最後の晩餐部

深渡 ケイ

文字の大きさ
10 / 12
第10話:残酷な答え合わせ

第10話:残酷な答え合わせ

しおりを挟む
 雨上がりの匂いが、香典袋の紙の匂いに勝ったのは、公園の入り口をくぐってからだった。

 黒い靴が土を踏むたび、ぬかるみが小さく鳴る。湊はネクタイをゆるめながら、ベンチの背にもたれた。喉の奥に、さっきまでの線香の煙がまだ居座っている気がする。

 隣に座った蓮は、礼服のまま背筋を固めていた。視線はブランコの鎖に刺さっていて、瞬きが少ない。

 湊がスマホを握ったまま、画面をつけたり消したりする。

「……なあ、蓮」

「何」

「さっきさ、親御さんにさ。俺、何言えばよかったんだろ」

 蓮は、息を吐く音だけで笑ったように見えた。

「言葉なんて、あるわけねえだろ」

「だよな。俺もそう思った。だから『紬、すげーやつでした』って言った。正直だし」

「最悪の正直だな」

「え、だってすげーやつだったじゃん」

 蓮の指が、膝の上でぎゅっと握られる。関節が白くなる。

「……その“すげー”を、お前は何で見た」

 湊は首をかしげる。

「何って……部活。最後の晩餐部。あいつ、笑うし、回すし。俺が喋ったら、ちゃんと食ってくれるし」

「食ってねえよ」

 言い切りが、雨粒みたいに冷たく落ちた。

 湊は反射で笑いかける。

「いやいや、食ってたって。ほら、『おかわり』とか言ってたし。あれ、ノリ良すぎたよな」

 蓮は湊の笑いを見ない。ブランコの鎖を見たまま、唇だけが動く。

「ノリじゃねえ」

「……え」

「紬は、半年間――何も味わえてねえ」

 湊の喉が、線香の煙で擦れたみたいに詰まる。

「半年……って、え、ダイエット?」

「お前、今それ言えるの逆に才能だな」

 蓮が初めて湊を見る。目の奥が乾いていて、濡れていない。

「病気で、喉を通らない。胃がどうとか、そういうレベルじゃねえ。水も、スープも、ゼリーも。全部、戻す」

 湊は、頭の中で紬の顔を探す。笑いながら、机を叩いていた。湊の話を聞いて、目を細めていた。あのとき、確かに――。

「でも、あいつ、飲み物……」

「口に含むだけだ。味がする前に、捨てる。吐くんじゃねえ。最初から、身体が受け付けない」

 湊の指がスマホの端を強く押して、ケースがきしむ。

「……点滴?」

 蓮が小さく頷く。

「点滴だけで、生きてた」

 公園の向こうで子どもの笑い声が聞こえた。遠い。まるで別の世界の音みたいだ。

 湊は、笑いを探して口角を上げようとして、うまくいかない。代わりに、変な声が出た。

「え、じゃあ……俺らの部活って、何」

「最後の晩餐だよ」

 蓮の声が、噛み砕くみたいに低い。

「紬にとって、他人の“食べた話”が、唯一の飯だった。お前が喋るたび、あいつは腹の底から満たされて……それで、次の日まで持つ」

 湊はベンチの木目を見る。雨水が染みて、黒い線になっている。

「持つ、って……」

「持たせてたんだよ。必死に」

 蓮はポケットから、くしゃっとした小さな紙を出した。湿っている。病院のメモみたいな罫線が見えた。

「これ、紬のメモ」

 湊が手を伸ばすと、蓮は一瞬だけ躊躇ってから渡した。

 紙には、丸っこい字で短い単語が並んでいる。

『湊のラーメン(背脂)』
『湊のコンビニおでん(大根)』
『湊の母のカレー(?)』
『蓮の焼き魚(しょっぱい)』

 最後のほう、字が薄い。

 湊は思わず笑ってしまう。

「魚、しょっぱいって雑すぎだろ。蓮、それ紬に文句言った?」

 蓮の目が細くなる。怒っているのか、違うのか、湊には判別がつかない。

「……文句なんて言えるか」

 その声が、やけに掠れていた。

 湊は紙の端を指でなぞる。インクがにじんだところが、涙みたいに見えて、慌てて目を逸らす。

「でもさ。半年って、そんな……俺らが出会ったの、春だろ。ってことは、最初から――」

「最初からだ」

 蓮が遮る。

「お前が『うまそう』って言わせた写真も、あいつの『おかわり』も、全部……“食べたふり”だ」

 湊は、胸の奥が妙に軽くなるのを感じた。嫌な軽さ。地面が抜ける前の浮遊感。

 それでも、いつもの癖で言葉を探す。

「……でも、ふりでも、嬉しそうだったじゃん」

 蓮の視線が、湊の喉元に刺さる。

「嬉しかったんだよ。だから余計に残酷なんだろ」

「残酷って……」

「お前の話は、うまかった」

 蓮が言う。その“うまかった”が、味の話じゃないのに、湊の耳の中で引っかかる。

「お前が、あいつを生かしてた。お前の言葉で」

 湊は反射で肩をすくめる。

