断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ

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第14話

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首輪が、ちり、と鳴った。

私が息を吸っただけで、喉元の術式が脈を数えるみたいに光る。

走れない。叫べない。暴れたら、私の喉が裂ける。

「……リオン」

水晶モニターの中、王城地下の旧拘禁区画。縄で縛られて、口を塞がれた弟が、こちらを見て瞬きをした。生きてる。だからこそ、最悪だ。

弟が“人質”である限り、私はカイル王子を追い詰めきれない。

追い詰めた瞬間に、弟が消される。

「ねえ、みんな」

私は処刑台の上で、息を殺して笑った。笑うしかない。泣いたら心拍が跳ねて首輪が反応する。

「いま、王子は私を殺せない。全国が見てるから」

「でも――弟は、今日中に“処理”される」

言った瞬間、空がざわめいた。文字が降ってくる。怒りの粒が精霊力になって、空気が一段重くなる。

【ふざけんな】

【王城地下!?】

【近衛第三!?】

【今日中に処理って何だよ】

「そう。みんなが怒ってるの、わかる」

私は指先を震わせないように、掌を開く。禁忌の精霊石が、私の意思に合わせて光の輪になった。

「でも怒りは、狙いを間違えると“私の弟”が死ぬ」

ここで私が言うべきは、復讐の扇動じゃない。

“逃げ場のないジレンマ”を、王子の喉元に押しつけること。

その時だった。広場の奥、群衆の波が変なうねり方をした。

石畳を叩く音。鍋蓋を鳴らす音。怒号。

処刑台の下にいた衛兵が、青ざめて後退する。彼らは訓練されてる。暴徒に慣れてる。なのに、目の前の“数”に慣れていない顔をした。

王都広場の外側から、人が溢れてきた。

「王子を出せ!」

「聖女は二人だって!? 隠してたのは誰だ!」

「孤児院を存在しないことにして、金だけ吸ったのは誰だ!」

私の配信が、ただの見世物から、国家の神経に刺さる針に変わった瞬間。

空のコメント欄が、急に赤黒い色に染まった。

【カイル殺せ】

【王子の首を落とせ】

【今夜、王城燃やす】

【第三騎士団、皆殺し】

【処刑台で逆に処刑しろ】

私は背筋が冷えた。

これ、支持じゃない。正義でもない。群衆が作る“真実”の、いちばん危険な形だ。

多数派が決める真実は、正しいとは限らない。ただ、強い。

「待って」

私は声を張り上げたかった。けど、首輪が脈を拾って光が鋭くなる。だから、ゆっくり、息を吐きながら言う。

「殺害予告は、王子を助ける」

【は?】

【何言ってんだ】

コメントが跳ねる。怒りが増幅する。空気がさらに重くなる。

「いま王子が欲しいのは、“私が危険な扇動者”っていう絵だよ」

「『民が暴れたから仕方なく鎮圧した』って言えば、弟を地下で処理しても、全部“暴徒のせい”にできる」

私は喉元に触れないように、顎を上げた。首輪がちり、と鳴る。

「ねえ。あなたたちの怒りは本物。でも、王子は“本物の怒り”を燃料にして、嘘を完成させる」

広場のどこかで、石が投げられた。衛兵の盾に当たって乾いた音がする。

カイル王子は、処刑台の脇で、優しい顔のまま私を見ていた。

“いい人”の仮面。あれで民の怒りを受け止めて、最後にこう言う。

「スカーレットが民を煽った。私は悲しいが、秩序のために――」

その台本が、手に取るように見える。

私は配信の枠を指でなぞった。支持率の表示が、じわじわ上がっている。

でも、同時にコメント欄が殺意で埋まるほど、精霊力は“刃”になる。防壁にもなる。暴動にもなる。

「お願い」

私は初めて、視聴者に頭を下げた。悪役令嬢としてじゃない。弟の姉として。

「王子を殺すな。殺すなら、証拠で殺して」

「王子が逃げられない形で、全国の前で、息ができないくらいに追い詰めて」

空の文字列が、一瞬だけ止まった。

その沈黙を破ったのは、王都広場の外から響いた、地鳴りみたいな足音だった。

デモの列が、王城へ向かって動き出している。

衛兵が叫ぶ。門が閉まる。けど、群衆は止まらない。

そして、コメント欄に新しい一行が流れた。

【王城地下への入口、旧水路だ。案内できる】

私は息を呑んだ。

助けになる。けど――それは同時に、弟のいる場所へ“民衆”が雪崩れ込むってことでもある。

カイルが笑った。声は届かない距離なのに、口の形でわかった。

「いいね。燃えてきた」

次の瞬間、首輪が私の心拍に合わせて、鋭く光った。

まるで警告みたいに。

“動けば死ぬ”のは、私だけじゃない。弟もだ。

私は空を見上げ、精霊石を握りしめた。

この怒りを、刃にするか。盾にするか。

間違えたら、弟が――今日中に消える。

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