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第一章
第27話
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とりあえず、原動くんには通話の魔具で聞いたことを伝えておいた。これで安心だ。さて、原動くんとマコトさんは一緒に依頼に行ってしまったし、お金も武器に使ったせいでそんなにあるわけじゃないから、宿をとってから生産世界に戻って実験と話し合いでもすることにしよう。
受付さんに聞いておいたおすすめの宿に向かう。怨霊の贄亭という名前の宿だ。正直誰が名前をつけた宿なのか聞いてみたいところである。名前のわりにお値段も手ごろでご飯もおいしいと評判の宿らしい。正直、生産世界があるので宿はいいかな、と思っていたんだけど何か問題があった時に野宿をしていた何て話すのも嫌だし、世間体を気にするような感じで宿をとることにした。そうしたら都合のいいことにこの宿は防犯なんかに関しても最高クラスの宿らしい。防犯の一点だけで一躍有名になった、とかなんとか。
道中面白い店を何件か見つけたが、お金がかかりそうだったので後回しにすることにした。そんな風に見て回りながら歩いていると、夕方にギルドにいたはずなのに真っ暗になっていた。確か聞いた話だとこの辺りだったと辺りを見回すと、なんていうか落ち着いた雰囲気のいい感じの外観の宿におどろおどろしい文字で「怨霊の贄」と書かれている看板がぶら下がっている。
ドアを開いて驚いた。目の前にある壁の一辺が壁画になっているのである。見る者に恐れを抱かせるような怪物が顔と身体を掻き毟っている絵だ。立ち止まってまじまじと見つめてしまう。
「いらっしゃい。初めてのお客さんですね。こちらへどうぞ」
カウンターの人に声をかけられた。駆け足でカウンターに向かう。
「やっぱり、初めての人はみんなアレを見て立ち止まるんですか?」
「そうですね。宿屋かどうか確認して恐る恐る中に入る人や、驚いて武器を取り出す人もいます。大体先程のあなたと同じ感じですね」
そりゃあ、あんなにでっかい絵が急にあったら驚くだろう。どうして、あんなのが描かれているのだろうか。
「あら、知らない人でしたの。ということはおそらく、ここの大陸の出身じゃないんですね。一応教えておきます。この無しを知らないことで悪鬼に食われるなんてことがあれば悲しいですから」
そうして、店員さんは話し始めた。
昔、大昔のことです。この大陸上が一つの国で統一されていた頃のお話です。その国の初代から2代目の王がいる時代は治世としてよく知られています。二人の王様は著名な魔法使いであったこともよく知られており、寿命を長くし、約1000年もの間、その治世は続いたそうです。
しかし、3代目に王位が渡ってから、その国は変わり果ててしまいました。3代目もまた、魔法使いとしての腕はよく知られていますが、その全ては悪名でした。人を人とも思わない所業。拷問された跡の残る亜人種の残虐な遺体。魔法で嬲り殺しにされる死刑囚。
ある者は嘆き、ある者は狂い、ある者は怒り、ある者は苦しみ、ある者は正義を掲げました。そして、彼らと同じく立ち上がるものが多くいました。
その全ての者が、正しき光の心を胸に宿し、邪なる王に立ち向かいましたが、その力に屈してしまいます。
その者達の心は砕かれましたが、立ち上がれなくなることを強く拒みました。そして、その強い拒絶と憎しみの心に彼らの持つ『スキル』が呼応したのです。彼らの持つスキルにはある特徴がありました。魂に呼応し変化するスキル。創造性が高く、従来のスキルを上回るそれらは、後に『ユニークスキル』と呼ばれていきますが、昔の彼ら程の力を有するスキルは未だ発見されていません。
そして、彼らのスキルが呼応した結果、彼らは鬼となりました。比喩でもなく彼らの種族が鬼へと変化したのです。現代の鬼族のなかで伝説となっている、力を持つ悪鬼へと。
彼らはその力で感情の限りを尽くして、邪なる王を討ち果たしました。そして、今後それらの王が生まれたとき、救う力として自らを封印し、その近くにいくつもの国を作りました。
国の数よりも多くの悪鬼がいます。けれど、それらを主導した鬼は嘆きと狂いと怒りと苦しみと正義だけです。
今も彼らは封じられています。世界を救う悪として。彼らは敬われ、呪われ、嫌われています。もうあの平和な国が戻ることはありません。
