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第16話
しおりを挟む国王の喉が、ぴくりと動いた。
「配信を止めろ。これは王命だ」
王命。便利な言葉。
でも今ここは、私の枠だ。全国の水晶灯、空の巨大モニター、コメント欄。全部、私の“視聴者”が繋いでる。
私は処刑台の上で、わざと息を整えた。
首輪の術式が心拍に合わせて「ちり……」と鳴る。走れない。叫べない。暴れたら喉が裂ける。
だから私は、最小の動きで最大の効果を狙う。
「陛下。止めたいのは秩序のためじゃない」
私は笑わない。笑うと“演技”に見えるから。
淡々と言ったほうが、人は怖がる。
国王の目が、私の手元――禁忌の精霊石に吸い寄せられる。
その視線の先で、空のコメントがざわついた。
【王が焦ってる】
【なんでそんなに止めたい】
【見られたくないもの?】
「……衛兵!」
国王が叫ぶ。
でも衛兵は、処刑台へ一歩踏み出した瞬間、見えない壁に額をぶつけた。
支持の防壁。
いいねが、世界の物理法則に割り込んでいる。
私は精霊石を、指先でくるりと回す。
「じゃあ、見られたくないもの。見せますね」
全域リンク。
水晶灯ネットワークに、送信を噛ませる。
映像じゃない。今回は“ズーム”だ。
「焦点、王座前。国王の右腕」
私が囁いた瞬間、空の巨大モニターがぎゅっと絞られる。
国王の豪奢な衣の袖口。
その内側。
国王が反射的に袖を引く。隠す。
隠した、という行動がもう答えだった。
「……やめろ」
声が裏返った。
モニターがさらに寄る。
布地の隙間から覗いた肌に、黒い線が走っている。
ただの刺青じゃない。線が生き物みたいに脈打って、微かに赤い光を孕んでいる。
刻印。
しかも、禁忌の紋章。
【なにそれ】
【腕に紋章?】
【魔教団のやつじゃ…?】
コメント欄が、嫌な速度で賢くなる。
民衆は愚かじゃない。
“材料”さえ出せば、勝手に結論へ走ってくれる。
私は言葉を足した。
「この国で“魔女”と呼ばれるのは、禁忌に触れた者」
「そして禁忌に触れた者を狩るのは、魔教団」
「なのに――陛下。あなたの腕には、その魔教団の刻印がある」
国王の顔から血の気が引いた。
否定しない。できない。
ここまで寄った映像は、もう誤魔化せない。
「それは……古い傷だ」
苦し紛れの嘘。
傷は脈打たない。
私は、さらに踏み込む。逃げ場を潰す。
「刻印の線が動いてる。精霊力に反応してる」
「つまり、それは“契約”の印です」
国王の背後で、重臣たちが一斉に息を呑んだ。
誰も口を挟まない。挟めない。
自分も巻き込まれるのが分かってるから。
【王家が魔教団と繋がってる?】
【魔女狩りって…口封じ?】
【禁忌に触れた者を狩る側が禁忌持ってるの草】
草、じゃない。
笑いは刃だ。
嘲笑は、権威を一瞬で骨にする。
国王が震える声で言った。
「スカーレット……貴様は、国家を滅ぼす気か」
私は頷かない。否定もしない。
代わりに、問いを置く。
「陛下。国家って、誰のものですか」
「王家のもの?」
「それとも、今日まで税を払い、子どもを飢えさせ、孤児院を“存在しない”ことにされても耐えた民のもの?」
国王の瞳が揺れた。
揺れた瞬間、空のコメントが怒りに変わる。
怒りが精霊力になる。
空気が重くなって、処刑台の周りの石畳がきしんだ。
「……やめろ。配信を止めろ!」
国王が椅子から立ち上がり、袖を押さえたまま後ずさる。
その動きが、もう“黒”だった。
私は最後の釘を打つ。
「王家が悪魔と契約してる」
「だから禁忌の精霊石は宝物庫にあった。だから“魔女狩り”が必要だった」
「禁忌に触れた者を狩れば、契約の痕跡を消せるから」
【契約って何のため】
【王家が守ってるのは国じゃなく自分達じゃん】
【じゃあ処刑も…?】
――そう。処刑も。
私の罪状三点セットも、全部。
“世間が信じる物語”を作るための脚本。
私は国王を見つめた。
「陛下。あなたが止めたいのは配信じゃない」
「真実が多数派に届くこと、でしょう?」
首輪が「ちり……」と鳴った。
心拍が上がってる。危ない。
それでも私は、声の温度を変えずに言った。
「じゃあ次、見せますね」
「その刻印が、いつ、誰と、どんな契約で刻まれたのか――王家の“契約書”を」
国王の顔が、初めて完全に崩れた。
同時に、広場のどこかで鐘が鳴る。
そして空のコメント欄に、見慣れない赤い文字が割り込んだ。
【魔教団:回収対象を確認】
【配信者:魔女認定】
【処理を開始します】
……来た。
私を狩る側が、ついに表に出る。
リオンを人質にしてるのは王子。
でも私を“魔女”として殺しに来るのは、国家が飼ってる怪物だ。
逃げ道はない。
だから――ここで、逆に狩る。
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