ユイユメ国ゆめがたり【完結】

第４話 月を編む

２ 占星術の陣

　ゆいりは魔術師のローブに身を包つつみ、長い黒髪くろかみをなびかせながら、国王と月の職人の男の近くにやってきた。

「なんなりとご用命ようめいを、あめかみ様」

「そなたは占星術せんせいじゅつも得意であったな。月の加護かごがやどった生まれの者が、うちの王家にいるかどうか、調べることはできるか？」

「そうですね、見てみましょう……、職人のお方かた、少し下がっていただけますか、玉座の前に星図せいずが埋うめこまれているもので」

　ゆいりに言われて、月の職人がはっとしたように床の紋様もんようを見て、わきに下がる。
　玉座の前の床には、魔法陣まほうじんのように、正十二角形と二重の円が彫ほりこまれていた。

　ゆいりがなにごとかを唱えると、その紋様の上に、透明とうめいなドームのような膜まくが広がっていった。そして、床の十二角形の中には、色とりどりのガラス玉のようなものがいくつも現あらわれて散ちらばった。

「これはいったい……」

　ゆいりは月の職人ににっこりと微笑みかけると、ドームの上に手をかざした。

「これは王国の星図。十二の星座と、惑星わくせい、太陽、月が巡めぐる様子をあらわしています」

　月の職人は目を丸くして、ゆいりと目の前のものを見比くらべた。
　国王はおもしろそうに笑って、「何度見てもいいものだな」と言った。

　ゆいりがドームの上で、空気をかきまぜるように手を動かすと、床の上のガラス玉のような球きゅうたちが動きはじめた。棒ぼうで突つかれたように、あるいは見えない円の軌道きどうに乗るように、球たちは星図の上を動いてゆく。

　ゆいりはなおも手を動かしていたが、やがてはっとしてその手を止めた。
　球たちの動きも止まり、ひとつの配置はいちに落ち着いた。

「これは……」
「誰か、ふさわしい者が見つかったかな」

　国王の問いかけに、ゆいりはうなずいた。

「この星図にあらわされたのは、とある方が生まれたときの天体の配置です。月の加護かごを強く受けているのがわかります」
「そ、それはどなたなのです？」

　月の職人が、興奮こうふんを隠かくしきれないように尋たずねる。
　ゆいりは静かに告つげた。

「その者とは……王子るりなみ様です」


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