アルケミスト・スタートオーバー ~誰にも愛されず孤独に死んだ天才錬金術師は幼女に転生して人生をやりなおす~

エルトリア

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第一章 輪廻のアルケミスト

第41話 竜堂広場市での出会い

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 竜堂広場市と呼ばれるバザーは、礼拝の行われる日曜日に合わせて開催される。

 久しぶりの休日だという父が、僕の財布代わりになると申し出てくれたので、素直に甘えることにした。長く僕とはすれ違いの生活をしていた父も、きっと娘との交流を図りたいだろうし、母も喜んでいたので正しい選択だったのだろう。

「リーフのパパ、お久しぶりです」

 アルフェも僕の父の同行を歓迎しているようで、笑顔で挨拶してくれた。

「アルフェちゃん、すっかりお嬢さんになったね」
「リーフの方がお姉さんなんですよ。ねー、リーフ」

 そう応えるアルフェは確かに随分と喋り方がしっかりしてきたな。普段はほとんど僕としか話していないけれど、大人の前ではちゃんと話し方を使い分けているみたいだ。

「同い年なんだから、お姉さんもなにもないだろうに……」
「まあ、確かにリーフは昔から達観したところがあるからな」
「……そうなのですか、父上?」

 指摘されなかったので安心していたが、父から見た僕はもしかして普通ではなかったのだろうか。僕の問いかけに、父は笑って続けた。

「ナタルの若い頃を彷彿とさせるよ。流石我々の娘だ」

 なんだ、そういうことか。母が聡明な人間で本当に助かるな。


◇◇◇


 色とりどりのタイルで彩られた竜堂広場市に、たくさんの敷物が並んでいる。その上に細々としたものから、従機のような大きな機械まで、錬金術関連のものを中心としたものが所狭しと並んでいる。

 それとは別に、夕方から始まる礼拝に備えて用意された菓子の甘い匂いが、あちこちから漂っていた。

 礼拝の際には龍樹の枝かお供え物の菓子を持って行くのだが、圧倒的に菓子が人気なのだ。黒竜神が甘党で人間が作る菓子が好物らしいという言い伝えから、人々はこぞって甘い菓子を選ぶようになったらしい。

 礼拝が終わった後、黒竜神に供えられた菓子は、教会が運営する孤児院の子供などに振る舞われることになっているようだ。

 夕方からの礼拝の前にも竜堂を訪れる人は多く、昼過ぎということもあり、バザーにもそれなりの人が集まってきていた。

「さあ、なにが欲しいんだい? なんでも好きなものを買ってあげよう」

 僕とアルフェ以上に父が張り切っているのが声の響きから伝わってくる。

「これだけあると悩みますね、父上」

 父の希望も叶えなければと、目当てのものを物色しながら返す。父は頷き、僕の視線を辿るように露店を見渡した。

 最低限欲しいのは、巻物スクロールの材料になる羊皮紙と蒸留器アランビックだ。母のアトリエにはないし、どこかで調達するにしても骨董品レベルなので、こういう機会でもないと手に入れるのは難しい。羊皮紙くらいなら、学校でアナイス先生に訊ねればどうにかなるかもしれないけれど。

 そんなことを考えていると、アルフェに袖を引かれた。

「リーフ、あんなところに従機じゅうきがあるよ」
「従機?」

 なにかと思えば、スクラップ品として、古い人型工作機が置かれていた。円柱形の頭部と胴部が特徴的な、僕がグラスだった頃に活躍していた従機だ。



「なんだ、アーケシウスか……」
「わかるのか、リーフ!?」

 思わず呟いた僕の隣で、父が驚きの声を上げる。まさか聞かれるとは思っていなかったので、こちらの方が驚いた。

「あ、ええ……。図書館の本で読みました」
「……なるほど、そういうことか」

 旧図書館に入り浸っている話は、母からきちんと伝わっているようだ。父は納得したように呟き、顎を撫でた。

「いやはや。私も現物は初めて見たぞ。随分と朽ち果てているが、存在していること自体が奇跡だな」

 父の興味は僕からアーケシウスへ移ったようだ。ここは、父から現代のアーケシウスに対する認識を聞いておく機会と捉えるべきだろうな。

「……そんなに珍しいのですか、父上?」

 当たり障りなさそうな質問を向けると、父は丁寧に説明をしてくれた。

「機体のほとんどが錬金術で造られているし、直すにしてもかなりの手間がかかる……。スクラップにしたところで、現役の従機や機兵のパーツにも適合しないからな」
「……なるほど」

 さすが現役の軍人だ。知りたかった情報を得た僕は、改めてアーケシウスを眺めた。父の話のとおりならば、この機体はかなり安価なのだろうな。美術的価値があったら、そもそもあんなに朽ちるような環境には置かれないだろうし。錬金術師になるならフィールドワークも必要になるだろうし、これはいい掘り出し物を見つけた。

「……父上。相談なのですが――」
「どうした? あのアーケシウスがほしいのか?」

 僕が切り出すのを待っていたかのように、父が顔を綻ばせる。僕は頷き、アーケシウスを必要とする理由をそれらしく並べた。

「はい。三年次からの選択授業で錬金術を専攻するに当たり、今後はフィールドワークも必要だと考えていたところなのです」
「なるほど。それならば安い投資だ。……とはいえ、骨董品な上にジャンク品のようだが、大丈夫か?」

 寧ろ僕にはこの骨董品のようなアーケシウスの方が扱いやすい。なので、父の問いかけに自信を持って頷いた。

「はい。せっかくですので、学校で学んだ知識を活かしたいです」
「お前なら、苦労してでも修理してしまうだろうな。よし、部品集めや修理方法については知り合いの整備士に相談してみよう」

 知り合いの整備士ということは、恐らく軍の整備士だな。それは助かるし、かなり心強い。

「ありがとうございます、父上」

 機兵が錬金術で作られていた時代のものについては、僕の方が知識が上だけど、現代の機兵は勝手が違うし、そこを採り入れて融合させていくのも悪くないな。父の知り合いの整備士に相談できるなら、動力に液体エーテルを採用して燃費も良くしたいところだ。

「よかったね、リーフ」

 そばで話を聞いていたアルフェが、僕の腕に抱きついてくる。

「そういえば、アルフェは買い物、しないの?」

 誘ってくれたのに、アルフェは特に物色している様子もない。なんなら、ずっと僕の顔を見ていたような……?

「ワタシね、好きなものを見ているリーフを見るのが好きなんだぁ」
「……初めからそのつもりだったとはね」

 アルフェはいつの間にか、僕の扱いを習得しつつあるようだ。確かにアルフェに誘われなければ、こうして父と三人でここには来なかったかもしれないな。お陰で有意義な休日を過ごすことができたのは、有り難いことだ。

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