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第四話 ねむり姫
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病院の消灯時間は早い、次々に部屋の電気が消され、やがて非常灯の明かりだけの世界へと移る。
松崎美里は今日は何をした訳ではないのだが、疲れてすぐに夢の中へと誘われていった。
彼女の意識のスポットライトの中に、しばらくするともう一人の人格であるグリムが登場した。
グリムは考えた。白河菜々美だけでなく、他にも利用され誘導された人がいる。トラウマを抱えた人間の背中を押すことで復讐に導くことが出来たなら……自分は安全圏にいて、そんな復讐劇を面白がって眺めていたら……。
「最悪な人間だね……きっと、全知全能の神にでもなった気分なんだろうね。胸糞悪い」そう呟いて天井を見上げた。
ほの暗い天井を見つめながらグリムはさらに考えを進める。それらの事件の共通点はもうすでに石川たち刑事が洗っているだろう。何か違う観点でこれらの事件を見ることが出来たなら、違った答えが得られるのかもしれないと……。
復讐を後押しするために情報を流す。これらの情報は通常では漏れないたぐいの代物だ。じゃあ、その情報をどうやって手に入れた? ダークウェブで探す、学校関係者で情報を知る、病院の患者情報を手に入れる、警察の情報を流す……。
グリムはそれらをそれぞれに考えた。
とりあえずダークウェブと警察関係に関しては石川たち専門家に任せる方が賢明だ。
グリムに出来ること、それは学校関係者と病院関係者を疑うことだった。
学校関係者と病院関係者の名前をリストアップしようと考えていた時、ふと閃くことがあった。
「こいつは、自分のまいた種で結果がどうなるか面白がっているんだよな……」
どうなったかの結果を観察できる立場にいないと、その結果は見れない。それはつまり、犯人は観察できる立場にいるものだと言えなくはないか?
そうなると当然人物は絞られてくる。アイツとアイツ……いや、アイツでは無い。だったら残るのはアイツだけ……。
グリムは余った折り紙を広げ、そこに爪で文字を刻む、そしてそれをベッドと壁の間に隠すように挟んだ。それから、意識を美里に返し満足して眠りについた。次回の石川との会話を想像しながら……。
☆ ☆ ☆
朝のミーティングで松崎美里の人格の統合を午前におこなうことが決まった。午後の外来診察前に済ませてしまうと言うことだ。
すぐに看護師が点滴の準備を始め、臨床心理士の吉野も脳波測定の器具を特別室に持ち込んだ。 緊張気味の松崎美里に酒井医師は優しく説明をする。
「美里さん、本日はあなたのもう一つの人格であるグリムを眠らせるお薬を投与します。あなたはただ横になって寝ているだけで良いですからね」安心させるように酒井はそっと肩を叩いた。
「つぎに目覚める時にはもうあなたは松崎美里、一人になっているんですから」にこやかに吉野が言った。
「グリムは、どうなるんですか?」美里は不安げに聞くと。
「ええ、あなたの中で眠り続けるんです」満足げに酒井医師はそう言ってうなずいた。
点滴によって美里はすぐ眠りにつく。投与された薬によって別人格のグリムは長い長い眠りにつくのだろう。
誰かが、美里のベッドの隅の紙切れに気が付いた。昨夜グリムが残したものだ。それをそのまま握りつぶしてポケットの中に入れてしまった。
他の人たちは誰も気が付かなかったようだった。
こうしてねむり姫は百年の眠りについたのだった。
松崎美里は今日は何をした訳ではないのだが、疲れてすぐに夢の中へと誘われていった。
彼女の意識のスポットライトの中に、しばらくするともう一人の人格であるグリムが登場した。
グリムは考えた。白河菜々美だけでなく、他にも利用され誘導された人がいる。トラウマを抱えた人間の背中を押すことで復讐に導くことが出来たなら……自分は安全圏にいて、そんな復讐劇を面白がって眺めていたら……。
「最悪な人間だね……きっと、全知全能の神にでもなった気分なんだろうね。胸糞悪い」そう呟いて天井を見上げた。
ほの暗い天井を見つめながらグリムはさらに考えを進める。それらの事件の共通点はもうすでに石川たち刑事が洗っているだろう。何か違う観点でこれらの事件を見ることが出来たなら、違った答えが得られるのかもしれないと……。
復讐を後押しするために情報を流す。これらの情報は通常では漏れないたぐいの代物だ。じゃあ、その情報をどうやって手に入れた? ダークウェブで探す、学校関係者で情報を知る、病院の患者情報を手に入れる、警察の情報を流す……。
グリムはそれらをそれぞれに考えた。
とりあえずダークウェブと警察関係に関しては石川たち専門家に任せる方が賢明だ。
グリムに出来ること、それは学校関係者と病院関係者を疑うことだった。
学校関係者と病院関係者の名前をリストアップしようと考えていた時、ふと閃くことがあった。
「こいつは、自分のまいた種で結果がどうなるか面白がっているんだよな……」
どうなったかの結果を観察できる立場にいないと、その結果は見れない。それはつまり、犯人は観察できる立場にいるものだと言えなくはないか?
そうなると当然人物は絞られてくる。アイツとアイツ……いや、アイツでは無い。だったら残るのはアイツだけ……。
グリムは余った折り紙を広げ、そこに爪で文字を刻む、そしてそれをベッドと壁の間に隠すように挟んだ。それから、意識を美里に返し満足して眠りについた。次回の石川との会話を想像しながら……。
☆ ☆ ☆
朝のミーティングで松崎美里の人格の統合を午前におこなうことが決まった。午後の外来診察前に済ませてしまうと言うことだ。
すぐに看護師が点滴の準備を始め、臨床心理士の吉野も脳波測定の器具を特別室に持ち込んだ。 緊張気味の松崎美里に酒井医師は優しく説明をする。
「美里さん、本日はあなたのもう一つの人格であるグリムを眠らせるお薬を投与します。あなたはただ横になって寝ているだけで良いですからね」安心させるように酒井はそっと肩を叩いた。
「つぎに目覚める時にはもうあなたは松崎美里、一人になっているんですから」にこやかに吉野が言った。
「グリムは、どうなるんですか?」美里は不安げに聞くと。
「ええ、あなたの中で眠り続けるんです」満足げに酒井医師はそう言ってうなずいた。
点滴によって美里はすぐ眠りにつく。投与された薬によって別人格のグリムは長い長い眠りにつくのだろう。
誰かが、美里のベッドの隅の紙切れに気が付いた。昨夜グリムが残したものだ。それをそのまま握りつぶしてポケットの中に入れてしまった。
他の人たちは誰も気が付かなかったようだった。
こうしてねむり姫は百年の眠りについたのだった。
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