逃げて、生きて、

キタキツネ

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プロローグ

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 人は、一度死ねば決して戻らない。

 もしあなたが、自らの手で誰かの命を奪ったとする。その相手が、どれほど卑劣で、どれほど傲慢で、たとえ世の法で裁かれることのない存在であったとしても、その行為があなたの精神に与える影響から逃れる術はない。消えることのない罪悪感、内側から湧き上がる自己への嫌悪、そして、奪われた命の重みが、静かに、しかし確実にあなたの心を蝕み始めるだろう。それは、夜毎の悪夢となり、ふとした瞬間の幻影となり、かつてあった感情を麻痺させ、着実に、あなたの精神の形を歪め、根底から破壊して行く。

 故に、人の精神は、あまりにも脆く、弱い。背負いきれないほどの「罪」という名の十字架の重みに、耐え続けられるほど強くは作られていないのだ。表面上、どれほど強固に見えたとしても、それは焼成された陶器のように、硬質でありながら、同時に極めて脆い。ある程度の負荷には耐えられても、決定的な重圧には容易く砕け散ってしまう。そして、一度砕け散った心は、二度と元通りには修復できない。

 人間の精神は、その内面のあり方によって、様々な形を取る。深い底を持ちながら口が狭い「花瓶」のような精神は、感情や思考を奥底にしまい込み、表に出すのが難しい。逆に、口が広く底が浅い「寸胴」のような精神は、思いをため込まず、ストレートに吐き出すことを容易とする。

 しかし、どのような形であれ、その本質的な脆さと、背負える重さの限界は変わらない。罪という名の重すぎる負荷は、その精神の形に関わらず、容易くそれを打ち砕き、回復不能なダメージを与える。

 これから語られる物語は、この人間の精神の脆弱さと、罪という名の重圧が、登場人物たちにどのような影響を与えるのかを描いて行くことになる。彼らの心が、どの形をした陶器であり、その脆さがどのように物語を動かすのか、その視点を持って読むことが、物語をより深く理解する助けとなるだろう。
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