断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ

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第3話

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「……ねえ、みんな。私が死んだあと、何が起きると思う?」

処刑台の上。首輪の術式が喉に食い込むように光ってるのに、私は笑って見せた。

怖いから笑うんじゃない。

笑うと、“見てる側”は目を離せなくなる。前世で、何千回もやった。

空に浮かぶ巨大な水晶モニターには、私の顔と、流れる文字。

《ほんとに処刑?》

《王命に背くな》

《でも殺せないんだよね? いいね押した》

いいねが増えるたび、精霊力が私の背中を押す。首輪の術式が、じり、と嫌そうに火花を散らして止まる。

カイル王子は、柔らかい笑みのまま私を見下ろした。

“国民の前では”完璧な王子。

その目だけが、私の喉元の首輪じゃなく、私の手の精霊石を見ている。

奪う算段。黙って殺して終わらせる算段。全部、顔に出てる。

「スカーレット。無駄な抵抗はやめろ。君が罪を認めれば、名誉だけは——」

「名誉?」

私は首を傾けた。

「ねえ、カイル殿下。あなた、“私が死んだあと”の予定、もう入れてるよね」

群衆がざわつく。モニターのコメントも早くなる。

《予定って何》

《処刑後の予定?》

《そんなのあるの?》

カイルの笑みが一瞬だけ固まった。

その瞬間を逃さず、私は精霊石を握り直す。

「配信ってさ、視聴者が一番欲しいのは“感想”じゃない。証拠だよ。証拠が出た瞬間、物語が反転する」

私は指を鳴らす代わりに、精霊石へ意識を刺した。

全域リンク。水晶灯ネットワークの“受信”に、私の“送信”を噛ませる。

この世界の王命放送に、私の配信を割り込ませる。

王家の喉元に、素手で指を突っ込むみたいな行為。

だから禁忌。

でも、今の私は処刑台の上。これ以上失うものがない。

「じゃあ、第一の証拠いくね」

モニターが一瞬、雪みたいに乱れた。

次の瞬間、画面いっぱいに映ったのは——手紙だった。

上質な紙。王家の封蝋。薄い金の縁取り。

そして何より、見慣れた筆跡。

カイル王子の、癖のある署名。

《え、手紙?》

《それ誰の》

《王家の封蝋じゃん》

私は読み上げる。噛んで聞こえない、なんて逃げ道を与えないように、ゆっくりと。

「『聖女エレーナへ。今夜、北塔の回廊で。例の件は処理が済み次第、国費で海辺へ。君の“癒やし”が必要だと、民にはそう説明する』」

群衆のざわめきが、ひとつ上の音に跳ねた。

“リリア”の名前じゃない。

“エレーナ”だ。

聖女は一人じゃない。けれど、表に出ているのは清廉なリリアだけ。もう一人の聖女の存在は、宮廷の奥で都合よく隠されている。

そして今、その名前が全国に流れてる。

《エレーナって誰》

《聖女はリリアだけじゃないの?》

《国費でバカンス??》

私は続けた。

「『スカーレットの断罪は明日の正午。民衆の感情が燃え尽きる前に、君と私は王都を離れる。君の衣装は白でいい。海の青に映える』」

誰かが、台の下で叫んだ。

「ふざけるな!」

怒りの矛先が、私じゃなくなっていくのがわかる。

これが“流れ”だ。

多数派の視線が向いたほうが、真実になる。

カイルは笑みを保とうとした。けれど口角が引きつって、頬がわずかに痙攣した。

「捏造だ。そんな手紙、私は——」

「捏造なら簡単に証明できるよね」

私はさらりと言った。

「筆跡鑑定。封蝋の管理記録。紙の流通経路。王家は“記録が大好き”だもん。残ってるよ、全部」

カイルの目が細くなる。

ああ、この顔。

“民衆の前で怒れない”男の顔。

私はそこへ、もう一押しする。

「それにさ。これ、ただの恋文じゃない」

モニターの手紙の下部を、精霊石で拡大した。

小さく添えられた追伸。

『処刑台の首輪は、祈りの過剰で弾かれる恐れがある。必要なら“観衆の熱”を冷ます策を使え。——K』

一瞬、広場が凍ったみたいに静かになった。

コメント欄だけが、遅れて爆発する。

《観衆の熱を冷ます策??》

《つまり殺すために民を黙らせるってこと?》

《首輪が弾かれるの知ってたの!?》

私は息を吐く。喉の首輪が、精霊力に押されて鳴る。ギチ、と嫌な音。

「殿下。あなた、知ってたんだね」

「民の祈りが集まると、処刑の術式が弾かれる。だから私は“配信”で守られてる」

「でも、あなたはそれを“冷ます策”で無効化しようとしてた」

私は笑う。今度は怖さじゃない。

「ねえ、みんな。ここで質問」

私はモニターの向こう、全国の広場へ視線を突き刺す。

「私の罪状は、こうだよね。王太子を誑かした。聖女リリアを陥れた。王国を混乱に陥れた」

「じゃあ、今この手紙で混乱を起こしてるのは誰?」

群衆の誰かが答えを飲み込む音がした。

カイルは一歩、私に近づいた。護衛が止めようとしても、王子は止まらない。

小声で、唇だけ動かす。

「……その石を渡せ」

私も小声で返す。

「嫌。だって、これ握ってる限り、あなた私を殺せないもん」

カイルの目が、私の耳元の首輪へ動いた。

次に、群衆へ。

そして最後に、空のモニターへ。

彼は理解した。

“この場”そのものが、もう私の武器だと。

私は声を大きくする。

「まだ第一の証拠だよ」

「次はね。殿下が“観衆の熱を冷ます策”として何を用意したか——それを今から、ここで映す」

カイルの顔色が、初めてはっきり変わった。

その瞬間、モニターの端に新しい通知が浮かぶ。

《王宮発:緊急放送を上書きします》

……あ、来た。

王家が、配信を潰しにきた。

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