断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ

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第92話

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配信を切ったはずの夜なのに、空気がまだ“接続”している。

王城の客間。眠るリオンの寝息が、やけに遠い。

禁忌の精霊石が、胸の上で心臓みたいに明滅した。

私が触れていないのに、勝手に。

《……ラスト……イベント……》

耳じゃない。骨の内側に、ノイズが擦れる。

闇の隅で、影が増えた。

黒い糸みたいなものが、床を這う。いや、床じゃない。空間そのものを裂いて、伸びてくる。

憎しみ。

それが匂いになってる。甘くて、腐ってて、喉の奥が昔の首輪を思い出す。

魔神は“姿”じゃなかった。

回線の残滓。誰かが吐いた悪意のログ。積もって、絡まって、勝手に形を作ってるだけ。

そして、こいつは餌を待ってる。

怒り、恨み、ざまあみろ、死ね。そういう言葉の温度。

私は息を吸った。

泣いても死なない。笑っても死なない。

それなのに、怖い。怖さが、まだ身体の癖として残ってる。

精霊石が空中に文字を吐いた。私の意思じゃない。

【支持率:99%】

枠も観客もいないのに。世界が勝手に“私の枠”を開く。

次の文字が、冷たく整列する。

【最終提案:回線残滓(魔神系) 全域焼却】

【条件:契約者の詠唱+多数の同期】

詠唱。

つまり、私が言う。

でも、どう言えばいい? 世界を焼く言葉って、どんな味がする?

影が、部屋の壁に貼りついた。

黒い糸が、リオンの寝台へ伸びる。

“憎しみ”を食うなら、次は“恐怖”を煽って恨みを作る。そういう手口。

私は精霊石を握りしめた。

握りしめて、息で合図する。

空に、テロップ。

【同期をお願いします】

……返事が来た。

声じゃないのに、温度だけが来た。

最初は、ひとつ。

《大丈夫》

次に、ふたつ。

《あなたは悪くない》

《リオンを守って》

そこから一気に、世界が“繋がった”。

王都の外。村。港。隣国の広場。帝都の水晶灯。

見ていないはずの夜に、光が点る。

私は理解した。

回線は切れない。生活だから。

だから、切るんじゃない。上書きする。

魔神が、嬉しそうに膨らんだ。

憎しみのログが集まって、影が濃くなる。

「もっと燃やせ」と言わんばかりに、黒が増える。

でも、その瞬間。

降ってきたのは、怒りじゃなかった。

《おはよう》

《今日も生きて》

《パン焼けたよ》

《子どもが寝た》

《怖かったね》

……温かい。

コメントの内容が、ただの“生活”だ。

戦う言葉じゃない。刺す言葉じゃない。

魔神が、ぎくりと止まった。

餌が違う。

憎しみの燃料が入ってこない。

光が、部屋に満ちる。

精霊力の粒が、冷たい刃じゃなくて、毛布みたいな厚みになる。

黒い糸が、ほどけ始めた。

糸は憎しみの結び目でできてる。

結び目をほどくのに必要なのは、もっと強い憎しみじゃない。

“憎しみの相手を見ない”こと。

“生きる方を選ぶ”こと。

私は息で、詠唱を落とした。

声じゃなくてもいい。もう知ってる。契約は意図を拾う。

【詠唱】

【憎しみのログを、燃やす】

【憎しみの居場所を、なくす】

【回線に残った痛みを、終わらせる】

テロップが震えた。

私の意図に、精霊が触れてくる。

【確認:精霊契約 二要素認証】

【所有者:スカーレット YES】

【精霊同意:YES】

……世界が、息を吸った。

魔神が叫んだ。

音じゃない。

《憎い》《許さない》《殺せ》

過去のログが、最後の抵抗で噴き出す。

でも、その上から。

《もう寝よう》

《明日も畑に行く》

《子どもに絵本読んで》

《あなたのこと、見てる》

《ありがとう》

温かいコメントの光が、黒を包む。

浄化ってこういうことなんだ。

裁くんじゃない。

無理に許すんでもない。

ただ、燃やす価値のないものにしてしまう。

黒い糸が、ぱちん、と切れた。

影が砂みたいに崩れて、光に混ざって消える。

部屋の隅に残っていたノイズが、薄くなる。

《……ラスト……イベント……》が、言葉にならないままほどける。

そして最後に、精霊石が小さく脈打って、表示した。

【回線残滓:魔神系ノイズ 消滅】

静かだ。

本当に、静か。

私は、リオンの額に手を当てた。

熱がある。生きてる熱。

その熱に、胸がきゅっとなる。泣きそうになる。

でも、もう死なない。

私は涙を落とした。

その瞬間、どこか遠くの水晶灯が、ふっと優しく光った。

誰かの夜にも、同じ涙が落ちた気がした。

……なのに。

消えたはずの闇の向こうで、別の“赤い文字”だけが、まだ脳裏に焼き付いている。

【投票連動:地下扉開放→対象:リオン 処理 待機中】

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