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5章 現実
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その夜は、雪斗の方の結末が知りたくて、早く眠りについた。公園に行けるか不安に思っていると、もやが現れてホッとする。
すると、黒ずくめの管理人が向こうからやってきた。今日は案内してくれるのだろうか。それとも雪斗に何か……。
「雪斗の話を聞いてくれて、ありがとう。あの子は君に救われたと思うよ」
口がどこにあるのかわからない管理人だが、声がはっきり聞こえた。低いけれど密度の薄い掠れたような声。ゆったりとした口調。やっぱりどことなく雪斗に似ている……。
「いえ、そんな。私だって雪斗にたくさん救われました」
「今日が最後だから、時間いっぱいまで一緒にいてあげてほしい」
「え……?」
黒ずくめの管理人は丈の長い黒のロングコートを翻して、もやの奥へと消えてしまった。
え?今日が最後ってどういうこと?
「ま、待ってください!」
慌てて管理人の消えた方向へと走り出し、追いかけるが、いつの間にかもやは消えて公園に辿り着いていた。管理人はいなくなっていた。
今日が最後?この夢の公園に来ることができるのが今日で終わりってこと?
体がわなわなと震える。血の気が引いていく感じがする。眼前がぐらぐらと揺れる。
現実の情報を持ち帰ることができないこの夢が終わってしまえば、もう二度と雪斗に会うことができなくなる。嫌だ、そんなの嫌だ。
いつかこの日が来るのはなんとなく分かっていた。いきなり公園に来られなくなるより、まだこうして告げられる方が余程心の準備ができるのも分かっている。それでも、実際その日を迎えてしまうと、襲ってくる寂しさは想像以上だった。
どこに酸素があるかわからなくて、ヒューヒューと肺が変な音を出しているような気がする。でも、そんなの気にせず、とにかく急いで広場に向かった。
「雪斗!!」
雪斗はもうベンチに座っていた。いつも通り、穏やかな顔をしてこちらに向けて微笑む。いつもと違うのは、目元が赤く腫れているところだけ。泣いた跡がある割には晴れやかな顔をしている。うまく行ったのだろうか。
「莉音、会いたかった」
そう言われてドキッとしてしまう。その言葉の裏に隠れている感情を知りたいと思ってしまう。そして、あわよくば自分と同じ気持ちであってくれないだろうかと願ってしまう。
雪斗は事の顛末を話してくれた。お母さんと向き合って、2人でお兄さんのことを想って泣いたこと。お母さんがこれからは少しずつ前を向いて普通に生活すると約束してくれたこと。雪斗は雪斗で改めて現実と向き合わなくてはならないことを自覚したと言った。
「さっき、管理人に言われたんだ。今日が最後だって」
「雪斗も?私も言われた……」
じゃあ、本当のことなんだ。管理人が言うことだし、間違いないのだろう。
「嫌だよ、雪斗。どうにかならないのかな。だってこのままだと、もう雪斗と会えなくなっちゃうんだよ?」
「僕だって嫌だよ。でも、僕たちはリアルを生きなくちゃいけないんだ。いつまでも居心地のいい夢にはいられないんだよ」
雪が降り始める。優しいくらい静かに落ちてくる。寒さは感じない。むしろ暖かいくらいだ。
「莉音。莉音の話も、聞きたい」
そうだ。私の顛末も話さないと。
「……あの人と、喋ったんだ——」
ぽつりぽつりと言葉を雪のように積もらせる。自分がこれからやりたいことを考えた時に、音楽が何よりも最初に浮かぶこと。作曲で生きていくために、自分の中で才能にこだわるのをやめるために、先生だったあの人と対話を望んだこと。でも結局、あの人は私の欲しかった言葉を言ってはくれなかったこと。それ以来、あの人と分かり合うのは諦めて、唯一味方をしてくれたお母さんを大切にすると決めたこと。これからは誰かを救うために音楽を作り続けること。
「もう父親に振り向いてもらうってことが叶わないと分かったら、諦めるのは簡単だったの。水底で溺れてるような感覚になることもなくなった。これからは、苦しんでいる人の力になるためだけに、歌を作り続けたい」
話しているうちに、嫌でも終わりを実感してしまう。会えなくなってしまうのなら、そんなこと認めたくないけれど、もしそうだとしたら、これだけは伝えたい。
「雪斗。私に大切なことを気づかせてくれて、ありがとう。私を水底から救ってくれたのは、雪斗なんだよ」
「そんなこと言ったら、僕だって莉音に前を向かせてもらったよ。感謝しきれないくらい。莉音は僕を吹雪から連れ出してくれた」
「えへへ、私たちって似てるよね」