時折、その悪い鬼達の声が聞こえるのです。
「足りない…何故…」
この言葉の真意はわかりません。
「…という、お話です。そして、あの絵に描かれた彼は悪鬼の一人、嘆きの悪鬼。悪鬼の中でも最も人に慕われている鬼。名前はスメシ。原初の悪鬼の一人です」
「へぇ…初めて聞いたよ。悪鬼ってのは聞いたことはあったけどね。そもそもなんで悪鬼って呼ばれてるの? 別に悪いことした訳じゃないんでしょ?」
「色んな説はありますが、一番の理由は種族名が悪鬼に変わっていたこと。つまり、人間でなくなったことですね」
「それ、正しい情報なの?」
「ええ。原初の悪鬼ではないですが、暴露の悪鬼が顕示の悪鬼にインタビューしながら自分の変化を公にした本を売り出しましたから。原初の悪鬼は少し異なるところもあるかもしれませんが、信頼性は高いようです。なにせ、顕示の悪鬼は多くの民が直接会話したことがありますから」
「顕示って、目立ちたがりってこと? それで悪鬼になるのもいるの?」
「詳しくは分からないですけれどそうですね。目立ちたがりが過剰すぎて国を滅ぼすこともあったので、危険な人として言われていたりしますが、それを除けばいい人なんですよ」
「いい人…ね」
「いい人、です」
種族が変わったからといって、人以外として扱うのは止めろってことかな。ま、同じようなもんになったし、そんなことはしないけどさ。
後で一応、ステータスを確認しよう。スキルが変わってから見ていなかったから。
「じゃあ、今日から当分ここでお世話になるよ。これで足りるかな?」
「そうですね…これなら半年は泊まれますよ。お食事付きで?」
「うん。よろしくお願いするよ」
「はい。それではこちらに名前を書いていただいて…ありがとうございます、オーマさんですね。2階の一番奥の部屋になります。それではごゆっくり」
鍵を受け取った。そのまま部屋まで進む。なかなか広くて綺麗な部屋だ。収納具まで揃っている宿屋は珍しいらしい。僕には必要ないけど。
ベッドに寝転がる。そういえば、冒険者カードの更新をしていなかった。機能追加の恩恵がどんなものかはまだ聞いていない。時間は深夜といったところだが、もちろんギルドは開いているだろう。
今から行っても良いけど、ちょっと寝たいかな。寝る必要はないから、気分的なものではあるけど。ま、明日でも良いよね。
それじゃ、おやすみなさ~い。
受付さんに聞いておいたおすすめの宿に向かう。怨霊の贄亭という名前の宿だ。正直誰が名前をつけた宿なのか聞いてみたいところである。名前のわりにお値段も手ごろでご飯もおいしいと評判の宿らしい。正直、生産世界があるので宿はいいかな、と思っていたんだけど何か問題があった時に野宿をしていた何て話すのも嫌だし、世間体を気にするような感じで宿をとることにした。そうしたら都合のいいことにこの宿は防犯なんかに関しても最高クラスの宿らしい。防犯の一点だけで一躍有名になった、とかなんとか。
道中面白い店を何件か見つけたが、お金がかかりそうだったので後回しにすることにした。そんな風に見て回りながら歩いていると、夕方にギルドにいたはずなのに真っ暗になっていた。確か聞いた話だとこの辺りだったと辺りを見回すと、なんていうか落ち着いた雰囲気のいい感じの外観の宿におどろおどろしい文字で「怨霊の贄」と書かれている看板がぶら下がっている。
ドアを開いて驚いた。目の前にある壁の一辺が壁画になっているのである。見る者に恐れを抱かせるような怪物が顔と身体を掻き毟っている絵だ。立ち止まってまじまじと見つめてしまう。
「いらっしゃい。初めてのお客さんですね。こちらへどうぞ」
カウンターの人に声をかけられた。駆け足でカウンターに向かう。
「やっぱり、初めての人はみんなアレを見て立ち止まるんですか?」
「そうですね。宿屋かどうか確認して恐る恐る中に入る人や、驚いて武器を取り出す人もいます。大体先程のあなたと同じ感じですね」
そりゃあ、あんなにでっかい絵が急にあったら驚くだろう。どうして、あんなのが描かれているのだろうか。
「あら、知らない人でしたの。ということはおそらく、ここの大陸の出身じゃないんですね。一応教えておきます。この無しを知らないことで悪鬼に食われるなんてことがあれば悲しいですから」
そうして、店員さんは話し始めた。
