の必要もなくなるな」
主治医の酒井英明と臨床心理士の吉野春奈は満足げにそう話した。
「ただ、まだ、ちょっとしたストレスに敏感になっていますので……」
「わかった。このまま経過を見てくれ」
「はい、わかりました」そう答えて、吉野はガラス越しに美里を見た。処置室にどこから持ち込んだのかテーブルと椅子を並べて、看護師と折り紙をしている。
どうやら不器用な看護師に折り鶴を教えているよだ。時々笑い声がもれてくる。
「このまま人格の統合が上手くいけば、次回の学会発表に間に合いそうだな。データの記録しっかりまとめておいてくれよ」酒井医師は嬉しそうに吉野の肩をポンとたたいた。
「きっと、注目の発表になりますよね」吉野も嬉しそうに答えた。
「吉野くん、後はよろしく頼む」
「先生はこれからクリニックの方ですか?」
「ああ、夕方の診察がある。まあ、系列だから仕方ないよ。君もだろう」
「はい、週二で夕方行ってます」
これから系列のクリニックでの診察のため酒井医師は病棟を後にした。
残った吉野はガラス越しにその人物を見て、そして満足げに微笑んだ。
☆ ☆ ☆
「恩に着るぜ、瞳。係長には俺の方から話し通しとくから、よろしく頼む」そう言って、捜査一課の石川が、交通総務課の事務室から上機嫌で出ていった。
入れ違いざまに佳子と小雪が事務室に入って来る。
「ねえ、瞳。石川さんどうしたの? 何か用だった」そこにいた瞳に尋ねた。
瞳は難しい顔をして頷いた「うん、そうなんだ……」二人は瞳の眉間の皺を見て、顔を見合わせた。
瞳は二人に石川から受けた警護の依頼をかいつまんで説明した。
「あの殺人鬼の警護か……特別室に入れられているんでしょう? 病院なら大丈夫なんじゃあないの」佳子は言った。
「うん、それが関係者が薬物で殺されているみたいでさ」
「病院関係者も疑ってるわけだ」小雪がうなずく。
「瞳、大丈夫?」佳子が心配そうに言った。
「ええ、一応、交代要員で頼まれただけだから……それに、陣内も石川さんと二人でもう一度、一から洗い直すって頑張ってるみたいだし……」
「健気だね~。陣内くんにはわたし達からアピールしておくから」佳子がガッツポーズを決めた。
「勘弁してよね! あんた達はホント、何もしなくて良いから。お願いよ」
悩んでいた瞳も少しは元気が出て来たようだった。
「現在、ほぼ主人格の松崎美里で生活しています。別人格のグリムは現れませんね」
「うん、良好だね。このまま人格の統合が出来れば、薬物療法の必要もなくなるな」
主治医の酒井英明と臨床心理士の吉野春奈は満足げにそう話した。
「ただ、まだ、ちょっとしたストレスに敏感になっていますので……」
「わかった。このまま経過を見てくれ」
「はい、わかりました」そう答えて、吉野はガラス越しに美里を見た。処置室にどこから持ち込んだのかテーブルと椅子を並べて、看護師と折り紙をしている。
どうやら不器用な看護師に折り鶴を教えているよだ。時々笑い声がもれてくる。
「このまま人格の統合が上手くいけば、次回の学会発表に間に合いそうだな。データの記録しっかりまとめておいてくれよ」酒井医師は嬉しそうに吉野の肩をポンとたたいた。
「きっと、注目の発表になりますよね」吉野も嬉しそうに答えた。
「吉野くん、後はよろしく頼む」
「先生はこれからクリニックの方ですか?」
「ああ、夕方の診察がある。まあ、系列だから仕方ないよ。君もだろう」
「はい、週二で夕方行ってます」
これから系列のクリニックでの診察のため酒井医師は病棟を後にした。
残った吉野はガラス越しにその人物を見て、そして満足げに微笑んだ。
☆ ☆ ☆
「恩に着るぜ、瞳。係長には俺の方から話し通しとくから、よろしく頼む」そう言って、捜査一課の石川が、交通総務課の事務室から上機嫌で出ていった。
入れ違いざまに佳子と小雪が事務室に入って来る。
「ねえ、瞳。石川さんどうしたの? 何か用だった」そこにいた瞳に尋ねた。
瞳は難しい顔をして頷いた「うん、そうなんだ……」二人は瞳の眉間の皺を見て、顔を見合わせた。
瞳は二人に石川から受けた警護の依頼をかいつまんで説明した。
「あの殺人鬼の警護か……特別室に入れられているんでしょう? 病院なら大丈夫なんじゃあないの」佳子は言った。
「うん、それが関係者が薬物で殺されているみたいでさ」
「病院関係者も疑ってるわけだ」小雪がうなずく。
「瞳、大丈夫?」佳子が心配そうに言った。
「ええ、一応、交代要員で頼まれただけだから……それに、陣内も石川さんと二人でもう一度、一から洗い直すって頑張ってるみたいだし……」
「健気だね~。陣内くんにはわたし達からアピールしておくから」佳子がガッツポーズを決めた。
「勘弁してよね! あんた達はホント、何もしなくて良いから。お願いよ」
悩んでいた瞳も少しは元気が出て来たようだった。
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