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第18話『契りのゆくえ』
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「式の日取りは、来月十日。王家からのご出席も正式に承諾が下りたとのことです」
レオンの秘書官が淡々と告げる声に、マリアンヌは静かに頷いた。
「大きな式になりそうですね」
「そうだな。君のことを“注目の的”にしたがる貴族も多い」
「……それはあまり嬉しくありませんわ」
「だが、私はそれを誇らしく思っている」
レオンのその言葉に、マリアンヌは思わず顔をそむける。
それは照れ隠しというより、“これ以上を語らせないため”の小さな防壁だった。
その日の午後。マリアンヌは母・レティシアからの手紙を読んでいた。
――誇りを保ちながら愛されることは、決して矛盾ではありません。
――あなたがそれを、教えてくれました。
柔らかくも芯のある筆跡は、かつての自分には届かなかった温もりを運んできた。
彼女はそっと目を伏せ、膝の上で手を組む。
(私は、今度こそ“愛される自分”を恐れない)
ベルヴァール邸では、式に向けての準備が静かに進んでいた。
料理、装飾、招待状――
多くの侍女や使用人たちが動き、マリアンヌも中心として指示を出していた。
その中で、誰かがこう囁く。
「……まるで、もう何年もこの家の主婦のようね」
それを耳にしたセラフィーナが、微笑を浮かべて応える。
「違います。“この人が主であることを、皆が疑わなくなった”のです」
夜。レオンが執務室から戻ると、マリアンヌがサロンで本を読んでいた。
彼女はすぐに顔を上げ、そっと問いかける。
「あなた、今でも“結婚”という形を重く感じている?」
「……ああ。ずっと“義務”のように思っていた」
「私もそうでした。けれど今は違う」
「なぜ?」
マリアンヌはページを閉じて、静かに言った。
「“愛しているから、共にいる”のではなく――
“共にいたいから、あなたを愛していく”という気持ちが芽生えたから」
レオンは目を伏せ、すぐに視線を戻す。
「君の言葉は、時々すべてを包んでしまう」
「そう? 私はあなたの沈黙のほうが、よほど深いと思うのだけれど」
ふたりの間に笑いが生まれたのは、ごく自然なことだった。
その笑みは、これまで幾度となく試されてきた日々の先にある、“穏やかな現在”を象徴していた。
数日後、ドレスの最終仮縫いの日。
鏡の前に立つマリアンヌは、これまでのどんな舞踏会よりも静かに息をのんだ。
「……これが、私の人生を包む布」
細かく織られたレース。胸元には家紋を象った銀糸の刺繍。
「誇りを持ちながら、誰かの隣に立つ」
そんな願いを、ひと針ずつ縫い込んだようなドレスだった。
夜。
バルコニーに出ると、レオンがひと足先に夜空を見上げていた。
「……あなたは、私のドレス姿を見たいと思う?」
「想像はした。だが、君が“それをどう着るか”のほうが興味がある」
「ふふ……あなたらしいわね」
マリアンヌは隣に立ち、静かに問いかける。
「あなたが私に望む“夫婦”とは、どんなもの?」
「――何かを強いてこない関係」
「ええ、私も同じ」
「だが、頼ってくれればいい。何も言わずに抱え込む癖がある君に、私は“逃げ場”でありたい」
その言葉に、マリアンヌは肩をそっと寄せた。
「ありがとう。……あなたが“隣にいること”が、私の逃げ道にもなってるわ」
それは、かつての彼女では決して言えなかった言葉。
言葉は誓いになる。
だが、この夜の言葉たちは、すでに“信頼”として二人の間に根を下ろしていた。
レオンの秘書官が淡々と告げる声に、マリアンヌは静かに頷いた。
「大きな式になりそうですね」
「そうだな。君のことを“注目の的”にしたがる貴族も多い」
「……それはあまり嬉しくありませんわ」
「だが、私はそれを誇らしく思っている」
レオンのその言葉に、マリアンヌは思わず顔をそむける。
それは照れ隠しというより、“これ以上を語らせないため”の小さな防壁だった。
その日の午後。マリアンヌは母・レティシアからの手紙を読んでいた。
――誇りを保ちながら愛されることは、決して矛盾ではありません。
――あなたがそれを、教えてくれました。
柔らかくも芯のある筆跡は、かつての自分には届かなかった温もりを運んできた。
彼女はそっと目を伏せ、膝の上で手を組む。
(私は、今度こそ“愛される自分”を恐れない)
ベルヴァール邸では、式に向けての準備が静かに進んでいた。
料理、装飾、招待状――
多くの侍女や使用人たちが動き、マリアンヌも中心として指示を出していた。
その中で、誰かがこう囁く。
「……まるで、もう何年もこの家の主婦のようね」
それを耳にしたセラフィーナが、微笑を浮かべて応える。
「違います。“この人が主であることを、皆が疑わなくなった”のです」
夜。レオンが執務室から戻ると、マリアンヌがサロンで本を読んでいた。
彼女はすぐに顔を上げ、そっと問いかける。
「あなた、今でも“結婚”という形を重く感じている?」
「……ああ。ずっと“義務”のように思っていた」
「私もそうでした。けれど今は違う」
「なぜ?」
マリアンヌはページを閉じて、静かに言った。
「“愛しているから、共にいる”のではなく――
“共にいたいから、あなたを愛していく”という気持ちが芽生えたから」
レオンは目を伏せ、すぐに視線を戻す。
「君の言葉は、時々すべてを包んでしまう」
「そう? 私はあなたの沈黙のほうが、よほど深いと思うのだけれど」
ふたりの間に笑いが生まれたのは、ごく自然なことだった。
その笑みは、これまで幾度となく試されてきた日々の先にある、“穏やかな現在”を象徴していた。
数日後、ドレスの最終仮縫いの日。
鏡の前に立つマリアンヌは、これまでのどんな舞踏会よりも静かに息をのんだ。
「……これが、私の人生を包む布」
細かく織られたレース。胸元には家紋を象った銀糸の刺繍。
「誇りを持ちながら、誰かの隣に立つ」
そんな願いを、ひと針ずつ縫い込んだようなドレスだった。
夜。
バルコニーに出ると、レオンがひと足先に夜空を見上げていた。
「……あなたは、私のドレス姿を見たいと思う?」
「想像はした。だが、君が“それをどう着るか”のほうが興味がある」
「ふふ……あなたらしいわね」
マリアンヌは隣に立ち、静かに問いかける。
「あなたが私に望む“夫婦”とは、どんなもの?」
「――何かを強いてこない関係」
「ええ、私も同じ」
「だが、頼ってくれればいい。何も言わずに抱え込む癖がある君に、私は“逃げ場”でありたい」
その言葉に、マリアンヌは肩をそっと寄せた。
「ありがとう。……あなたが“隣にいること”が、私の逃げ道にもなってるわ」
それは、かつての彼女では決して言えなかった言葉。
言葉は誓いになる。
だが、この夜の言葉たちは、すでに“信頼”として二人の間に根を下ろしていた。
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