「え~、どこが?全然似てないよ」
「主にワードチョイスとか……?」
雪斗は目を丸くしてこちらを見る。変なことを言っただろうか。でも、「水底から助ける」と「吹雪から連れ出す」って似たようなワードチョイスだし……。他にも、趣味嗜好とか感情の捉え方とか、結構似ていると思っていたのに、それは私だけだったのだろうか。
「莉音のワードチョイスは、なんというかかなりユニークだと思うよ」
「ええ~、そんなことないと思うけどなぁ」
ふふふっと笑いがこぼれる。でも、すぐに寂しさがやってきた。こうやって楽しく会話することができるのも、朝日が昇るまでなんだ。もう何回も願って、その度に叶わないから知っているけど、いくら時間を止めたいと思っても、時計の針は止まってくれない。どんな夜でも必ず朝はやってくる。
「莉音にさ、最後にやってほしいことがあるんだ」
改まって雪斗がこう言う。「最後」か……。
辺りはどこまでも静かで、周りには誰もいない。いつの間にか、この公園の利用者は私と雪斗の2人に落ち着いたようだった。
「僕が作った曲、編曲してタイトルをつけてほしい」
雪斗の真っ黒な瞳は真っ直ぐに私を見つめていて、その顔はどこまでも真剣だった。甘いのにハッキリと輪郭を伴った声が私を捕らえて離さない。
「僕は歌うことしかできない。メロディを作って歌詞をつけるのはできるけど、ちゃんと1曲に仕上げることはできないんだ。だから、莉音と一緒に作りたい」
雪斗から伝わってくるのは、敬意のような感情。それだけ、私の曲を気に入ってくれているのだろう。そこまで言われて、断る理由などない。
静寂を切り裂くように、はっきりと伝える。
「うん。私も、雪斗と曲を作ってみたい。やろう」
最後だからか、雪斗と一緒に曲を仕上げるのは初めてだからか、緊張してしまう。
この時間を全力で楽しもう。それが、夢を見ることができなくなってしまう未来の自分のために唯一できることだ。
まずは雪斗が歌った通りのメロディーをキーボードで弾き、それを録音する。一番最初に雪斗と出会った時、歌っていた曲だ。確かに、タイトルが決まっていないって言っていたっけ。
それから、その部分の雰囲気に合わせたコードを選んでつけていく。メロディラインと合わせて弾いてみて、どんな感じになるか試しつつ、よりエモいコード進行に変えたり装飾を付け足したりしていく。フレーズごとに録音して、その度に雪斗に聞いてもらった。
「すごいなぁ、莉音は。メロディしかなかった曲がもうここまで……」
別にそこまですごいことではない、と思う。でも、1人で自分と向き合って作曲するのと違って、もともとあるメロディに伴奏をつけるのは、なんだか「一緒にやっている」という感覚があってこれはこれでいいな、と思える。
裏メロをつけたり、イントロとアウトロを考えたり。雪斗がどういう気持ちでそのメロディを選んだのか、その歌詞を取り込んだのか、心臓の扉を開けてその中に手を伸ばして、手探りで何があるのかを確かめているかのようだ。
苦しい、辛い。前を向かなきゃいけないのに、向けない。この感情はどうしたらいいのだろう。どうすればこの残酷な世界を生き抜いていけるのだろう。誰か、助けて。
そんな、雪斗の悲鳴が聞こえるようで、胸が痛む。でも、そんな苦しみの中でも、どこか微かな希望を信じている音がして、暖かい気持ちにもなる。不思議な曲だった。
「いい曲だね……」
「ありがとう。でも莉音の曲だってそうじゃん」
「なんていうか、私は自己中な曲しか作れないんだよね。『伝えたい』『助けたい』っていう自分の想いと願いだけの曲って感じなんだけど、雪斗のはそうじゃなくて、思いは痛いほど伝わってくるのに主張が強すぎないというか、程よく寄り添ってくれる感じがする」
優しくて穏やかな雪斗らしい曲だ。この曲が聴けるのも最後なのか、と名残惜しさがどっと押し寄せてくる。
「本当はいろんな楽器入れたいんだけど、時間的にそこまでは無理そうだね……。キーボードはこれで出来上がり。あとはタイトルだね、何か入れたい言葉とか候補はあるの?」
「そうだな……この曲のテーマは『苦しい中に光を見つける』だから、光っていうワードは入れたいかも。そして、その……それ以外は莉音に決めてほしいんだ」
遠慮がちに俯きながら言う雪斗。
私なんかが雪斗の素敵な曲のタイトルを決めてしまっていいのだろうか。雪斗らしさが失われてしまうのではないか。でも、こう言っているし、その気持ちは無碍にはできない。
「僕、莉音のワードチョイスが好きなんだ」
好き、という言葉に反応してビクッとしてしまう。慌てて取り繕った。最後の最後で関係を変えるようなことはできるだけしたくない。溢れてしまいそうなほどに大きくなった恋心も、隠し通すつもりでいる。
