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第四話 ねむり姫
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福岡ヒナタはその日、午後からお休みを取って、紹介された病院でカウンセリングと検査を受ける事になっていた。不安なヒナタは保健室の中津川晶子先生に頼んで付き添ってもらうことにしたのだった。
「ゴメンね、晶子先生。付き合わせちゃって……」すまなそうにヒナタが言う。
「大丈夫よ。そもそもわたしが紹介したんだから責任をもって付き添いますよ」
気にせず晶子先生は予約を入れた郊外の病院に車を走らせる。
「ここまでバスで来るの大変だから、わたしが一緒で良かったでしょう」
「ありがとうね、先生」そう言って、ヒナタは助手席から降り立つ、そこは見上げるような六階建ての大きな病院だった。
受付などの込み入った手続きを晶子先生がしてくれている間、ヒナタはロビーの奥の喫茶室で待つことにした。
入口近くの窓際の席を陣取って、ヒナタはジュースのストローをくわえながら入ってくる人をただぼんやりと眺めていた。
しばらくして、晶子先生ではなくスーツ姿の女性が入ってきた。サンドイッチとコーヒーを注文してから席を探す。その女性と目が合ってヒナタはすぐにわかった。相手もわかったらしく、目を丸くしていた。
「こんにちは、こんな所で会うなんて驚いたわ」山内瞳はトレーを持ちながら近付いて来る。
「どうも……陣内さんの同期の方ですよね」戸惑いながらもヒナタは頭を下げた。
「……」
「……」
挨拶はしたが、どうしたらいいのか、瞳もヒナタも困ってしまった。
「とりあえず、ここの席座っても良い?」
「あ、はい。どうぞ」
瞳はヒナタの向かいに座った。
「交通総務課の山内瞳、あなたの言う通り陣内の同期よ」
その堂々とした態度に、ヒナタは社会人のオーラを感じてしまい緊張で声が固くなる。
「わたしは福岡ヒナタ、高校二年です……」そう言うので、いっぱいいっぱいだった。
そんなヒナタを見て、瞳はなるべく穏やかなトーンで話しかけた。
「今日はわたしはここでの仕事なの。応援って感じかな?」少しくだけた口調で笑って見せた。
「山内さん、おひとりなんですか?」陣内も一緒なのかと思いヒナタは聞いた。
「ええ、石川さんや陣内も時々顔を出すけど、基本は一人。あの二人は他にも色々と忙しいから……」そう言ってコーヒーに口をつけた。
「あなたはどうしてここに?」
瞳は他に話題もないので、とりあえずと言う軽い気持ちで聞いてみた。
「はい、カウンセリングと検査を受けに来ました。最近続けて悪い夢を見るんですよね……」
そう神妙な顔で話し出すヒナタに、瞳は不味い事を聞いてしまったと後悔したがもう遅かった。
「アイツには言ったの?」
「ええ、なるべく隠しておきたかったんですけど……」歯切れ悪くヒナタが口ごもる。
「何で、ちゃんと話しておかないと! アイツだって隠し事されたくはないわよ」
「でも……」
ついつい、瞳は強い口調になってしまった。不味かったと思いつつ、ヒナタの言葉をしばらく待った。
「わたし、陣内さんに頼ってばかりで……何の役にも立ってないですよね……忙しい彼に負担をかけてばっかり。そんなの、わたし嫌なんです」
真剣なヒナタの言葉が瞳には響いた。
自分の前にいる女子高生は真剣に陣内の事を思っていた。
「お互いに支え合っていきたいって事でしょ。あなたもアイツを支えたいって」
瞳の言葉に、ヒナタは「はい」っとハッキリうなずく。(この子なりに真剣なんだ……)
ああ、これは一本取られたと瞳は思った。
「でもね。無理しちゃダメだから……頼りたいときはちゃんと頼りなさい。今はその時なんじゃないの?」
そんな瞳の言葉にヒナタは泣きそうになっていた。瞳は慌てて話を違う方向に持って行くのに苦労したのだった。
それからしばらくすると、受付を済ませた晶子先生が来て、瞳は仕事で二人と別れ六階の特別病棟へと向かった。