「いや、俺、そんな大層な……」

「大層だよ」

 蓮が吐き捨てるみたいに言って、次の言葉は、妙に丁寧だった。

「紬の身体は、もう飯を受け付けない。点滴で延命して、あとは……“満腹”で心を騙して、起き上がる。それが半年」

 湊の脳裏に、紬が時々、胸の前で小さく拳を握っていた仕草が浮かぶ。ガッツポーズみたいに見えて、湊は笑っていた。

 あれは、起き上がるための――。

「……だからさ、あいつ、よく咳してたのか」

 湊が言うと、蓮の眉が動いた。ほんの一ミリ。苛立ちとも、諦めとも。

「お前、気づいてたのかよ」

「いや、気づいてたっていうか……『季節の変わり目だなー』って」

「……」

 沈黙が落ちる。濡れた砂場みたいに重い。

 湊はその重さから逃げるように、紙を折りたたんで返そうとした。

「これ、返す――」

 蓮が押し返す。

「持ってろ」

「え、なんで」

「紬が、お前に渡せって言ってた」

 湊の手が止まる。

「……いつ」

「最後の夜」

 蓮が言って、唇を噛む。噛んだところが白くなる。

「お前が帰ったあと。あいつ、笑ってた。『今日の湊の話、胃に沁みた』って」

 湊は口を開ける。言葉が出る前に、蓮が続けた。

「胃なんて、もう動いてねえのにな」

 湊は、笑うべきか迷って、笑えなかった。

 代わりに、妙に明るい声を作ってしまう。

「……紬、そういうブラックジョーク好きだったもんな」

 蓮は返事をしない。

 湊は紙を握り直す。湿った紙が手のひらに貼りつく。

「……じゃあさ」

 自分の声が、やけに遠い。

「俺がもっと早く、もっと……なんか、うまい話してたら。もっと、持った?」

 蓮の目が揺れた。揺れたのに、声は揺れない。

「持たねえよ」

「……そっか」

「期限、決まってた」

 その言葉で、湊の頭の中の時計が止まる。

 ブランコの鎖が風で鳴る。キィ、と小さい音。紬が笑うときの息の音に似ていた。

 湊は、またいつもの癖で、軽く受け止めようとする。

「期限って……テストみたいだな」

 蓮が、初めて顔を歪めた。

「答え合わせだよ」

 湊の手の中の紙が、さらに重くなる。

「お前が毎回出してた“料理”が、全部……あいつにとっての最後の晩餐だったって、今日、答えが出た」

 湊は喉を鳴らして、空気を飲み込む。

「……じゃあ、俺、ちゃんと……食わせられてたのかな」

 蓮は、答えない。

 代わりに、湊の握った紙を指で軽く叩いた。二回。合図みたいに。

「そこに書いてある分は、食ってたよ」

 湊は紙を見下ろす。薄い字の行に、インクの途切れがある。途中でペンを止めた跡。

 湊は、そこを指でなぞりながら言った。

「……じゃあ、続き、俺が書くわ」

 蓮が、はっとした顔をする。

「は?」

「だって、メモ途中じゃん。雑だし。『焼き魚しょっぱい』とか、改善の余地ある」

 湊は無理やり笑って、胸ポケットに紙をしまった。黒い布に、白い紙の角が少しだけ覗く。

 蓮の視線が、その角に落ちて、動かなくなる。

「お前……」

「ん?」

 蓮は言いかけて、飲み込んだ。飲み込む喉が上下する。

 そして、低く言った。

「……お前のその鈍さ、今だけは、羨ましい」

 湊は首をかしげる。

「え、褒めてる? ありがと」

 蓮は笑わない。ベンチから立ち上がり、濡れた地面に黒い靴を置く。

「帰るぞ」

「おう。……あ、蓮」

「何だよ」

 湊は追いかけながら、胸ポケットを押さえた。

「紬さ。最後の夜、なんか言ってた? 俺に」

 蓮は一歩だけ止まって、振り返らないまま言った。

「『湊の話、もっと聞きたい』って」

 湊はその言葉を、いつもの軽い約束みたいに受け取ろうとして、できなかった。

「……そっか」

 蓮が歩き出す。

 湊も並んで歩く。公園の出口へ向かう道で、街の匂いが戻ってくる。コンビニの揚げ物の匂いが、ふっと鼻を刺した。

 湊は反射で言いそうになって、飲み込んだ。

 うまそう、って。

 飲み込んだ言葉が、どこにも落ちずに、胸の奥で詰まったまま、揺れていた。


 扉の向こうは、やけに静かだった。

 保健室特有の消毒の匂いが、廊下にまで薄く漏れている。湊はスマホを握ったまま、画面が暗くなったことにも気づかず立ち尽くしていた。

「……入らねぇのか」

 背後から、低い声。

 振り返ると蓮がいた。髪が少し濡れて見える。雨に降られたのか、額のあたりに張りついた前髪が妙に重い。

「蓮。紬、今——」

「今は寝てる」

「寝てるなら、起こさないように——」

「起きねぇよ」