もちろん、雪斗の言葉には特別な意味など含まれていないはずだ。ただ、言葉選びに好感が持てる、と言ってくれているだけ。そう思って心を落ち着ける。でも、その褒め言葉でさえ、胸が高鳴りが抑えられない。
「わかった、いいタイトル考える」
まだ空の色は変わっていない。大丈夫。まだ一緒にいられる。
私は何度も録音を繰り返し聴いて、雪斗に歌ってもらって、雰囲気を自分の言葉で言語化してみた。これまで私が苦しんできた息ができない水の中。そこから微かな光を探すような曲。
いや、雪斗自身、この曲を聴いた人が溺れている水の中に光を届けたいと思っていたのではないか。私と同じように。
「『水底を照らす光を君に』、いや、違うかな。誰かに限定したくないし。あと照らすだと結構希望見えちゃってるなぁ。もっと微かな感じにしたいな」
あれこれ口に出しながらDTMのメモ機能を使って、思いついた言葉を書き連ねていく。雪斗はそれを見ながら静かに微笑んでいた。
雪の結晶が落ちてきた。夢の中では決して濡れないし、いつもは雪の結晶までハッキリと見ることはできない。でも、その時だけは手のひらに落ちた雪はしばらく、しっかりと形を保って、そのあと徐々に消えていった。
「『水底に届く光の歌を。』……これにしたい!私にとって雪斗の歌は光の歌だから。これを誰か特定の『きみ』とかに送るって言うよりかはみんなに届いてほしいっていう意味を込めて、あえてここで止めたい。ここで文章が終わっていることを示すために、読点もつけるのがいいと思う」
雪斗はふわっと花が咲くように笑った。そのあまりの美しさに非現実的な幻想的な何かを感じる。いや、そういえばここは非現実なのか。
気に入ってくれたようだ。
「素敵なタイトルをつけてくれて、ありがとう」
好き、という言葉が漏れかける。喉まで出かかったその言葉を必死で飲み下す。ああ、こんなにも好きなのに、もう会えなくなってしまうんだ。切ない気持ちで心臓が縛られる。
「雪斗。最後のセッションをやろう」
「うん。僕もそう言おうと思ってた」
寂しそうに笑って頷いた雪斗は、私のキーボードの音を待っている。
曲は静かに滑り出した。しんしんと降る雪のようなイメージでコードを繋げていく。盛岡の景色を見ることができるようになって、雪というイメージを新たにインプットできた。それを存分に入れ込んで音を奏でる。
イントロが終わると、雪斗の綺麗な声が入ってきた。高すぎず、低すぎず、耳馴染みのいい声。この声ももう聴くことは駅なくなってしまう。
感情を込めて弾いた。私の光はあなたなんだよ。水底から見えた微かな、でも確かな光。あなたがいたから、私は変わることができたし、秘めていた思いをぶつけることができたし、そしてこれから進むべき道も見つけられた。
曲の終わりが近づいてくる。胸がきゅーっと締め付けられて、目に透明な粒が溜まる。まだ曲の途中だから、雪斗の歌声が聴こえなくならないように、涙を必死に堪える。でも、その努力の甲斐もなく、程なくしてそれは決壊した。全ての感情が光の粒となってこぼれ落ちる。
タイムリミットが見えてきている。少しずつ、空の色が変わってきているのが、辺りが明るくなってきているのが、わかった。
お願いだから、終わらないで。ずっとここにいたいよ。現実を生きなきゃいけないのはわかっているけど、雪斗と会えなくなるだなんて耐えられない。
曲が終わって、涙を流し続ける私を雪斗がぎゅっと優しく抱きしめてくれた。私は雪斗を少しでも近くに感じたくて、強く抱きしめ返す。
「雪斗、雪斗……いなくならないで……」
「僕はずっとここにいるよ。会えなくなっても、莉音のことをずっと想ってる」
「雪斗、大好き。ずっと好きだったの。会えなくなっちゃうなんて嫌だよ!」
ずっと隠しておこうと思っていた気持ちが、砂時計の残りの砂のように押し出されて溢れてくる。雪斗は驚くことなく、私の告白を受け入れて、抱きしめる手に力を込めた。
「僕もだよ。莉音が愛おしいって思ってる。会えなくなるのは僕も耐えられないよ……」
穏やかな雪斗が、感情を露わにしてくれている。それもまた、余計に「最後」を意識してしまう。両想いであることがわかっても素直には喜べなかった。大好きなのに、こんなにも愛しているというのに、一緒にいることは叶わないのか。
黒ずくめの管理人がどこからともなく現れる。雪はいつの間にか止んで、空がオレンジ色に染まり始めた。
「終わり、みたいだね……。莉音、これまでありがとう、大好きだよ」
「嫌!そんなこと言わないで!」
管理人が両手を上げる。私は雪斗の胸に抱かれたまま大声をあげて泣いた。
パン!パン!
