勘とノリでやってたら、七戦士に選ばれた

札神 八鬼

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第三章 火の街カーネリアン

幕間

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あれは、オースティンが王になったばかりの頃、
グレイと出会ったのは、まさに一瞬の出来事だった。

あいつ、俺とすれ違った瞬間、
誰と間違えたのか、急に襲いかかってきたんだ。

あいつが構えていた短剣は、
間違いなく頸動脈を狙っていたかな。

イーツが剣であいつの短剣を弾き飛ばして、

そして俺が火の魔法で撃退したら、

暗殺が失敗したと判断したのか、
あいつは目の前で自害しようとした。

…………いつもなら、止めようとは思わない。

いつ死ぬかなんて個人の自由だし、
何しろ俺には全く関係のないことだからだ。

身長は俺より小柄で、体は痩せていて、
目だって俺の何倍も死んでいた。

いつものように、見ているだけのはずだった。

だが、俺の体は自然と、あいつの自殺を止めていた。

何故だか、ほおっておけなかったんだ。

「お前、行くところがないなら、家に来るか?」

あいつは少し戸惑いながらも了承し、
俺はこの少年を自分の家に招き入れたんだ。

「おかえりオルテ、おや、彼は…」

「帰る場所がないみたいだから連れてきた
事情はこれから聞くつもりだ」

「そうか…少年、名前は?」

「…………115(いちいちご)」

明らかに人間につけるような名前ではなかった。

もっと詳しく事情を聞く必要がありそうだ。

「オルテ、この子の世話をしてあげなさい
この子はきっと、人の温かさを知らないだけだ」

「ああ、分かっているよ」

体が汚れていたので風呂に入れて、
温かい料理、温かい寝床を与えた。

彼は最初俺達が自分に優しくする理由が
理解出来ずに戸惑っていたが、
次第に表情は和らいでいった。

そして彼はポツリポツリと、
自分の過去を話始めた。

自分は昔孤児だったこと。

彼を拾ったのは、暗殺ギルドのマスターだったこと。

マスターに115という名前をつけてもらったこと。

そして、オースティンの王政を
良く思っていない貴族から、
オースティンの暗殺を依頼されたこと。

彼の話を聞き終わると、
ギルは何かを覚悟したのか、
彼の頭を撫でてこう言い聞かせた。

「大丈夫、後は大人に任せてくれ
だから君は安心してここにいなさい」

彼は涙を流しながら、こくりと頷いた。

それからギル達の行動は早かった。

暗殺ギルドはマスターが捕まり解散、
暗殺を依頼した貴族もすぐに逮捕された。

それはオースティンの迅速な対応が大きいだろう。

しばらく俺の家に住んでいた彼も、
ギルの知り合いである
ヴァンダーウォール家に引き取られることとなった。

「でもその名前だと不便だよな…」

「そうだな…オルテ、この子に名前をつけてあげなさい」

「え、俺!?ネーミングセンスなんてねえぞ」

「俺だってないさ、だけど、
君に名前をつけてもらった方が、
この子だって喜ぶだろうからね」

彼は俺に期待を込めた目で見つめてきた。

これはとても断れそうにない。

「名前、名前か…そうだな」

「別に難しく考える必要はないんだ
この子にぴったりな名前をつけてあげればいい」

「…………グレイ
灰色の髪の男って意味だ
ああダメだ、俺にはこれくらいが精一杯だよ」

「グレイ…」

「どう?気に入ったかな?」

「うん」

「良かったなオルテ、気に入って貰えたようだよ」

「それ、俺に名前をつけてもらえるなら
何でも良かったんじゃねえの?」

「確かにそうかもしれない
だが、名前をつけるという行為こそが重要なのさ」

「ふーん、そういうものか」

それから一年が経って、
オースティンの王政も落ち着いてきた頃、
俺はまたグレイと再会することになる。

もうあの日の、目が死んだ子供はどこにもいなかった。

「ハワード様、また会いましたね!」

グレイは子犬を思わせる人懐っこい笑顔で笑った。
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