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[第2部] 第8話 夜めぐりの祭り

7 隠された道

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 年明けをつ、一年でいちばん夜の長いばん
 みやこのすべての家々いえいえが、家のから灯籠とうろうをさげておきます。
 月の化身けしん、星の化身とされる二人組の子どもたちが、魔法まほうつえをもち、
 歌いながら灯籠をたたいて、あかりをともしながら、街をめぐっていくのです──。

   *   *   *

 ゆいりからお祭りのことをあらためて教えてもらい、実際じっさいにはどんなふうだろう、と想像そうぞうしてごすうちに、年はれていき……あっというまに一年の最後の日は、るりなみのもとにやってきた。

 年の暮れ。王宮おうきゅうの中は、あわただしかった。

 大臣だいじんから料理りょうりがかり掃除そうじにいたるまで、今年をきちんと終えて、新しい年をむかえるための仕事に追われていた。

 宮廷魔術師きゅうていまじゅつしであるゆいりも、ほか役職やくしょくを持つ先生たちも、年末ねんまつの何日かは、特別とくべつな仕事にいそがしい。
 るりなみの授業じゅぎょうは休みになって、宿題しゅくだいだけがどっさりと出た。

 そして最後の日には、教育係のゆいりだけでなく、るりなみの一番の世話せわがかりの「みつみ」までが、とししの仕事に追われて、るりなみをったらかしにしてしまった。

 ……本来ほんらいならば、こんな大切な一年のしめくくりの日に、こんなさびしい思いをするなんて、と泣きたくなったかもしれない。

 しかし、この日、冒険ぼうけんに出る身としては、なにかの魔法がはたらいて、みんながるりなみから目をそらしてしまったかと感じられた。

 ふしぎなおどろきに、るりなみはふるえた。

   *   *   *

 あたりがうすぐらくなりはじめたころ、るりなみはあたたかい上着うわぎこんで、屋上庭園おくじょうていえんにおもむいた。

 南のとうつづ出口でぐちとびらの近くへ、そっと歩いていく。

 そこには、ひとりの少年が立っているように見えた。
 だれだろう、と様子ようすをうかがいながら近づいて、るりなみはびっくりした。

「やぁ」

 軽い声とともに手をあげて笑いかけてきたのは、待ち合わせていた、ゆめづきだった。

 ゆめづきはさくらいろかみをすべて、きのこがた帽子ぼうしにしまいこみ、あたりの薄闇うすやみにまぎれてしまうようなはいちゃいろ地味じみな服を着ていた。
 まるで、郵便ゆうびん新聞しんぶんくばる少年のようないでたちだった。

「すごい変装へんそうだね……! そんな服も持っていたの」

 るりなみが素直すなおおどろきをつたえると、ゆめづきは街の路地ろじうらの少年のように、てきに笑ってみせた。

一生いっしょうに一度の機会きかいねらってきたんですよ。離宮りきゅうから、必要ひつようなものは持ってくるに決まっているじゃない……そして、この王宮の調査ちょうさもぬかりないですよ、兄様にいさま

 ゆめづきは扉のうらにまわりこみ、ちょいちょい、とまねきをした。

「庭園の上では、ここだけが、実は排水口はいすいこうではなくて……」

 るりなみが追ってのぞきこむと、ゆめづきは排水口の格子こうしのようにゆかにはめられている金属きんぞくのふたに手をかけた。

 ぐっと力を使って、声ひとつあげずにそれを持ちあげて、わきにずらす。

 その下には、階段かいだんつづいていた。

みつつう……!」

 るりなみが感動かんどうの声をあげると、ゆめづきは肩をすくめた。

「兄様ったら、ずうっとこのおしろに住んでたんでしょう? どうしてもっと探検たんけんしてみなかったんです?」
「秘密の通路って、どうやって探すの? 魔法とか……?」

 ゆめづきは「もう!」と笑い出しかけ、はっとして声を落とした。

しょしつ調しらべるに決まっています。でも、実のところは、聞き込みでわかったんです」

 さぁ、行きましょう、と階段をりていくゆめづきは、しっかりと小さなあかりを手にしていた。

「君は、冒険家ぼうけんかとか、探索者たんさくしゃになれそうだね」

 るりなみが心から関心かんしんしてそう言うと、ゆめづきはさっとり向いた。

「そんな運命うんめいも、あったらよかったんですけどね」

 さびしそうな顔だった。
 だがすぐに、ゆめづきは顔を前にもどしてしまう。

 その心の中には、なにがあるのか……僕にはなにもわからない、とるりなみは少し気を落とし、なぜだかもうわけなさも感じた。

 それでも、とししのばんに、王宮を秘密の通路からけ出す、という冒険は、すぐにるりなみの心をわくわくとさせ、目の前に続く道に夢中むちゅうにさせていった。

 二人は、言葉はあまりわさないながら、どきどきと階段や通路をとおっていった。


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