「さよなら、莉音」
「大好き、雪斗」
薄れていく景色の中、最後の瞬間まで、お互いを感じるように抱きしめ合っていた。実感がなくなっていく雪斗の体は、朝の光に溶けていった。
私は真っ暗闇に取り残されて、膝をついて泣き続けた。
アラームの音で目が覚める。頬が濡れていることに気づいて、首を傾げた。
「あれ?私、なんで泣いてるんだろう……」
大切な何かを失ってしまったような、そんな喪失感だけが残っていて、でもそれが何かは全くわからない。部屋のカーテンを開けると、当たり前のように朝日が部屋に飛び込んでくる。その光が、なんだか懐かしく感じられた。
いつものように、キッチンに向かい、お母さんにおはようを言う。ベーコンエッグを作り始める。
朝食の席は、変わらず私とお母さんだけが喋らず、妹と弟たちがペラペラと喋り続ける。最近では、それに苦しさも感じなくなった。
「莉音」
厳格な低い声が耳に届いて、反射的に縮こまる。赤の他人認定したところで、幼少期の記憶は決して消えない。
この人が私を呼ぶなんて、今日は槍でも降るのだろうか。今更、何の用があるというのだろう。
「お前の曲を聴いた。『夜の音』という曲だ。ラスサビのコードを感情的にしすぎているから、そこをもう少し抑えればもっと売れたかもしれないな。だが……」
ありえないことが起きている。この人が私の曲を聴いた?それに対してアドバイスをしている?
「——よくできていたと思う」
ポタリと涙が太ももに落ちて初めて、私は自分が泣いたことに気づいた。
やっと、やっと私のことを見てくれた。「1人の人間」として、「1人の娘」として。ずっと望んでいた言葉。小馬鹿にしたような上から目線の話し方は置いておいて。
「ありがとう、ございます……先生」
必死で涙を堪える。ここで泣き続けては、また見捨てられてしまうかもしれない。
一度は諦めもした。この人とまともな関係を築くのはもう無理だと思っていた。でも、ちゃんと見てくれた。ずっと苦しんできた過去の私が、やっと報われる。心の中で、当時の私を抱きしめてあげた。
「え~、お姉ちゃん、泣いてる!」
「俺も聞いてみよっかな~」
「え、俺はちょっと聞きたくないかも」
妹や弟たちは、私の気持ちを知らないだろう。いや、知らなくていい。そのままでいいんだ。これは他でもない、私の戦いだったのだから。
向き合うことから逃げちゃダメだ。そう思ってやってきてよかった。これまでの私の行動が、お父さんに振り向いてもらうことに繋がったのだ。
って、あれ?「向き合うことから逃げちゃダメ」って誰に教えてもらったんだっけ……。
途端、懐かしい甘い声が脳内に響く。
『莉音』
『やっぱりいい曲だよね』
『莉音は優しいね』
『悲劇のヒロインになっていいと思うよ』
これは誰の声だっけ。大切なことを教えてもらった気がするのに、宝物のような時間があったはずなのに。記憶の一部にもやがかかったように、なぜか思い出せない。
悲しい夜色の絵の具が水槽に溶け出していくような気持ちになった。
私は何を忘れてしまったんだろう……。
❆。:*.゚
すると、黒ずくめの管理人が向こうからやってきた。今日は案内してくれるのだろうか。それとも雪斗に何か……。
「雪斗の話を聞いてくれて、ありがとう。あの子は君に救われたと思うよ」
口がどこにあるのかわからない管理人だが、声がはっきり聞こえた。低いけれど密度の薄い掠れたような声。ゆったりとした口調。やっぱりどことなく雪斗に似ている……。
「いえ、そんな。私だって雪斗にたくさん救われました」
「今日が最後だから、時間いっぱいまで一緒にいてあげてほしい」
「え……?」
黒ずくめの管理人は丈の長い黒のロングコートを翻して、もやの奥へと消えてしまった。
え?今日が最後ってどういうこと?
