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第13話「すれ違いと、静かな想い」
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それから数日が経った。
屋敷の中庭では、春の陽射しを浴びた花々が咲き誇り、フィオーレ・アメリアは一人ベンチに腰掛けていた。指先には、本のページ。けれど目線はそこに落ち着かず、何度も同じ行を行き来していた。
(あれから、レオナード様には会っていない……)
朝食を共にして以来、彼からは何の音沙汰もなかった。
忙しいのだろうと、頭ではわかっている。
でも、心がそれに追いつかない。
「……また、勝手に期待しちゃってるのかもしれない。」
ぽつりと呟くと、ページを閉じて膝の上に置いた。
それでも、あの朝の彼の言葉は今も胸に残っている。
『あなたと並んで座っているだけで、不思議と気持ちが落ち着く。』
あれは……気まぐれな気持ちじゃなかったはず。
そう信じたい自分と、期待しすぎてはいけないと戒める自分。
心の中で、天秤はゆらゆらと揺れていた。
「お嬢様?」
声に振り向くと、侍女のクラリスが小さな封筒を持って立っていた。
「王太子付き近衛騎士団から、お手紙が届いております。」
その瞬間、胸が跳ねた。
名前を見る前にわかる。——きっと、彼からだ。
受け取った封筒には、端正な筆跡。
封を切る手が震えそうになるのをこらえながら、フィオーレはそっと手紙を開いた。
『今度こそ、あなたとの約束を果たしたく思っています。
庭園のある静かな劇場を予約しました。
もし、まだお時間をいただけるなら——』
その一文だけで、すべてが報われた気がした。
(……本当に、また誘ってくださった)
頬が自然とほころぶ。
そう、彼は約束を忘れていなかった。あの朝の言葉も、本物だった。
嬉しさに胸を押さえながら、フィオーレは立ち上がった。
「クラリス、返事の準備をお願い。すぐに書きたいの。」
「承知しました。……お嬢様、とても素敵な顔をされていますわ。」
「そうかしら……?」
自分でも気づかぬほど、表情は晴れていた。
その夜——。
騎士団の詰所では、レオナード・ヴェルシウスが書類を整理しながら、ふと窓の外を見やった。
「やっと、静かになったな。」
副官のヴァルターがやってきて、にやにやと笑う。
「で、団長。例の令嬢とはどうなった?噂じゃ、朝食までご一緒されたとか。」
「……そんなに面白がるな。」
「だってさ、団長が自ら出向いて謝罪に行くなんて、騎士団始まって以来の一大事だったぜ?」
レオナードは黙って書類に目を戻す。
でも、その指先が一瞬止まった。
——フィオーレの笑顔が、ふと脳裏に浮かぶ。
「……彼女との約束は、また果たせることになった。」
「おお、それは……良かったじゃないか。」
レオナードは何も答えなかった。
だがその横顔は、普段の厳しさよりも、わずかに柔らかく見えた。
(あの瞳を、もう一度見られる。それだけで……今の俺には、十分すぎる)
彼は静かに椅子にもたれ、目を閉じた。
そして、心の奥で願う。
次こそ、彼女のそばで過ごす時間を——ほんの少しでも、長く。
屋敷の中庭では、春の陽射しを浴びた花々が咲き誇り、フィオーレ・アメリアは一人ベンチに腰掛けていた。指先には、本のページ。けれど目線はそこに落ち着かず、何度も同じ行を行き来していた。
(あれから、レオナード様には会っていない……)
朝食を共にして以来、彼からは何の音沙汰もなかった。
忙しいのだろうと、頭ではわかっている。
でも、心がそれに追いつかない。
「……また、勝手に期待しちゃってるのかもしれない。」
ぽつりと呟くと、ページを閉じて膝の上に置いた。
それでも、あの朝の彼の言葉は今も胸に残っている。
『あなたと並んで座っているだけで、不思議と気持ちが落ち着く。』
あれは……気まぐれな気持ちじゃなかったはず。
そう信じたい自分と、期待しすぎてはいけないと戒める自分。
心の中で、天秤はゆらゆらと揺れていた。
「お嬢様?」
声に振り向くと、侍女のクラリスが小さな封筒を持って立っていた。
「王太子付き近衛騎士団から、お手紙が届いております。」
その瞬間、胸が跳ねた。
名前を見る前にわかる。——きっと、彼からだ。
受け取った封筒には、端正な筆跡。
封を切る手が震えそうになるのをこらえながら、フィオーレはそっと手紙を開いた。
『今度こそ、あなたとの約束を果たしたく思っています。
庭園のある静かな劇場を予約しました。
もし、まだお時間をいただけるなら——』
その一文だけで、すべてが報われた気がした。
(……本当に、また誘ってくださった)
頬が自然とほころぶ。
そう、彼は約束を忘れていなかった。あの朝の言葉も、本物だった。
嬉しさに胸を押さえながら、フィオーレは立ち上がった。
「クラリス、返事の準備をお願い。すぐに書きたいの。」
「承知しました。……お嬢様、とても素敵な顔をされていますわ。」
「そうかしら……?」
自分でも気づかぬほど、表情は晴れていた。
その夜——。
騎士団の詰所では、レオナード・ヴェルシウスが書類を整理しながら、ふと窓の外を見やった。
「やっと、静かになったな。」
副官のヴァルターがやってきて、にやにやと笑う。
「で、団長。例の令嬢とはどうなった?噂じゃ、朝食までご一緒されたとか。」
「……そんなに面白がるな。」
「だってさ、団長が自ら出向いて謝罪に行くなんて、騎士団始まって以来の一大事だったぜ?」
レオナードは黙って書類に目を戻す。
でも、その指先が一瞬止まった。
——フィオーレの笑顔が、ふと脳裏に浮かぶ。
「……彼女との約束は、また果たせることになった。」
「おお、それは……良かったじゃないか。」
レオナードは何も答えなかった。
だがその横顔は、普段の厳しさよりも、わずかに柔らかく見えた。
(あの瞳を、もう一度見られる。それだけで……今の俺には、十分すぎる)
彼は静かに椅子にもたれ、目を閉じた。
そして、心の奥で願う。
次こそ、彼女のそばで過ごす時間を——ほんの少しでも、長く。
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