君の残したミステリ

ふるは ゆう

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第三話 わたしの中の世界 コハル(ポニテ)

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 同じ図書委員のアヤが死んだ。突然の事ではなかった。以前から入退院を繰り返していて、今回もちょっと検査に行くだけだからお見舞いは要らないと笑って行ったのだったが……もうその笑顔は二度と見ることはできない。  

 アヤとは去年の図書委員で初めて一緒になった。当番でペアになってから少しづつ話すようになったけど。自分の世界を作って、その中に閉じこもろうとするわたしと違って、アヤはもっと広い世界を持っていた。そして、その世界とわたしの世界とを行き来する。わたしとの境界線を自然に行き来できたんだ。この気持ちをなんて表現していいのか、今のわたしにはわからないけれど。アヤは図書室の中だけに閉じこもっていたわたしをもっと広い新しい世界に導いてくれた大切なヒロインだったのだ。
  そんなアヤのもとに一つ上の学年のヒロシさんが顔を出すようになった。バスケ部のエースの先輩とアヤ、わたしは上手くいって欲しいと思い、密かに応援をしていたのだけど……。でも、なぜかいつももう一人、女が混ざっている。それがナツミだった。
  ヒロシさんがせっかく会いに来ているのに、この女は……空気を読んで気を利かせろよっと。わたしはいつもイライラしながらカウンターの中から見ていた。

 アヤの葬儀に出席する、葬儀場のロビーでナツミを見かけた。話したくないので待合室では離れた席にわたしは座った。
「物語よりももっとワクワクすることがたくさんあるんだから、コハルもすぐにわかるよ。だってあの扉は開いているのだから!」図書室のドアを指さし、大げさな手振りでアヤはわたしに微笑んだんだ。そのアヤのお葬式なんて、わたしの気持ちはまだ追いつけないでいた。
 待合室で席に座ると、向かいに知らない制服のチャパツの男子が座っていた。その隣にヒロシさんが座っていたので、軽くお辞儀をしておいた。棺の中に折り鶴を入れると説明を受け、各自おのおの好きな色の折り紙を選び無言で折りだす。以前、わたしは千羽鶴をクラスで作ることがあったせいか、意外と指が覚えていた。
  ヒロシさんは白い鶴を器用に折っている。あれ、そんな色の折り紙あったかな? そんなことを思いながら折っていると、前の席のチャパツからいら立ち混じりの舌打ちがもれてきた。
 視線を上げたわたしとそのチャパツは、一瞬視線をあわせたけれど、すぐにそらされてしまった。彼の手の中の折り鶴はツルとは明らかに違う動物になろうとしていた。
  仕方なく、わたしは彼に声をかけた。
「ねえ、手伝おうか?」この時、なんでこんなに気易く声がかけられたのだろう。今でも不思議だ。きっと、アヤがわたしの閉まっていた扉を開けてくれたのかもしれない。
 最初は警戒していたチャパツくんだったが、意外と真面目にわたしの教えたとおりに鶴を折りだした。
「あいつだけだったんだ、俺をきちんと見ててくれたのは……」そんなことをつぶやいていた。意外とシャイで真面目な奴なのかもしれないと思ったのだが、それでもわたしの理解から外れることもあった。
「ねえ、なんでこの色なの?」彼の折ったツルを指さしわたしが尋ねると……。
「やっぱ、こういう時はめだってなんぼだろう」そう言って、自慢げに金ぴかの折り鶴をわたしに見せびらかしたのだ。わたしは呆れてモノが言えなかったが、それが彼らしいアヤへのはなむけだったのかもしれない。
 ただ、現実的にはその金ぴかツルは葬儀場の人にはじかれてしまった。金銀の光物はダメだそうだ。はじかれたツルはわたしが密かに係りの人からもらった。レン(チャパツ)は探していたけど、わたしは黙って持ち帰った。家に帰りそのツルは今、わたしの机の上に置いてある。秘密だ、アイツの驚いた顔を想像してひとりにやけてしまう。ラインは交換したので、今度驚かせてやりたい。
 わたしの世界が小さな図書室から、少しづつ広い外の世界に広がっていく気がする。あの時、アヤが指さしてくれた扉の外に確実に足を踏み出した気がした。

 やっぱりアヤはわたしにとってのヒロインそのものだったんだ。
  
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