「ま、待ってください!」
慌てて管理人の消えた方向へと走り出し、追いかけるが、いつの間にかもやは消えて公園に辿り着いていた。管理人はいなくなっていた。
今日が最後?この夢の公園に来ることができるのが今日で終わりってこと?
体がわなわなと震える。血の気が引いていく感じがする。眼前がぐらぐらと揺れる。
現実の情報を持ち帰ることができないこの夢が終わってしまえば、もう二度と雪斗に会うことができなくなる。嫌だ、そんなの嫌だ。
いつかこの日が来るのはなんとなく分かっていた。いきなり公園に来られなくなるより、まだこうして告げられる方が余程心の準備ができるのも分かっている。それでも、実際その日を迎えてしまうと、襲ってくる寂しさは想像以上だった。
どこに酸素があるかわからなくて、ヒューヒューと肺が変な音を出しているような気がする。でも、そんなの気にせず、とにかく急いで広場に向かった。
「雪斗!!」
雪斗はもうベンチに座っていた。いつも通り、穏やかな顔をしてこちらに向けて微笑む。いつもと違うのは、目元が赤く腫れているところだけ。泣いた跡がある割には晴れやかな顔をしている。うまく行ったのだろうか。
「莉音、会いたかった」
そう言われてドキッとしてしまう。その言葉の裏に隠れている感情を知りたいと思ってしまう。そして、あわよくば自分と同じ気持ちであってくれないだろうかと願ってしまう。
雪斗は事の顛末を話してくれた。お母さんと向き合って、2人でお兄さんのことを想って泣いたこと。お母さんがこれからは少しずつ前を向いて普通に生活すると約束してくれたこと。雪斗は雪斗で改めて現実と向き合わなくてはならないことを自覚したと言った。
「さっき、管理人に言われたんだ。今日が最後だって」
「雪斗も?私も言われた……」
じゃあ、本当のことなんだ。管理人が言うことだし、間違いないのだろう。
「嫌だよ、雪斗。どうにかならないのかな。だってこのままだと、もう雪斗と会えなくなっちゃうんだよ?」
「僕だって嫌だよ。でも、僕たちはリアルを生きなくちゃいけないんだ。いつまでも居心地のいい夢にはいられないんだよ」
雪が降り始める。優しいくらい静かに落ちてくる。寒さは感じない。むしろ暖かいくらいだ。
「莉音。莉音の話も、聞きたい」
そうだ。私の顛末も話さないと。
「……あの人と、喋ったんだ——」
ぽつりぽつりと言葉を雪のように積もらせる。自分がこれからやりたいことを考えた時に、音楽が何よりも最初に浮かぶこと。作曲で生きていくために、自分の中で才能にこだわるのをやめるために、先生だったあの人と対話を望んだこと。でも結局、あの人は私の欲しかった言葉を言ってはくれなかったこと。それ以来、あの人と分かり合うのは諦めて、唯一味方をしてくれたお母さんを大切にすると決めたこと。これからは誰かを救うために音楽を作り続けること。
「もう父親に振り向いてもらうってことが叶わないと分かったら、諦めるのは簡単だったの。水底で溺れてるような感覚になることもなくなった。これからは、苦しんでいる人の力になるためだけに、歌を作り続けたい」
話しているうちに、嫌でも終わりを実感してしまう。会えなくなってしまうのなら、そんなこと認めたくないけれど、もしそうだとしたら、これだけは伝えたい。
「雪斗。私に大切なことを気づかせてくれて、ありがとう。私を水底から救ってくれたのは、雪斗なんだよ」
「そんなこと言ったら、僕だって莉音に前を向かせてもらったよ。感謝しきれないくらい。莉音は僕を吹雪から連れ出してくれた」
「えへへ、私たちって似てるよね」
「え~、どこが?全然似てないよ」
「主にワードチョイスとか……?」
雪斗は目を丸くしてこちらを見る。変なことを言っただろうか。でも、「水底から助ける」と「吹雪から連れ出す」って似たようなワードチョイスだし……。他にも、趣味嗜好とか感情の捉え方とか、結構似ていると思っていたのに、それは私だけだったのだろうか。
「莉音のワードチョイスは、なんというかかなりユニークだと思うよ」
「ええ~、そんなことないと思うけどなぁ」
ふふふっと笑いがこぼれる。でも、すぐに寂しさがやってきた。こうやって楽しく会話することができるのも、朝日が昇るまでなんだ。もう何回も願って、その度に叶わないから知っているけど、いくら時間を止めたいと思っても、時計の針は止まってくれない。どんな夜でも必ず朝はやってくる。
