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第94話
しおりを挟む支持率が100%になった瞬間、空気が“静か”になった。
あのうるさいコメントの滝が、消えたわけじゃない。
逆に、世界のほうが私に耳を澄ませてきた。
息を吸う。
喉は痛くない。首輪もない。だけど、息だけで戦ってきた癖が抜けない。
空に、最後のUIが浮かぶ。
【フェーズ更新:支持率100%】
【権限:多数派(完全)】
【状態:契約者/王権契約 所有者】
【提案可能:世界法則(全域)】
……なるほど。
ここまで来たら、私が“王”で、私が“神”の椅子に座らされる。
吸う側に。支配する側に。
それが、この世界の「多数派」が作った結論。
私は処刑台の上に立っている。
いや、立ってる“ことになっている”。
足元の木材は、もう音を立てない。石畳も、鎖も、血の匂いも、全部が遠い。
目の前には、黄金の檻。
その中でカイルが膝をついたまま、顔だけを上げる。
外面の優しさを貼り付けたまま、でも目だけは獣のまま。
そして、心音字幕が勝手に走る。
【……終わりじゃない。終わりにするな。俺は王だ。俺が——】
「違う」
声に出さない。
息で言う。
精霊石が、それを文字にする。
【違う】
私が視線を落とす。
国王はもう王冠を失って、遠くで“平民”の顔をしている。
教皇は追放された。
王妃E-7は、もういない。消えた。廃棄された。
残ってるのは、カイルと、地下と、そして弟の名前。
赤字の残像みたいに、脳裏に焼き付いたシステムの文言。
【投票連動:地下扉開放→対象:リオン 処理 待機中】
勝っても負けても弟が消える。
この国が、そういう装置でできている。
だから私は、最後まで「多数派」に問いかけるしかない。
真実は、いつも多数派が作る。
だったら、多数派に“作らせる”。
私は息を吐く。
空に、選択肢じゃない“提案”が出る。
【提案:断罪の完結(全域)】
【内訳:処刑の物語を終了し、裁きの結果を世界に定着させる】
【確認:精霊契約 二要素認証】
ここで私が間違えたら、私は次の教皇になる。
「正しさ」を名乗って、回線を握って、人を吸う側に座る。
それだけは、嫌だ。
私はもう、誰かを“見世物の燃料”にしたくない。
弟も。国民も。私自身も。
だから、私の断罪は——私のやり方で終わらせる。
息を整える。
【所有者:スカーレット YES】
精霊の気配が、足元から立ち上がる。
花の匂いがした。まだ何も咲いていないのに。
【精霊同意:YES】
【成立】
その瞬間、処刑台が“崩れた”。
壊れた、じゃない。
崩れた、だ。
まるで最初から積み上げが間違っていて、支える理由が消えただけみたいに。
木の床が、釘が、血の染みが、罪状の札が。
全部がさらさらと光の粒になって、落ちていく。
下には石畳があるはずだった。
でも、石畳は出てこなかった。
代わりに、土が現れた。
柔らかい土。
そこに、芽が出る。
一つじゃない。二つでもない。
処刑台の影だった場所から、いっせいに緑が噴き上がる。
花が咲く。
白、薄紅、金、青。
誰かの祈りみたいな色。
誰かの怒りみたいな色。
誰かの後悔みたいな色。
処刑台があったはずの場所が、あっという間に花畑になっていく。
「……は?」と、誰かが呟く。
広場の民衆だ。
全国の水晶灯の前の人たちだ。
帝国の広場だって、同じ顔をしている。
“断罪”は血で終わるものだと、みんなが思っていた。
私も、そう思わされていた。
でも違う。
断罪は、物語の終わり方だ。
誰が悪で、誰が善で、誰が救われて、誰が捨てられるのか。
その「編集」を、いま私は奪い返した。
黄金の檻の中で、カイルが笑おうとして、口角が吊る。
でも笑えない。
笑えば、世界が彼を許さない。
心音字幕だけが、醜く暴れる。
【……花? ふざけるな。処刑台だぞ。血だ。血で——】
花畑の中央で、一本だけ背の高い花が咲いた。
赤い。私の名前みたいに。
その花が、カイルの足元へ向かって蔓を伸ばす。
絡め取る。
暴力じゃない。
拘束じゃない。
「ここから出るな」という、多数派の“終わり方”だ。
私は息を吐く。
最後のテロップを落とす。
【断罪、完結】
【処刑台は終わり。ここから先は、裁かれる側の人生が続く】
そして、私は花畑の匂いの中で気づく。
終わったのは、私の処刑じゃない。
“処刑で黙らせる国”そのものが、今、終わったんだ。
なのに。
脳裏の赤字だけが、消えない。
【投票連動:地下扉開放→対象:リオン 処理 待機中】
花畑の下で、まだ装置が息をしている。
私の断罪は完結した。
でも、弟の処理は——まだ「待機中」だ。
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