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第4話 月を編む

1 玉座の間

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 ユイユメ王国の空には、ひとつの月が、満ち欠けをくりかえしてめぐっています。
 昼間は、海辺の砂のように白くあわく。夜は、蜂蜜はちみつのような色でかがやいて。
 その月が、どういうわけで満ち欠けをしているのか、知る者は多くありません。

 十歳になる王子るりなみは、そんな月のふしぎな秘密にれることになるのです──。

   *   *   *

 ユイユメ王国の王宮、国王の玉座ぎょくざ
 入り口の近くには何人もの臣下しんかが並び、奥の玉座には国王が座っている。

 玉座の周りには、星々をかたどったあかりがるされていて、国王もまた、星々のかざりのついた王冠おうかんを頭にかぶっている。

 そして、ひとりの男が、国王の前でかしこまっていた。

「それでそなたは、月を作れなくなってしまったともうすのだな」

 若い国王「あめかみ」は男に同情するように、まゆせながらそう言った。

 男はなにかの職人しょくにんのような身なりで、右腕に包帯ほうたいをまいてかたからっていた。

 この怪我けがのせいで仕事ができなくなった、と男は国王にうったえていた。
 その仕事というのが……。

「そもそも、わたくしどもが夜空の月を作っているということは、一般いっぱんの人々には厳重げんじゅうに秘密にされておりまして」

「ああ、私も〝月の職人〟にこうして会うのははじめてだよ」

 おそれいります、と月の職人の男はれいをして、困り顔になって訴えた。

「月は、新月の次の日から毎日、決まった時刻じこくに作るものなのです。次の新月までの月は、作りためておいたものがあります。ですが、わたくしが新しく月を作れなくなってしまって……放っておけば、次の新月より先、空から月がなくなってしまいます」

「月がなくなる……それはおおごとだ」

 国王はそうあいづちを打ってから、問いかけた。

「だがわざわざ王宮をたずねてきたというのは、なにかわけがあるのだろう?」

 月の職人はしばらくまよったあと、決心したように国王を見つめた。

「大変あつかましいおねがいかとは思うのですが……、王家のかたの中に、しばらくの間、わたくしの代わりに、月を作ることのできる方がいらっしゃらないかと思いまして」
「ほう」

 国王は興味きょうみをひかれたように玉座にすわり直した。
 月の職人はつづける。

「さかのぼれば、月を作る仕事は、もともと王家の方の得意とくいとするところであったと言われております。誰でもできる仕事ではないのです。月の加護かごがやどった生まれの者でなくては。ですが王家の一族には、そういう方がお生まれになることがあると聞きます」
「なるほど、おもしろい」

 国王は愉快ゆかいそうに微笑ほほえみ、入り口近くの臣下たちの中から、ひとりの宮廷きゅうてい魔術師まじゅつしを呼び寄せた。

 王子るりなみの教育係でもある青年、ゆいりである。
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