断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ

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第4話

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「……おい。誰が、こんな余興を許した」

カイル王子の声が、処刑台の空気を切り裂いた。

優しい王子の仮面はもう無い。

顔の筋肉だけが笑って、目だけが本気で私を殺していた。

「余興じゃないよ。これ、公開裁判。全国同時のね」

私は喉の首輪に指を添える。

光はまだ食い込んで痛いのに、いいねの精霊力が背中を支えて、術式の刃を鈍らせていた。

水晶モニターには、コメントが滝みたいに流れる。

『王子、顔こわっ』

『今の声、素じゃない?』

『スカーレット話して! 証拠もっと!』

私は笑った。

前世で何度も見たやつだ。炎上した側が、いちばん本性を見せる瞬間。

「スカーレット・ルージュ!」

カイルが一歩踏み出す。

その足取りだけで分かる。彼は“今すぐ終わらせる”つもりだ。

「禁忌の精霊石だと? 王家の宝物庫にあるはずのものを、なぜ貴様が持っている!」

「さあ? 誰かが落としたんじゃない?」

煽ると、彼は簡単に乗る。

外面で積み上げた信用は、内側が空洞だから崩れるのも速い。

「ふざけるな!」

カイルの怒鳴り声に、群衆が一斉に息を呑む。

処刑台の下で、兵士たちの槍が揺れた。

そして王子は、口角を吊り上げたまま命じた。

「兵士! その石を叩き割れ! 配信を止めろ!」

兵士が二人、階段を駆け上がってくる。

一人は戦槌。もう一人は剣。

どっちも“壊す”ための武器だ。

でも――私は、わざと石を高く掲げた。

「みんな、見てて」

禁忌の精霊石は、私の掌の上で淡く脈打つ。

宝石っていうより、光そのものが固まったみたいだった。

兵士の戦槌が振り下ろされる。

ガンッ、と鈍い音。

……なのに、手応えがない顔をする。

石は砕けない。

欠けもしない。

槌のほうが、微妙にひしゃげた。

「な、に……?」

兵士がもう一度、今度は全力で叩く。

三度目で、戦槌の柄が悲鳴を上げて割れた。

石は、無傷のまま、私の指先で静かに浮いていた。

「物理攻撃、効かないよ」

私は淡々と言う。

「これ、“石”って呼ばれてるけど、実体じゃない。高密度の精霊体。つまり、概念に近い」

カイルの眉がぴくりと動く。

理解したくない、って顔だ。

剣の兵士が歯噛みして、横薙ぎに斬りつけた。

刃は、石をすり抜けた。

正確には――すり抜けた瞬間、刃が白く霜を吹いた。

精霊力が逆流して、金属の温度を奪ったのだ。

兵士は悲鳴を上げ、剣を取り落とす。

「うわっ、冷っ……!」

私は首輪の痛みに耐えながら、実況するみたいに続ける。

「壊そうとしたら、精霊力の反作用が返る。乱暴に触れば触るほど、そっちが損する仕様」

水晶モニターがざわつく。

コメントが、怒涛のように増える。

『マジで無敵じゃん』

『王子、詰んでない?』

『兵士かわいそう』

『禁忌ってそういう……』

いいねが跳ね上がる。

精霊力が私の背骨を一本ずつ立て直していく感覚がした。

首輪の術式が、火花を散らして止まりかける。

カイルが、喉を鳴らした。

「……なら、奪えばいい」

「奪えると思う?」

私は石を握り込まない。

握る必要がないから。

私の意思に反応して、石は私の周囲を衛星みたいに回っている。

「精霊体は、所有者の“同意”がないと定着しない。奪った瞬間、ただの光になって散る」

「黙れ!」

カイルは叫んだ。

その声は、もう王子のものじゃない。

“片付け損ねたゴミが喋っている”とでも言いたげな、腐った権力者の声だった。

「お前は死ぬ。今ここで死ぬんだ!」

「そう。死ぬ予定だった」

私は頷く。

あえて認めると、相手は余計に焦る。

「でもね、配信が続く限り――私は死ねない」

カイルの視線が、首輪に落ちる。

術式が決め手の処刑具。

それが、いいねの精霊力で弾かれている現実。

彼の顔から血の気が引いた。

「……まさか」

「王家が作った安全装置だよ。民の信仰が強い場所で、公開処刑が暴動の引き金にならないように」

私は笑う。

皮肉って、こういう時に一番効く。

「あなたたちが“民の声”を利用してきたから。今度は、民の声が私を守る」

コメントがさらに加速する。

『王家の自爆装置w』

『スカーレット守れ! いいね押せ!』

『これが多数派の力か……』

カイルは、一瞬だけ周囲を見回した。

処刑台の下の群衆。

各地の水晶灯の向こうにいる“見えない群衆”。

自分が支配してきたはずの多数派が、今は私の味方になりつつある。

その事実が、彼の喉を締めた。

「……お前が何を言おうと、罪は消えない」

「罪状?」

私は指を三本立てた。

「王太子を誑かした。聖女リリアを陥れた。王国を混乱に陥れた」

わざと、世間が信じてる物語をそのまま口にする。

「ねえカイル。これ、誰が書いた筋書き?」

彼の瞳が揺れる。

ほんの一瞬、逃げ場を探す獣の目になる。

私はその瞬間を逃さず、声を落とした。

「私、もう一人の聖女――エレーナ宛の手紙を持ってる」

カイルの顔が、凍った。

「……そんなもの、あるはずがない」

「あるよ。しかも、あなたの字で」

私は石を指先で弾く。

すると空中の光が収束して、モニターの端に“次の映像を出せる”みたいな枠が一瞬だけ浮かび上がった。

カイルが反射的に叫ぶ。

「やめろ! それを映すな!」

その叫びが、答えだった。

私は首輪の痛みをこらえて、笑った。

「やめない。だって――みんな、真実が見たいって言ってる」

次の瞬間。

水晶モニターの枠が、ぱちん、と開いた。

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