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第27話
しおりを挟む王妃の“圧”が、広場の空気を踏み固めた。
膝が落ちる。私の意思じゃない。全国の水晶灯の向こうでも、同じ現象が起きてるのがコメントで分かる。
エレーナは祈るみたいに両手を胸の前で組んだ。
その白い紋は、もう白じゃない。灰色に濁って、細い黒糸が絡みついている。
――吸ってる。
精霊たちが、逃げ腰で震えてる。浄化じゃなくて、吸収の呪い。
私は叫べない。
首輪が心拍を測って、ちり…と鳴るたび、喉の奥が“刃”を思い出す。興奮したら終わり。
だから、息だけで戦う。
禁忌の精霊石に、短く合図した。
空の巨大モニターに、テロップが落ちる。
【次は“お金”の話。飢えた国の上に、宝石が積まれている】
ざわめきが、精霊力の粒になって降ってくる。
王妃が作ろうとしてる“多数派”と、私が引きずり出す“多数派”が、空中で殴り合ってるみたいに重い。
カイルは光の檻の中で、立てないまま唇だけ動かした。
「……それは、国家機密だ」
私には声がない。代わりに、テロップで返す。
【機密にしたのは、飢えた民に見せられないからでしょ】
精霊石が熱を帯びる。
私は“素材”を投げるだけ。判決を形にするのは、多数派だ。
画面が切り替わる。
王城の宝物庫――じゃない。宝物庫の“外”。王都の地図が、空に広がった。
地図の上に、赤い点が一つ、また一つ。
点は宝石みたいに光って、勝手に増えていく。
テロップ。
【王家宝石コレクション/購入・保管リスト(抜粋)】
【出典:王家会計台帳/第七区税務印章/王太子承認印】
王妃の眉が、わずかに跳ねた。
“圧”が強くなる。跪かせて、見ないふりをさせたい。
でも、もう遅い。
だって地図は、国民が一番分かる形で出してしまった。
【王都北:銀鴉通り 17番倉庫 “紅涙のルビー” 12粒】
【港湾区:第三冷蔵倉 “月白の真珠” 8箱】
【王都西:旧造幣局地下 “蒼雷のサファイア” 首飾り一式】
コメントが、怒りの槍みたいに降ってくる。多言語で、翻訳字幕が勝手に整列する。
【パンがないのに宝石!?】
【倉庫の場所まで出してて草】
【地図付きは反則】
【奪いに行けってこと?】
――違う。
奪わせたいんじゃない。
“見せたい”。
飢えた国の現実と、王家の贅沢が、同じ一枚の地図に載ってるってことを。
私は息を整える。
首輪が、ちり…と鳴る。心拍が上がりかけたのを、噛み殺す。
次のページ。
宝石の“購入日”が並ぶ。
【購入日:昨冬の配給削減決定の翌日】
【購入日:飢饉対策予算ゼロ決裁の同日深夜】
【購入日:第七区“重税”徴収の週】
王妃が一歩踏み出した。
圧が、私の肺を押しつぶす。
でも、苦しいほどに、精霊力も集まる。民の怒りが燃料になる世界だ。
エレーナが微笑んだ。
「民の不満を煽るのは、罪ですわ」
その言葉の裏で、吸収の呪いが、精霊を削っていく。
私はテロップで切り返す。
【煽ってない。台帳を読んでるだけ】
【飢えを作った人が、“不満”って言葉で蓋をするの?】
カイルの視線が、地図の赤点を追っている。
あれは“逃げ道”じゃない。
“証拠の場所”だ。
ここで私が王家を追い詰めすぎたら、リオンが今日中に処理される。
それが私のジレンマ。逃げ場はない。
でも、逆に言えば。
王家が“宝石の場所”を守るために動けば、地下の旧拘禁区画から手が減る。
私は息だけで、最後の仕掛けを落とす。
【投票】
【選択肢:宝石回収より優先すべきは?】
【A:飢えの配給 B:監禁された少年の救出 C:王家の名誉】
空が静まり、次の瞬間、数字が跳ね上がった。
多数派が、現実を選び始める。
王妃の“圧”が、初めて揺れた。
そして私は、首輪の震えを感じながら確信する。
この投票結果が出た瞬間――地下の扉が、開く。
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