逃げて、生きて、

「助けて」――その言葉を、彼女は震える声でつぶやいた。

橘千早は、ずっとひとりで耐えていた。
家族に愛された記憶はなく、日々を生き延びるだけで精一杯だった。
ある日、限界を超えたその心は、衝動的に両親を殺してしまう。

血まみれの手で電話をかけた先は、たった一人の親友・夏目葉月。

言葉を聞いた葉月は、迷わなかった。
「大丈夫。私が、全部受け止める」
そう言って、千早の手を取り、ふたりは夜の街を逃げ出した。

行くあてもなく、ただ“生きる”ために。
夜行バスに揺られ、知らない街を歩き、身を潜める日々。
そのなかで、千早の心は少しずつ壊れていく。
血の幻覚、夢の中でよみがえるあの日の声。
何度も「もう無理だ」と言いかけた。

それでも、葉月はそばにいた。
怒ってくれて、泣いてくれて、黙って抱きしめてくれた。

罪からは逃れられない。
でも、それでも生きていたいと思った。
誰かと一緒に、生きたいと思った。

これは、「逃げる」ことでしか「生きる」ことができなかった、
ふたりの少女の、長くて、痛くて、それでもやさしい物語。
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