昔、大昔のことです。この大陸上が一つの国で統一されていた頃のお話です。その国の初代から2代目の王がいる時代は治世としてよく知られています。二人の王様は著名な魔法使いであったこともよく知られており、寿命を長くし、約1000年もの間、その治世は続いたそうです。
しかし、3代目に王位が渡ってから、その国は変わり果ててしまいました。3代目もまた、魔法使いとしての腕はよく知られていますが、その全ては悪名でした。人を人とも思わない所業。拷問された跡の残る亜人種の残虐な遺体。魔法で嬲り殺しにされる死刑囚。
ある者は嘆き、ある者は狂い、ある者は怒り、ある者は苦しみ、ある者は正義を掲げました。そして、彼らと同じく立ち上がるものが多くいました。
その全ての者が、正しき光の心を胸に宿し、邪なる王に立ち向かいましたが、その力に屈してしまいます。
その者達の心は砕かれましたが、立ち上がれなくなることを強く拒みました。そして、その強い拒絶と憎しみの心に彼らの持つ『スキル』が呼応したのです。彼らの持つスキルにはある特徴がありました。魂に呼応し変化するスキル。創造性が高く、従来のスキルを上回るそれらは、後に『ユニークスキル』と呼ばれていきますが、昔の彼ら程の力を有するスキルは未だ発見されていません。
そして、彼らのスキルが呼応した結果、彼らは鬼となりました。比喩でもなく彼らの種族が鬼へと変化したのです。現代の鬼族のなかで伝説となっている、力を持つ悪鬼へと。
彼らはその力で感情の限りを尽くして、邪なる王を討ち果たしました。そして、今後それらの王が生まれたとき、救う力として自らを封印し、その近くにいくつもの国を作りました。
国の数よりも多くの悪鬼がいます。けれど、それらを主導した鬼は嘆きと狂いと怒りと苦しみと正義だけです。
今も彼らは封じられています。世界を救う悪として。彼らは敬われ、呪われ、嫌われています。もうあの平和な国が戻ることはありません。
時折、その悪い鬼達の声が聞こえるのです。
「足りない…何故…」
この言葉の真意はわかりません。
「…という、お話です。そして、あの絵に描かれた彼は悪鬼の一人、嘆きの悪鬼。悪鬼の中でも最も人に慕われている鬼。名前はスメシ。原初の悪鬼の一人です」
「へぇ…初めて聞いたよ。悪鬼ってのは聞いたことはあったけどね。そもそもなんで悪鬼って呼ばれてるの? 別に悪いことした訳じゃないんでしょ?」
「色んな説はありますが、一番の理由は種族名が悪鬼に変わっていたこと。つまり、人間でなくなったことですね」
「それ、正しい情報なの?」
「ええ。原初の悪鬼ではないですが、暴露の悪鬼が顕示の悪鬼にインタビューしながら自分の変化を公にした本を売り出しましたから。原初の悪鬼は少し異なるところもあるかもしれませんが、信頼性は高いようです。なにせ、顕示の悪鬼は多くの民が直接会話したことがありますから」
「顕示って、目立ちたがりってこと? それで悪鬼になるのもいるの?」
「詳しくは分からないですけれどそうですね。目立ちたがりが過剰すぎて国を滅ぼすこともあったので、危険な人として言われていたりしますが、それを除けばいい人なんですよ」
「いい人…ね」
「いい人、です」
種族が変わったからといって、人以外として扱うのは止めろってことかな。ま、同じようなもんになったし、そんなことはしないけどさ。
後で一応、ステータスを確認しよう。スキルが変わってから見ていなかったから。
「じゃあ、今日から当分ここでお世話になるよ。これで足りるかな?」
「そうですね…これなら半年は泊まれますよ。お食事付きで?」
「うん。よろしくお願いするよ」
「はい。それではこちらに名前を書いていただいて…ありがとうございます、オーマさんですね。2階の一番奥の部屋になります。それではごゆっくり」
鍵を受け取った。そのまま部屋まで進む。なかなか広くて綺麗な部屋だ。収納具まで揃っている宿屋は珍しいらしい。僕には必要ないけど。
ベッドに寝転がる。そういえば、冒険者カードの更新をしていなかった。機能追加の恩恵がどんなものかはまだ聞いていない。時間は深夜といったところだが、もちろんギルドは開いているだろう。
今から行っても良いけど、ちょっと寝たいかな。寝る必要はないから、気分的なものではあるけど。ま、明日でも良いよね。
それじゃ、おやすみなさ~い。
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