「莉音にさ、最後にやってほしいことがあるんだ」
改まって雪斗がこう言う。「最後」か……。
辺りはどこまでも静かで、周りには誰もいない。いつの間にか、この公園の利用者は私と雪斗の2人に落ち着いたようだった。
「僕が作った曲、編曲してタイトルをつけてほしい」
雪斗の真っ黒な瞳は真っ直ぐに私を見つめていて、その顔はどこまでも真剣だった。甘いのにハッキリと輪郭を伴った声が私を捕らえて離さない。
「僕は歌うことしかできない。メロディを作って歌詞をつけるのはできるけど、ちゃんと1曲に仕上げることはできないんだ。だから、莉音と一緒に作りたい」
雪斗から伝わってくるのは、敬意のような感情。それだけ、私の曲を気に入ってくれているのだろう。そこまで言われて、断る理由などない。
静寂を切り裂くように、はっきりと伝える。
「うん。私も、雪斗と曲を作ってみたい。やろう」
最後だからか、雪斗と一緒に曲を仕上げるのは初めてだからか、緊張してしまう。
この時間を全力で楽しもう。それが、夢を見ることができなくなってしまう未来の自分のために唯一できることだ。
まずは雪斗が歌った通りのメロディーをキーボードで弾き、それを録音する。一番最初に雪斗と出会った時、歌っていた曲だ。確かに、タイトルが決まっていないって言っていたっけ。
それから、その部分の雰囲気に合わせたコードを選んでつけていく。メロディラインと合わせて弾いてみて、どんな感じになるか試しつつ、よりエモいコード進行に変えたり装飾を付け足したりしていく。フレーズごとに録音して、その度に雪斗に聞いてもらった。
「すごいなぁ、莉音は。メロディしかなかった曲がもうここまで……」
別にそこまですごいことではない、と思う。でも、1人で自分と向き合って作曲するのと違って、もともとあるメロディに伴奏をつけるのは、なんだか「一緒にやっている」という感覚があってこれはこれでいいな、と思える。
裏メロをつけたり、イントロとアウトロを考えたり。雪斗がどういう気持ちでそのメロディを選んだのか、その歌詞を取り込んだのか、心臓の扉を開けてその中に手を伸ばして、手探りで何があるのかを確かめているかのようだ。
苦しい、辛い。前を向かなきゃいけないのに、向けない。この感情はどうしたらいいのだろう。どうすればこの残酷な世界を生き抜いていけるのだろう。誰か、助けて。
そんな、雪斗の悲鳴が聞こえるようで、胸が痛む。でも、そんな苦しみの中でも、どこか微かな希望を信じている音がして、暖かい気持ちにもなる。不思議な曲だった。
「いい曲だね……」
「ありがとう。でも莉音の曲だってそうじゃん」
「なんていうか、私は自己中な曲しか作れないんだよね。『伝えたい』『助けたい』っていう自分の想いと願いだけの曲って感じなんだけど、雪斗のはそうじゃなくて、思いは痛いほど伝わってくるのに主張が強すぎないというか、程よく寄り添ってくれる感じがする」
優しくて穏やかな雪斗らしい曲だ。この曲が聴けるのも最後なのか、と名残惜しさがどっと押し寄せてくる。
「本当はいろんな楽器入れたいんだけど、時間的にそこまでは無理そうだね……。キーボードはこれで出来上がり。あとはタイトルだね、何か入れたい言葉とか候補はあるの?」
「そうだな……この曲のテーマは『苦しい中に光を見つける』だから、光っていうワードは入れたいかも。そして、その……それ以外は莉音に決めてほしいんだ」
遠慮がちに俯きながら言う雪斗。
私なんかが雪斗の素敵な曲のタイトルを決めてしまっていいのだろうか。雪斗らしさが失われてしまうのではないか。でも、こう言っているし、その気持ちは無碍にはできない。
「僕、莉音のワードチョイスが好きなんだ」
好き、という言葉に反応してビクッとしてしまう。慌てて取り繕った。最後の最後で関係を変えるようなことはできるだけしたくない。溢れてしまいそうなほどに大きくなった恋心も、隠し通すつもりでいる。
もちろん、雪斗の言葉には特別な意味など含まれていないはずだ。ただ、言葉選びに好感が持てる、と言ってくれているだけ。そう思って心を落ち着ける。でも、その褒め言葉でさえ、胸が高鳴りが抑えられない。
「わかった、いいタイトル考える」
まだ空の色は変わっていない。大丈夫。まだ一緒にいられる。
