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第26話
しおりを挟む王妃の一歩で、広場の膝がまた落ちた。
私の意思じゃない、って顔をしながら。
ああ、最悪。
「多数派が現実を決める」この世界で、王妃は“多数派っぽさ”を踏みつけで作れる。
その横で、聖女エレーナが微笑む。
白い紋は、もう灰色に濁っているのに。
喉の首輪が「ちり…」と鳴った。
心拍を測る、刃の前触れ。笑うな、怒るな、叫ぶな。
私は息だけで、配信を回す。
――吸ってる。
エレーナの周りで、精霊の粒が細く削られていく。
浄化じゃない。魔力吸収の呪い。
だけど、いま私がそれを叫べない。
声が出ないからじゃない。
興奮すれば、首輪が私を裂く。
なら、やり方を変える。
“正しさ”を叫ぶんじゃない。
“選ばせる”。
禁忌の精霊石が、私の意図を拾う。
空の巨大モニターに、テロップが落ちた。
【提案】
【公開裁判を“次の段階”へ移行します】
【視聴者参加型アンケート:王太子カイルの罪状を、あなたが選んでください】
広場がざわめき、全国の水晶灯が一斉に揺れた。
帝国語、隣国語、交易都市の方言まで、翻訳字幕が勝手に整列する。
コメントが降る。
【え、選べるの?】
【罪状って、もう決まってるんじゃ】
【国家のため(爆笑)】
王妃の目が細くなる。
カイルは光の檻の中で、唇だけ動かした。
「……やめろ」って、言ったつもりだろう。
私は息を整えた。
首輪が鳴らない速度で。
そして、もう一枚テロップを落とす。
【注意】
【選択された罪状は“精霊契約”として裁判に反映されます】
【多数派の意思=現実です】
王妃が初めて、表情を崩した。
多数派を“跪かせる”のは得意でも、多数派に“決めさせる”舞台は危険。
だってそれは、王家の手から離れる。
エレーナは聖女らしい声で言った。
「民の皆様。惑わされてはいけません。罪は法が決め――」
その瞬間、彼女の周囲の精霊がまた削れた。
吸ってる。
なのに、彼女は“浄化の光”みたいな顔をする。
私はテロップで刺す。
声じゃなく、問いで。
【質問】
【聖女の力は“浄化”ですか? それとも“吸収”ですか?】
【※別アンケート:同時開催】
コメントが爆発した。
【今の見た、黒い糸】
【精霊が逃げてる】
【聖女って何だっけ】
王妃の圧が強まる。
空気が「跪け」と命令してくる。
でも、配信枠の上では別の命令が走った。
“選べ”。
空に、選択肢が四つ、でかでかと出る。
【アンケートA:カイルの罪状】
①【弟リオン監禁・殺害未遂(人質)】
②【公文書偽造・告発文捏造(筆跡一致98.7%)】
③【税務印章悪用・孤児院隠蔽(王太子承認印)】
④【王家紋章改ざん・禁忌契約疑惑(赤黒い反応)】
カイルの顔色が変わった。
どれも、もう“疑惑”じゃない。
配信で全国が見て、数字が出た。筆跡一致も、通行札も、第三騎士団も。
彼は理解したんだ。
ここで私を黙らせても、罪状が残る。
多数派が選んだ瞬間、精霊力が“判決の形”を作る。
王妃が低く命じた。
「投票を止めなさい」
衛兵が動く。王城のサクラが、また叫ぶ準備をする。
でも空には、すでに投票のバーが伸び始めていた。
国境の向こうからも票が入る。
「王国の秩序」の枠を、世界が踏み越えてくる。
【①が伸びてる】
【弟の件は一線超えてるだろ】
【③もやばい、孤児院を“存在しない”扱いは国家犯罪】
【④選ぶ、王家そのものが偽物なら革命】
喉の首輪が「ちり…」
心拍が上がりかける。
私は、息で自分を抑えた。冷静に。冷酷に。
だって、ここからが地獄だ。
どれが選ばれても、カイルは詰む。
そして詰んだ瞬間――弟リオンは「今日中に処理」される。
私は最後のテロップを落とした。
視聴者に、刃を握らせる。
【最終確認】
【あなたが選んだ罪状で、カイルは裁かれます】
【その代わり――弟リオンの命の保証は、まだありません】
【それでも、押しますか?】
投票画面が、赤く点滅した。
次の一票が入ったら、もう戻れない。
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