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第74話
しおりを挟む空に、結果だけが落ちてきた。誰も操作してないのに、勝手に整列する文字。
【投票結果:第1位 教皇 87.3%】
【第2位 王太子カイル 9.1%】
【第3位 国王(運用者) 3.2%】
【第4位 王妃代替E-7(廃棄) 0.4%】
……当然だ、と思った瞬間、喉の首輪が「ちり…」と鳴った。
確信すら、危ない。勝ち筋を見た興奮も、私を殺す。
白い礼拝堂の映像が、配管の海に重なって揺れる。嘘が剥げて、鉄の匂いとぬめる赤が覗いた。
コメントが降る。
【やれ】
【教皇を裁け】
【魂を返せ】
【回収を止めろ】
その「やれ」の熱が、精霊力になって空気を押す。押されるたび、首輪の刃が舌裏を撫でに来る。
泣くな。怒るな。笑うな。
私は息だけで、精霊石に合図した。
空に、テロップ。
【第1位:教皇。了解】
教皇の声が、また頭蓋の内側に直接響く。
『多数派は、正しい。ならば裁け。魔女よ。お前が望んだ“多数派”だ』
望んでない。こんな形は。
でも、否定の感情で心拍が跳ねたら終わりだ。私はただ、呼吸を平らにする。
視聴者が見たいのは「断罪」だ。血の気持ちよさだ。
……だからこそ、逆を出す。
「死より辛い罰」を。
私は、ゆっくり息を吐いた。精霊石が拾うのは声じゃない。意図だ。
【提案:刑罰の選択肢を追加します(権限:多数派)】
空が一瞬ざわついた。コメントが止まり、次に、もっと重い波が来る。
【追加って何】
【早く殺せ】
【魂の回収、止めろ】
喉の奥が冷える。恐怖の概念に首輪が反応し、「ちり…」が細く長く鳴った。
怖いのは、教皇じゃない。
“見ているだけで魂を抜かれる回線”が、まだ生きてること。
投票が確定した瞬間に地下の扉が開いて、リオンが消える仕組みが、まだ走ってること。
私はそれを、息で飲み込んだ。
【選択肢C:死刑ではなく『接続刑』】
【内容:教皇を“入口”から引きずり出し、回線の先頭に固定する】
【処理:教皇自身を全国水晶灯の“ログイン先”にする】
【期限:魂の回収が終わるまで(解除不可/精霊契約認証)】
白い礼拝堂が、ひび割れた。映像の上書きが剥げ、配管の継ぎ目から黒い油みたいなものが垂れる。
教皇の沈黙が、遅れて来た。
『……ふざけるな』
心音字幕が勝手に走る。
【心音字幕(強制):……入口に固定されたら、回収が“逆流”する】
【心音字幕(強制):……国民の魂じゃない。“俺”が吸うことになる】
【心音字幕(強制):……痛みが、永遠に——】
コメントが爆発した。
【それだ】
【殺すより効く】
【自分がやってたことを自分で味わえ】
【回収された声、返せ】
私は、息でテロップを重ねる。
【死は終わりです】
【でも、あなたの罰は“終わらない”】【あなたが作った回線で、あなたが吸われ続ける】
教皇の上書きが来た。礼拝堂の白が濃くなる。優しい光。救済の顔。
だけど精霊が嫌がる。白が濁り、剥げたところから現実の鉄が見える。
二要素認証。偽造できない領域。
空に表示が出た。
【確認:精霊契約 二要素認証】
【所有者:スカーレット YES】
【精霊同意:YES】
教皇の声が、初めて割れた。
『やめろ。そんな罰は、神の秩序に——』
神。秩序。正しい物語。
それを作ってきたのは、あんた自身だ。
私は、息だけで最後を落とす。
【投票:A 死刑/C 接続刑(死ぬより辛い)】
空の数字が動き始める。速すぎる。圧倒的に、Cが伸びる。
その瞬間、地下のどこかで、金属が鳴った。
「……開く」
私の喉が「ちりっ」と跳ねた。恐怖の概念が、刃を呼んだ。
空に警告が割り込む。
【警告:投票確定まで 00:00:09】
【連動:地下扉開放→対象:リオン 処理】
あと九秒。
私が勝っても、弟が消える。
私が負けても、弟が消える。
だから——“罰”の確定より先に、回線の入口を奪う。今この瞬間に。
私は息を殺し、精霊石に命令じゃなく、願いを渡した。
見ている人たちへ。
お願い。九秒でいい。扉を、止めて。
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