42 / 100
第42話
しおりを挟む「投票、止めないで」
私は声が出ないから、空に落とすテロップは短くする。
【投票は残り2:13】
残り時間の数字が、弟の命の砂時計みたいに見えた。
Aなら、私が勝つ。真実が勝つ。
でも投票が確定した瞬間、地下の扉が開いて、リオンが“処理”される。
勝ったら弟が消える。負けたら私が有罪で処刑され、弟も消える。
逃げ道がない。
だから私は、勝ち方を変える。
「……見せる」
息だけで言うと、首輪が「ちり…」と喉を測った。
笑うな。怒るな。泣くな。
心拍を上げたら、私が裂ける。
私は、壇上の空に資料を出した。
【特別枠:領地経営改善案/提出者:スカーレット・ルージュ】
観客がざわめく。王家側の役人が顔色を変える。
だってこれは、本来“私が死んだ後”に焼かれるはずの紙束だ。
国王の心音字幕が、勝手に走った。
【(本心)そんな余計なものを映すな。枠を切れ。地下を閉じろ】
コメントが降る。
【切れないだろ、今“多数派”が見てる】
【枠切ったら証拠隠滅って自白してる】
私は、頷かない。頷いたら心拍が跳ねる。
ただ、次の画面へ送る。
【結論:私の領地が豊かな理由は「優しさ」じゃない。「仕組み」です】
まず地図。
王国全土の収穫量の分布が映る。
そして、ひとつだけ色が違う。
私の領地だけ、異様に濃い。
【王国農政統計:領地別収穫指数/ルージュ領:1.84(全国1位)】
【飢饉年でも0.92(全国平均0.51)】
「魔女が呪いで豊かにした」
そう言いたい人は、ここで言えばいい。
私は先に潰す。
【魔術は使っていません。使ったら帳簿に残ります。残っていません】
帳簿のページがめくられていく。
税務印章。王太子承認印。
これが“正規の流れ”だと、全国がもう知っている。
だから私は、その正規の流れを、豊かさに変えた手順を見せる。
【1:徴税を「現金」から「現物+労働」へ分散】
【現物:麦・豆・塩/労働:街道補修・灌漑清掃】
金だけ集めると、盗まれる。
途中で掠め取られる。
現物と労働は、掠め取りにくい。
さらに、次。
【2:倉庫を「王都集約」から「村ごとの小分け」へ】
【貯蔵は三層:村倉→郡倉→領倉】
飢饉の年に死ぬのは、食料が無いからじゃない。
運べないからだ。
街道が崩れ、馬が倒れ、途中で奪われる。
だから私は、運ばなくていい形にした。
コメントが増える。
【当たり前なのに誰もやらないやつ】
【王都が握るから腐るんだよ】
国王の心音字幕。
【(本心)そんな情報、民に与えるな。王都の権限が削れる】
私はその字幕を、見ていないふりをして続ける。
【3:種の管理を「貴族の私物」から「共有台帳」へ】
【種子貸与:返却は収穫の1.2倍】
借りたら返す。返したら次の年も借りられる。
たったそれだけで、農民は種を食い潰さずに済む。
飢饉が来ても、翌年に再起できる。
【4:水利を「領主の見栄」から「村の当番制」へ】
【灌漑:月1清掃/不参加は罰金ではなく“次回の水番を減らす”】【】
罰金は、払えない人を潰す。
当番制は、払えない人を残す。
残すことが、次の年の収穫になる。
私は息を整えた。
首輪が「ちり…」と鳴る。
数字が上がる気配。心拍がほんの少し跳ねる。
危ない。
私は、感情を切り捨てる。
ここからが本題だ。
【5:商人ギルドとの契約を「献金」ではなく「輸送保障」にした】
【契約条項:街道維持に協力→通行税を3年据え置き】
商人は金を払っても守ってくれない。
守るのは、得があるときだけ。
だから私は、得を用意した。
そして最後。
【6:領内の“余剰”を王都へ送らない。先に「孤児院・診療所」へ回す】
画面に、あの名前が出る。
【王都第七区 孤児保護院/運営会計】
広場が、息を呑んだ。
王家は“存在しない”ことにしていた場所。
でも、私の領地では存在させた。
存在させないと、労働力が次の年に消えるから。
人は、麦じゃない。
すり潰したら、来年は生えない。
コメントが爆発する。
【これ、国の運営じゃん】
【王子、何してたの?】
カイルの心音字幕が、遅れて走る。
【(本心)こいつのせいで、民が“考え始める”】【】
【(本心)投票を早く確定させろ。地下を開け。証拠ごと消せ】
私は、その字幕の上に、たった一行を重ねた。
【王国全土に適用するなら、今すぐできる改善案があります】
画面が分割される。
王領地、各地の状況/ライブ。
飢えた村。壊れた橋。空の倉。
そして、次の分割。
王城地下――旧拘禁区画。
まだ映像は暗い。
でも私は知ってる。
投票が確定した瞬間、あの扉が開く。
開いた瞬間、弟が消される。
だから私は、投票の前に“選択肢”を増やす。
【提案:投票Aの条件を追加してください】
【「関与者の名前」+「リオンの身柄の即時公開」】
広場が凍った。
王家が放送を切れば隠滅が始まる。
でも切れない。多数派が見ている。
投票が確定すれば地下が開く。
なら、地下が開く“前提”を、民意で書き換える。
国王の心音字幕が、悲鳴みたいに走った。
【(本心)やめろ。多数派に“条件”を覚えさせるな】
空の投票欄が、一瞬、ちらついた。
まるで世界が、今から仕様変更を受け付けるみたいに。
【投票A:自白(関与者の名前必須)】
その下に、新しい空白行が生まれる。
【追加条件:――】
24
あなたにおすすめの小説
【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした
きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。
全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。
その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。
失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。
デブだからといって婚約破棄された伯爵令嬢、前世の記憶を駆使してダイエットする~自立しようと思っているのに気がついたら溺愛されてました~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
デブだからといって婚約破棄された伯爵令嬢エヴァンジェリンは、その直後に前世の記憶を思い出す。
かつてダイエットオタクだった記憶を頼りに伯爵領でダイエット。
ついでに魔法を極めて自立しちゃいます!