瞳とヒナタ、今日この二人が再び会うことはないはずだったのだが……神の思し召しか、悪魔の仕業か……その答えはいずれわかることだろう。
「ゴメンね、晶子先生。付き合わせちゃって……」すまなそうにヒナタが言う。
「大丈夫よ。そもそもわたしが紹介したんだから責任をもって付き添いますよ」
気にせず晶子先生は予約を入れた郊外の病院に車を走らせる。
「ここまでバスで来るの大変だから、わたしが一緒で良かったでしょう」
「ありがとうね、先生」そう言って、ヒナタは助手席から降り立つ、そこは見上げるような六階建ての大きな病院だった。
受付などの込み入った手続きを晶子先生がしてくれている間、ヒナタはロビーの奥の喫茶室で待つことにした。
入口近くの窓際の席を陣取って、ヒナタはジュースのストローをくわえながら入ってくる人をただぼんやりと眺めていた。
しばらくして、晶子先生ではなくスーツ姿の女性が入ってきた。サンドイッチとコーヒーを注文してから席を探す。その女性と目が合ってヒナタはすぐにわかった。相手もわかったらしく、目を丸くしていた。
「こんにちは、こんな所で会うなんて驚いたわ」山内瞳はトレーを持ちながら近付いて来る。
「どうも……陣内さんの同期の方ですよね」戸惑いながらもヒナタは頭を下げた。
「……」
「……」
挨拶はしたが、どうしたらいいのか、瞳もヒナタも困ってしまった。
「とりあえず、ここの席座っても良い?」
「あ、はい。どうぞ」
瞳はヒナタの向かいに座った。
「交通総務課の山内瞳、あなたの言う通り陣内の同期よ」
その堂々とした態度に、ヒナタは社会人のオーラを感じてしまい緊張で声が固くなる。
「わたしは福岡ヒナタ、高校二年です……」そう言うので、いっぱいいっぱいだった。
そんなヒナタを見て、瞳はなるべく穏やかなトーンで話しかけた。
「今日はわたしはここでの仕事なの。応援って感じかな?」少しくだけた口調で笑って見せた。
「山内さん、おひとりなんですか?」陣内も一緒なのかと思いヒナタは聞いた。
「ええ、石川さんや陣内も時々顔を出すけど、基本は一人。あの二人は他にも色々と忙しいから……」そう言ってコーヒーに口をつけた。
「あなたはどうしてここに?」
瞳は他に話題もないので、とりあえずと言う軽い気持ちで聞いてみた。
「はい、カウンセリングと検査を受けに来ました。最近続けて悪い夢を見るんですよね……」
そう神妙な顔で話し出すヒナタに、瞳は不味い事を聞いてしまったと後悔したがもう遅かった。
「アイツには言ったの?」
「ええ、なるべく隠しておきたかったんですけど……」歯切れ悪くヒナタが口ごもる。
「何で、ちゃんと話しておかないと! アイツだって隠し事されたくはないわよ」
「でも……」
ついつい、瞳は強い口調になってしまった。不味かったと思いつつ、ヒナタの言葉をしばらく待った。
「わたし、陣内さんに頼ってばかりで……何の役にも立ってないですよね……忙しい彼に負担をかけてばっかり。そんなの、わたし嫌なんです」
真剣なヒナタの言葉が瞳には響いた。
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「お互いに支え合っていきたいって事でしょ。あなたもアイツを支えたいって」
瞳の言葉に、ヒナタは「はい」っとハッキリうなずく。(この子なりに真剣なんだ……)
ああ、これは一本取られたと瞳は思った。
「でもね。無理しちゃダメだから……頼りたいときはちゃんと頼りなさい。今はその時なんじゃないの?」
そんな瞳の言葉にヒナタは泣きそうになっていた。瞳は慌てて話を違う方向に持って行くのに苦労したのだった。
それからしばらくすると、受付を済ませた晶子先生が来て、瞳は仕事で二人と別れ六階の特別病棟へと向かった。
瞳とヒナタ、今日この二人が再び会うことはないはずだったのだが……神の思し召しか、悪魔の仕業か……その答えはいずれわかることだろう。
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