 蓮の言い方が、妙に断定的で、湊は笑ってごまかすみたいに息を吐いた。

「いやいや、寝起き悪いだけだろ。あいつ、昼とか普通に——」

「……お前、ほんと鈍いな」

 蓮が廊下の壁に背を預ける。拳がぎゅっと握られて、指の関節が白い。

「鈍いっていうか、前向きなだけ」

「前向きで済む話じゃねぇ」

 湊は保健室の扉を見る。ガラス窓の向こうはカーテンで隠れていて、何も見えない。見えないのに、あの部室で笑ってた顔が勝手に浮かぶ。

「紬、また無茶したのか? 点滴抜けたとか? いや、あいつそういうのは——」

「無茶してんのは、お前だよ」

「俺?」

 蓮が一歩近づき、湊の手元のスマホを睨む。

「それ、撮ったのか。今日も」

「……いや、撮ってない。だって、紬のメシの話って写真映えしないし」

「は」

 蓮の口から、乾いた音が漏れた。笑いに見えなくて、湊は肩をすくめる。

「冗談。冗談だって。最近はさ、いいねより——部活って感じ? あいつと喋るの、普通に楽しいし」

「楽しい?」

 蓮の声が少しだけ上ずる。

「お前さ。紬が、何であんなにお前の話を欲しがったか、考えたことあんのか」

「え? だって、最後の晩餐部だし。食べ物の思い出話で満腹になるって——」

「満腹?」

 蓮の目が細くなる。湊はその視線の鋭さに、思わず言い直した。

「いや、満腹っていうか……元気になるっていうか。ほら、あいつ笑うじゃん。『今の、うまい!』とかさ」

「……そうだな。笑う」

 蓮は一瞬、口元を歪めた。すぐに消える。

「笑ってたよ。ずっと。笑えるうちはな」

 湊は「なんだよそれ」と軽く返そうとして、言葉が喉で止まった。蓮の声が、今まで聞いたことないくらい硬い。

「蓮、何が言いたいんだよ。紬が寝てるなら、俺——」

「寝てるんじゃねぇ」

 蓮が言い切る。廊下の空気が一段冷える。

 湊は笑いを作ろうとして、唇がうまく動かなかった。

「……いや、さっき寝てるって」

「医者がそう言った。『今は眠ってる』って言うしかねぇからな」

「言うしか……」

 蓮は息を吸う。喉の奥が鳴る音がした。唾を飲んだのか、言葉を飲んだのか分からない。

「紬は、食えねぇんだよ」

 湊は頷く。

「それは知ってる。点滴で——」

「“ほとんど”じゃねぇ。ずっとだ。もう、だいぶ前から」

「……でも、笑ってたじゃん」

「笑うようにしてんだよ」

 蓮の声が、急に低く落ちる。

「お前の前では特に」

 湊は咄嗟に、軽口で逃げようとした。

「俺、そんなに笑わせる才能あったっけ。芸人いける?」

「……ふざけんな」

 蓮の拳が壁を叩きかけて、寸前で止まる。爪が白くなる。

「お前が話す食べ物の話だけが、彼女の食事だったんだ」

 湊の胸の奥で、何かが小さく弾けた。

「……え」

「点滴は、ただの延命だ。生きるための最低限。紬が“生きてる”って顔になるのは、お前が喋ってる時だけだった」

「いや、でも……俺の話なんて、適当だぞ? コンビニの肉まんとか、学食のカレーとか」

「だからだよ」

 蓮が噛みつくみたいに言う。

「お前の話は、嘘くさくねぇ。映えとかどうでもいい。腹減って、熱くて、口の中やけどして、笑って——そういうのが、紬には全部“食事”なんだ」

 湊は、部室の光景を思い出す。

 紬が身を乗り出して、目を細めて、何度も「もう一口」みたいに続きをせがんだこと。湊が話を止めると、紬が一瞬だけ指先を震わせて、すぐ笑ってごまかしたこと。

 あれは、ただのノリだと思ってた。

「……そんな大げさな」

 湊は口に出してしまってから、蓮の顔を見て後悔した。

 蓮の目が赤い。泣いてるわけじゃないのに、濡れているみたいに見える。

「大げさじゃねぇよ」

 蓮は声を絞る。

「お前が話すたび、紬は……生き返ってた」

 湊は喉が乾く。なのに、唾がうまく出ない。

「じゃあさ、俺、もっと——もっと話せばいいだろ。今日はまだ——」

「今日?」

 蓮が笑った。今度は、明らかに笑いじゃない。

「今日、紬は倒れた。部室のあと、トイレで。吐けるものなんて何もねぇのに、吐くみたいに咳き込んで……血が混じってた」

 湊は反射的に言う。

「風邪だろ。喉切れただけ——」

「薬、見たか」

 蓮の言葉に、湊の脳裏に小さな白い包みが浮かぶ。紬が机の下で握りつぶしたみたいに隠したやつ。湊は「ビタミン剤?」って笑って流した。

「……サプリだろ」

「違う」

 蓮が首を振る。ゆっくり、確実に。

「痛み止めだ。吐き気止めだ。咳止めだ。効かねぇやつを、効くふりして飲んでんだよ」

