カガスタ!~元社畜ドルオタの異世界アイドルプロジェクト~

中務 善菜

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第六章:役割

85:スタート地点

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「……と、いうことになります」

 ミランダさんとの打ち合わせの内容を伝え、みんなの顔色を窺う。午前五時に集合なんて、青ざめてたりしないかな……?

 と思ったけど、思ったより疑問はないみたい。え、みんな早起き得意なの? 私は習慣化してたけど、異世界人って生活リズムが健康なんですね。ブラック企業とかないんだろうなぁ……最初からこの世界に生まれたかった。

 最初にアーサーくんが「ふむ」と声を上げる。

「早朝の稽古となると、睡眠時間はしっかり確保しておいた方がいいな」

「そうですね。体力をつけて臨んでいただきたいです」

「人前に出て、歌って踊るんだもんなぁ。“スイート・トリック”に稽古つけてもらうにしたって、ミカエリアの公演が終わったらまた遠征だろ? つまり、公演前には九十九点にならなきゃいけねーわけか……」

 ギルさんはある意味、最も常識に近いところにいる。現実と理想を分けて考えられる慎重さもあれば、理想は理想だと割り切るシビアさもあるかもしれない。

 上手くみんなと同じ熱量で臨んでくれればいいな……ギルさんに限った話じゃないけどね。イアンさんだって散々抵抗してたわけだし。

 逆に、メンバーの中で一番力が入ってるのは? 間違いなくアレンくんとアーサーくんだろう。エリオットくんも動機が動機だ、ティーンの若さと眩しさでみんなを引っ張っていってほしいところではある。

 案の定、及び腰のギルさんに反応したのはアレンくんだった。

「それくらい本気で手伝ってくれるんだ。オレたちだって半端な気持ちじゃいられないだろ」

「そうです! ぼくたち、アイドルになるんです! お客さんを笑顔にするのが仕事ですよっ!」

 追撃するエリオットくん。その表情はどこか興奮気味だ。アイドルとして必要な稽古がまだピンと来ていないんだろう。まあ未知の文化だし、当然ではあるか。

 絶対に厳しい稽古になるけど、折れないでほしいな。お姉さんに見つけてもらうため、っていう動機があるから大丈夫だとは思うけど。

 ギルさんは、やれやれと肩を竦める。この場面で茶化すようなことはしなかった。少し前に自分のことを「二人目」って言ってたけど、生まれ変わった……と、捉えていいのかな?

「わーってるよ、別におざなりにやるつもりはねーから。やるからには本気。イアンさんとネイトさんだってそうっしょ?」

「あ? 当たり前だ、半端な仕事なんざしねぇよ」

「無論です。本気で挑まねば、私の目的は果たせませんので」

 イアンさんも大丈夫そうかな。ネイトさんも。二人とも、腹を括るの慣れてそう。慣れるものなのかはわからないけど。

 明確な目的があるネイトさんはそのための努力を惜しまないだろうし、イアンさんは“リオ”に格好つけるために頑張るはず。その努力を、素直に受け取れないのは申し訳ないと思う。

 でも、安心はした。やっぱり私の目に狂いはなかった。みんな、ちゃんと頑張れる。アイドルの原石だった。内心、胸を撫で下ろす。それすら見透かしたか、オルフェさんが意味深に微笑んだ。

「きみが選んだメンバーだ、必然だよ」

「そうですね。オルフェさんも、頑張ってくれますもんね」

「うん、勿論。格好悪い姿は見せないさ」

 表情からは読めないけど、オルフェさんだって中途半端に取り組んだりしないはずだ。軽い気持ちだったなら、そもそもここにいないはずだから。

 アイドルを志願した理由を聞いてはいないけど、どこにも根を下ろさないオルフェさんの留めることは困難を極めるはずだ。

 その壁を乗り越えて、彼はここにいる。絶対に本気で挑んでくれる。ちゃんと頑張ってくれるって信じている。

「皆さん、ありがとうございます。それで、ですね。もう一つ、皆さんにお願いがあります」

 みんなの視線が集まる。私のアイドルが勇気を出して頑張ってくれるんだ、もう視線が怖いなんて言ってられない。

「先程ギルさんが仰っていたように、ミカエリアの公演が終わったら“スイート・トリック”の稽古は受けられません。稽古を受けて、さようなら。それだと、せっかくのチャンスを棒に振ることになります」

「……つまり、なんだってんだ?」

 イアンさんの声は微かに震え、表情も引きつっている。あなたのような察しのいい人はとても好感が持てますね。他の面々――特に、ギルさんは感づいているようだった。

 アレンくんはごくりと固唾を飲み、オルフェさんも目を伏せてる。ここにもいたね、察しがいい人。二人には特に負担をかけるから、ものすごく心が痛い。

 焦っているわけじゃない。けれど、早めに結果を出さなければイアンさんの身が滅ぶ。私としてはなんとしてでも避けたい。だから考えた。手っ取り早く認知度を上げ、かつ稽古にも俄然身が入るであろう最善策を。

「――“スイート・トリック”の春暮公演。その日、その会場を、皆さんのスタート地点にしたいです」

 =====

「ただいま、アミィ」

「リオ! オカエリ!」

 自室に戻るとアミィが駆け寄ってくる。うん、最初こそ驚いたし受け止められなかったけど、なんか可愛く見えてきた。抱いて寝るとぐっすり眠れるからね、余計に。

 現在、時刻は二十時。ベッドに寝転がればアミィがもぞもぞと懐に入り込む。充電のつもりなんだろうけど、まだ起きていたい。ごめんね、と言いながら手で額を押さえつける。ばたつくアミィだけど、手足が短いからまったく抵抗できていない、可愛い。

「……次の交渉は、私一人で行かないとだ」

 今回の提案は私の独断だ。ミランダさんとの打ち合わせでは言えなかった。怖すぎて。でも、足踏みしている時間すら惜しい。明日の稽古が終わったら“スイート・トリック”の支配人に相談してみよう。

 ……あれ? そう言えば、支配人の姿を見てなかったな。団員の稽古を見ていたりするものだと思ってたけど、そういうわけでもないのかな? 向かいがてら調べればいっか。

 これもまた商談か。営業の経験が活きているかはわからないけど、場数だけは踏んでいてよかったとは思う。つい苦笑してしまう。

「ねぇ、アミィ」

「なにー?」

「……私、頑張れるかな?」

「ダイジョブ! リオはガンバれる! アミィがホショウするよ!」

 この子、絶対根拠なく言ってる。見てこの天真爛漫なドヤ顔。いったいなにを保証してくれるのかな? わからないけど――私に必要だったのって、この子みたいな存在なのかもしれないね。

 弱音を吐いても受け止めてくれる存在。社畜時代、同僚には弱音より愚痴ばっかり吐いてたし。弱ったまま帰宅しても、両親は寝てるから頼れなかったし。いまになって人の温かさを知るなんて。

 ……あれ、待って。アミィは、人じゃないや……。
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