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[第2部] 第8話 夜めぐりの祭り

13 王女の宝物

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 とおりの最後の家で、るりなみとゆめづきはいっしょに灯籠とうろうたたいた。
 二人のかげもそれにかさなって、いっしょにあかりをともしたようだった。

 二人と二人の影、合わせて四人で、笑い合えたような気がしたあと……、二つのつえさきじるしの光はくるりと反転はんてんして、帰り道をしめした。

 もと来たほうへ帰り道を歩きながら、ゆめづきは自分やまわりの影に目をやって、るりなみにかたりかけた。

「私、影ややみから目をそらしたり、ゆうもなく遠ざけたりしない、って心に決めていたのに、本当に影の世界をかいま見たら、立ちすくんでしまった……けれど、影のみんなの心も、私と同じようなんだ、ってわかりました」

 るりなみは「うん」とうなずいた。

「僕も、はじめて影さんに会ったときはこわかったけど……生まれたときからずっと、僕の足もとで、いっしょに歩いてきてくれたのだもの」

 足をとんとんとして、るりなみは影が同じように動いてくれるのをたしかめた。

「友達になれて、よかったなぁ、って」
「はぁ、本当に……兄様といると、びっくりすることばかりです」

 ゆめづきがぞらを見あげながらそう言った。

 紺色こんいろの空に、星々ほしぼしがまたたいている。

 夜空のもとに、るりなみたちがともした光がおどっている。
 その光景こうけいの中を歩く王女ゆめづきは、とてもりた表情ひょうじょうをしていた。

 ゆめづきは、一生いっしょうに一度でいい、おまつりをめぐりたい、という夢をかなえたのだった。

「ぼ、僕のほうこそ……ゆめづきはすごいなっておどろいてばかりだよ」

 るりなみが返すと、ゆめづきはふふ、と笑った。

「そうかな。じゃあ、兄様が影と友達なんだ、っていうみつを知ったから、私も内緒ないしょのものを見せてあげます」

 ゆめづきは立ち止まり、首からさげて服の中にしまいこんでいた、なにか丸いものを取り出した。

 それは、金銀きんぎんさいでつくられた……しんばんに見えた。

 盤面ばんめんの上は、ガラスのドームのようになっていて、そのはんきゅうの中に、はりがゆらゆらといてれていた。ほうしめす針に見えるが、盤面には、方角ほうがくだけでなく時間をあらわすような数字もえがかれている。

 そしてばん側面そくめんには、大きめのねじがついていた。

「ただの羅針盤じゃないね……?」

 るりなみがしげしげとながめながらたずねると、ゆめづきはうなずいた。

「そうです、羅針盤とも言えますけど、これはかいちゅう時計どけいです」
「えっ、じゃあ、時間をはかっているの?」

 盤面の上に浮かぶ針は、ゆらゆら揺れて、あっちをしていたかと思うと、くるりとべつの方角に向き、またもとに戻ったりしている。

「時間……というよりは、くうをはかるのだと思います」
「時空?」
「私もまだ、よく知らないのです。もらったばかりの物なので……でも、私の幸運こううんのおまもりであり、秘密のたからものなんです」

 ゆめづきははにかみながら、その宝物の時計を大切そうに、また服の中にしまった。

 るりなみは、最後に聞いた「時空をはかる」という言葉を、ふしぎに思った。

 だが二人は、それ以上いじょうその話はせずに、帰り道についた。

 杖を返すテントに近づくにつれ、戻ってくる他の子どもたちの歌声うたごえがいっぱいこえてきた。二人もまた、歌い出した。
 行きがけよりも少しだけ、静かでしんみりとしたとししの夜の歌を。


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