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第20話
しおりを挟む白い礼装が、私の身体に“定着”したまま、風に揺れている。
囚人服のはずだった布はもうない。
代わりに、精霊文字みたいな刺繍が、勝手に私を「聖女っぽく」見せてくる。
最悪。
でも――最高。
だって、この世界は“見え方”で票が動く。
真実より、映える方が勝つ。
空の巨大モニターに、支持率【40%】が点滅していた。
コメントが雨みたいに降ってくる。
【白い……】
【処刑台でそれは反則】
【え、聖女どっち!?】
私は喉の首輪をそっと指で触れないようにして、禁忌の精霊石に合図する。
声は出ない。
だから、枠のテロップで殴る。
《ティータイム、始めます》
ざわっ、と広場が揺れた。
カイル王子が、目を見開く。
「……ふざけるな、スカーレット!」
彼は“いい人の顔”を作ろうとした。
眉を寄せ、民を守る王太子の悲しみを演出する。
でも、もう遅い。
光の檻が、彼の背後でぎし、と音を立てて狭まった。
多数派が「逃がさない」を選んだ結果だ。
彼の優しさは、檻の中じゃただの泣き言になる。
私は処刑台の上に、何もない空間から白い卓を引きずり出す。
正確には、“引きずり出したように見せた”。
精霊力は、感情に反応する。
「そう見たい」と思われたら、現実は寄ってくる。
次に、ティーカップが二つ。
ソーサーが二枚。
茶葉の香りまで、ちゃんとある。
――誰かが、私に飲ませたい毒を用意していたときのために。
前世の私は、ライブで何度も学んだ。
「安心」を演出すると、人は油断する。
カイルが唇を噛む。
「そんな小細工で民衆を――」
私はテロップを重ねる。
《王太子殿下。座って》
命令じゃない。
“投票のお願い”だ。
空に選択肢が出る。
【A:王子は立ったまま】
【B:王子は座る】
【C:王子は地面に這いつくばる】
一瞬、間が空いた。
次の瞬間、コメントが爆発した。
【C】
【Cでしょ】
【這え】
【まず土下座から】
支持率が、ぐっと上がる。
精霊力が濃くなる。
光の檻が“多数派の空気”を読み取って、形を変えた。
カイルの膝が、がくんと落ちた。
「っ……!?」
彼は抵抗しようとした。
でも、抵抗の形が滑稽だった。
檻は暴力じゃない。
“民意”だ。
彼の手が石畳につく。
次に、額。
最後に、腹ばい。
王太子が、地面に這いつくばっている。
全国中継で。
私はカップに紅茶を注ぐ。
カイルの方には注がない。
二つあるのに、あえて一つだけ。
それだけで伝わる。
あなたは同席者じゃない。
見世物だ。
カイルの声が震える。
「……やめろ。王家への侮辱だ」
国王の方を見る。
助けを求めるように。
でも国王は動けない。
右腕の刻印が、ぴくぴくと脈打っているのが見える。
――ああ。
“見られたくない”って、そういうこと。
私は一口、紅茶を飲む。
喉の首輪が、ちり、と鳴った。
心拍に合わせて術式が喉を測る。
「ここで興奮したら死ぬよ」と言っている。
だから私は、逆に落ち着く。
落ち着いた女は強い。
処刑台の上でティータイムをする女は、もっと強い。
《ここまでのまとめ》
テロップが空に浮かぶ。
《罪状①王太子を誑かした→誑かされてたのは私》
《罪状②聖女リリアを陥れた→聖女は一人じゃない》
《罪状③王国を混乱に→混乱を作ったのは“隠蔽”》
コメントが止まらない。
【もう王子無理】
【国王の腕のやつ何】
【弟くん助けて】
弟。
リオン。
地下の旧拘禁区画。
今日中に処理。
最悪のカードが、まだ喉元に刺さったままだ。
私はここで勝ち切れない。
勝ち切った瞬間に、弟が消される。
だから私は“予告”にする。
今夜、燃やすのはここじゃない。
ここは、第一章の締め。
私はカイルのすぐ前まで歩く。
走れない。
叫べない。
でも、歩ける。
彼は地面に張り付いたまま、私を睨んだ。
その目だけは、まだ王太子のつもりだ。
私は微笑む。
前世の私が、炎上案件の相手に向けてきた、いちばん冷たい笑顔。
《次の暴露は――“王家の宝物庫”です》
カイルの瞳孔が縮む。
一瞬で理解した顔。
宝物庫。
禁忌の精霊石が「本来あるはずの場所」。
そして、彼が私に贈った“宝石”。
私を破滅させるための罠。
私はカップを置き、テロップを最後に叩きつける。
《カイル殿下。あなたが私に贈った宝石、誰の“契約”の印でした?》
首輪が、ちり、と鳴った。
心拍が跳ねる。
死の引き金が、喉元で笑う。
それでも私は、逃げない。
空のモニターに、新しい投票枠が自動生成される。
【次回、宝物庫を開ける:YES/NO】
コメントが一斉に叫んだ。
【YES】
【開けろ】
【見せろ】
光の檻が、きゅ、と音を立てて締まる。
カイルが、初めて本気で怯えた。
そして私は、紅茶の香りの中で確信する。
真実は、いつも多数派が作る。
なら――私が、多数派を作る。
次の十分で。
王家の“中身”ごと。
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