断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ

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第98話

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「行くの?」

リオンが、毛布の端を握ったまま聞いた。

眠そうな目なのに、逃がさない目だった。

私は頷く。

声は出る。でも、今日は――言葉を節約したい。

ここで余計な感情を乗せたら、世界が“物語”を作る。

空は、もうコメント欄だ。

卒業ライブ枠を開いた瞬間から、王都だけじゃない。港も、村も、工房も、灯っている。

そして灯っている限り、回線は生きている。

“見ているだけで持っていかれる”回線。

被害者がいる。戻らない人がいる。

私が王だと呼ばれているのは、その入口に手を伸ばせるからだ。

だけど、王でも消せない赤字がある。

脳裏に焼き付いたままのログ。

【投票連動:地下扉開放→対象:リオン 処理 待機中】

リオンが生きて眠っているのに、処理は“待機”している。

まるで、世界が私に言っているみたいだ。

「安心するな」って。

だから私は、旅立つ。

私がここにいる限り、誰かがリオンを“王の弱点”として狙う。

多数派が優しくても、ノイズは増殖する。

憎しみは、餌を探す。

扉の前に立っていた男が、膝をついた。

ルシアン・ヴェルヌ。

暫定政府首班。文官。私が指名した、私よりずっと“政治”を知っている人。

「陛下」

彼はそう呼ぶ。でも、媚びない。

必要なことだけを確認する目だ。

「弟君の身柄は、こちらで守ります。王城の客間ではなく、第七区の孤児保護院へ移します」

「……安全なの?」

言葉にした瞬間、空気がわずかに重くなる。

“見たい”が寄ってくる気配。

ルシアンは一歩も引かない。

「安全に“見せます”。回線の仕組みがこうなら、隠すほど狙われる」

「見せる?」

「ええ。守りを“公開”します。生活インフラを止められないなら、監視を味方にする」

私は息を吐いた。

この人は、私のやり方を理解している。

真実は、いつも多数派が作る。

なら、守りの多数派も作れる。

リオンがルシアンを見上げる。

怖がっていない。まだ警戒している。

それがいい。信じるのは、最後でいい。

「リオン」

私は膝をついて、目線を合わせた。

「ここに残るのは、逃げじゃない。勝ち方の問題」

リオンの喉が動く。言いたいことを飲み込む癖は、私と同じだ。

「姉さんが……帰ってくるって、約束して」

その一言で、胸の奥が熱くなる。

昔なら泣いていた。今は泣いても死なない。

でも、泣いたら“物語”が増幅する。

世界が、私を悲劇の王にしたがる。

私は泣かない。

代わりに、指を一本立てた。

「約束は、契約にする」

禁忌の精霊石が、掌の上で淡く脈打った。

勝手に命令してこない。

私の意思を待っている。

空に、文字が整列する。

【提案:個別契約(保護)/対象:リオン】

【条件:契約者の署名(意図)+精霊同意】

ルシアンが小さく息を呑んだ。

「……陛下。そこまでやると、“王の私物化”と取られる危険も」

「わかってる」

わかってる。だからこそ、言葉を選ぶ。

私はテロップを追加した。

【条項:保護は“孤児保護院”の制度として運用/監査:多数派】

リオン個人のためじゃない。

“子どもが消されない仕組み”のため。

そう言い切れる形にする。

空がざわめいた。

コメントが降る。賛同も、疑いも、混ざる。

でも、混ざっていい。多数派は、混ざりながら固まる。

【精霊同意:YES】

【契約成立】

リオンの胸元に、小さな光の糸が結ばれた。

首輪じゃない。刃じゃない。

ほどけても痛くない、ただの“目印”みたいな結び目。

「これで、少なくとも“勝手に処理”はやりにくくなる」

私は言った。

絶対は言わない。絶対は、嘘に近い。

リオンが、結び目を指で触って頷いた。

「じゃあ……行って」

言い方は強いのに、声が震えている。

私は立ち上がる。

旅支度は軽い。精霊石だけで十分だ。

王城の廊下を歩きながら、私は一度も振り返らない。

振り返った瞬間、未練が物語になる。

門の外。

馬車でもない。護衛の列でもない。

ひとり。

“王”が、ひとりで出ていく。

ルシアンが最後に言った。

「陛下。行き先は?」

私は一拍だけ迷って、答えた。

「見知らぬ土地。回線の外縁」

回線は切れない。

なら、外縁から焼く。

魔神系ノイズの“餌場”を、先に潰す。

空に、勝手にテロップが出た。

【旅立ち:契約者スカーレット】

【目的:回線残滓の根絶/投票連動の解除】

……勝手に、言うな。

そう思ったのに、背中が軽い。

見ている人たちが、私を押している。

私は、知らない道へ踏み出した。

その瞬間――脳裏の赤字が、静かに点滅した。

【投票連動:地下扉開放→対象:リオン 処理 待機中】

消えていない。

むしろ、私が離れたことで“処理”が動きやすくなる可能性すらある。

最悪だ。

逃げ場はない。

だからこそ、行く。

私が戻るまでの間に、世界が多数派を裏切ったら――

次は、私が世界を裏切る番だ。

空が静かに息を吸う。

コメントが止まる。

そして、私の耳の奥にノイズが囁いた。

《……ラスト……イベント……》

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