 湊は目を逸らす。保健室の扉の前の床が、やけに白い。白すぎて、目が痛い。

「でも、紬は元気そうだったし。普通に部長してたし」

「部長だからだよ」

 蓮が言う。

「最後の晩餐部。あいつが作った部活だ。お前みたいなのを引っ張り込んで、笑って、回して……それで、自分がまだ生きてるって錯覚できる」

「錯覚って……」

 湊は喉の奥がひゅっと鳴るのを感じて、咳払いで誤魔化した。

「蓮、言い方きついって。紬、そんな弱くねぇよ」

「弱いんだよ」

 蓮が初めて、まっすぐに湊を見る。

「弱いくせに、強いふりすんだよ。お前も、そういうとこあるだろ」

 湊は返せない。スマホを握る指に力が入って、ケースが鳴った。

「なぁ、湊」

 蓮の声が少しだけ落ち着く。逆に、それが怖い。

「お前の話、紬は本当に好きだった」

「……だった?」

 湊は、その過去形を拾ってしまう。

 蓮のまぶたが、ほんの少しだけ下がる。

「今も、好きだよ」

 言い直してくれるのに、その間の空白が、どうしても埋まらない。

 湊は笑ってみせようとして、頬が引きつった。

「じゃあ、起きたらまた話す。肉まんの続きとか、もっと盛る。チーズ伸びる系とか、バズるやつ——」

「バズるとか言うな」

 蓮が吐き捨てる。

「紬に必要なのは、バズる飯じゃねぇ。お前の、くだらねぇ飯の話だ」

 湊は「くだらねぇって言うなよ」と返しかけて、飲み込んだ。

「……入って、いいのか」

 湊が扉に手を伸ばすと、蓮がその手首を掴んだ。強い。温度が低い。

「今はやめとけ」

「なんで」

「今のお前、紬の顔見たら——」

 蓮の言葉が途中で切れる。唇が動くのに、音にならない。

 湊はその沈黙を、勝手に別の意味に変換しようとした。

「……泣いちゃうとか? 大丈夫だって。俺、泣かないし」

 蓮の指が、湊の手首をさらに強く締める。

「泣けるうちはいい」

 それだけ言って、蓮は手を離した。

 湊は扉の前で立ち尽くす。ガラス窓の向こうのカーテンが、微かに揺れた気がした。空調の風かもしれない。

「……なぁ蓮」

 湊は声を絞り出す。

「俺の話が、紬の食事だったならさ」

 蓮が答えない。

 湊は、笑って言おうとした。いつものノリで、いつもの勢いで。

「俺、ちゃんと——腹いっぱいにできてたのかな」

 言った瞬間、やけに幼い言葉に聞こえて、湊は自分で戸惑った。

 蓮は少しだけ顔を歪めて、廊下の天井を見上げた。

「……腹いっぱいになった顔、してたよ」

 声が掠れている。

「だから、余計に——」

 蓮はそこで止めた。止めて、息を吐く。

「……行くぞ。ここで突っ立ってても、何も変わんねぇ」

「どこに」

「紬の家だ。荷物、取りに行く。……お前も来い」

 湊は頷いた。頷くしかなかった。

 歩き出す蓮の背中が、やけに大きく見える。なのに、肩の線はどこか頼りない。

 湊は保健室の扉を一度だけ振り返る。

 カーテンの向こうにいるはずの紬が、いつもの調子で「遅い!」って怒鳴ってくれる気がして。

 その想像だけで、胸の奥が妙に痛んだ。

「……次、何話そう」

 湊が呟くと、蓮は振り向かずに言った。

「軽いのはやめろ」

「え」

「軽い話で笑わせるのは、もう十分だ」

 蓮の声が、廊下の端で小さく揺れる。

「今度は——ちゃんと、食わせろ」


 湊のスマホ画面には、紬のアカウントが開いたままだった。

 最後に上がっているのは、部室の窓際で笑っている写真。光が髪に透けて、指先が机の縁をつまんでいる。キャプションは短い。

「今日も、おいしかった」

 湊は親指でスクロールしようとして、止まった。指が乾いて、画面がうまく反応しない。

「……おいしかった、って」

 口に出した途端、喉の奥がひりついた。

 背後で、蓮が椅子を引く音がした。床を擦る硬い音。部室の空気が、やけに薄い。

「湊」

「いや、待って。今の、どういう意味?」湊は振り返らずに言った。「紬、さっきまで普通に……普通に笑ってたじゃん。いつもの、ノリでさ」

「普通、って言うな」

 蓮の声は低かった。怒鳴ってないのに、殴られたみたいに響く。

 湊はようやく振り返った。蓮は窓際に立っていて、カーテンの影が目元に落ちている。

「俺、なんかした?」湊は笑おうとして、口角が引きつった。「ほら、俺、空気読むの苦手っていうか……」

「したよ」

 蓮は即答した。間がなくて、逃げ道がなかった。

「毎回」

 湊の胸の奥が、ひゅっと縮む。

「毎回、紬の前で——」

 蓮は言いかけて、喉を鳴らした。視線が一瞬だけ逸れて、すぐ戻る。

「……“食べる話”をさせた」

 湊は息を吐いた。「それが、悪いの?」

「悪い」

「でも、紬が言ったんだぞ? それが好きだって。満腹になるって。俺の話、聞きたいって」

「そう言った」

 蓮は頷いた。頷き方が、肯定じゃなくて、終わりの合図みたいだった。

「言ったよ。紬は、言えるんだ」

 湊の眉が寄る。「言える?」

「言える。笑える。回せる。場を明るくできる」

 蓮の指が、窓枠を掴んだ。白くなるほど強く。

「だから、お前も、みんなも、気づかない」

 湊は喉に詰まったものを飲み込んだ。「気づかないって……何に」

 蓮は答えなかった。代わりに、机の上に置かれた紙袋を顎で示した。

「それ」

 湊は視線を落とす。コンビニのロゴ。中身は、さっき買ってきた新作スイーツ。撮影用に、って軽い気持ちで。

「……あ、これ? 今日のネタ。紬、こういうの好きそうじゃん。映えるし」

 言いながら、湊は袋の持ち手を指で撫でた。ビニールが、きゅっと鳴る。

 蓮が笑った。笑いじゃない音だった。

「映える」

 湊の背中に、冷たいものが沿った。

「紬は、食べられない」

 湊は瞬きをした。「だから、話で——」

「話で生きてる」

 蓮は言い切った。

「生きてる、って……」

 湊は言葉の意味を探して、口の中で転がした。軽い冗談みたいに扱ってきた単語が、急に重くなって、歯に当たる。

「点滴で、ギリギリだ」

 蓮の声が、部室の壁に当たって戻ってきた。やけに反響して、耳の奥に残る。

「喉、通らないんだよ。水も、うまくいかない日がある」

 湊の視線が、勝手に紬の姿を探す。机の上。椅子。窓際。どこにもいない。さっきまで、確かにそこに——

「じゃあ、俺がやってたのって……」

 湊の口が勝手に動く。

「俺、料理の話して、写真撮って、うまそうって言って……」

 蓮は黙っている。その沈黙が、答え合わせの丸印みたいだった。

 湊の手が、紙袋を持ち上げた。軽い。中身の重さはたいしたことないのに、腕が震えた。

「……これ、何?」

 湊は自分に聞いた。返事なんてないのに。

「飢えてる人の前で、料理を見せびらかして……」

 言いながら、湊の喉が締まっていく。息が浅い。

「拷問、してた?」

 蓮が小さく息を吸った。

「お前が、そうしたいって思ってたわけじゃない」

「でも、結果は同じだろ」

 湊は笑おうとして、笑えなかった。唇が乾いて、割れそうだった。

「紬、毎回、嬉しそうにしてた。『もっと』って言ってた。俺、それを……いいねみたいに受け取って」

 湊はスマホを見た。画面の中の紬が笑っている。光の加減が完璧で、角度も完璧で、湊が撮った写真だ。

「俺、すげぇ良いことしてるって思ってた」

 蓮が一歩近づいた。床がきしむ。

「紬は、嬉しかったんだよ」

「じゃあ、何が悪いんだよ!」

 湊の声が跳ねた。自分の声に自分が驚いて、すぐ小さくなる。

「嬉しかったなら……」

 蓮の目が、湊の手元の紙袋に落ちた。次に、湊のスマホ。最後に、湊の顔。

「嬉しいって言わないと、終わるからだ」

 湊の眉が動いた。「終わる?」

「お前が来なくなる」

 蓮は淡々と言った。淡々としてるから、余計に刺さった。

「部が終わる。紬の“食事”が終わる」

 湊は口を開けたまま、音が出なかった。

「……俺が、来なくなったら」

 蓮は頷いた。

「紬は、話せない日が増える。笑えない日が増える。寝てる時間が増える」

 湊の耳の奥で、さっきの紬の声が再生された。

『今日も、おいしかった』

 あれは、笑いながら言っていた。ちょっと咳をして、手で口元を隠して、それでも「大丈夫」って目で言っていた。湊は——

「……あの咳」

 湊の声が、かすれた。

 蓮は目を細めた。「気づいてたのか」

「気づいてたっていうか……いつもの、っていうか。ほら、紬、よく笑うと咳するし」

 湊は言い訳を探して、言葉が床に落ちていくみたいに軽くなる。

「顔色も、白いのも……そういう、雰囲気作り? 透明感? みたいな……」

 言った瞬間、自分で自分の脳みそを殴りたくなった。

 蓮の目が、一瞬だけ揺れた。怒りじゃなくて、疲れだった。

「透明感じゃない」

 湊の指が、スマホを強く握っていた。ケースが軋む。

「俺、さ……」

 湊は息を吸った。吸ったはずなのに、肺に入ってこない。

「俺、紬のこと、救ってたつもりだった」

 蓮は何も言わない。

「“言葉の料理”とか、カッコつけてさ。俺が作って、俺が出して、俺が満足して……」

 湊は紙袋を見下ろした。中のスイーツが、袋越しに甘い匂いを漏らしている気がした。胃が、きゅっと縮む。

「……紬は、腹減ってたんだよな」

 蓮の視線が、ほんの少しだけ落ちた。

「腹、っていうより……」

 言いかけて、蓮は止めた。止めたまま、唇を噛んだ。

 湊はその途中の言葉が怖くて、聞けなかった。

「俺さ、紬にさ」

 湊はスマホの画面をタップした。再生も何もないのに、指が勝手に動く。

「『もっと詳しく』って言った。『味の違いわかんないから教えて』って言った。『噛む音まで』って……」

 口にするほど、胸が冷えていく。

「……最低じゃん」

 湊の声は小さかった。部室の時計の秒針だけが、やけに大きい。

 蓮が言った。「最低って言うな」

 湊は顔を上げた。「じゃあ、何だよ。俺、何なんだよ」

 蓮は湊を見たまま、言葉を選ぶみたいに間を置いた。

「無神経」

 その一言が、湊の足元の床を抜いた。

「……取り返し、つく?」

 湊は笑って言おうとした。いつものように、「大丈夫っしょ」って。そうすれば、何かが戻る気がした。

 でも、頬が動かなかった。

 蓮は答えなかった。答えないことが、答えだった。

 湊の視界が、じわっと滲んだ。瞬きしても取れない。

「俺……」

 湊は紙袋を持ち上げて、机に置いた。置いたはずなのに、手が離れなくて、指が持ち手に絡まったまま。

「俺、紬に会って、何て言えばいいんだよ」

 蓮の声が、少しだけ柔らかくなった。

「言うな」

 湊は眉を上げた。「え」

「言い訳も、謝罪も、まずは言うな」

 蓮は息を吐いた。

「紬は、言葉で満腹になる。だから、お前の言葉は——」

 そこで、蓮は言葉を切った。喉の奥で飲み込んだみたいに。

 湊はその続きを勝手に想像して、胃の底が抜けた。

「……最後の、晩餐」

 湊が呟くと、蓮の肩がわずかに揺れた。

「部の名前、誰がつけたと思う」

 蓮の問いに、湊は答えられなかった。

 湊のスマホの画面で、紬が笑っている。光がきれいで、完璧で、嘘みたいに。

 湊はその笑顔から目を逸らせないまま、喉の奥で乾いた音を立てた。

「俺……ずっと、腹減ってたんだな」

 蓮が眉をひそめた。

「は?」

 湊は自分の胸を指で叩いた。空っぽの箱を確かめるみたいに。

「いいねとか、映えとか……紬の『おいしかった』とか。全部、俺の腹の足しにしてた」

 言葉が出るほど、苦しくなった。

「紬の前で、料理見せびらかしてるのに。俺のほうが、飢えてた」

 蓮は何も言えない顔をした。怒りも、呆れも、どれでもない。

 湊は膝に力が入らなくなって、椅子に座り込んだ。机の縁に額を近づける。木目が滲んで見えた。

「……取り返したい」

 湊の声は、机に吸われた。

「取り返せないなら、せめて……せめて、俺がやってたことが、拷問だったって、ちゃんと……」

 言葉が途中で折れた。息が詰まった。

 蓮が近くの椅子を引いて、湊の向かいに座る音がした。

「湊」

「……何」

「お前、今からでも遅くないって言ってほしいんだろ」

 湊は顔を上げなかった。

「言ってくれよ。蓮。お前、全部知ってんだろ」

 蓮はしばらく黙っていた。秒針が二回、三回、進む。

「遅い」

 その二文字が、湊の胸に沈んだ。

「でも」

 蓮が続けた。

 湊は顔を上げた。目の前が揺れて、蓮の輪郭がぶれた。

「紬は、お前の話を待ってる」

 蓮はそう言った。言い切ったのに、視線が一瞬だけ落ちた。

 湊はそれを見て、胸の奥がさらに冷えたのに、口が勝手に動いた。

「……じゃあ、行く」

 立ち上がろうとして、足がもつれた。椅子が鳴る。

「湊」

 蓮が呼び止める。

 湊は振り返った。

 蓮は机の上の紙袋を見て、目を細めた。

「それは置いていけ」

 湊は袋を見た。甘い匂いが、急に吐き気みたいに感じた。

「……うん」

 湊は袋から手を離した。指先が、しびれていた。

 スマホだけを握り直して、湊は部室のドアへ向かった。

 ドアノブに手をかけた瞬間、画面の紬の笑顔が視界の端で揺れた。

「今日も、おいしかった」

 その一行が、今は、噛めない飴みたいに喉に引っかかったまま取れなかった。


 湊の指は、画面の上で一度だけ止まった。

「……削除、っと」

 確認のポップアップが出る。やけに丁寧な日本語で、取り返しがつかないことを告げてくる。

「取り返しつかないって、今さらだろ」

 独り言に返事はない。部屋の時計の秒針だけが、妙に元気よく刻んでいる。

 湊はパスワードを打ち、最後のボタンを押した。

 画面が白くなって、ログイン画面に戻る。そこには何も残っていない。通知の赤い丸も、フォロワー数も、昨日までの自分の顔も。

「……え、軽っ」

 軽すぎて、逆に笑いが漏れた。

「オレ、今、消えた? 消えたな」

 スマホをベッドに投げる。ふかっと沈んだ音がして、湊はそのまま背中から倒れこんだ。

 天井のシミが、やけにくっきり見えた。

 しばらくして、スマホが震えた。ロック画面に、クラスのグループ通知が流れる。別アプリの、どうでもいいスタンプの連打。

 湊は指先で通知を払った。

「悪い。今スタンプ食える気分じゃない」

 その言い方に、自分で喉が引っかかった。笑おうとして、咳が出た。乾いた咳が二回。

「……はぁ。部屋、埃っぽ」

 カーテンは閉めたまま。昼か夜かも曖昧だ。机の上には、コンビニの袋と、使ってない料理本と、ペン立てに刺さったままのボールペン。

 湊は起き上がって、床に落ちたままの充電ケーブルを拾い、何となくスマホに挿した。

「復活させる気はないけど、死なせるのも違うしな」

 スマホの画面が点いて、充電マークが出る。湊はそれを見て、妙に安心した。

 また震える。今度は着信だ。

 画面に「蓮」の文字。

 湊は一瞬だけ親指を止めたが、すぐに出た。

「……もしもし」

『生きてるか』

「第一声それ? お前、医者かよ」

『いいから。今どこだ』

「どこって、家。部屋」

『出てこい』

「いや無理無理。今、外界と断絶してる」

『お前の断絶なんて薄い。玄関開けろ』

「なんで知ってんだよ」

『……いいから』

 蓮の声が、いつもより低い。湊はそれを、機嫌の悪さだと勝手に分類した。

「今、ちょっと忙しいんだって」

『何が忙しい』

「えーと……反省会?」

『反省は歩きながらでもできる』

 湊はスマホを耳に当てたまま、ベッドに寝転び直した。

「反省ってさ、座ってやるもんだろ。立ってやると、反省が逃げる」

『逃げてるのはお前だ』

「うるせ。今、オレ、SNS消したんだぞ。偉くない?」

 電話の向こうで、息を吸う音がした。

『……消したのか』

「うん。だってさ、残ってたらさ」

 湊は言いかけて、止めた。言葉の続きが、自分の喉に引っかかって出てこなかった。

『……残ってたら?』

「……いや、なんでも。ほら、整理整頓。断捨離。デジタル断食」

『お前、断食って言葉使うな』

「なんでだよ。流行ってんじゃん」

『……』

 沈黙が落ちた。湊はその沈黙を、電波のせいにしたくなった。

「もしもし? 聞こえてる?」

『聞こえてる。……今、誰かいるか。家』

「いるわけない。親、仕事。オレ、ぼっちの王」

『なら今から行く』

「来なくていいって。部屋汚いし」

『汚いのは心だろ』

「急にポエマーかよ」

『……いいから待ってろ。切るぞ』

「おい、勝手に——」

 通話が切れた。

 湊はスマホを見下ろし、舌打ちしかけてやめた。舌打ちをすると、口の中が余計に乾く気がした。

 机の引き出しを開けて、水のペットボトルを探す。見つからない。代わりに、封を切っていないゼリー飲料が転がっていた。

 湊はそれを手に取り、キャップを回した。

「……これ、いつのだ」

 喉に流し込むと、甘さがやけにまとわりつく。飲み込んだあと、胸の奥が少しだけむかついた。

「オレ、胃弱になった? 繊細かよ」

 笑い声は出なかった。

 スマホがまた震える。今度はメッセージ。クラスのやつからだ。

『湊、アカ消えた?w』

『乗っ取られ?』

『草』

 湊は画面を見て、指を止める。

「……草って言われてもな。今、草食ってないし」

 送られてくるスタンプの葉っぱが、やけに元気に揺れていた。

 湊は返信欄を開いて、「うん」とだけ打ったが、送らずに消した。

 代わりに、スマホを伏せて、枕の横に押しやった。

「もう、いいわ。今日は」

 部屋の空気が重い。カーテンの隙間から、細い光が一本だけ差し込んでいて、そこに埃が浮いている。

 湊はその光の筋を目で追って、ふと思った。

「……あれ、部室、今日行く日だっけ」

 自分で決めていたはずの曜日が、急にわからなくなる。湊はすぐに首を振った。

「まあいい。行ったところで、何すんだよ。オレ、料理もできねえし」

 その言葉が、別の言葉を連れてきそうになった。

 湊は、わざと大きく伸びをして、ベッドの上で体を丸めた。

「寝たら忘れる。最強」

 ドアの向こうで、家の配管が鳴った。遠くの救急車のサイレンが、短く途切れて消えた。

 湊は耳を塞がず、そのまま聞いていた。

 しばらくして、玄関のチャイムが鳴った。

 一回。間を置いて、もう一回。

 湊は天井を見たまま、動かない。

「……聞こえないふり、上手くなったな。オレ」

 チャイムが、もう一度。

 今度はドアを叩く音が混じった。乱暴じゃない。でも、引かない音。

「湊。いるんだろ」

 蓮の声が、廊下越しに届いた。

 湊は、鼻で息を吐いた。

「……いるけど。今、王様なんだって」

「王様は城門開けるだろ」

「城門って、オレんちの玄関、薄いんだよ!」

「薄いならなおさら開けろ!」

 湊はベッドから起き上がり、ふらっと立った。足の裏に床の冷たさが刺さる。

「……はいはい。うるせーな」

 ドアを開けると、玄関に蓮が立っていた。制服のまま。髪が少し乱れている。息が、ほんの少しだけ上がっていた。

「……来たのかよ」

「来るって言った」

「暇か」

「お前が暇そうだからな」

「違うし。今、引きこもり業で忙しい」

 蓮は靴を揃えもせずに上がりかけて、湊の顔を見て止まった。

「……顔」

「顔? イケてる?」

「白い」

 湊は頬を指でつねった。

「ほら、色ある。健康」

 蓮の視線が、湊の手元のゼリー飲料の空袋に落ちる。

「それだけか」

「え、これ、栄養だぞ。完全食って書いてある」

「書いてある、な」

 蓮はそれ以上言わず、湊の部屋の中をちらっと見た。カーテン、散らかった床、伏せられたスマホ。

「……アカウント、消したんだな」

「おう。見た? オレの消滅」

「見た」

「さすが。オレのファン第一号」

「違う」

 蓮は玄関で立ったまま、言葉を探すみたいに口を閉じた。湊はその間を、軽く受け流したくて笑った。

「で? 何しに来たの。説教なら、予約制だぞ」

 蓮は一度だけ、喉を鳴らした。咳ではない。でも、何かを飲み込む音。

「……外、出ろ」

「またそれ」

「歩け。コンビニでもいい。何か食え」

「だから食えないって、今、胃が繊細で——」

「お前の胃じゃない」

 蓮の声が、ほんの少しだけ震えた。

 湊はその震えを、怒りだと決めた。

「……は? 何それ。誰の胃の話?」

 蓮は答えない。代わりに、湊の足元に視線を落とす。

 湊のつま先が、わずかに震えている。

 湊は慌てて、足を踏みしめた。

「ほら、震えてない。オレ、元気」

 蓮は短く息を吐いた。

「元気なら、出ろ」

 湊は玄関の外に目をやった。廊下の光が眩しくて、少しだけ目が痛い。

「……外、寒い?」

「普通」

「普通って、いちばん嫌なんだよな」

「文句言う元気があるなら出れる」

 湊は渋々、靴に足を突っ込んだ。かかとがうまく入らず、指でぐいっと押し込む。

「……ちなみにさ」

「何」

「オレ、SNS消したから、今日のオレ、映えないよ」

 蓮は一拍置いて、目を逸らした。

「……今さらだ」

 その言い方が、少しだけ優しかった気がして、湊は笑った。

「だろ? 今さらだよな」

 湊は鍵を閉めた。金属の音が、やけに大きく響いた。

 部屋の中の静けさが、扉の向こうに置いていかれる。湊はそれを、ちょっとだけ軽く感じた。

 その軽さが、どこから来たのかは、考えないことにした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

M性に目覚めた若かりしころの思い出 その2

kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、終活的に少しづつ綴らせていただいてます。 荒れていた地域での、高校時代の体験になります。このような、古き良き(?)時代があったことを、理解いただけましたらうれしいです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?

さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。 しかしあっさりと玉砕。 クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。 しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。 そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが…… 病み上がりなんで、こんなのです。 プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。

処理中です...