私は何度も録音を繰り返し聴いて、雪斗に歌ってもらって、雰囲気を自分の言葉で言語化してみた。これまで私が苦しんできた息ができない水の中。そこから微かな光を探すような曲。
いや、雪斗自身、この曲を聴いた人が溺れている水の中に光を届けたいと思っていたのではないか。私と同じように。
「『水底を照らす光を君に』、いや、違うかな。誰かに限定したくないし。あと照らすだと結構希望見えちゃってるなぁ。もっと微かな感じにしたいな」
あれこれ口に出しながらDTMのメモ機能を使って、思いついた言葉を書き連ねていく。雪斗はそれを見ながら静かに微笑んでいた。
雪の結晶が落ちてきた。夢の中では決して濡れないし、いつもは雪の結晶までハッキリと見ることはできない。でも、その時だけは手のひらに落ちた雪はしばらく、しっかりと形を保って、そのあと徐々に消えていった。
「『水底に届く光の歌を。』……これにしたい!私にとって雪斗の歌は光の歌だから。これを誰か特定の『きみ』とかに送るって言うよりかはみんなに届いてほしいっていう意味を込めて、あえてここで止めたい。ここで文章が終わっていることを示すために、読点もつけるのがいいと思う」
雪斗はふわっと花が咲くように笑った。そのあまりの美しさに非現実的な幻想的な何かを感じる。いや、そういえばここは非現実なのか。
気に入ってくれたようだ。
「素敵なタイトルをつけてくれて、ありがとう」
好き、という言葉が漏れかける。喉まで出かかったその言葉を必死で飲み下す。ああ、こんなにも好きなのに、もう会えなくなってしまうんだ。切ない気持ちで心臓が縛られる。
「雪斗。最後のセッションをやろう」
「うん。僕もそう言おうと思ってた」
寂しそうに笑って頷いた雪斗は、私のキーボードの音を待っている。
曲は静かに滑り出した。しんしんと降る雪のようなイメージでコードを繋げていく。盛岡の景色を見ることができるようになって、雪というイメージを新たにインプットできた。それを存分に入れ込んで音を奏でる。
イントロが終わると、雪斗の綺麗な声が入ってきた。高すぎず、低すぎず、耳馴染みのいい声。この声ももう聴くことは駅なくなってしまう。
感情を込めて弾いた。私の光はあなたなんだよ。水底から見えた微かな、でも確かな光。あなたがいたから、私は変わることができたし、秘めていた思いをぶつけることができたし、そしてこれから進むべき道も見つけられた。
曲の終わりが近づいてくる。胸がきゅーっと締め付けられて、目に透明な粒が溜まる。まだ曲の途中だから、雪斗の歌声が聴こえなくならないように、涙を必死に堪える。でも、その努力の甲斐もなく、程なくしてそれは決壊した。全ての感情が光の粒となってこぼれ落ちる。
タイムリミットが見えてきている。少しずつ、空の色が変わってきているのが、辺りが明るくなってきているのが、わかった。
お願いだから、終わらないで。ずっとここにいたいよ。現実を生きなきゃいけないのはわかっているけど、雪斗と会えなくなるだなんて耐えられない。
曲が終わって、涙を流し続ける私を雪斗がぎゅっと優しく抱きしめてくれた。私は雪斗を少しでも近くに感じたくて、強く抱きしめ返す。
「雪斗、雪斗……いなくならないで……」
「僕はずっとここにいるよ。会えなくなっても、莉音のことをずっと想ってる」
「雪斗、大好き。ずっと好きだったの。会えなくなっちゃうなんて嫌だよ!」
ずっと隠しておこうと思っていた気持ちが、砂時計の残りの砂のように押し出されて溢れてくる。雪斗は驚くことなく、私の告白を受け入れて、抱きしめる手に力を込めた。
「僕もだよ。莉音が愛おしいって思ってる。会えなくなるのは僕も耐えられないよ……」
穏やかな雪斗が、感情を露わにしてくれている。それもまた、余計に「最後」を意識してしまう。両想いであることがわかっても素直には喜べなかった。大好きなのに、こんなにも愛しているというのに、一緒にいることは叶わないのか。
黒ずくめの管理人がどこからともなく現れる。雪はいつの間にか止んで、空がオレンジ色に染まり始めた。
「終わり、みたいだね……。莉音、これまでありがとう、大好きだよ」
「嫌!そんなこと言わないで!」
管理人が両手を上げる。私は雪斗の胸に抱かれたまま大声をあげて泣いた。
パン!パン!