師匠の変人魔導師とケンカしたりイチャイチャしたりしながらのスローライフの筈がいろんなゴタゴタに巻き込まれたり。
痩せたからってよりを戻そうとする元婚約者から逃げるために偽装婚約してみたり。
波乱万丈な転生ライフです。
エブリスタにも掲載しています。
学生時代、私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私が実は本物の聖女で、いじめていた女は災厄を呼ぶ魔女でした。
さら
恋愛
いじめていた女と一緒に異世界召喚された私。
聖女として選ばれたのは彼女で、私は無能扱いされ追放された。
だが、辺境の村で暮らす中で気づく。
私の力は奇跡を起こすものではなく、
壊れた世界を“元に戻す”本物の聖女の力だった。
一方、聖女として祭り上げられた彼女は、
人々の期待に応え続けるうち、
世界を歪め、災厄を呼ぶ魔女へと変わっていく――。
「魔法を使わない魔術師を切り捨てた国は、取り返しのつかない後悔をする
藤原遊
ファンタジー
魔法を使わない魔術師は、役に立たない。
そう判断した王国は、彼女を「不要」と切り捨てた。
派手な魔法も、奇跡も起こさない。
彼女がしていたのは、魔力の流れを整え、結界を維持し、
魔法事故が起きないよう“何も起こらない状態”を保つことだけだった。
代わりはいくらでもいる。
そう思われていた仕事は、彼女がいなくなった途端に破綻する。
魔法は暴走し、結界は歪み、
国は自分たちが何に守られていたのかを知る。
これは、
魔法を使わなかった魔術師が、
最後まで何もせずに証明した話。
※主人公は一切振り返りません。
獣舎の全魔獣を管理していた私を、無能呼ばわりで解雇ですか?じゃあ好き勝手に旅をします。困っても知りません。
藤 ゆみ子
ファンタジー
光属性の魔力を持つフィーナは聖女の一人として王宮に就職するが、一向に治癒魔法を使うことができなかった。聖女として働けないと解雇されるが、帰る家なんてない。
そんな時、日々の癒しのためにこっそり行っていた獣舎の魔獣たちが騎士団長グランディに頼み、獣舎の掃除婦として働くことに。
実はフィーナの持つ魔力は人ではなく、魔獣や魔物に使えるものだった。
無自覚に使い魔たちを癒していたフィーナだったが、グランディに気に入られていることに不満を持つ王女に解雇されてしまう。
フィーナは王女の命令なら仕方ないと王宮を出る。
今だ見たこともない魔獣と出会うため、かつての親友だった魔獣のキュウと再会するために旅に出ることにするが、思わぬ事件や問題に巻き込まれていく。
一方でグランディや魔獣たちはフィーナを取り戻すため奮闘する。
聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思うので、第二の人生を始めたい! P.S.逆ハーがついてきました。
三月べに
恋愛
聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思う。だって、高校時代まで若返っているのだもの。
帰れないだって? じゃあ、このまま第二の人生スタートしよう!
衣食住を確保してもらっている城で、魔法の勉強をしていたら、あらら?
何故、逆ハーが出来上がったの?
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「断罪……? いいえ、ただの事実確認ですよ。」
***
ただ求められるままに生きてきた私は、ある日王子との婚約解消と極刑を突きつけられる。
しかし王子から「お前は『悪』だ」と言われ、周りから冷たい視線に晒されて、私は気づいてしまったのだ。
――あぁ、今私に求められているのは『悪役』なのだ、と。
今まで溜まっていた鬱憤も、ずっとしてきた我慢も。
それら全てを吐き出して私は今、「彼らが望む『悪役』」へと変貌する。
これは従順だった公爵令嬢が一転、異色の『悪役』として王族達を相手取り、様々な真実を紐解き果たす。
そんな復讐と解放と恋の物語。
◇ ◆ ◇
※カクヨムではさっぱり断罪版を、アルファポリスでは恋愛色強めで書いています。
さっぱり断罪が好み、または読み比べたいという方は、カクヨムへお越しください。
カクヨムへのリンクは画面下部に貼ってあります。
※カクヨム版が『カクヨムWeb小説短編賞2020』中間選考作品に選ばれました。
選考結果如何では、こちらの作品を削除する可能性もありますので悪しからず。
※表紙絵はフリー素材を拝借しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる