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第10話:残酷な答え合わせ
第10話:残酷な答え合わせ
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雨上がりの匂いが、香典袋の紙の匂いに勝ったのは、公園の入り口をくぐってからだった。
黒い靴が土を踏むたび、ぬかるみが小さく鳴る。湊はネクタイをゆるめながら、ベンチの背にもたれた。喉の奥に、さっきまでの線香の煙がまだ居座っている気がする。
隣に座った蓮は、礼服のまま背筋を固めていた。視線はブランコの鎖に刺さっていて、瞬きが少ない。
湊がスマホを握ったまま、画面をつけたり消したりする。
「……なあ、蓮」
「何」
「さっきさ、親御さんにさ。俺、何言えばよかったんだろ」
蓮は、息を吐く音だけで笑ったように見えた。
「言葉なんて、あるわけねえだろ」
「だよな。俺もそう思った。だから『紬、すげーやつでした』って言った。正直だし」
「最悪の正直だな」
「え、だってすげーやつだったじゃん」
蓮の指が、膝の上でぎゅっと握られる。関節が白くなる。
「……その“すげー”を、お前は何で見た」
湊は首をかしげる。
「何って……部活。最後の晩餐部。あいつ、笑うし、回すし。俺が喋ったら、ちゃんと食ってくれるし」
「食ってねえよ」
言い切りが、雨粒みたいに冷たく落ちた。
湊は反射で笑いかける。
「いやいや、食ってたって。ほら、『おかわり』とか言ってたし。あれ、ノリ良すぎたよな」
蓮は湊の笑いを見ない。ブランコの鎖を見たまま、唇だけが動く。
「ノリじゃねえ」
「……え」
「紬は、半年間――何も味わえてねえ」
湊の喉が、線香の煙で擦れたみたいに詰まる。
「半年……って、え、ダイエット?」
「お前、今それ言えるの逆に才能だな」
蓮が初めて湊を見る。目の奥が乾いていて、濡れていない。
「病気で、喉を通らない。胃がどうとか、そういうレベルじゃねえ。水も、スープも、ゼリーも。全部、戻す」
湊は、頭の中で紬の顔を探す。笑いながら、机を叩いていた。湊の話を聞いて、目を細めていた。あのとき、確かに――。
「でも、あいつ、飲み物……」
「口に含むだけだ。味がする前に、捨てる。吐くんじゃねえ。最初から、身体が受け付けない」
湊の指がスマホの端を強く押して、ケースがきしむ。
「……点滴?」
蓮が小さく頷く。
「点滴だけで、生きてた」
公園の向こうで子どもの笑い声が聞こえた。遠い。まるで別の世界の音みたいだ。
湊は、笑いを探して口角を上げようとして、うまくいかない。代わりに、変な声が出た。
「え、じゃあ……俺らの部活って、何」
「最後の晩餐だよ」
蓮の声が、噛み砕くみたいに低い。
「紬にとって、他人の“食べた話”が、唯一の飯だった。お前が喋るたび、あいつは腹の底から満たされて……それで、次の日まで持つ」
湊はベンチの木目を見る。雨水が染みて、黒い線になっている。
「持つ、って……」
「持たせてたんだよ。必死に」
蓮はポケットから、くしゃっとした小さな紙を出した。湿っている。病院のメモみたいな罫線が見えた。
「これ、紬のメモ」
湊が手を伸ばすと、蓮は一瞬だけ躊躇ってから渡した。
紙には、丸っこい字で短い単語が並んでいる。
『湊のラーメン(背脂)』
『湊のコンビニおでん(大根)』
『湊の母のカレー(?)』
『蓮の焼き魚(しょっぱい)』
最後のほう、字が薄い。
湊は思わず笑ってしまう。
「魚、しょっぱいって雑すぎだろ。蓮、それ紬に文句言った?」
蓮の目が細くなる。怒っているのか、違うのか、湊には判別がつかない。
「……文句なんて言えるか」
その声が、やけに掠れていた。
湊は紙の端を指でなぞる。インクがにじんだところが、涙みたいに見えて、慌てて目を逸らす。
「でもさ。半年って、そんな……俺らが出会ったの、春だろ。ってことは、最初から――」
「最初からだ」
蓮が遮る。
「お前が『うまそう』って言わせた写真も、あいつの『おかわり』も、全部……“食べたふり”だ」
湊は、胸の奥が妙に軽くなるのを感じた。嫌な軽さ。地面が抜ける前の浮遊感。
それでも、いつもの癖で言葉を探す。
「……でも、ふりでも、嬉しそうだったじゃん」
蓮の視線が、湊の喉元に刺さる。
「嬉しかったんだよ。だから余計に残酷なんだろ」
「残酷って……」
「お前の話は、うまかった」
蓮が言う。その“うまかった”が、味の話じゃないのに、湊の耳の中で引っかかる。
「お前が、あいつを生かしてた。お前の言葉で」
湊は反射で肩をすくめる。
「いや、俺、そんな大層な……」
「大層だよ」
蓮が吐き捨てるみたいに言って、次の言葉は、妙に丁寧だった。
「紬の身体は、もう飯を受け付けない。点滴で延命して、あとは……“満腹”で心を騙して、起き上がる。それが半年」
湊の脳裏に、紬が時々、胸の前で小さく拳を握っていた仕草が浮かぶ。ガッツポーズみたいに見えて、湊は笑っていた。
あれは、起き上がるための――。
「……だからさ、あいつ、よく咳してたのか」
湊が言うと、蓮の眉が動いた。ほんの一ミリ。苛立ちとも、諦めとも。
「お前、気づいてたのかよ」
「いや、気づいてたっていうか……『季節の変わり目だなー』って」
「……」
沈黙が落ちる。濡れた砂場みたいに重い。
湊はその重さから逃げるように、紙を折りたたんで返そうとした。
「これ、返す――」
蓮が押し返す。
「持ってろ」
「え、なんで」
「紬が、お前に渡せって言ってた」
湊の手が止まる。
「……いつ」
「最後の夜」
蓮が言って、唇を噛む。噛んだところが白くなる。
「お前が帰ったあと。あいつ、笑ってた。『今日の湊の話、胃に沁みた』って」
湊は口を開ける。言葉が出る前に、蓮が続けた。
「胃なんて、もう動いてねえのにな」
湊は、笑うべきか迷って、笑えなかった。
代わりに、妙に明るい声を作ってしまう。
「……紬、そういうブラックジョーク好きだったもんな」
蓮は返事をしない。
湊は紙を握り直す。湿った紙が手のひらに貼りつく。
「……じゃあさ」
自分の声が、やけに遠い。
「俺がもっと早く、もっと……なんか、うまい話してたら。もっと、持った?」
蓮の目が揺れた。揺れたのに、声は揺れない。
「持たねえよ」
「……そっか」
「期限、決まってた」
その言葉で、湊の頭の中の時計が止まる。
ブランコの鎖が風で鳴る。キィ、と小さい音。紬が笑うときの息の音に似ていた。
湊は、またいつもの癖で、軽く受け止めようとする。
「期限って……テストみたいだな」
蓮が、初めて顔を歪めた。
「答え合わせだよ」
湊の手の中の紙が、さらに重くなる。
「お前が毎回出してた“料理”が、全部……あいつにとっての最後の晩餐だったって、今日、答えが出た」
湊は喉を鳴らして、空気を飲み込む。
「……じゃあ、俺、ちゃんと……食わせられてたのかな」
蓮は、答えない。
代わりに、湊の握った紙を指で軽く叩いた。二回。合図みたいに。
「そこに書いてある分は、食ってたよ」
湊は紙を見下ろす。薄い字の行に、インクの途切れがある。途中でペンを止めた跡。
湊は、そこを指でなぞりながら言った。
「……じゃあ、続き、俺が書くわ」
蓮が、はっとした顔をする。
「は?」
「だって、メモ途中じゃん。雑だし。『焼き魚しょっぱい』とか、改善の余地ある」
湊は無理やり笑って、胸ポケットに紙をしまった。黒い布に、白い紙の角が少しだけ覗く。
蓮の視線が、その角に落ちて、動かなくなる。
「お前……」
「ん?」
蓮は言いかけて、飲み込んだ。飲み込む喉が上下する。
そして、低く言った。
「……お前のその鈍さ、今だけは、羨ましい」
湊は首をかしげる。
「え、褒めてる? ありがと」
蓮は笑わない。ベンチから立ち上がり、濡れた地面に黒い靴を置く。
「帰るぞ」
「おう。……あ、蓮」
「何だよ」
湊は追いかけながら、胸ポケットを押さえた。
「紬さ。最後の夜、なんか言ってた? 俺に」
蓮は一歩だけ止まって、振り返らないまま言った。
「『湊の話、もっと聞きたい』って」
湊はその言葉を、いつもの軽い約束みたいに受け取ろうとして、できなかった。
「……そっか」
蓮が歩き出す。
湊も並んで歩く。公園の出口へ向かう道で、街の匂いが戻ってくる。コンビニの揚げ物の匂いが、ふっと鼻を刺した。
湊は反射で言いそうになって、飲み込んだ。
うまそう、って。
飲み込んだ言葉が、どこにも落ちずに、胸の奥で詰まったまま、揺れていた。
扉の向こうは、やけに静かだった。
保健室特有の消毒の匂いが、廊下にまで薄く漏れている。湊はスマホを握ったまま、画面が暗くなったことにも気づかず立ち尽くしていた。
「……入らねぇのか」
背後から、低い声。
振り返ると蓮がいた。髪が少し濡れて見える。雨に降られたのか、額のあたりに張りついた前髪が妙に重い。
「蓮。紬、今——」
「今は寝てる」
「寝てるなら、起こさないように——」
「起きねぇよ」
蓮の言い方が、妙に断定的で、湊は笑ってごまかすみたいに息を吐いた。
「いやいや、寝起き悪いだけだろ。あいつ、昼とか普通に——」
「……お前、ほんと鈍いな」
蓮が廊下の壁に背を預ける。拳がぎゅっと握られて、指の関節が白い。
「鈍いっていうか、前向きなだけ」
「前向きで済む話じゃねぇ」
湊は保健室の扉を見る。ガラス窓の向こうはカーテンで隠れていて、何も見えない。見えないのに、あの部室で笑ってた顔が勝手に浮かぶ。
「紬、また無茶したのか? 点滴抜けたとか? いや、あいつそういうのは——」
「無茶してんのは、お前だよ」
「俺?」
蓮が一歩近づき、湊の手元のスマホを睨む。
「それ、撮ったのか。今日も」
「……いや、撮ってない。だって、紬のメシの話って写真映えしないし」
「は」
蓮の口から、乾いた音が漏れた。笑いに見えなくて、湊は肩をすくめる。
「冗談。冗談だって。最近はさ、いいねより——部活って感じ? あいつと喋るの、普通に楽しいし」
「楽しい?」
蓮の声が少しだけ上ずる。
「お前さ。紬が、何であんなにお前の話を欲しがったか、考えたことあんのか」
「え? だって、最後の晩餐部だし。食べ物の思い出話で満腹になるって——」
「満腹?」
蓮の目が細くなる。湊はその視線の鋭さに、思わず言い直した。
「いや、満腹っていうか……元気になるっていうか。ほら、あいつ笑うじゃん。『今の、うまい!』とかさ」
「……そうだな。笑う」
蓮は一瞬、口元を歪めた。すぐに消える。
「笑ってたよ。ずっと。笑えるうちはな」
湊は「なんだよそれ」と軽く返そうとして、言葉が喉で止まった。蓮の声が、今まで聞いたことないくらい硬い。
「蓮、何が言いたいんだよ。紬が寝てるなら、俺——」
「寝てるんじゃねぇ」
蓮が言い切る。廊下の空気が一段冷える。
湊は笑いを作ろうとして、唇がうまく動かなかった。
「……いや、さっき寝てるって」
「医者がそう言った。『今は眠ってる』って言うしかねぇからな」
「言うしか……」
蓮は息を吸う。喉の奥が鳴る音がした。唾を飲んだのか、言葉を飲んだのか分からない。
「紬は、食えねぇんだよ」
湊は頷く。
「それは知ってる。点滴で——」
「“ほとんど”じゃねぇ。ずっとだ。もう、だいぶ前から」
「……でも、笑ってたじゃん」
「笑うようにしてんだよ」
蓮の声が、急に低く落ちる。
「お前の前では特に」
湊は咄嗟に、軽口で逃げようとした。
「俺、そんなに笑わせる才能あったっけ。芸人いける?」
「……ふざけんな」
蓮の拳が壁を叩きかけて、寸前で止まる。爪が白くなる。
「お前が話す食べ物の話だけが、彼女の食事だったんだ」
湊の胸の奥で、何かが小さく弾けた。
「……え」
「点滴は、ただの延命だ。生きるための最低限。紬が“生きてる”って顔になるのは、お前が喋ってる時だけだった」
「いや、でも……俺の話なんて、適当だぞ? コンビニの肉まんとか、学食のカレーとか」
「だからだよ」
蓮が噛みつくみたいに言う。
「お前の話は、嘘くさくねぇ。映えとかどうでもいい。腹減って、熱くて、口の中やけどして、笑って——そういうのが、紬には全部“食事”なんだ」
湊は、部室の光景を思い出す。
紬が身を乗り出して、目を細めて、何度も「もう一口」みたいに続きをせがんだこと。湊が話を止めると、紬が一瞬だけ指先を震わせて、すぐ笑ってごまかしたこと。
あれは、ただのノリだと思ってた。
「……そんな大げさな」
湊は口に出してしまってから、蓮の顔を見て後悔した。
蓮の目が赤い。泣いてるわけじゃないのに、濡れているみたいに見える。
「大げさじゃねぇよ」
蓮は声を絞る。
「お前が話すたび、紬は……生き返ってた」
湊は喉が乾く。なのに、唾がうまく出ない。
「じゃあさ、俺、もっと——もっと話せばいいだろ。今日はまだ——」
「今日?」
蓮が笑った。今度は、明らかに笑いじゃない。
「今日、紬は倒れた。部室のあと、トイレで。吐けるものなんて何もねぇのに、吐くみたいに咳き込んで……血が混じってた」
湊は反射的に言う。
「風邪だろ。喉切れただけ——」
「薬、見たか」
蓮の言葉に、湊の脳裏に小さな白い包みが浮かぶ。紬が机の下で握りつぶしたみたいに隠したやつ。湊は「ビタミン剤?」って笑って流した。
「……サプリだろ」
「違う」
蓮が首を振る。ゆっくり、確実に。
「痛み止めだ。吐き気止めだ。咳止めだ。効かねぇやつを、効くふりして飲んでんだよ」
湊は目を逸らす。保健室の扉の前の床が、やけに白い。白すぎて、目が痛い。
「でも、紬は元気そうだったし。普通に部長してたし」
「部長だからだよ」
蓮が言う。
「最後の晩餐部。あいつが作った部活だ。お前みたいなのを引っ張り込んで、笑って、回して……それで、自分がまだ生きてるって錯覚できる」
「錯覚って……」
湊は喉の奥がひゅっと鳴るのを感じて、咳払いで誤魔化した。
「蓮、言い方きついって。紬、そんな弱くねぇよ」
「弱いんだよ」
蓮が初めて、まっすぐに湊を見る。
「弱いくせに、強いふりすんだよ。お前も、そういうとこあるだろ」
湊は返せない。スマホを握る指に力が入って、ケースが鳴った。
「なぁ、湊」
蓮の声が少しだけ落ち着く。逆に、それが怖い。
「お前の話、紬は本当に好きだった」
「……だった?」
湊は、その過去形を拾ってしまう。
蓮のまぶたが、ほんの少しだけ下がる。
「今も、好きだよ」
言い直してくれるのに、その間の空白が、どうしても埋まらない。
湊は笑ってみせようとして、頬が引きつった。
「じゃあ、起きたらまた話す。肉まんの続きとか、もっと盛る。チーズ伸びる系とか、バズるやつ——」
「バズるとか言うな」
蓮が吐き捨てる。
「紬に必要なのは、バズる飯じゃねぇ。お前の、くだらねぇ飯の話だ」
湊は「くだらねぇって言うなよ」と返しかけて、飲み込んだ。
「……入って、いいのか」
湊が扉に手を伸ばすと、蓮がその手首を掴んだ。強い。温度が低い。
「今はやめとけ」
「なんで」
「今のお前、紬の顔見たら——」
蓮の言葉が途中で切れる。唇が動くのに、音にならない。
湊はその沈黙を、勝手に別の意味に変換しようとした。
「……泣いちゃうとか? 大丈夫だって。俺、泣かないし」
蓮の指が、湊の手首をさらに強く締める。
「泣けるうちはいい」
それだけ言って、蓮は手を離した。
湊は扉の前で立ち尽くす。ガラス窓の向こうのカーテンが、微かに揺れた気がした。空調の風かもしれない。
「……なぁ蓮」
湊は声を絞り出す。
「俺の話が、紬の食事だったならさ」
蓮が答えない。
湊は、笑って言おうとした。いつものノリで、いつもの勢いで。
「俺、ちゃんと——腹いっぱいにできてたのかな」
言った瞬間、やけに幼い言葉に聞こえて、湊は自分で戸惑った。
蓮は少しだけ顔を歪めて、廊下の天井を見上げた。
「……腹いっぱいになった顔、してたよ」
声が掠れている。
「だから、余計に——」
蓮はそこで止めた。止めて、息を吐く。
「……行くぞ。ここで突っ立ってても、何も変わんねぇ」
「どこに」
「紬の家だ。荷物、取りに行く。……お前も来い」
湊は頷いた。頷くしかなかった。
歩き出す蓮の背中が、やけに大きく見える。なのに、肩の線はどこか頼りない。
湊は保健室の扉を一度だけ振り返る。
カーテンの向こうにいるはずの紬が、いつもの調子で「遅い!」って怒鳴ってくれる気がして。
その想像だけで、胸の奥が妙に痛んだ。
「……次、何話そう」
湊が呟くと、蓮は振り向かずに言った。
「軽いのはやめろ」
「え」
「軽い話で笑わせるのは、もう十分だ」
蓮の声が、廊下の端で小さく揺れる。
「今度は——ちゃんと、食わせろ」
湊のスマホ画面には、紬のアカウントが開いたままだった。
最後に上がっているのは、部室の窓際で笑っている写真。光が髪に透けて、指先が机の縁をつまんでいる。キャプションは短い。
「今日も、おいしかった」
湊は親指でスクロールしようとして、止まった。指が乾いて、画面がうまく反応しない。
「……おいしかった、って」
口に出した途端、喉の奥がひりついた。
背後で、蓮が椅子を引く音がした。床を擦る硬い音。部室の空気が、やけに薄い。
「湊」
「いや、待って。今の、どういう意味?」湊は振り返らずに言った。「紬、さっきまで普通に……普通に笑ってたじゃん。いつもの、ノリでさ」
「普通、って言うな」
蓮の声は低かった。怒鳴ってないのに、殴られたみたいに響く。
湊はようやく振り返った。蓮は窓際に立っていて、カーテンの影が目元に落ちている。
「俺、なんかした?」湊は笑おうとして、口角が引きつった。「ほら、俺、空気読むの苦手っていうか……」
「したよ」
蓮は即答した。間がなくて、逃げ道がなかった。
「毎回」
湊の胸の奥が、ひゅっと縮む。
「毎回、紬の前で——」
蓮は言いかけて、喉を鳴らした。視線が一瞬だけ逸れて、すぐ戻る。
「……“食べる話”をさせた」
湊は息を吐いた。「それが、悪いの?」
「悪い」
「でも、紬が言ったんだぞ? それが好きだって。満腹になるって。俺の話、聞きたいって」
「そう言った」
蓮は頷いた。頷き方が、肯定じゃなくて、終わりの合図みたいだった。
「言ったよ。紬は、言えるんだ」
湊の眉が寄る。「言える?」
「言える。笑える。回せる。場を明るくできる」
蓮の指が、窓枠を掴んだ。白くなるほど強く。
「だから、お前も、みんなも、気づかない」
湊は喉に詰まったものを飲み込んだ。「気づかないって……何に」
蓮は答えなかった。代わりに、机の上に置かれた紙袋を顎で示した。
「それ」
湊は視線を落とす。コンビニのロゴ。中身は、さっき買ってきた新作スイーツ。撮影用に、って軽い気持ちで。
「……あ、これ? 今日のネタ。紬、こういうの好きそうじゃん。映えるし」
言いながら、湊は袋の持ち手を指で撫でた。ビニールが、きゅっと鳴る。
蓮が笑った。笑いじゃない音だった。
「映える」
湊の背中に、冷たいものが沿った。
「紬は、食べられない」
湊は瞬きをした。「だから、話で——」
「話で生きてる」
蓮は言い切った。
「生きてる、って……」
湊は言葉の意味を探して、口の中で転がした。軽い冗談みたいに扱ってきた単語が、急に重くなって、歯に当たる。
「点滴で、ギリギリだ」
蓮の声が、部室の壁に当たって戻ってきた。やけに反響して、耳の奥に残る。
「喉、通らないんだよ。水も、うまくいかない日がある」
湊の視線が、勝手に紬の姿を探す。机の上。椅子。窓際。どこにもいない。さっきまで、確かにそこに——
「じゃあ、俺がやってたのって……」
湊の口が勝手に動く。
「俺、料理の話して、写真撮って、うまそうって言って……」
蓮は黙っている。その沈黙が、答え合わせの丸印みたいだった。
湊の手が、紙袋を持ち上げた。軽い。中身の重さはたいしたことないのに、腕が震えた。
「……これ、何?」
湊は自分に聞いた。返事なんてないのに。
「飢えてる人の前で、料理を見せびらかして……」
言いながら、湊の喉が締まっていく。息が浅い。
「拷問、してた?」
蓮が小さく息を吸った。
「お前が、そうしたいって思ってたわけじゃない」
「でも、結果は同じだろ」
湊は笑おうとして、笑えなかった。唇が乾いて、割れそうだった。
「紬、毎回、嬉しそうにしてた。『もっと』って言ってた。俺、それを……いいねみたいに受け取って」
湊はスマホを見た。画面の中の紬が笑っている。光の加減が完璧で、角度も完璧で、湊が撮った写真だ。
「俺、すげぇ良いことしてるって思ってた」
蓮が一歩近づいた。床がきしむ。
「紬は、嬉しかったんだよ」
「じゃあ、何が悪いんだよ!」
湊の声が跳ねた。自分の声に自分が驚いて、すぐ小さくなる。
「嬉しかったなら……」
蓮の目が、湊の手元の紙袋に落ちた。次に、湊のスマホ。最後に、湊の顔。
「嬉しいって言わないと、終わるからだ」
湊の眉が動いた。「終わる?」
「お前が来なくなる」
蓮は淡々と言った。淡々としてるから、余計に刺さった。
「部が終わる。紬の“食事”が終わる」
湊は口を開けたまま、音が出なかった。
「……俺が、来なくなったら」
蓮は頷いた。
「紬は、話せない日が増える。笑えない日が増える。寝てる時間が増える」
湊の耳の奥で、さっきの紬の声が再生された。
『今日も、おいしかった』
あれは、笑いながら言っていた。ちょっと咳をして、手で口元を隠して、それでも「大丈夫」って目で言っていた。湊は——
「……あの咳」
湊の声が、かすれた。
蓮は目を細めた。「気づいてたのか」
「気づいてたっていうか……いつもの、っていうか。ほら、紬、よく笑うと咳するし」
湊は言い訳を探して、言葉が床に落ちていくみたいに軽くなる。
「顔色も、白いのも……そういう、雰囲気作り? 透明感? みたいな……」
言った瞬間、自分で自分の脳みそを殴りたくなった。
蓮の目が、一瞬だけ揺れた。怒りじゃなくて、疲れだった。
「透明感じゃない」
湊の指が、スマホを強く握っていた。ケースが軋む。
「俺、さ……」
湊は息を吸った。吸ったはずなのに、肺に入ってこない。
「俺、紬のこと、救ってたつもりだった」
蓮は何も言わない。
「“言葉の料理”とか、カッコつけてさ。俺が作って、俺が出して、俺が満足して……」
湊は紙袋を見下ろした。中のスイーツが、袋越しに甘い匂いを漏らしている気がした。胃が、きゅっと縮む。
「……紬は、腹減ってたんだよな」
蓮の視線が、ほんの少しだけ落ちた。
「腹、っていうより……」
言いかけて、蓮は止めた。止めたまま、唇を噛んだ。
湊はその途中の言葉が怖くて、聞けなかった。
「俺さ、紬にさ」
湊はスマホの画面をタップした。再生も何もないのに、指が勝手に動く。
「『もっと詳しく』って言った。『味の違いわかんないから教えて』って言った。『噛む音まで』って……」
口にするほど、胸が冷えていく。
「……最低じゃん」
湊の声は小さかった。部室の時計の秒針だけが、やけに大きい。
蓮が言った。「最低って言うな」
湊は顔を上げた。「じゃあ、何だよ。俺、何なんだよ」
蓮は湊を見たまま、言葉を選ぶみたいに間を置いた。
「無神経」
その一言が、湊の足元の床を抜いた。
「……取り返し、つく?」
湊は笑って言おうとした。いつものように、「大丈夫っしょ」って。そうすれば、何かが戻る気がした。
でも、頬が動かなかった。
蓮は答えなかった。答えないことが、答えだった。
湊の視界が、じわっと滲んだ。瞬きしても取れない。
「俺……」
湊は紙袋を持ち上げて、机に置いた。置いたはずなのに、手が離れなくて、指が持ち手に絡まったまま。
「俺、紬に会って、何て言えばいいんだよ」
蓮の声が、少しだけ柔らかくなった。
「言うな」
湊は眉を上げた。「え」
「言い訳も、謝罪も、まずは言うな」
蓮は息を吐いた。
「紬は、言葉で満腹になる。だから、お前の言葉は——」
そこで、蓮は言葉を切った。喉の奥で飲み込んだみたいに。
湊はその続きを勝手に想像して、胃の底が抜けた。
「……最後の、晩餐」
湊が呟くと、蓮の肩がわずかに揺れた。
「部の名前、誰がつけたと思う」
蓮の問いに、湊は答えられなかった。
湊のスマホの画面で、紬が笑っている。光がきれいで、完璧で、嘘みたいに。
湊はその笑顔から目を逸らせないまま、喉の奥で乾いた音を立てた。
「俺……ずっと、腹減ってたんだな」
蓮が眉をひそめた。
「は?」
湊は自分の胸を指で叩いた。空っぽの箱を確かめるみたいに。
「いいねとか、映えとか……紬の『おいしかった』とか。全部、俺の腹の足しにしてた」
言葉が出るほど、苦しくなった。
「紬の前で、料理見せびらかしてるのに。俺のほうが、飢えてた」
蓮は何も言えない顔をした。怒りも、呆れも、どれでもない。
湊は膝に力が入らなくなって、椅子に座り込んだ。机の縁に額を近づける。木目が滲んで見えた。
「……取り返したい」
湊の声は、机に吸われた。
「取り返せないなら、せめて……せめて、俺がやってたことが、拷問だったって、ちゃんと……」
言葉が途中で折れた。息が詰まった。
蓮が近くの椅子を引いて、湊の向かいに座る音がした。
「湊」
「……何」
「お前、今からでも遅くないって言ってほしいんだろ」
湊は顔を上げなかった。
「言ってくれよ。蓮。お前、全部知ってんだろ」
蓮はしばらく黙っていた。秒針が二回、三回、進む。
「遅い」
その二文字が、湊の胸に沈んだ。
「でも」
蓮が続けた。
湊は顔を上げた。目の前が揺れて、蓮の輪郭がぶれた。
「紬は、お前の話を待ってる」
蓮はそう言った。言い切ったのに、視線が一瞬だけ落ちた。
湊はそれを見て、胸の奥がさらに冷えたのに、口が勝手に動いた。
「……じゃあ、行く」
立ち上がろうとして、足がもつれた。椅子が鳴る。
「湊」
蓮が呼び止める。
湊は振り返った。
蓮は机の上の紙袋を見て、目を細めた。
「それは置いていけ」
湊は袋を見た。甘い匂いが、急に吐き気みたいに感じた。
「……うん」
湊は袋から手を離した。指先が、しびれていた。
スマホだけを握り直して、湊は部室のドアへ向かった。
ドアノブに手をかけた瞬間、画面の紬の笑顔が視界の端で揺れた。
「今日も、おいしかった」
その一行が、今は、噛めない飴みたいに喉に引っかかったまま取れなかった。
湊の指は、画面の上で一度だけ止まった。
「……削除、っと」
確認のポップアップが出る。やけに丁寧な日本語で、取り返しがつかないことを告げてくる。
「取り返しつかないって、今さらだろ」
独り言に返事はない。部屋の時計の秒針だけが、妙に元気よく刻んでいる。
湊はパスワードを打ち、最後のボタンを押した。
画面が白くなって、ログイン画面に戻る。そこには何も残っていない。通知の赤い丸も、フォロワー数も、昨日までの自分の顔も。
「……え、軽っ」
軽すぎて、逆に笑いが漏れた。
「オレ、今、消えた? 消えたな」
スマホをベッドに投げる。ふかっと沈んだ音がして、湊はそのまま背中から倒れこんだ。
天井のシミが、やけにくっきり見えた。
しばらくして、スマホが震えた。ロック画面に、クラスのグループ通知が流れる。別アプリの、どうでもいいスタンプの連打。
湊は指先で通知を払った。
「悪い。今スタンプ食える気分じゃない」
その言い方に、自分で喉が引っかかった。笑おうとして、咳が出た。乾いた咳が二回。
「……はぁ。部屋、埃っぽ」
カーテンは閉めたまま。昼か夜かも曖昧だ。机の上には、コンビニの袋と、使ってない料理本と、ペン立てに刺さったままのボールペン。
湊は起き上がって、床に落ちたままの充電ケーブルを拾い、何となくスマホに挿した。
「復活させる気はないけど、死なせるのも違うしな」
スマホの画面が点いて、充電マークが出る。湊はそれを見て、妙に安心した。
また震える。今度は着信だ。
画面に「蓮」の文字。
湊は一瞬だけ親指を止めたが、すぐに出た。
「……もしもし」
『生きてるか』
「第一声それ? お前、医者かよ」
『いいから。今どこだ』
「どこって、家。部屋」
『出てこい』
「いや無理無理。今、外界と断絶してる」
『お前の断絶なんて薄い。玄関開けろ』
「なんで知ってんだよ」
『……いいから』
蓮の声が、いつもより低い。湊はそれを、機嫌の悪さだと勝手に分類した。
「今、ちょっと忙しいんだって」
『何が忙しい』
「えーと……反省会?」
『反省は歩きながらでもできる』
湊はスマホを耳に当てたまま、ベッドに寝転び直した。
「反省ってさ、座ってやるもんだろ。立ってやると、反省が逃げる」
『逃げてるのはお前だ』
「うるせ。今、オレ、SNS消したんだぞ。偉くない?」
電話の向こうで、息を吸う音がした。
『……消したのか』
「うん。だってさ、残ってたらさ」
湊は言いかけて、止めた。言葉の続きが、自分の喉に引っかかって出てこなかった。
『……残ってたら?』
「……いや、なんでも。ほら、整理整頓。断捨離。デジタル断食」
『お前、断食って言葉使うな』
「なんでだよ。流行ってんじゃん」
『……』
沈黙が落ちた。湊はその沈黙を、電波のせいにしたくなった。
「もしもし? 聞こえてる?」
『聞こえてる。……今、誰かいるか。家』
「いるわけない。親、仕事。オレ、ぼっちの王」
『なら今から行く』
「来なくていいって。部屋汚いし」
『汚いのは心だろ』
「急にポエマーかよ」
『……いいから待ってろ。切るぞ』
「おい、勝手に——」
通話が切れた。
湊はスマホを見下ろし、舌打ちしかけてやめた。舌打ちをすると、口の中が余計に乾く気がした。
机の引き出しを開けて、水のペットボトルを探す。見つからない。代わりに、封を切っていないゼリー飲料が転がっていた。
湊はそれを手に取り、キャップを回した。
「……これ、いつのだ」
喉に流し込むと、甘さがやけにまとわりつく。飲み込んだあと、胸の奥が少しだけむかついた。
「オレ、胃弱になった? 繊細かよ」
笑い声は出なかった。
スマホがまた震える。今度はメッセージ。クラスのやつからだ。
『湊、アカ消えた?w』
『乗っ取られ?』
『草』
湊は画面を見て、指を止める。
「……草って言われてもな。今、草食ってないし」
送られてくるスタンプの葉っぱが、やけに元気に揺れていた。
湊は返信欄を開いて、「うん」とだけ打ったが、送らずに消した。
代わりに、スマホを伏せて、枕の横に押しやった。
「もう、いいわ。今日は」
部屋の空気が重い。カーテンの隙間から、細い光が一本だけ差し込んでいて、そこに埃が浮いている。
湊はその光の筋を目で追って、ふと思った。
「……あれ、部室、今日行く日だっけ」
自分で決めていたはずの曜日が、急にわからなくなる。湊はすぐに首を振った。
「まあいい。行ったところで、何すんだよ。オレ、料理もできねえし」
その言葉が、別の言葉を連れてきそうになった。
湊は、わざと大きく伸びをして、ベッドの上で体を丸めた。
「寝たら忘れる。最強」
ドアの向こうで、家の配管が鳴った。遠くの救急車のサイレンが、短く途切れて消えた。
湊は耳を塞がず、そのまま聞いていた。
しばらくして、玄関のチャイムが鳴った。
一回。間を置いて、もう一回。
湊は天井を見たまま、動かない。
「……聞こえないふり、上手くなったな。オレ」
チャイムが、もう一度。
今度はドアを叩く音が混じった。乱暴じゃない。でも、引かない音。
「湊。いるんだろ」
蓮の声が、廊下越しに届いた。
湊は、鼻で息を吐いた。
「……いるけど。今、王様なんだって」
「王様は城門開けるだろ」
「城門って、オレんちの玄関、薄いんだよ!」
「薄いならなおさら開けろ!」
湊はベッドから起き上がり、ふらっと立った。足の裏に床の冷たさが刺さる。
「……はいはい。うるせーな」
ドアを開けると、玄関に蓮が立っていた。制服のまま。髪が少し乱れている。息が、ほんの少しだけ上がっていた。
「……来たのかよ」
「来るって言った」
「暇か」
「お前が暇そうだからな」
「違うし。今、引きこもり業で忙しい」
蓮は靴を揃えもせずに上がりかけて、湊の顔を見て止まった。
「……顔」
「顔? イケてる?」
「白い」
湊は頬を指でつねった。
「ほら、色ある。健康」
蓮の視線が、湊の手元のゼリー飲料の空袋に落ちる。
「それだけか」
「え、これ、栄養だぞ。完全食って書いてある」
「書いてある、な」
蓮はそれ以上言わず、湊の部屋の中をちらっと見た。カーテン、散らかった床、伏せられたスマホ。
「……アカウント、消したんだな」
「おう。見た? オレの消滅」
「見た」
「さすが。オレのファン第一号」
「違う」
蓮は玄関で立ったまま、言葉を探すみたいに口を閉じた。湊はその間を、軽く受け流したくて笑った。
「で? 何しに来たの。説教なら、予約制だぞ」
蓮は一度だけ、喉を鳴らした。咳ではない。でも、何かを飲み込む音。
「……外、出ろ」
「またそれ」
「歩け。コンビニでもいい。何か食え」
「だから食えないって、今、胃が繊細で——」
「お前の胃じゃない」
蓮の声が、ほんの少しだけ震えた。
湊はその震えを、怒りだと決めた。
「……は? 何それ。誰の胃の話?」
蓮は答えない。代わりに、湊の足元に視線を落とす。
湊のつま先が、わずかに震えている。
湊は慌てて、足を踏みしめた。
「ほら、震えてない。オレ、元気」
蓮は短く息を吐いた。
「元気なら、出ろ」
湊は玄関の外に目をやった。廊下の光が眩しくて、少しだけ目が痛い。
「……外、寒い?」
「普通」
「普通って、いちばん嫌なんだよな」
「文句言う元気があるなら出れる」
湊は渋々、靴に足を突っ込んだ。かかとがうまく入らず、指でぐいっと押し込む。
「……ちなみにさ」
「何」
「オレ、SNS消したから、今日のオレ、映えないよ」
蓮は一拍置いて、目を逸らした。
「……今さらだ」
その言い方が、少しだけ優しかった気がして、湊は笑った。
「だろ? 今さらだよな」
湊は鍵を閉めた。金属の音が、やけに大きく響いた。
部屋の中の静けさが、扉の向こうに置いていかれる。湊はそれを、ちょっとだけ軽く感じた。
その軽さが、どこから来たのかは、考えないことにした。
黒い靴が土を踏むたび、ぬかるみが小さく鳴る。湊はネクタイをゆるめながら、ベンチの背にもたれた。喉の奥に、さっきまでの線香の煙がまだ居座っている気がする。
隣に座った蓮は、礼服のまま背筋を固めていた。視線はブランコの鎖に刺さっていて、瞬きが少ない。
湊がスマホを握ったまま、画面をつけたり消したりする。
「……なあ、蓮」
「何」
「さっきさ、親御さんにさ。俺、何言えばよかったんだろ」
蓮は、息を吐く音だけで笑ったように見えた。
「言葉なんて、あるわけねえだろ」
「だよな。俺もそう思った。だから『紬、すげーやつでした』って言った。正直だし」
「最悪の正直だな」
「え、だってすげーやつだったじゃん」
蓮の指が、膝の上でぎゅっと握られる。関節が白くなる。
「……その“すげー”を、お前は何で見た」
湊は首をかしげる。
「何って……部活。最後の晩餐部。あいつ、笑うし、回すし。俺が喋ったら、ちゃんと食ってくれるし」
「食ってねえよ」
言い切りが、雨粒みたいに冷たく落ちた。
湊は反射で笑いかける。
「いやいや、食ってたって。ほら、『おかわり』とか言ってたし。あれ、ノリ良すぎたよな」
蓮は湊の笑いを見ない。ブランコの鎖を見たまま、唇だけが動く。
「ノリじゃねえ」
「……え」
「紬は、半年間――何も味わえてねえ」
湊の喉が、線香の煙で擦れたみたいに詰まる。
「半年……って、え、ダイエット?」
「お前、今それ言えるの逆に才能だな」
蓮が初めて湊を見る。目の奥が乾いていて、濡れていない。
「病気で、喉を通らない。胃がどうとか、そういうレベルじゃねえ。水も、スープも、ゼリーも。全部、戻す」
湊は、頭の中で紬の顔を探す。笑いながら、机を叩いていた。湊の話を聞いて、目を細めていた。あのとき、確かに――。
「でも、あいつ、飲み物……」
「口に含むだけだ。味がする前に、捨てる。吐くんじゃねえ。最初から、身体が受け付けない」
湊の指がスマホの端を強く押して、ケースがきしむ。
「……点滴?」
蓮が小さく頷く。
「点滴だけで、生きてた」
公園の向こうで子どもの笑い声が聞こえた。遠い。まるで別の世界の音みたいだ。
湊は、笑いを探して口角を上げようとして、うまくいかない。代わりに、変な声が出た。
「え、じゃあ……俺らの部活って、何」
「最後の晩餐だよ」
蓮の声が、噛み砕くみたいに低い。
「紬にとって、他人の“食べた話”が、唯一の飯だった。お前が喋るたび、あいつは腹の底から満たされて……それで、次の日まで持つ」
湊はベンチの木目を見る。雨水が染みて、黒い線になっている。
「持つ、って……」
「持たせてたんだよ。必死に」
蓮はポケットから、くしゃっとした小さな紙を出した。湿っている。病院のメモみたいな罫線が見えた。
「これ、紬のメモ」
湊が手を伸ばすと、蓮は一瞬だけ躊躇ってから渡した。
紙には、丸っこい字で短い単語が並んでいる。
『湊のラーメン(背脂)』
『湊のコンビニおでん(大根)』
『湊の母のカレー(?)』
『蓮の焼き魚(しょっぱい)』
最後のほう、字が薄い。
湊は思わず笑ってしまう。
「魚、しょっぱいって雑すぎだろ。蓮、それ紬に文句言った?」
蓮の目が細くなる。怒っているのか、違うのか、湊には判別がつかない。
「……文句なんて言えるか」
その声が、やけに掠れていた。
湊は紙の端を指でなぞる。インクがにじんだところが、涙みたいに見えて、慌てて目を逸らす。
「でもさ。半年って、そんな……俺らが出会ったの、春だろ。ってことは、最初から――」
「最初からだ」
蓮が遮る。
「お前が『うまそう』って言わせた写真も、あいつの『おかわり』も、全部……“食べたふり”だ」
湊は、胸の奥が妙に軽くなるのを感じた。嫌な軽さ。地面が抜ける前の浮遊感。
それでも、いつもの癖で言葉を探す。
「……でも、ふりでも、嬉しそうだったじゃん」
蓮の視線が、湊の喉元に刺さる。
「嬉しかったんだよ。だから余計に残酷なんだろ」
「残酷って……」
「お前の話は、うまかった」
蓮が言う。その“うまかった”が、味の話じゃないのに、湊の耳の中で引っかかる。
「お前が、あいつを生かしてた。お前の言葉で」
湊は反射で肩をすくめる。
「いや、俺、そんな大層な……」
「大層だよ」
蓮が吐き捨てるみたいに言って、次の言葉は、妙に丁寧だった。
「紬の身体は、もう飯を受け付けない。点滴で延命して、あとは……“満腹”で心を騙して、起き上がる。それが半年」
湊の脳裏に、紬が時々、胸の前で小さく拳を握っていた仕草が浮かぶ。ガッツポーズみたいに見えて、湊は笑っていた。
あれは、起き上がるための――。
「……だからさ、あいつ、よく咳してたのか」
湊が言うと、蓮の眉が動いた。ほんの一ミリ。苛立ちとも、諦めとも。
「お前、気づいてたのかよ」
「いや、気づいてたっていうか……『季節の変わり目だなー』って」
「……」
沈黙が落ちる。濡れた砂場みたいに重い。
湊はその重さから逃げるように、紙を折りたたんで返そうとした。
「これ、返す――」
蓮が押し返す。
「持ってろ」
「え、なんで」
「紬が、お前に渡せって言ってた」
湊の手が止まる。
「……いつ」
「最後の夜」
蓮が言って、唇を噛む。噛んだところが白くなる。
「お前が帰ったあと。あいつ、笑ってた。『今日の湊の話、胃に沁みた』って」
湊は口を開ける。言葉が出る前に、蓮が続けた。
「胃なんて、もう動いてねえのにな」
湊は、笑うべきか迷って、笑えなかった。
代わりに、妙に明るい声を作ってしまう。
「……紬、そういうブラックジョーク好きだったもんな」
蓮は返事をしない。
湊は紙を握り直す。湿った紙が手のひらに貼りつく。
「……じゃあさ」
自分の声が、やけに遠い。
「俺がもっと早く、もっと……なんか、うまい話してたら。もっと、持った?」
蓮の目が揺れた。揺れたのに、声は揺れない。
「持たねえよ」
「……そっか」
「期限、決まってた」
その言葉で、湊の頭の中の時計が止まる。
ブランコの鎖が風で鳴る。キィ、と小さい音。紬が笑うときの息の音に似ていた。
湊は、またいつもの癖で、軽く受け止めようとする。
「期限って……テストみたいだな」
蓮が、初めて顔を歪めた。
「答え合わせだよ」
湊の手の中の紙が、さらに重くなる。
「お前が毎回出してた“料理”が、全部……あいつにとっての最後の晩餐だったって、今日、答えが出た」
湊は喉を鳴らして、空気を飲み込む。
「……じゃあ、俺、ちゃんと……食わせられてたのかな」
蓮は、答えない。
代わりに、湊の握った紙を指で軽く叩いた。二回。合図みたいに。
「そこに書いてある分は、食ってたよ」
湊は紙を見下ろす。薄い字の行に、インクの途切れがある。途中でペンを止めた跡。
湊は、そこを指でなぞりながら言った。
「……じゃあ、続き、俺が書くわ」
蓮が、はっとした顔をする。
「は?」
「だって、メモ途中じゃん。雑だし。『焼き魚しょっぱい』とか、改善の余地ある」
湊は無理やり笑って、胸ポケットに紙をしまった。黒い布に、白い紙の角が少しだけ覗く。
蓮の視線が、その角に落ちて、動かなくなる。
「お前……」
「ん?」
蓮は言いかけて、飲み込んだ。飲み込む喉が上下する。
そして、低く言った。
「……お前のその鈍さ、今だけは、羨ましい」
湊は首をかしげる。
「え、褒めてる? ありがと」
蓮は笑わない。ベンチから立ち上がり、濡れた地面に黒い靴を置く。
「帰るぞ」
「おう。……あ、蓮」
「何だよ」
湊は追いかけながら、胸ポケットを押さえた。
「紬さ。最後の夜、なんか言ってた? 俺に」
蓮は一歩だけ止まって、振り返らないまま言った。
「『湊の話、もっと聞きたい』って」
湊はその言葉を、いつもの軽い約束みたいに受け取ろうとして、できなかった。
「……そっか」
蓮が歩き出す。
湊も並んで歩く。公園の出口へ向かう道で、街の匂いが戻ってくる。コンビニの揚げ物の匂いが、ふっと鼻を刺した。
湊は反射で言いそうになって、飲み込んだ。
うまそう、って。
飲み込んだ言葉が、どこにも落ちずに、胸の奥で詰まったまま、揺れていた。
扉の向こうは、やけに静かだった。
保健室特有の消毒の匂いが、廊下にまで薄く漏れている。湊はスマホを握ったまま、画面が暗くなったことにも気づかず立ち尽くしていた。
「……入らねぇのか」
背後から、低い声。
振り返ると蓮がいた。髪が少し濡れて見える。雨に降られたのか、額のあたりに張りついた前髪が妙に重い。
「蓮。紬、今——」
「今は寝てる」
「寝てるなら、起こさないように——」
「起きねぇよ」
蓮の言い方が、妙に断定的で、湊は笑ってごまかすみたいに息を吐いた。
「いやいや、寝起き悪いだけだろ。あいつ、昼とか普通に——」
「……お前、ほんと鈍いな」
蓮が廊下の壁に背を預ける。拳がぎゅっと握られて、指の関節が白い。
「鈍いっていうか、前向きなだけ」
「前向きで済む話じゃねぇ」
湊は保健室の扉を見る。ガラス窓の向こうはカーテンで隠れていて、何も見えない。見えないのに、あの部室で笑ってた顔が勝手に浮かぶ。
「紬、また無茶したのか? 点滴抜けたとか? いや、あいつそういうのは——」
「無茶してんのは、お前だよ」
「俺?」
蓮が一歩近づき、湊の手元のスマホを睨む。
「それ、撮ったのか。今日も」
「……いや、撮ってない。だって、紬のメシの話って写真映えしないし」
「は」
蓮の口から、乾いた音が漏れた。笑いに見えなくて、湊は肩をすくめる。
「冗談。冗談だって。最近はさ、いいねより——部活って感じ? あいつと喋るの、普通に楽しいし」
「楽しい?」
蓮の声が少しだけ上ずる。
「お前さ。紬が、何であんなにお前の話を欲しがったか、考えたことあんのか」
「え? だって、最後の晩餐部だし。食べ物の思い出話で満腹になるって——」
「満腹?」
蓮の目が細くなる。湊はその視線の鋭さに、思わず言い直した。
「いや、満腹っていうか……元気になるっていうか。ほら、あいつ笑うじゃん。『今の、うまい!』とかさ」
「……そうだな。笑う」
蓮は一瞬、口元を歪めた。すぐに消える。
「笑ってたよ。ずっと。笑えるうちはな」
湊は「なんだよそれ」と軽く返そうとして、言葉が喉で止まった。蓮の声が、今まで聞いたことないくらい硬い。
「蓮、何が言いたいんだよ。紬が寝てるなら、俺——」
「寝てるんじゃねぇ」
蓮が言い切る。廊下の空気が一段冷える。
湊は笑いを作ろうとして、唇がうまく動かなかった。
「……いや、さっき寝てるって」
「医者がそう言った。『今は眠ってる』って言うしかねぇからな」
「言うしか……」
蓮は息を吸う。喉の奥が鳴る音がした。唾を飲んだのか、言葉を飲んだのか分からない。
「紬は、食えねぇんだよ」
湊は頷く。
「それは知ってる。点滴で——」
「“ほとんど”じゃねぇ。ずっとだ。もう、だいぶ前から」
「……でも、笑ってたじゃん」
「笑うようにしてんだよ」
蓮の声が、急に低く落ちる。
「お前の前では特に」
湊は咄嗟に、軽口で逃げようとした。
「俺、そんなに笑わせる才能あったっけ。芸人いける?」
「……ふざけんな」
蓮の拳が壁を叩きかけて、寸前で止まる。爪が白くなる。
「お前が話す食べ物の話だけが、彼女の食事だったんだ」
湊の胸の奥で、何かが小さく弾けた。
「……え」
「点滴は、ただの延命だ。生きるための最低限。紬が“生きてる”って顔になるのは、お前が喋ってる時だけだった」
「いや、でも……俺の話なんて、適当だぞ? コンビニの肉まんとか、学食のカレーとか」
「だからだよ」
蓮が噛みつくみたいに言う。
「お前の話は、嘘くさくねぇ。映えとかどうでもいい。腹減って、熱くて、口の中やけどして、笑って——そういうのが、紬には全部“食事”なんだ」
湊は、部室の光景を思い出す。
紬が身を乗り出して、目を細めて、何度も「もう一口」みたいに続きをせがんだこと。湊が話を止めると、紬が一瞬だけ指先を震わせて、すぐ笑ってごまかしたこと。
あれは、ただのノリだと思ってた。
「……そんな大げさな」
湊は口に出してしまってから、蓮の顔を見て後悔した。
蓮の目が赤い。泣いてるわけじゃないのに、濡れているみたいに見える。
「大げさじゃねぇよ」
蓮は声を絞る。
「お前が話すたび、紬は……生き返ってた」
湊は喉が乾く。なのに、唾がうまく出ない。
「じゃあさ、俺、もっと——もっと話せばいいだろ。今日はまだ——」
「今日?」
蓮が笑った。今度は、明らかに笑いじゃない。
「今日、紬は倒れた。部室のあと、トイレで。吐けるものなんて何もねぇのに、吐くみたいに咳き込んで……血が混じってた」
湊は反射的に言う。
「風邪だろ。喉切れただけ——」
「薬、見たか」
蓮の言葉に、湊の脳裏に小さな白い包みが浮かぶ。紬が机の下で握りつぶしたみたいに隠したやつ。湊は「ビタミン剤?」って笑って流した。
「……サプリだろ」
「違う」
蓮が首を振る。ゆっくり、確実に。
「痛み止めだ。吐き気止めだ。咳止めだ。効かねぇやつを、効くふりして飲んでんだよ」
湊は目を逸らす。保健室の扉の前の床が、やけに白い。白すぎて、目が痛い。
「でも、紬は元気そうだったし。普通に部長してたし」
「部長だからだよ」
蓮が言う。
「最後の晩餐部。あいつが作った部活だ。お前みたいなのを引っ張り込んで、笑って、回して……それで、自分がまだ生きてるって錯覚できる」
「錯覚って……」
湊は喉の奥がひゅっと鳴るのを感じて、咳払いで誤魔化した。
「蓮、言い方きついって。紬、そんな弱くねぇよ」
「弱いんだよ」
蓮が初めて、まっすぐに湊を見る。
「弱いくせに、強いふりすんだよ。お前も、そういうとこあるだろ」
湊は返せない。スマホを握る指に力が入って、ケースが鳴った。
「なぁ、湊」
蓮の声が少しだけ落ち着く。逆に、それが怖い。
「お前の話、紬は本当に好きだった」
「……だった?」
湊は、その過去形を拾ってしまう。
蓮のまぶたが、ほんの少しだけ下がる。
「今も、好きだよ」
言い直してくれるのに、その間の空白が、どうしても埋まらない。
湊は笑ってみせようとして、頬が引きつった。
「じゃあ、起きたらまた話す。肉まんの続きとか、もっと盛る。チーズ伸びる系とか、バズるやつ——」
「バズるとか言うな」
蓮が吐き捨てる。
「紬に必要なのは、バズる飯じゃねぇ。お前の、くだらねぇ飯の話だ」
湊は「くだらねぇって言うなよ」と返しかけて、飲み込んだ。
「……入って、いいのか」
湊が扉に手を伸ばすと、蓮がその手首を掴んだ。強い。温度が低い。
「今はやめとけ」
「なんで」
「今のお前、紬の顔見たら——」
蓮の言葉が途中で切れる。唇が動くのに、音にならない。
湊はその沈黙を、勝手に別の意味に変換しようとした。
「……泣いちゃうとか? 大丈夫だって。俺、泣かないし」
蓮の指が、湊の手首をさらに強く締める。
「泣けるうちはいい」
それだけ言って、蓮は手を離した。
湊は扉の前で立ち尽くす。ガラス窓の向こうのカーテンが、微かに揺れた気がした。空調の風かもしれない。
「……なぁ蓮」
湊は声を絞り出す。
「俺の話が、紬の食事だったならさ」
蓮が答えない。
湊は、笑って言おうとした。いつものノリで、いつもの勢いで。
「俺、ちゃんと——腹いっぱいにできてたのかな」
言った瞬間、やけに幼い言葉に聞こえて、湊は自分で戸惑った。
蓮は少しだけ顔を歪めて、廊下の天井を見上げた。
「……腹いっぱいになった顔、してたよ」
声が掠れている。
「だから、余計に——」
蓮はそこで止めた。止めて、息を吐く。
「……行くぞ。ここで突っ立ってても、何も変わんねぇ」
「どこに」
「紬の家だ。荷物、取りに行く。……お前も来い」
湊は頷いた。頷くしかなかった。
歩き出す蓮の背中が、やけに大きく見える。なのに、肩の線はどこか頼りない。
湊は保健室の扉を一度だけ振り返る。
カーテンの向こうにいるはずの紬が、いつもの調子で「遅い!」って怒鳴ってくれる気がして。
その想像だけで、胸の奥が妙に痛んだ。
「……次、何話そう」
湊が呟くと、蓮は振り向かずに言った。
「軽いのはやめろ」
「え」
「軽い話で笑わせるのは、もう十分だ」
蓮の声が、廊下の端で小さく揺れる。
「今度は——ちゃんと、食わせろ」
湊のスマホ画面には、紬のアカウントが開いたままだった。
最後に上がっているのは、部室の窓際で笑っている写真。光が髪に透けて、指先が机の縁をつまんでいる。キャプションは短い。
「今日も、おいしかった」
湊は親指でスクロールしようとして、止まった。指が乾いて、画面がうまく反応しない。
「……おいしかった、って」
口に出した途端、喉の奥がひりついた。
背後で、蓮が椅子を引く音がした。床を擦る硬い音。部室の空気が、やけに薄い。
「湊」
「いや、待って。今の、どういう意味?」湊は振り返らずに言った。「紬、さっきまで普通に……普通に笑ってたじゃん。いつもの、ノリでさ」
「普通、って言うな」
蓮の声は低かった。怒鳴ってないのに、殴られたみたいに響く。
湊はようやく振り返った。蓮は窓際に立っていて、カーテンの影が目元に落ちている。
「俺、なんかした?」湊は笑おうとして、口角が引きつった。「ほら、俺、空気読むの苦手っていうか……」
「したよ」
蓮は即答した。間がなくて、逃げ道がなかった。
「毎回」
湊の胸の奥が、ひゅっと縮む。
「毎回、紬の前で——」
蓮は言いかけて、喉を鳴らした。視線が一瞬だけ逸れて、すぐ戻る。
「……“食べる話”をさせた」
湊は息を吐いた。「それが、悪いの?」
「悪い」
「でも、紬が言ったんだぞ? それが好きだって。満腹になるって。俺の話、聞きたいって」
「そう言った」
蓮は頷いた。頷き方が、肯定じゃなくて、終わりの合図みたいだった。
「言ったよ。紬は、言えるんだ」
湊の眉が寄る。「言える?」
「言える。笑える。回せる。場を明るくできる」
蓮の指が、窓枠を掴んだ。白くなるほど強く。
「だから、お前も、みんなも、気づかない」
湊は喉に詰まったものを飲み込んだ。「気づかないって……何に」
蓮は答えなかった。代わりに、机の上に置かれた紙袋を顎で示した。
「それ」
湊は視線を落とす。コンビニのロゴ。中身は、さっき買ってきた新作スイーツ。撮影用に、って軽い気持ちで。
「……あ、これ? 今日のネタ。紬、こういうの好きそうじゃん。映えるし」
言いながら、湊は袋の持ち手を指で撫でた。ビニールが、きゅっと鳴る。
蓮が笑った。笑いじゃない音だった。
「映える」
湊の背中に、冷たいものが沿った。
「紬は、食べられない」
湊は瞬きをした。「だから、話で——」
「話で生きてる」
蓮は言い切った。
「生きてる、って……」
湊は言葉の意味を探して、口の中で転がした。軽い冗談みたいに扱ってきた単語が、急に重くなって、歯に当たる。
「点滴で、ギリギリだ」
蓮の声が、部室の壁に当たって戻ってきた。やけに反響して、耳の奥に残る。
「喉、通らないんだよ。水も、うまくいかない日がある」
湊の視線が、勝手に紬の姿を探す。机の上。椅子。窓際。どこにもいない。さっきまで、確かにそこに——
「じゃあ、俺がやってたのって……」
湊の口が勝手に動く。
「俺、料理の話して、写真撮って、うまそうって言って……」
蓮は黙っている。その沈黙が、答え合わせの丸印みたいだった。
湊の手が、紙袋を持ち上げた。軽い。中身の重さはたいしたことないのに、腕が震えた。
「……これ、何?」
湊は自分に聞いた。返事なんてないのに。
「飢えてる人の前で、料理を見せびらかして……」
言いながら、湊の喉が締まっていく。息が浅い。
「拷問、してた?」
蓮が小さく息を吸った。
「お前が、そうしたいって思ってたわけじゃない」
「でも、結果は同じだろ」
湊は笑おうとして、笑えなかった。唇が乾いて、割れそうだった。
「紬、毎回、嬉しそうにしてた。『もっと』って言ってた。俺、それを……いいねみたいに受け取って」
湊はスマホを見た。画面の中の紬が笑っている。光の加減が完璧で、角度も完璧で、湊が撮った写真だ。
「俺、すげぇ良いことしてるって思ってた」
蓮が一歩近づいた。床がきしむ。
「紬は、嬉しかったんだよ」
「じゃあ、何が悪いんだよ!」
湊の声が跳ねた。自分の声に自分が驚いて、すぐ小さくなる。
「嬉しかったなら……」
蓮の目が、湊の手元の紙袋に落ちた。次に、湊のスマホ。最後に、湊の顔。
「嬉しいって言わないと、終わるからだ」
湊の眉が動いた。「終わる?」
「お前が来なくなる」
蓮は淡々と言った。淡々としてるから、余計に刺さった。
「部が終わる。紬の“食事”が終わる」
湊は口を開けたまま、音が出なかった。
「……俺が、来なくなったら」
蓮は頷いた。
「紬は、話せない日が増える。笑えない日が増える。寝てる時間が増える」
湊の耳の奥で、さっきの紬の声が再生された。
『今日も、おいしかった』
あれは、笑いながら言っていた。ちょっと咳をして、手で口元を隠して、それでも「大丈夫」って目で言っていた。湊は——
「……あの咳」
湊の声が、かすれた。
蓮は目を細めた。「気づいてたのか」
「気づいてたっていうか……いつもの、っていうか。ほら、紬、よく笑うと咳するし」
湊は言い訳を探して、言葉が床に落ちていくみたいに軽くなる。
「顔色も、白いのも……そういう、雰囲気作り? 透明感? みたいな……」
言った瞬間、自分で自分の脳みそを殴りたくなった。
蓮の目が、一瞬だけ揺れた。怒りじゃなくて、疲れだった。
「透明感じゃない」
湊の指が、スマホを強く握っていた。ケースが軋む。
「俺、さ……」
湊は息を吸った。吸ったはずなのに、肺に入ってこない。
「俺、紬のこと、救ってたつもりだった」
蓮は何も言わない。
「“言葉の料理”とか、カッコつけてさ。俺が作って、俺が出して、俺が満足して……」
湊は紙袋を見下ろした。中のスイーツが、袋越しに甘い匂いを漏らしている気がした。胃が、きゅっと縮む。
「……紬は、腹減ってたんだよな」
蓮の視線が、ほんの少しだけ落ちた。
「腹、っていうより……」
言いかけて、蓮は止めた。止めたまま、唇を噛んだ。
湊はその途中の言葉が怖くて、聞けなかった。
「俺さ、紬にさ」
湊はスマホの画面をタップした。再生も何もないのに、指が勝手に動く。
「『もっと詳しく』って言った。『味の違いわかんないから教えて』って言った。『噛む音まで』って……」
口にするほど、胸が冷えていく。
「……最低じゃん」
湊の声は小さかった。部室の時計の秒針だけが、やけに大きい。
蓮が言った。「最低って言うな」
湊は顔を上げた。「じゃあ、何だよ。俺、何なんだよ」
蓮は湊を見たまま、言葉を選ぶみたいに間を置いた。
「無神経」
その一言が、湊の足元の床を抜いた。
「……取り返し、つく?」
湊は笑って言おうとした。いつものように、「大丈夫っしょ」って。そうすれば、何かが戻る気がした。
でも、頬が動かなかった。
蓮は答えなかった。答えないことが、答えだった。
湊の視界が、じわっと滲んだ。瞬きしても取れない。
「俺……」
湊は紙袋を持ち上げて、机に置いた。置いたはずなのに、手が離れなくて、指が持ち手に絡まったまま。
「俺、紬に会って、何て言えばいいんだよ」
蓮の声が、少しだけ柔らかくなった。
「言うな」
湊は眉を上げた。「え」
「言い訳も、謝罪も、まずは言うな」
蓮は息を吐いた。
「紬は、言葉で満腹になる。だから、お前の言葉は——」
そこで、蓮は言葉を切った。喉の奥で飲み込んだみたいに。
湊はその続きを勝手に想像して、胃の底が抜けた。
「……最後の、晩餐」
湊が呟くと、蓮の肩がわずかに揺れた。
「部の名前、誰がつけたと思う」
蓮の問いに、湊は答えられなかった。
湊のスマホの画面で、紬が笑っている。光がきれいで、完璧で、嘘みたいに。
湊はその笑顔から目を逸らせないまま、喉の奥で乾いた音を立てた。
「俺……ずっと、腹減ってたんだな」
蓮が眉をひそめた。
「は?」
湊は自分の胸を指で叩いた。空っぽの箱を確かめるみたいに。
「いいねとか、映えとか……紬の『おいしかった』とか。全部、俺の腹の足しにしてた」
言葉が出るほど、苦しくなった。
「紬の前で、料理見せびらかしてるのに。俺のほうが、飢えてた」
蓮は何も言えない顔をした。怒りも、呆れも、どれでもない。
湊は膝に力が入らなくなって、椅子に座り込んだ。机の縁に額を近づける。木目が滲んで見えた。
「……取り返したい」
湊の声は、机に吸われた。
「取り返せないなら、せめて……せめて、俺がやってたことが、拷問だったって、ちゃんと……」
言葉が途中で折れた。息が詰まった。
蓮が近くの椅子を引いて、湊の向かいに座る音がした。
「湊」
「……何」
「お前、今からでも遅くないって言ってほしいんだろ」
湊は顔を上げなかった。
「言ってくれよ。蓮。お前、全部知ってんだろ」
蓮はしばらく黙っていた。秒針が二回、三回、進む。
「遅い」
その二文字が、湊の胸に沈んだ。
「でも」
蓮が続けた。
湊は顔を上げた。目の前が揺れて、蓮の輪郭がぶれた。
「紬は、お前の話を待ってる」
蓮はそう言った。言い切ったのに、視線が一瞬だけ落ちた。
湊はそれを見て、胸の奥がさらに冷えたのに、口が勝手に動いた。
「……じゃあ、行く」
立ち上がろうとして、足がもつれた。椅子が鳴る。
「湊」
蓮が呼び止める。
湊は振り返った。
蓮は机の上の紙袋を見て、目を細めた。
「それは置いていけ」
湊は袋を見た。甘い匂いが、急に吐き気みたいに感じた。
「……うん」
湊は袋から手を離した。指先が、しびれていた。
スマホだけを握り直して、湊は部室のドアへ向かった。
ドアノブに手をかけた瞬間、画面の紬の笑顔が視界の端で揺れた。
「今日も、おいしかった」
その一行が、今は、噛めない飴みたいに喉に引っかかったまま取れなかった。
湊の指は、画面の上で一度だけ止まった。
「……削除、っと」
確認のポップアップが出る。やけに丁寧な日本語で、取り返しがつかないことを告げてくる。
「取り返しつかないって、今さらだろ」
独り言に返事はない。部屋の時計の秒針だけが、妙に元気よく刻んでいる。
湊はパスワードを打ち、最後のボタンを押した。
画面が白くなって、ログイン画面に戻る。そこには何も残っていない。通知の赤い丸も、フォロワー数も、昨日までの自分の顔も。
「……え、軽っ」
軽すぎて、逆に笑いが漏れた。
「オレ、今、消えた? 消えたな」
スマホをベッドに投げる。ふかっと沈んだ音がして、湊はそのまま背中から倒れこんだ。
天井のシミが、やけにくっきり見えた。
しばらくして、スマホが震えた。ロック画面に、クラスのグループ通知が流れる。別アプリの、どうでもいいスタンプの連打。
湊は指先で通知を払った。
「悪い。今スタンプ食える気分じゃない」
その言い方に、自分で喉が引っかかった。笑おうとして、咳が出た。乾いた咳が二回。
「……はぁ。部屋、埃っぽ」
カーテンは閉めたまま。昼か夜かも曖昧だ。机の上には、コンビニの袋と、使ってない料理本と、ペン立てに刺さったままのボールペン。
湊は起き上がって、床に落ちたままの充電ケーブルを拾い、何となくスマホに挿した。
「復活させる気はないけど、死なせるのも違うしな」
スマホの画面が点いて、充電マークが出る。湊はそれを見て、妙に安心した。
また震える。今度は着信だ。
画面に「蓮」の文字。
湊は一瞬だけ親指を止めたが、すぐに出た。
「……もしもし」
『生きてるか』
「第一声それ? お前、医者かよ」
『いいから。今どこだ』
「どこって、家。部屋」
『出てこい』
「いや無理無理。今、外界と断絶してる」
『お前の断絶なんて薄い。玄関開けろ』
「なんで知ってんだよ」
『……いいから』
蓮の声が、いつもより低い。湊はそれを、機嫌の悪さだと勝手に分類した。
「今、ちょっと忙しいんだって」
『何が忙しい』
「えーと……反省会?」
『反省は歩きながらでもできる』
湊はスマホを耳に当てたまま、ベッドに寝転び直した。
「反省ってさ、座ってやるもんだろ。立ってやると、反省が逃げる」
『逃げてるのはお前だ』
「うるせ。今、オレ、SNS消したんだぞ。偉くない?」
電話の向こうで、息を吸う音がした。
『……消したのか』
「うん。だってさ、残ってたらさ」
湊は言いかけて、止めた。言葉の続きが、自分の喉に引っかかって出てこなかった。
『……残ってたら?』
「……いや、なんでも。ほら、整理整頓。断捨離。デジタル断食」
『お前、断食って言葉使うな』
「なんでだよ。流行ってんじゃん」
『……』
沈黙が落ちた。湊はその沈黙を、電波のせいにしたくなった。
「もしもし? 聞こえてる?」
『聞こえてる。……今、誰かいるか。家』
「いるわけない。親、仕事。オレ、ぼっちの王」
『なら今から行く』
「来なくていいって。部屋汚いし」
『汚いのは心だろ』
「急にポエマーかよ」
『……いいから待ってろ。切るぞ』
「おい、勝手に——」
通話が切れた。
湊はスマホを見下ろし、舌打ちしかけてやめた。舌打ちをすると、口の中が余計に乾く気がした。
机の引き出しを開けて、水のペットボトルを探す。見つからない。代わりに、封を切っていないゼリー飲料が転がっていた。
湊はそれを手に取り、キャップを回した。
「……これ、いつのだ」
喉に流し込むと、甘さがやけにまとわりつく。飲み込んだあと、胸の奥が少しだけむかついた。
「オレ、胃弱になった? 繊細かよ」
笑い声は出なかった。
スマホがまた震える。今度はメッセージ。クラスのやつからだ。
『湊、アカ消えた?w』
『乗っ取られ?』
『草』
湊は画面を見て、指を止める。
「……草って言われてもな。今、草食ってないし」
送られてくるスタンプの葉っぱが、やけに元気に揺れていた。
湊は返信欄を開いて、「うん」とだけ打ったが、送らずに消した。
代わりに、スマホを伏せて、枕の横に押しやった。
「もう、いいわ。今日は」
部屋の空気が重い。カーテンの隙間から、細い光が一本だけ差し込んでいて、そこに埃が浮いている。
湊はその光の筋を目で追って、ふと思った。
「……あれ、部室、今日行く日だっけ」
自分で決めていたはずの曜日が、急にわからなくなる。湊はすぐに首を振った。
「まあいい。行ったところで、何すんだよ。オレ、料理もできねえし」
その言葉が、別の言葉を連れてきそうになった。
湊は、わざと大きく伸びをして、ベッドの上で体を丸めた。
「寝たら忘れる。最強」
ドアの向こうで、家の配管が鳴った。遠くの救急車のサイレンが、短く途切れて消えた。
湊は耳を塞がず、そのまま聞いていた。
しばらくして、玄関のチャイムが鳴った。
一回。間を置いて、もう一回。
湊は天井を見たまま、動かない。
「……聞こえないふり、上手くなったな。オレ」
チャイムが、もう一度。
今度はドアを叩く音が混じった。乱暴じゃない。でも、引かない音。
「湊。いるんだろ」
蓮の声が、廊下越しに届いた。
湊は、鼻で息を吐いた。
「……いるけど。今、王様なんだって」
「王様は城門開けるだろ」
「城門って、オレんちの玄関、薄いんだよ!」
「薄いならなおさら開けろ!」
湊はベッドから起き上がり、ふらっと立った。足の裏に床の冷たさが刺さる。
「……はいはい。うるせーな」
ドアを開けると、玄関に蓮が立っていた。制服のまま。髪が少し乱れている。息が、ほんの少しだけ上がっていた。
「……来たのかよ」
「来るって言った」
「暇か」
「お前が暇そうだからな」
「違うし。今、引きこもり業で忙しい」
蓮は靴を揃えもせずに上がりかけて、湊の顔を見て止まった。
「……顔」
「顔? イケてる?」
「白い」
湊は頬を指でつねった。
「ほら、色ある。健康」
蓮の視線が、湊の手元のゼリー飲料の空袋に落ちる。
「それだけか」
「え、これ、栄養だぞ。完全食って書いてある」
「書いてある、な」
蓮はそれ以上言わず、湊の部屋の中をちらっと見た。カーテン、散らかった床、伏せられたスマホ。
「……アカウント、消したんだな」
「おう。見た? オレの消滅」
「見た」
「さすが。オレのファン第一号」
「違う」
蓮は玄関で立ったまま、言葉を探すみたいに口を閉じた。湊はその間を、軽く受け流したくて笑った。
「で? 何しに来たの。説教なら、予約制だぞ」
蓮は一度だけ、喉を鳴らした。咳ではない。でも、何かを飲み込む音。
「……外、出ろ」
「またそれ」
「歩け。コンビニでもいい。何か食え」
「だから食えないって、今、胃が繊細で——」
「お前の胃じゃない」
蓮の声が、ほんの少しだけ震えた。
湊はその震えを、怒りだと決めた。
「……は? 何それ。誰の胃の話?」
蓮は答えない。代わりに、湊の足元に視線を落とす。
湊のつま先が、わずかに震えている。
湊は慌てて、足を踏みしめた。
「ほら、震えてない。オレ、元気」
蓮は短く息を吐いた。
「元気なら、出ろ」
湊は玄関の外に目をやった。廊下の光が眩しくて、少しだけ目が痛い。
「……外、寒い?」
「普通」
「普通って、いちばん嫌なんだよな」
「文句言う元気があるなら出れる」
湊は渋々、靴に足を突っ込んだ。かかとがうまく入らず、指でぐいっと押し込む。
「……ちなみにさ」
「何」
「オレ、SNS消したから、今日のオレ、映えないよ」
蓮は一拍置いて、目を逸らした。
「……今さらだ」
その言い方が、少しだけ優しかった気がして、湊は笑った。
「だろ? 今さらだよな」
湊は鍵を閉めた。金属の音が、やけに大きく響いた。
部屋の中の静けさが、扉の向こうに置いていかれる。湊はそれを、ちょっとだけ軽く感じた。
その軽さが、どこから来たのかは、考えないことにした。
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