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[第2部] 第8話 夜めぐりの祭り

3 奥の宮の王

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 授業をしているここは、北のとう
 るりなみの寝室しんしつは、東西南北とうざいなんぼくの塔のん中にある、ガラスの塔にある。

 南の塔には、るりなみはあまり行ったことがない。

 南の塔は、ろうそくのような形の東西南北の塔の中でも、ひときわれいなつくりで、がいのような形にも見える。
 そしてさらに南にそびえる、おくの塔へつづいていた。

 その奥の塔には、るりなみのおじいさんにあたる、まえ国王こくおうが住んでいるはずだった。
 しかしその前王ぜんおうは、病気でふせっていて、奥の塔に入れるものかぎられていた。

 南の塔は、その奥の塔に出入でいりする者が住まう塔だ。

「おじいさん……」

 るりなみはぽつりとつぶやく。

 病気でおう引退いんたいしたという祖父そふには、しきのときにしか会ったことがない。それも何年か前のことだ。顔も、なんとなくしか思い出せない。

 王族おうぞく親戚しんせきのなかには、地方のきゅうらしている人も多い。

 この王宮にいて会うことのできる、るりなみの家族は、国王である父だけだ。

「そういうものだから、受け入れなさい」と国王の父から、言い聞かされたことがある。
 ふつうの家族の暮らし方とはちがうけれど、それがおまえの生まれたところなのだから、と。

 るりなみは、心の中でそんなことを思い返して、ゆいりにおずおずと問いかけた。

「その……だれに、とどけるの?」
わたくしからはおつたえしないように、と言われていまして。でも、大丈夫だいじょうぶです」

 ゆいりがやさしく向けてくれるひとみは、とっておきの秘密ひみつ宿やどされているかのように、きらめいていた。

てきな方が、離宮からお戻りになられて、るりなみ様をっていますよ」
「えっ」

 るりなみが声をあげると、どうぞ、とゆいりがあらためて灯籠とうろうし出した。

 受け取ってみると、かららん、と音がして、中からぱっと光が飛び出し、「2-6」という数字をえがいて消えた。

 あっけにとられるるりなみに、魔法のいたずらをしかけたぬしであるらしいゆいりが、「二階の六の部屋まで、お願いしますね」と笑いかけた。


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