「さよなら、莉音」
「大好き、雪斗」
薄れていく景色の中、最後の瞬間まで、お互いを感じるように抱きしめ合っていた。実感がなくなっていく雪斗の体は、朝の光に溶けていった。
私は真っ暗闇に取り残されて、膝をついて泣き続けた。
アラームの音で目が覚める。頬が濡れていることに気づいて、首を傾げた。
「あれ?私、なんで泣いてるんだろう……」
大切な何かを失ってしまったような、そんな喪失感だけが残っていて、でもそれが何かは全くわからない。部屋のカーテンを開けると、当たり前のように朝日が部屋に飛び込んでくる。その光が、なんだか懐かしく感じられた。
いつものように、キッチンに向かい、お母さんにおはようを言う。ベーコンエッグを作り始める。
朝食の席は、変わらず私とお母さんだけが喋らず、妹と弟たちがペラペラと喋り続ける。最近では、それに苦しさも感じなくなった。
「莉音」
厳格な低い声が耳に届いて、反射的に縮こまる。赤の他人認定したところで、幼少期の記憶は決して消えない。
この人が私を呼ぶなんて、今日は槍でも降るのだろうか。今更、何の用があるというのだろう。
「お前の曲を聴いた。『夜の音』という曲だ。ラスサビのコードを感情的にしすぎているから、そこをもう少し抑えればもっと売れたかもしれないな。だが……」
ありえないことが起きている。この人が私の曲を聴いた?それに対してアドバイスをしている?
「——よくできていたと思う」
ポタリと涙が太ももに落ちて初めて、私は自分が泣いたことに気づいた。
やっと、やっと私のことを見てくれた。「1人の人間」として、「1人の娘」として。ずっと望んでいた言葉。小馬鹿にしたような上から目線の話し方は置いておいて。
「ありがとう、ございます……先生」
必死で涙を堪える。ここで泣き続けては、また見捨てられてしまうかもしれない。
一度は諦めもした。この人とまともな関係を築くのはもう無理だと思っていた。でも、ちゃんと見てくれた。ずっと苦しんできた過去の私が、やっと報われる。心の中で、当時の私を抱きしめてあげた。
「え~、お姉ちゃん、泣いてる!」
「俺も聞いてみよっかな~」
「え、俺はちょっと聞きたくないかも」
妹や弟たちは、私の気持ちを知らないだろう。いや、知らなくていい。そのままでいいんだ。これは他でもない、私の戦いだったのだから。
向き合うことから逃げちゃダメだ。そう思ってやってきてよかった。これまでの私の行動が、お父さんに振り向いてもらうことに繋がったのだ。
って、あれ?「向き合うことから逃げちゃダメ」って誰に教えてもらったんだっけ……。
途端、懐かしい甘い声が脳内に響く。
『莉音』
『やっぱりいい曲だよね』
『莉音は優しいね』
『悲劇のヒロインになっていいと思うよ』
これは誰の声だっけ。大切なことを教えてもらった気がするのに、宝物のような時間があったはずなのに。記憶の一部にもやがかかったように、なぜか思い出せない。
悲しい夜色の絵の具が水槽に溶け出していくような気持ちになった。
私は何を忘れてしまったんだろう……。
❆。:*.゚
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