上 下
43 / 126
[番外編] 第7話 虹の王冠

4 七色の精霊

しおりを挟む

 ゆいりは「少し、いいですか」と言いながら、指先ゆびさきをくるりとさせて、じょうろの口を指さした。

 じょうろの中に、こぽこぽと音を立てながら、水がたされていく──ゆいりが心の中で思いえがいて、口には出さずに呪文じゅもんとなえたとおりに。

 るりなみが「わぁ」と声をあげるうちに、はちえの草花にも、ゆいりは魔法をかけた。
 植物たちはぱっとはじけるように、花びらや葉をいっぱいに広げ、もっともっとと水を待つ状態じょうたいになった。

 それから、ゆいりは助言じょげんをする。

「水をまくときに、心で思い描いてください。夢で見たように、にじがかかるところを。それを、見えている目の前の世界に、胸をし出すようにして『うつし出す』のです」
「胸で……映し出す?」
「胸の奥にく力で、そっと、心の光景こうけいし出すようにするのですよ」

 るりなみは「やってみる」と言って、じょうろを両手でにぎりなおし、胸の前にかまえた。胸の奥の光景こうけいをたしかめているのが、ゆいりにも見て取れる。

 それからゆっくりと、じょうろの水をまきはじめた。

「わぁ!」

 るりなみの小さな庭いっぱいに、じょうろからる水の雨と遊ぶようにして、いくつもの虹がかかっていった。

 そのぶりな七色のの周りに、そよ風に乗ってきたものが──心を持つものが、すっとけ込むように宿やどったのが、ゆいりにはわかった。

 心を持つものを宿したとたん、虹の輪はわっと広がって、きゅうのようにきらめいた。それは一瞬いっしゅんのことだったが、るりなみにもしっかりと見えたようだった。

 虹の精霊せいれいが、そこにいる。

 遊びおど姿すがたこそ見えないが、よろこんでいるのがつたわわってくる。

 水の雨をらしきったあとも、小さな虹たちはその場に残ってかがやいていた。

 るりなみはそれをじっと見つめている。
 精霊の声に、耳をましているようでもあった。

 その姿を見ながらゆいりは、心のしんがあたたかくなるのを味わっていた。


   *   *   *
しおりを挟む

処理中です...